白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。唐突にNo.5の過去が始まるよ。


前回のあらすじ
No.5の能力の前に苦戦を強いられた歌野。しかし歌野は"予測不可能な攻撃"を繰り出し相手を追い詰める。


第八十四話 別にいいわ、体なんて

 歌野に蹴り飛ばされたNo.5は後方の壁に叩き付けられる。

 勢いよく激突して後ろの壁はヒビが入り今にも壊れそうだった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 肩で息をしながら背中を向けてベルトを拾いにいく。

 

「これで……みーちゃんのもとに……」

「行かせるわけない……でしょ。……カバが」

 

 ベルトを拾い上げた瞬間、背後から声が聞こえて振り返る。そこには倒れていた筈のNo.5が壁に背を預けて立ちあがろうとしていた。

 

「なに、驚いた顔……して……私様はこの兵庫支部(姫路城)の指揮官型防人なんだ。この城の王なんだ。王様が易々やられる訳にはいかない……しょ」

 

 歌野はすぐさま臨戦態勢に入る……が、少し右腕に違和感を感じて横目で一瞥する。

 それに気付いたNo.5は歌野の状態を察した。

 

「まはは……っ。痛む? さっきの意味不明なグニャグニャ攻撃」

 

 No.5は先程の戦い方が、歌野の腕に無視できない程の負荷が掛かってしまう事を見抜いたようだ。

 

「時間が無いのにここまで取っといたのは、そういう事でしょ? 私様の能力も分からず開幕から飛ばして息切れしちゃ不味いからねぇ……」

 

 確かに負担(リスク)がなければ最初から使っていた。相手の言う通り今の歌野たちには時間が無いのだから。

 しかしNo.5が持ち堪えた場合、思わぬ反撃を食らう可能性もあった。

 

「まぁだからって時間を稼ぐつもりはない。それじゃあ私様が勝てないからとか思われるじゃない」

 

 No.5はそう言いながら大口を開ける。その大きさは人の頭が入る程で、通常なら口が裂け、顎が外れてもおかしくない。これも『バクバクの野菜』の能力の影響だろう。

 さらに大きく開けた口から舌を突き出すと、それが銃口に変化した。

 

「ベロ大砲(キャノン)ッ!」

 

 銃口へと変化した舌を歌野に向けて弾丸を放つ。

 

「うわっあ⁉︎ ……っと」

 

 歌野は真横に跳んで間一髪で避ける事に成功した。

 

「まだまだァ! ベロ大砲(キャノン)ッ!発射発射発射〜ッ‼︎」

 

 連続で撃ち続ける。

 今のNo.5は後ろの壁という背もたれが無ければ満足に立つことが出来ない程にダメージを負っている。当然、その場から動く事もままならない。

 故にこの攻撃で歌野を倒す算段だ。

 

「くたばれくたばれ! くだばりやがれカバがあ‼︎」

「う……くう……っ」

 

 歌野も必死で向かってくる弾丸の数々を避け続け、ベルトを振るい凌ぎ続けるも捌ききれない数発は被弾してしまう。

 何とか胴体や頭部に当たりそうな弾は避けているが、腕や肩、太ももに避けきれない弾丸が掠って血が滲む。

 

「ちょっとデンジャラスなやり方だけど……ッ」

 

 何かを決心した歌野がNo.5へ全速力で走った。

 

(カバ正直に真っ向から? 最速且つ最小のダメージで私様を討つつもりかっ)

 

 銃剣を捕食したNo.5があとどれだけの弾を撃てばエネルギー切れになるかは分からない。しかし、歌野を仕留められる量はある。

 

「カバがァ‼︎」

 

 No.5は近付いてくる歌野の右手に狙いを定めて発砲した。

 放たれた弾丸は、歌野の右手に命中して持っていたベルトを弾き飛ばした。

 

「ぅわッ……つ⁉︎」

「これで終わりだァアア‼︎」

 

 目の前の歌野は武器を持たぬ丸腰同然。あとは頭部目掛けて次弾を放つだけ。それでこの戦いはNo.5の勝利に終わる。

 

 ――そう、歌野が最速最短で、且つ我が身の事など全く考えない無謀な賭けに出なければ。

 

「あがぁアア!?」

「――ふッ‼︎」

 

 歌野はNo.5が次を撃つ前に、左手を伸ばすと相手の大口へ勢いよく突っ込ませた。と、同時に右膝で顎を突き上げて無理矢理口を閉じさせた。

 

「むぐぉ⁉︎」

 

