前回のあらすじ
歌野たちは水都奪還の為、姫路城大天守にて大社陣営との戦闘を開始する。歌野は二階にて『バクバクの野菜』の能力を持つNo.5との戦いを始めていた。
姫路城の最上階。
No.3は水都へ祠の近くに置いてあった装束を渡す。
「それを着ろ。そしていつでもここから移動出来るようにしとくんだな」
手に取って広げてみるとそれは巫女装束だった。
「奉火祭に臨む為の正装……と言ったところか。まァ結局
水都は何も言わずに今来ている衣服を脱ぎ始める。
「随分とおとなしいな。結構な事だ」
No.3は水都に背中を向けて窓の外を見る。そして城から少し離れた場所に駐機している木船に視線を向けた。
「長官の指示次第だが、移動にはあの船を使うだろう」
神官長たちが来る際に使ったあの"空飛ぶ木船"。あれもまた大社が最近開発したもの。
中央にそびえ立っている御神木の加護により一時的な結界が施され、バーテックスに襲われる確率を大幅に下げる事ができるのだ。
起動には防人の認証。そして"特殊な祝詞"を唱える事により結界の特性を向上させ、さらに移動速度も上昇するように仕組まれている。
「俺らは"葦原船"と呼んでいる。
そう言うとNo.3は階段を降りていく。神官長にはここで水都を監視しておけと指示されたが、いざ戦闘になる事を考えれば邪魔はいない方がいい。
「抜け出そうなんて思うなよ? ……いや、できる訳ねェか」
「…………」
巫女装束に着替えている水都は最後まで何も応える事なく、下の階へ向かうNo.3を横目で見送る。
――雪花と蓮華は姫路城の四階を目指すべく階段を小走りで駆け上がっていた。
「ねえっ。良かったと思う? 芽吹の事」
走りながら雪花が蓮華へ質問する。
「彼女自身が任せてと言ったんじゃない」
「いやー、そりゃそうだけどさー」
上を目指しているのはこの二人のみ。
当の芽吹は三階にて待ち構えていた敵の対処を自ら買って出た。
「確か……"亜耶"と言ったかしら? あの子。芽吹とどうやら知り合いみたいだけど。……いえ、防人全員が芽吹の知り合いなのは別におかしくはないのだけれどね」
三階にいた敵は二人。防人No.10と国土亜耶だった。そしてその二人……というよりは、国土亜耶の姿を見た瞬間、芽吹はこれまでと打って変わって動揺していた。
そして眉間に皺を寄せたまま雪花と蓮華に向かって、
「私がやる。先に行って。……お願いだから」
ただ、それだけ言った。雪花と蓮華の言い分は聞く耳を持たずに。
「芽吹とその亜耶とか言う子の間に何があったのかは知らないけどさ……さっきの芽吹、酷い顔してたからさ」
「平静を装っているつもりだったけど、確かにさっきの彼女の表情はこの蓮華の眼には悲しげに映っていたわ」
その時の芽吹の雰囲気から、雪花は三好夏凛と初めて会った時を思い出していた。
「なんだかねー、会津若松城で芽吹を目にした三好夏凛も似たような表情をしてた気がする。驚きと哀しみと……あとほんの少しの怒り」
「…………」
蓮華はその言葉に何も言わず黙って聞いていた。その時の事をあまりよく知らないが、芽吹はその戦いで三好夏凛に完膚無きまでに叩き斬られたのだと聞いている。
(何かしらね。この妙な胸騒ぎは……)
二人はその胸の内に気持ちの悪い違和感を残したまま四階に到達するのだった。
――場所は変わり姫路城二階では歌野とNo.5の戦いが続く。
歌野はNo.5の能力である『バクバクの野菜』の力に苦戦していた。
「そおお……れっ!」
歌野はベルトをNo.5の胴体に目掛けて振るう。しかし相手は銃剣で払い除けてそのまま反撃する。
「食いやがれ‼︎」
銃剣を持っていない手で殴り掛かる。
