前回のあらすじ
一度は仲違いしてしまった芽吹と雪花だが、自分の気持ちを整理し仲間の大切さを再認識する事でその仲を修復することができた。そしてまもなく歌野は目を覚ます。
気が付くと歌野は佇んでいた。
「あら? ……ららら? 私どうしちゃったのかしら?」
長い間眠っていたのか、記憶が少し混濁している。
「歌野っ」
呼びかけられて振り返ると蓮華がそこに立っていた。
またその後ろには芽吹や雪花、高嶋友奈がいた。
「エブリワン……私どうしちゃったんだっけ?」
「……? ウタちゃん寝ぼけてるの?」
「貴女、伊予島杏と戦って凍らされたのよ」
芽吹の言葉でだんだんと記憶が鮮明になってきた。
「あ……ああ! そうそう! そうだったわっ。貴女たちは無事だったっ?」
「ええ。歌野のお陰で蓮華たち
「ありがとだねー。歌野の機転のおかげだよ」
蓮華と雪花が感謝の意を伝えるが、歌野は違和感を感じて首を傾げた。
「え……? 四人? 四人って言った?」
「そうよ。この蓮華と芽吹と雪花、それから高嶋。歌野のお陰であの状況から助かったのよ」
蓮華たちは杏との戦いを説明しているが、歌野の違和感はどうしても拭えない。
「あっ、ホウカサイはッ⁉︎」
「放火……? ごめん、何て?」
「ホウカサイっ。伊予島さんが言ってたのっ」
「ごめん、分かんない」
「まだ動転してるのね、無理もないわ」
何故か話が噛み合わない。自分の知識とメンバーの知識に明らかな齟齬がある。
「ちょっと!」
「今度は何?」
「誰か足りなくないかしらっ」
「誰か……って、誰?」
矢継ぎ早に質問を繰り返す歌野。この状況の違和感の正体が少しずつ明らかになっていく。
そして一番知りたがっていたことをやっと思い出した。
「そ、そうよ……みーちゃんよ‼︎」
「え……?」
「みーちゃんがいないの! 伊予島さんはホウカサイにみーちゃんが必要だって…………」
しかしみんなは理解が追い付いていないようでハテナが浮かんでいる。
「どうしたの歌野? 一体何に動転しているの?」
「え?」
「と言うより……」
芽吹の言葉を合図に全員の言葉が重なる。
「「「「みーちゃんって……だれ?」」」」
「――ッ!!!」
その時、パッと歌野の目が見開かれた。そしてすぐに自分の状況を知る。
「夢……」
「あっ歌野。起きたのね」
目を覚ました事に蓮華は気付いて見下ろす。
「蓮、華……」
「……? なにかしら?」
「ぐ……ぐるじぃ……わ……。おりて……」
死にそうな声をあげる。
眠っていた歌野の体を椅子代わりに蓮華が腰掛けているからだ。
「折角この蓮華が人肌で温めてあげてるっていうのに」
「ノーノー。温まってないわ。これ……乗っかられてるだけだから」
「文句言わないの」
そう言いながらも蓮華は微笑みながら歌野から降りる。
そして歌野は伊予島杏との戦いの後について問いかける。
「ね、ねえ。あれから……あれからどうなったの……っ⁉︎」
「落ち着きなさい。この蓮華が説明するから」
上半身だけを急に起こして急かす歌野を宥める。
蓮華は一騎討ちに歌野が敗けてしまった事と、水都が連れて行かれた事を説明した。
「…………」
それを聞いて歌野は無言で視線を地に落とした。
「それから、雪花と芽吹の事だけど…………」
二人の事を話そうとする蓮華だったが、そこへ四人が帰ってきた。
「あ‼︎ 見てっ。ウタちゃん起きてる‼︎」
「「歌野‼︎」」
歌野の姿を見るや急いで芽吹と雪花は駆け寄った。
「目が覚めたんだねー」
「起きたのね。……良かった」
二人は安堵の息を吐いて歌野を見る。
「うう〜よかったああ〜」