 口を塞がれた直後に銃口から弾丸は放たれた。それは当然、口の中で行き場を失いそのまま爆ぜる。

 

「ぼわあっっはああ⁉︎」

「ああっ⁉︎ ……うっ」

 

 No.5は煙を吐いて倒れる。対する歌野も口の中から出てきた血に塗れ火傷を負った左手を押さえながら横たわる。

 

「くぅうう……!」

 

 左手の激痛に苛まれる。口を閉じた際に手首に歯が突き刺さったのか、歯型が付いていた。

 

 ……しかし、相手が負った苦痛は歌野の比ではない。

 

「ぐ……ぐぎゃあああああああ〜〜〜〜〜!!!?」

 

 No.5の口の中は部分的に焼け爛れ、歯茎からは血が噴き出して口の外へと垂れ落ちていく。

 

「〜〜〜ッ!!?」

 

 あまりの苦しみに床を転げ回る。

 

(かっ……はぁ……。や、やりやがった……ぁ)

 

 だが、この苦しみは口の中で弾丸が爆ぜたからだけではない。

 

 歌野はわざと自分の手をNo.5の口の中へ突っ込んだ。……それはつまり、歌野は自分の手をNo.5に()()()()事を意味する。

 

 ――"勇者の野菜"の能力者は肉を食べることはできない。もし、口の中に入れてしまった場合はどうなるか、歌野はよく知っている。

 

「はぁ……はぁ……。貴女の能力にはデッドリーなウィークポイントがあるわっ」

 

 万物を喰らうことができる『バクバクの野菜』も例外ではない。"勇者の野菜"すべてに存在する弱点――()()()()()()()()こと。

 

「ま……待って、私様は今能力が使えなくって……」

 

 能力者が誤って肉を口にした場合、能力の使用は不可能。No.5は今、無防備の状態。

 

「引き分け……引き分けで手を打たない⁉︎ お互い限界でしょ‼︎ ……それとも何か欲しいものある⁉︎ 私様が用意して……」

 

 歌野は右手でベルトを掴んでふらふらした足取りで歩き出す。

 

「じゃあ右腕……ッ! 私様の右腕になる⁉︎ そしたら本部に口添えしてあげるからッ」

 

 歌野は黙ったまま歩き続ける。次第に両足はしっかりと地面を踏みしめる。

 

「ねぇ! 聞いてる⁉︎」

「ムチムチのぉぉ〜〜‼︎」

 

 勢いを付けるため一直線に後ろへ伸ばす。

 

「待っ……!」

 

 充分に加速距離を与えられたベルトは猛スピードでNo.5の顔面へ放たれる。

 

ブレッ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――これは、四国で生まれ育ったとある身勝手な少女の話。

 

 少女は何不自由なく生きてきた。容量も良く運動神経も高く、幼稚園の駆けっこではいつも一位。小学校でもテストでは100点以外採った事がない。そんな彼女の事を両親はとても可愛がっていた。

 

 少女(No.5)の特筆すべき点は、大した努力も無しに最高の結果を手に入れていたこと。

 

 勉強も教師の教え方が上手いという事もあるが、彼女にとっての勉強は、授業で教わったことと宿題をやること、ただそれだけ。

 小学校の試験など簡単すぎるのだが、それでも一問すら間違えたことはない彼女は逸材だった。

 

 しかし、それゆえに彼女は努力を軽んじていた。碌な努力も無しに成功を収めた故に努力しても成功しない、報われない者たちに差別的な目を向け馬鹿にしてきた。

 

 そんな中2015年のあの日が来た。幸い家族や家に直接的な被害は無かったのでどこか他人事みたいな話だったのは覚えている。

 

 そして彼女は防人になるためにひとつの施設に集められた。短期間の鍛錬を経て順位付けされていくのだが、結果的に言えば彼女は5位。与えられたコードネームはNo.5。

 

 そのことに特に嬉しくも悔しくもなかった。自分を負かしたのは当時まだ在籍していた"三好夏凛"だったし、その対抗として名が上がる"楠芽吹"の才能は誰の目から見ても明らか。この二人の前では自分の才能など無いのと同然だ。

 そのあまりの次元の違いに、悔しさすら湧かなかった。

 

 だが今は、防人としての組織に夏凛も芽吹もいない。

 隊長代理としては"弥勒夕海子"が就いた。

 

 ――それがとても気に入らなかった。

 

 夕海子はNo.20だ。自分よりも圧倒的に下。才能の欠片もない凡人。

 だがただの凡人ではない。名家の娘であり、日々努力を続けている()()だ。

 