振るわれた拳を避けると、その腕から枝のようにまた小さな拳が出現してきた。
「ふっ……はっ!」
迫りくる拳を避け、ベルトで弾き飛ばして対処する。
「同じ手は食わないって? ……ならこれはどうかな」
No.5は木の床に思いっきり拳を叩き付けた。床はひび割れて木の破片が隆起してくる。
そしてそれを次々とたいらげていく。
「お食事中、失礼! ――やああ‼︎」
背後へ回り込んだ歌野が食べているNo.5へ蹴りを放つ。しかし相手はビクともしない。
「……かっ! 硬っ⁉︎」
大木の幹を蹴っているような感触で、蹴りを放ったこちらに痛みが走った。
「食事中に無作法なやつ……! 気に食わないねっ」
結構な量の木を食べていたNo.5だが、食べ終わると銃剣をその場に置いて両手を床につけた。
すると、木に変化した両手はたちまち床と同化する。
「倍返しだ‼︎ 食らえ!!!」
「……⁉︎ 床が……!」
次の瞬間。歌野が立っている床から無数の拳が突出して襲ってきた――。
「"
周りの床から出現した拳が背中や顔を殴り付けていく。
「うぅあ……⁉︎」
あまりの手数に防ぐ事も避ける事も出来ずにタコ殴りにされてしまう。
「っ……ぁ……」
うつ伏せで倒れてしまう。目線だけは外すまいとNo.5の方を見ると、彼女は元の身体に戻っていた。
「あ〜。これ結構エネルギーいるからねぇ。食べたもの全部使い切ったか」
食べたものの力を使えるこの『バクバクの野菜』だが、無制限に使えるという訳ではない。より出力を上げるためには相応の量を食べる必要があり、エネルギーが無くなってしまえば新たに食べて補給するしかない。
「まだ……まだっよ」
歌野は両腕を支えにしながら腰を浮かしてゆっくりと立ち上がる。
「まはは。強がりも程々にね。この私様の能力の前にはお前のそのチンケな能力じゃ対処出来ないんだから」
するとNo.5はポケットの中からライターを取り出した。
「もう知ってると思うけど私様は食べたものの性質を取り込む事ができる。木や鉄や火なんかもね、私様にとってはお菓子も同然っ」
カチッとライターの火を灯す。そして木の破片を手に取り燃やし始めた。
「でもこれ以上姫路城を食べて壊したくないし? まぁお城を食べて城人間になるのも悪くないんだけどね――ッてアチチチッ」
木片の全てを火が包み込んだところでそれを自分の口に放り込んだ。
――ごくっ。
「ふぅ〜。熱々はやっぱりおいしいおいしい」
握った右手を歌野の方へ向けるとその拳は火を纏った。
「
「わああ⁉︎」
拳の型をした炎の塊が発射されこちらへ飛んでくる。
歌野は横に跳んで辛うじて回避した。避けた攻撃はそのまま後方の壁を突き破って外へ飛び出していった。
「あ……っぶなかったぁ。……あ! リボン大丈夫かしらっ?」
被っていた麦わら帽子を取り、その外見やリボンが燃えていないか確認する。
「オッケー」
大丈夫である事が分かると改めて帽子を被った。
「結構デンジャラスな攻撃だったけど、良かったのかしら? 貴女自身がお城をデストロイしちゃってるけど」
歌野の後ろは先程の攻撃で壁に穴が空き、その周りは焼け焦げていた。
「避けるなよ。もう少しで火事で私様の城が無くなるところだったじゃないか」
「やったのそっちだけどねっ」
「ま、いざとなったら天井のスプリンクラーが作動すると思うけど……それでも壊れるのは嫌だね」
そう言いながらまた散らばった木片を手に取りライターの火で燃え上がらせる。
「あら? また食べるのねっ」
そしてそれを丸呑みする。
「……兵庫支部条例、第三条。"私様の機嫌を損ねたやつ、極刑"」
No.5は独り言を呟きながら置いていた銃剣を手に取った。