涙を拭いながら二人の友奈は喜んでいる。
「四人とも……無事だったのね」
その言葉に雪花と芽吹は少しぎこちない笑みを作る。
「ま、まぁ結果的には……かにゃぁ」
「何も問題は無いわ。……少なくとも私達はね」
雪花と芽吹が仲違いした事など歌野は知る由もない。二人はその件を適当に濁した。
「……そうだ歌野。貴女に渡したい物があるの」
すると芽吹はポケットから一台のスマートフォンを取り出して歌野に手渡した。
「これ……は?」
一見、何の変哲もないスマートフォンだが傍から見ていた友奈には見覚えがあった。
「あっそれ見たことあるよ。確か久美子さんが持ってた」
「烏丸久美子が……? ならばこれは
蓮華の推察どおり、これは外部の音を保存する事が出来る
「私があの場所に戻った時に見つけたのよ。その時はまだ
芽吹はそう言いながらスマートフォンの側面のボタンを押して再生を始める。
「聞いてみて歌野。……多分水都からのメッセージだと思うから」
「みーちゃんからの……?」
歌野は芽吹から受け取る。また、他のメンバーもスマートフォンに耳を傾けた……。
『あーえっとぉ……聞こえてるかな、うたのん』
「……‼︎ みーちゃんの声っ」
随分と久しぶりに聞いたようなその声に僅かな安心感を覚えた。……が、その安心感は続く言葉により瞬く間に消え失せる。
『……こんな形での挨拶になっちゃってごめんね。私は奉火祭に参加する為に伊予島さんたちと共に大社に行く事にしたよ』
……誰かの呼吸が少し乱れた気がした。
もしかしたら自分だったかもしれない。
『あっ。うたのんたちは焦っちゃ駄目だよ。大社という大きな組織は……例えうたのんたちが逆らったとしても絶対に敵わない存在だから。みんなが私を追ってきても門前払いにされるだけで、その先にいる私には辿り着けない。最悪、命を落とす結果になる。そんなの私は嫌だよ。だって私はうたのんとその夢を守るために奉火祭に参加するんだから……』
周りは重苦しい沈黙に包まれたまま、水都の声を聞き続ける。
『私はね。ずっと考えてた事があるんだぁ。うたのんやみんながそれぞれ夢に向かって進んでいく姿を見て、じゃあ私には何があるんだろう……って。私には
雪花や芽吹たちは歌野の持っているスマートフォンが小刻みに揺れているのが分かった。
『ずーっと考えて、考えて、考えてた。…………ねぇ、うたのんはさ、
聞こえてくる声は、小さいながらも今の歌野たちの耳にしっかりと届いている。
『私はね……夢なんて持ったことがなかった。……きっと何にもなれないようなつまらない人生を送るんだって思ってたから。だから……夢なんてなかった。……でもね、うたのんと出会って、一緒に旅をして変わった。私の中のモノクロでつまんない世界はうたのんが変えてくれた。うたのんがそばにいてくれれば、私でも何かになれるんじゃないかって、そう思ったんだ』
そして少しの間を置いて、水都は夢を語る。
『ねぇうたのん。私は将来、"宅配屋"さんになるよ。それでうたのんが作った野菜を日本中に……ううん、世界中に届けるんだぁ』
「みーちゃん……」
『でもこのままじゃあ、その夢を叶える事は出来ない。……だから"私の夢"はうたのんに託すよ。そうすれば、例えそばに居なくてもうたのんと私はずっと一緒。だから怖くない。……奉火祭でこの世界が少しでも長く続いていく為に。うたのんと私の夢を叶える為に』
「…………」
『うたのん! 今まで本当にありがとう。…………最後に、これだけ言いたかったんだぁ………………』
そしてスマートフォンから水都の声は聞こえなくなり沈黙の時間が流れる。