 家柄に恵まれ研鑽を続けてもなお、No.5という与えられた鍛錬(ノルマ)しかこなさず、空いた時間は年相応に遊びに呆ける者より劣っているのだ。

 

 ――見ているとイラつく。報われない努力を続ける弥勒夕海子(バカな女)に。

 努力せずとも望んだ結果を得られるNo.5と、懸命に努力しても結果が報われない夕海子とは相性が悪かった。

 

(何が名家の娘だ。五老星の()()だ。自分の才能は無いくせに家柄ばっか自慢してきやがって)

 

 時に彼女へ嫌がらせをした事もある。食事のトレイを運ぶ夕海子の足を引っ掛け転ばせた。

 

「ちゃんと歩けよこのカ〜〜バっ」

 

 模擬戦闘を行った時も、赤子の手をひねるがごとく簡単に負かしてやった。

 後先考えずの猪突猛進なのですぐに片が付いた。

 

「や……やりますわね」

「目障りなんだよねぇ」

「……?」

「弱いくせに一生懸命で。結果に繋がらない努力なんて時間の無駄無駄」

 

 その時の夕海子がどんな表情で聞いていたのかは覚えていない。

 

「ねぇ似非お嬢様。お前は時間を三角コーナーに捨てるのが趣味なワケ?」

 

 夕海子がどんな反論をしてきたのか、何も言い返さなかったのか、それすらもNo.5は覚えていない。

 

 こういう努力しても報われない奴を蔑み笑いものにする、単なる暇つぶしなのから。

 

「ウザいからやめろよお嬢様(その設定)まーーーっはっはっはっはっは!!!

 

 No.5の高笑いが辺り一帯にこだまする。

 

 自分がまるで世界の中心であるかのように、世界が自分のために回っているかのように……そう振る舞い続ける。

 

 後に兵庫支部に配属された。勤務先はあの姫路城。あの時は笑いが止まらなかった。

 

 兵庫支部にいる防人の中でNo.5が一番偉い。

 それは即ち"姫路城(この城)"の王様になった気分だった。

 

 

 ――まさしく世界の中心になったみたいじゃないかっ!

 

 

 

 そんな彼女に思いっきり叩き付ける――。

 

 

 

 

 

 

 

……ッットォォオ!!!

 

 No.5の顔に一直線にベルトを叩き込み、吹き飛ばす。相手は避ける素振りもガードする素振りも見せず攻撃を受けた。

 

「……ぶ。……ッ」

 

 後方の壁を突き破ってNo.5は城外へ放り出される。

 

「王様が負けちゃいけないのなら、私だって同じだわ」

 

 静かに落下していく相手に背を向けて歌野は言い放つ。

 

「私はいずれ"農業王(この大地の王)"になる女ですから!」

 

 

 

 

 No.5を撃破した歌野。しかしその代償といえるこの左腕に手を添えて辛そうに歯を食いしばる。

 

「ぅ、う〜。予想以上にダメージを受けちゃったわ」

 

 ポタ、ポタ と数秒おきに手から血が滴り落ちる。この傷ではなかなか止まらないだろう。

 

「ま……別にいいわ、体なんて」

 

 そして歌野は三階へと足を進めた。

 

「はっ……。はっ……。……はぁ」

 

 階段をゆっくりと上がっていき三階へ到達する。

 

 そこで歌野が見たのは――。

 

「え……っ。芽吹ッ‼︎」

 

 腕を組み、全身を真っ赤に染めて立ち尽くしていた仲間の姿だった。

 

「…………」

「何があったの⁉︎ 誰かいたの⁉︎ 伊予島さん⁉︎ やっぱり彼女がいたのッ?」

 

 周りには芽吹が戦ったと思われる二人の少女が倒れていた。

 ひとりは装束からして防人で間違いない。しかしもう一人の小柄で髪の長い少女の方は防人かどうか分からなかった。外見からはとても戦闘員とは思えないからだ。

 

「ねぇ‼︎ 何があったのよ芽吹‼︎」

 

 防人の方は泡を吹いて涙を流しながら気絶している。

 小柄な少女の方は顔を真っ赤な血に染めて眠っていた。

 

「…………な」

 

 声を震わせながら辛うじて歌野へ、この戦いの顛末をひと言で伝えた。

 

「な"……にも……ッ、な"かっ……た……!」

 

 

 ただそれだけ言い残し、芽吹は意識を手放す――。




 この作品ではNo.5は現在中学一年生(指揮官型防人最年少)です。そして弥勒夕海子は中学三年生です。

 先輩ナメてんのか、このヤロウ


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