「兵庫支部条例、第二条。"私様の許可無く姫路城を傷付けたやつ、極刑"」
大きな口を開けて銃剣を口の中に入れる。
「んー! 見てるだけで口の中痛くなりそうだわ」
銃剣を噛み砕いて飲み込んでいく。
あっという間に全てたいらげてしまった。
「ふぅ……。そして兵庫支部条例、 第一条。"私様の思い通りにならんやつ――死ね!」
突然、歌野へ走り出すと右腕を思いっきり上げて振り下ろしてきた。
「……⁉︎ 熱ッ‼︎」
歌野は両手でベルトを掴んで前へ突き出し、銃剣の太刀をガードしたがその瞬間、銃剣が発火した。
「銃剣が⁉︎ 腕が⁉︎ ……えっ炎が⁉︎ 突っ込むポイントが多すぎてパニックになるじゃないっ」
歌野が目の前の光景から得られる情報に理解が追い付いていなかった。
よく見るとNo.5の右腕が先程食べた銃剣に変わっている。
それだけではない。銃剣の型に沿って炎の膜が覆われていた。
「バクバク
No.5は発火する銃剣と一体化している。
これも『バクバクの野菜』の能力を応用したものだ。
「ファ……⁉︎ ファクトリー⁉︎」
「そう。食べたものの性質を反映させる"バクバク
銃剣を振り回し歌野へ追い打ちをかける。
「くっ……あっ!」
顔への刺突攻撃を寸前で回避すると、また銃剣が発火して歌野の頬に触れた。
「わっ……。熱っ。あっつぅ」
一旦距離を取って帽子を取る。そして燃えていない事を確認するとまた被った。
「よし、燃えてない」
当然No.5はその隙を逃す筈もなく銃剣を横方向、縦方向と追撃していく。
「そら! おら‼︎ おんどりゃあ!」
「ぐぅ……う!」
歌野はその連撃を辛うじて捌いている。
「自慢のその鞭みたいな小道具も、このちゃんとした武器を前に勝てるわけ無いでしょ、カ〜〜バ!」
「――ァ⁉︎」
遂に避けきれず、その切っ先が歌野の右側の鎖骨部分に突き刺さってしまった。
「ぅうあああ〜〜〜!!?」
「まーはっはっは‼︎ 痛い⁉︎ 熱い⁉︎ どっちだァァ!」
突き刺さった部分が焼け爛れていく。
No.5が命名した『炎分ソード』は焼くと斬るを同時に行える武器といえる。
「……ぐっ!」
歌野は左手で掴み、焦げるような熱さに耐えながら体から引き抜く。と、同時にNo.5の腹部を蹴り飛ばす。
「う……ぅうッ‼︎」
「――ぐほぉ!」
銃剣に触れた左手は火傷を負い、皮が剥がれて血が滲み滴る。
「ふぅー、ふぅー。……ふぅ。すぅ……はぁ〜」
呼吸を整える。焦っていた自分の心を落ち着かせる。
「これじゃ……ダメなんだわ」
「……あ? なんか言ったぁ?」
パンパンッ と両手で頬を叩いて喝を入れる。左手がヒリヒリと痛み、叩いた左頬に血の跡が付着した。
「みーちゃんを早く助けようって、心だけ先走って全然見えてなかったわ」
「何の話だよ」
イラつくNo.5など気にも止めず、右手でベルトを握りしめる。
「そうよね。このお城を任されてる人よね。そんなイージーには勝てないわよね」
「だから何の話だよ‼︎」
「例えここを越えたとしても、その先にいる砂の人や伊予島さんと戦ってる雪花や芽吹、蓮華とトゥゲザーして戦って……みーちゃんを抱えて逃げるくらいには、体力を残しとかなきゃって思ってた……」
水都を頼む、と芽吹たちには伝えたが、欲を言えば歌野自身が直接助けたいと思っていた事も事実。
しかし相手が歌野のみに標的を絞った為、どうしても戦う必要があった。
「つまり何かぁ? 自分が助けに行く思いを捨て切れなかったから……。No.3や伊予島杏との戦いがあるから、余力を残しておきたかったって?」
歌野の考えをそう捉えたNo.5は大いに笑い飛ばした。
「はははっ。まーはっはっは!」
「ワッツ? どうしたの?」