歌野は側面のボタンを押して停止した。
「…………ふー」
静かに長めの息を吐いて空を仰いだ。
「みーちゃんは……やっぱり強いわ」
溜まっていた息を全て吐き切り持っていたスマートフォンをポケットにしまう。
「私今まで、みーちゃんを守ってるって勝手に思ってたわ。……でも肝心な時はいつもみーちゃんが助けてくれてた。私はそれに頼りすぎてたのね……」
「歌野。……水都を助けに行くのよね?」
蓮華がそう言うと友奈が尋ねる。
「でもみとちゃんの場所が分からないよ? どうしよう……」
「場所なら分かってるわよ」
即座に答えた芽吹の方にみんな注目する。
「まず間違いなく、水都は兵庫支部にいるわ」
「わかるの?」
「水都が言ってたでしょ? "門前払いになるだけ。その先に私はいる"って。……それはつまり
杏たちとの戦いの前に蓮華が言っていた事を思い出す。兵庫県は
そして門前払いにされるだけで
兵庫県にある大社ゆかりの施設と言えば兵庫支部しかない。
「でも悠長にしてはいられないわ。奉火祭がどんなものか詳しく分からないけれど、大社が重要視しているのなら、いずれ水都は大社本部に連行される」
水都の口振りからしてあの後、杏あたりから少しでも奉火祭について聞いたのだろう。
奉火祭が世界とどう関係するのかは分からない。しかし大社が事を急いているのは間違いない。
「みんな」
歌野は少し物憂げな表情のままみんなと向き合う。
「私はこのままみーちゃんを取り返しに兵庫支部へ行く。でもそれはつまり、まず間違いなく大社と全面衝突することになる」
水都を取り返すのを大社側が黙って見ている筈がない。全力で阻止してくる。
本部が隣の岡山県にある以上、四国が海を挟んで真下にある以上、どれ程の戦力が迎撃してくるか分からない。
伊予島杏、No.3、パシフィスタ。それ以上の戦力が控えている。
――今度こそ
「1時間だけ考えて、みーちゃんを助けたいって気持ちが固まったら、私と一緒に行きましょう。……それでもし誰も来なくても、私は恨んだりしないわ」
そう言って笑顔を作った。それが歌野らしくないあからさまな作り笑いである事は気付いている。
「…………」
辺りはしんと静まり返る。この場にいる全員は動かない。
「……雪花、1時間経ったかしら?」
すると、芽吹が口を開いた。
「うんうん、経った経った。知らないけどさ」
雪花はそれに答えて何も無い腕を見ていた。まるで存在しない筈の腕時計を見ているかのように。
「え……っ。あら……?」
「歌野。私達の答えは変わらないわ。1時間なんてそんな悠長な余裕はもう無い。……答えなら、貴女が寝ている間に出したわよ」
「それで例え……誰が傷付こうとも世界を敵に回そうとも、ね」
「みんな……」
「今までずっと大社と敵対してきたじゃない。それがいざ自分や仲間の命に危機が迫ったから辞めるだなんて締まらないわよ」
「そ……それは……。……う」
何も言い返せなくなり歌野は苦々しく口を歪める。
――苦しかったこと。しんどかったことなんて過去何度もあった。だが歌野はそれら全てを乗り越えてきた。
これからも乗り越えられる。仲間の存在があるから。……そう思っていた。
しかし、その仲間と協力しても乗り越えられない程の巨大な壁が現れた。
――攻撃の効かない相手。人間を素体に新たに開発された兵器。能力を極めた勇者。
何があってもへこたれない歌野の精神がここまで潰されてしまったのは初めてだった。
敵に手も足も出ず、仲間を守れず……。
『たすけて』と自分を求める水都の手を取ることも出来ずに……。
「どうなの? 歌野」
目の前の仲間たちは、誰ひとり臆する事なく歌野と共に歩んで行くだろう。
