拙稿ですがよろしくお願いします。
前回の話から半年以上経ち、これなんの話だったっけ? ってなる人も多いかと存じます。そんな方はぜひ、【おまけ】と【奉火祭編】の冒頭をご覧ください(宣伝かよッ)
歌野は目の前の光景に愕然としていた。血に染まり立ち尽くしている芽吹と、床に倒れている二人。戦いが終わっている事だけは理解したがこの二人にあの芽吹がここまで追い詰められているのは思ってもみなかった。
「芽吹ッ‼︎ 聞こえる⁉︎」
「…………」
芽吹はもう何も応えなかった。身体から流れている血は止まらない。
歌野は自身の服を破いて包帯代わりに細長い布を二つ作る。そしてそれを芽吹と倒れている小柄な少女の最も深い傷口に巻き付け一応の止血を試みる。
「貴女が……何でこんな事になってるの……っ⁉︎」
歌野は立ったまま硬直している芽吹の身体をベルトで巻き付け、自身の身体に密着させる形で運んだ。
包帯はすぐに赤く染まりポタポタと床に滴り落ちていく。
芽吹には何の反応もない……。
――時は少し遡る。
「亜耶……ちゃん……」
雪花と蓮華を四階へ行かせた後、芽吹は怪訝な顔をしたまま国土亜耶と向き合っていた。
何秒間かの沈黙が続いた後、亜耶の口が開く。
「芽吹先輩。まさかこんなところで会えるとは思いませんでした」
「そうね……。私も……」
少しの会話の後、また沈黙が訪れる。
「どうして……ここに?」
今度は芽吹が口を開いて沈黙を破る。
「それは……芽吹先輩がいるからです」
「……っ」
その回答に芽吹の顔が引き攣る。似たような問答を以前に誰かとした記憶があった。
「芽吹先輩……。わたし、ずっと心配してました。あの日から……ずっと……」
亜耶のその言葉のひとつひとつが芽吹の首元に纏わりついていくような感覚がした。
「亜耶ちゃん。貴女がここに来たという事は私と戦う気でいるの?」
「そ、それは……」
一度目を閉じたあと、芽吹はゆっくりと目を開けて亜耶を見た。彼女の表情は困惑に満ち、とても戦いに臨むものとは思えなかった。
「もう帰った方が良い。この城の一番上に私は用があるの。それさえ終われば、これ以上戦わなくて済む」
「――なあに言ってんの、隊長」
すると、No.10が亜耶と芽吹の間に割って入った。
「もうそんな悠長な事を言っている状況ではないんだよ。"奉火祭"を執り行うため、少なくともそれをしなきゃいけないほど切羽詰まってるってこと」
「……だから亜耶ちゃんでさえ駒に使うってこと?」
その問いにNo.10の口元が緩んだ。
「その方が隊長には効くでしょ?」
防人ではない亜耶が芽吹にとってどれほどの精神的ダメージになるか、大社は知っているのだろう。
いや、戦闘員、非戦闘員に関わらず"国土亜耶"が戦場に赴いていること自体が芽吹の心を淀ませる。
「さて、感動的な再会による感傷も充分味わえたと思うんで……
そう言うとNo.10は鞘から、手入れのされていない薄汚れた刀を抜いて芽吹に向ける。
「……! その刀……」
その刀を見た時、芽吹の身体を静電気のような不快感が襲った。
「妖刀……」
不思議とその単語が口から出た。
「へー、分かるんだ。これはこの姫路城に奉納されてた刀。名は"三代鬼徹"。隊長の言うとおり妖刀だよ」
No.10によると、"鬼徹一派"と呼ばれる三本の刀の一振りであり、かつて所有していた者は次々と凄惨な死を迎えた。それ以来、"三代鬼徹"をはじめとする妖刀を扱う者は近い将来、必ず死が訪れる。
また、鬼徹一派の他の二振りである"初代鬼徹"や"二代鬼徹"も同様、それ以上に恐ろしい刀だという。
「確か"元"三ノ輪銀や"四勇"郡千景が持つ武器も妖刀だったかな。……ま、あれは斧や鎌だけどね」
確かに思い返せば、三ノ輪銀が持つ二振りの斧からも近い感覚がした。
見てくれが刀である分、
「噂はさておき、その切れ味……とくと味わえ‼︎」
No.10が両手で上に掲げ、芽吹に向けて一気に振り下ろす。
「くっ……!」
それを芽吹は自身の刀で受け止める。その衝撃で胃の中の何かが逆流しそうだった。
「……っ。死が訪れるというのに、貴女はそれを使うの、ね」
「はんっ。昔の人の言い伝えなんて尾ヒレがつくもの。それじゃあ私が使いこなして伝説になってやろうってさぁ!」
No.10はさらに力を加え押し付ける。対する芽吹も必死に耐え、お互いに膠着状態となる。
「いまだ国土ッ。やれ‼︎」
No.10は背後に佇む亜耶に芽吹を攻撃するよう指示を出す。
だが亜耶自身は着ている袴の袖の中から何かを取り出そうとする仕草をしつつも、決心が付かないのかそこから先に動けない。
「……? ああっ?」
亜耶が動こうとしないので、No.10が顔だけ亜耶の方に向けた。その瞬間、芽吹へ加えている力が弱まったのを感じた。
「はぁああ‼︎」
それを見逃さなかった芽吹は右足を上げてNo.10の腹部に蹴りを入れた。
「ぐほぉっ」
No.10は蹴飛ばされ背中から床に叩きつけられて転がっていく。
「はぁ……。はぁ……」