先程蹴られた部分を押さえながら笑い続ける。そしてNo.5は伊予島杏がもう姫路城にいない事を伝えた。
「まははっ、カバじゃなーい⁉︎ 伊予島杏はもうここにはいないんだよ‼︎」
「えっ……リアリー!?」
その事実に歌野は驚く。水都を取り返しに来た彼女たちにとっては寝耳に水だった。
「そんなあ⁉︎ どうして最初にテルミーしてくれなかったの⁉︎」
「知らねーよ。んな義理ねぇでしょ」
今の問答で肩の力が抜けたのか、両手が力無く垂れ下がる。
「ふ……ふふふっひ♪」
「なんだ? 気持ち悪ぃ」
麦わら帽子のつばで目元は隠れているが確かに歌野は笑っていた。
「なら全力を出して貴女を倒せば良かったわっ。変な事シンキングしてる意味なんて無かった!」
その言葉にNo.5の眉が少し動いた。
「おいおい、言葉は正しく使った方がよくない? 今のじゃあまるで"温存せずに全力を出せば勝てる"って意味に聞こえるんだけど?」
「そのニュアンスで合ってるわ!」
「図に乗るな。お前が全力だろうとそうで無かろうと私様に勝てる見込みなんて無いんだよ‼︎」
銃剣と化した右腕を振りかぶって歌野に迫る。
「"イレギュラーヒーロー"」
対する歌野は左手のひらをNo.5に向けて照準を合わせる。
「ムチムチの……」
「喰らァァえェェー‼︎」
「
銃剣が歌野の頭に振り下ろされるその前に、放たれたベルトの先端がNo.5の腹部に直撃する。
「おぉう⁉︎」
「せいっっやぁあ!」
「そんなヤケクソに振り回したところで……⁉︎」
話している途中に、急にベルトが視界に入り次の瞬間にはNo.5の右頬にヒットしていた。
次に歌野は右腕で弧を描くように回転させ、ベルトを拗らせていく。
「ムチムチの
螺旋回転しながら飛んでくる攻撃を銃剣で薙ぎ払おうとするも、その切っ先を避けるように軌道が変わり、No.5の身体へ吸い込まれた。
「ぐっ……! なんだ……これ。武器の軌道が読めない。さっきまでの比じゃないくらい波打って……」
一見、デタラメに振り回しているように見える。しかしそれ故にその軌道を読む事ができない。
繰り出される"予測不可能な攻撃"の数々に一方的にやられてしまう。
「ぐほぉ! ぶへえ⁉︎ んがっ……クソぉ」
怯んでいる暇もなく、今度は下から突き上げられるように迫る攻撃が顎に命中して脳が揺さぶられる。
(っあ〜。頭クラクラするぅ)
顔を左右に振って離れかけた意識を引き戻す。
「今度は、どこから……」
「やあーッ!」
歌野はベルトを大きく伸ばした。それは姫路城を支える二本の大柱のうちの一本、"東大柱"に巻き付く。
「レディー、ゴー!」
声に合わせて軽くジャンプすると歌野の身体は引っ張られ、大柱に向かっていく。そして大柱に巻き付いているベルトに沿って歌野自身も回転する。
回転速度が頂点に達したところで握っていた手を離して、その勢いをのせたままNo.5にドロップキックを放つ。
「ムチムチのおおお
「――ぐぅううおおおあああ〜〜〜!!!」
高速で繰り出されたドロップキックは、No.5の身体に会心の一撃を与え吹っ飛ばした――。
・No.5(女です):『バクバクの野菜』を食べた雑食人間。食べたものの性質を取り入れ自身の力と変化させる。また、食べたものを合体させて作り出す事も可能。能力の副作用として、口が裂けてんのかってくらい大きくなる。
彼女は特に誇りや夢も向上心も無いが、ポテンシャルが高いので特段努力もせず及第点以上の成績を出せる。実際、No.5(防人結成時で五位の成績)のコードネームを与えられている事から彼女の才能が伺える。それ故か、努力しても結果がふるわない人を馬鹿にしがちである。
次回 今はいいわ、体なんて