……あとは歌野が、"先の戦い"を経ても尚、
「…………っ」
――自分が本当に苦しくなった時、しんどくなった時がこの先にも幾度となく待ち受けているとして……。
そんな事態に直面した時、仲間にその片棒を担いでほしいと、本当に頼むことができるだろうか。
……これから先も仲間にその重荷を背負えと言えるだろうか。
歌野は歯を食いしばりながら僅かな声を漏らす。
「…………ヘビーだわ」
「――それがリーダーでしょ」
微かに呟いた言葉を、芽吹は聞き逃さずにそう告げた。
「自分が一度こうだと決めたのなら、迷わず進みなさい。貴女がフラフラしたままじゃあ……私達は誰を信じれば良いのよ」
「芽吹……」
「歌野っ、貴女の夢は何? ……
芽吹の怒りにも似た激励が周りと、歌野の中に響く。
「いつまでもらしくない顔をするなッ! 貴女が私達をここまで付き合わせたんじゃない‼︎ 貴女の夢に付き合おうと、貴女と夢を一緒に見ようと付いてきたのよ! それがここで諦めてしまうの⁉︎ ……もし本当に夢を断念させるようなら、今ここで腹を切って詫びなさい‼︎」
「め、芽吹ちゃん、言い過……」
「待って友奈」
芽吹の怒りを宥めようとする高嶋友奈を雪花が制止して、芽吹の言葉を最後まで聞かせる。
「それが嫌なら、私達を頼りなさいよ‼︎ 仲間でしょうが!!!」
歌野はそれを黙って聞いていた。自分の為にここまで付いてきてくれた仲間の表情を確認しながら。
「全く芽吹は……もうちょっと優しく伝えられないのかにゃぁ?」
「……優しくしてるわよ。それに事業者の気に食わない点を指摘するのは"顧客"の役目でしょ?」
「いやぁ、どちらかと言うとクレ……何でも無いよー」
睨みつけられ目線を逸らす。
「歌野、貴女は一人じゃないわ。貴女の人柄に魅せられてここまでついてきた。この蓮華も含めてね。だから何も心配なんて要らない」
蓮華は歌野の方に手を置いて微笑み掛ける。
「
「蓮華……」
「蓮華たちが倒れそうになったら貴女が支える。逆に貴女が倒れそうになったら蓮華たちが全力で支える。……それが
そして蓮華は歌野を含めたメンバー全員の顔を順に追って見ていく。
「
雪花もこくこく と頷く。
「そうだねー。デザイナーやスポンサー。クレ……顧客。それぞれが役割を全うする事で初めて農業王への道が開く。ひとりじゃあ絶対ムリムリ」
歌野だけでは決して農業王にはなれない……。友奈がいて、蓮華がいて、芽吹がいて、雪花がいて。……そして水都が必要なのだ。
「歌野。貴女が今するべき事は、懺悔でも無ければ逡巡する事でも無い。……ただ一言だけ
芽吹は東郷と園子から双子座を守ろうとした時と同じ言葉を歌野へ告げる。
「いつか言ったわよね。どうせここにいる皆は貴女の意見に従うの。……この組織のこれからを決める権利と責任は、リーダーの貴女あるんだからっ」
「ええ。……ええ! 決めたわっ」
迷いが消えた歌野は笑った。今度は作り笑いなどではない。
「それじゃあエブリワン‼︎ 覚悟は良いかしら!」
その愚問に口々に答える。
「ええ。とっくの昔にね」
「無論よ」
「にゃは。聞くだけ無駄だねー」
「うんうん」
最後に歌野は今までの迷いを吹き飛ばすかのように声を張り上げた。
「みーちゃんを取り返しに行くわよ!!!」
「「ええ‼︎」」「「うん‼︎」」「りょーかいっ‼︎」
そして彼女たちは一丸となって水都奪還にのぞむ――。
農業王はひとりではなれません。デザイナー、顧客、スポンサーなどなどみんなの協力が必要不可欠なのです。
……もちろん、宅配屋もね。
次回 私たちが本隊