蹴った芽吹の方もバランスが崩れて尻餅をつく。
「うっ……く、ふっ」
すぐに立ち上がろうとするが胸元を押さえてよろめきまともに立てない。
「いっ……つ、うぅ〜」
上半身だけを起こして激痛を訴えるNo.10に亜耶が駆け寄る。
「た……立てますか」
するとNo.10は立ち上がると怒りのままに亜耶の頬を思いっきり平手で叩いた。
「何やってんだ、お前はよッッ!!!」
「きゃあっっ」
バタンっと亜耶はその場に倒れ込んだ。
「芽吹隊長仕留めるチャンスだったろうがぁあ‼︎ トロくせぇんだよ」
「……ぅ、ぅぅ…………」
先程の身動きが取れなかった状況で何もしなかった亜耶を強く咎める。
「ちっ。何のためにNo.3が非戦闘員の奴ら全員に武器を携帯させてると思ってんのっ。まったく使えないなあ」
冷たい眼で嘲笑した後、改めて芽吹に視線を戻す。
対する芽吹は呼吸を荒くしてその場から動けずにいる。
「……? あれあれ? もしかして隊長。怪我してんのぉ?」
「……はあ……はあ……」
その問いに返答出来なかった。
芽吹の身体は今、常人ならとっくに気を失ってもおかしくない程に疲弊している。
過度な動きは身体に更なる負荷をかける。ましてや先の戦いの傷が癒えない芽吹は満足に戦うことさえままならない。
「亜耶ちゃんに……何してる……の」
「そんなザマでも他人の心配? 聞いてたとおりに成長して、まるで隊長の鑑だねぇ」
勇者ではないことの不利益がまた芽吹を襲う。しかし今それを嘆いたところで変わらない。
「この……ッ!」
歯を食いしばりながら刃を先を床に沿うように構えて走り出す。
「怒ってんの? 隊長」
下から上へと振り上げる芽吹の攻撃を、正面から受け止める。
「うわっ……と。怖いねぇ。少しビビっちゃった」
しかしその威力に負けて半歩後ろへさがった。
(そんな傷でまだこんな力が……? それとも怒りの馬鹿力ってやつ?)
No.3から聞いた話では水都の奪取時の戦いで芽吹の戦闘力は通常時のおよそ五割まで減衰していると予想していた。
しかしそれでもなお楠芽吹という人間の底力は知れない。そんな状態であってもNo.10は勝てないだろう。
……だからこそ"彼女"を連れてきた。
「はああぁっ!」
痛みに耐え繰り出す芽吹の太刀を見て、No.10は身を屈める。しかしそれは避けるための予備動作ではない。
「いつまでへばってんのッッ‼︎」
刀を持っていない手を下に伸ばして足元に倒れている亜耶の襟を掴んで引っ張り上げた。
「……あっ⁉︎」
芽吹とNo.10との間に亜耶が割って入る形となり、その切先が目の前で止まる。
「亜耶ちゃんを盾にっ……」
「分かる、分かるよー。こんな風でしか戦闘に参加できない子が腹立だしいんだよね」
ニヤニヤと品のない笑みを浮かべながらNo.10は芽吹と亜耶の両方に視線を送る。芽吹が今何を考えているか分かったうえで、挑発している。
「う……っ」
当の亜耶は急に引っ張り上げられた際に、首に負荷がかかり苦しそうに呻く。
「亜耶ちゃんを放しなさい」
「分かってるって。そら、受け取りなよ」
亜耶を半ば突き飛ばす形で芽吹に押し付ける。
芽吹は刀を下げて亜耶を受け止める。そしてもう片方の腕で倒れないよう彼女を支える。
「亜耶ちゃん……やっぱり貴女は戦いには向いてない。貴女は優しすぎる」
「……芽吹先輩。私…………」
――その瞬間、芽吹に激痛が走った。
「「――ッ!!!?」」
芽吹も、そして亜耶も最初何が起こったのか理解出来なかった。
「あ……が……っ」
「う……く、ふっ……!」
芽吹はゆっくりと目線を下へずらす。見ると自分の腹部に刃が突き立てられていることに気付いた。
「あ……あな、た………自分が何をやって、いるのか……分かっている、の……」
No.10を睨み付ける。今、芽吹は刺された痛みなど気にしていない。
「雑魚と鋏は使いよう……ってね。戦闘じゃ無能でもこうすれば役に立つってもの」
芽吹を貫いたのはNo.10の刀だ。しかし芽吹だけではない。No.10は亜耶ごと芽吹を刺したのだ。
身体越しの刺突は死角になる。それに加えて、亜耶のことを気遣った故に芽吹は回避出来ず致命的な傷を負ってしまった。
「……うっ……かはっ……ぁ、ぁあ……」
芽吹の腹部に刃が届いたということは当然、亜耶の身体を刺し貫いたということ。
亜耶は力無く芽吹に寄りかかる。目も虚で意識があるのかないのか分からない状態だった。
「さっきも……今も、仲間を何だと思って……」
「それをあなたが言うのかい? 私たちを捨てたあなたが」
No.10が嘲笑気味に芽吹に問う。
「それにこういう役目はある意味で、本人も
「ど……どういう」
刃を突き立てたまま、今回の奉火祭について説明する。
「知ってる? 奉火祭とは本来、大社に属する六人の少女が"巫女"として犠牲になる筈だった。でも藤森水都がその代用品になった」
双子座をめぐる戦いの顛末を知った大社は、奉火祭の生贄を水都ひとりで賄えると仮定して行動に出た。
……だが当初の手筈では、その六人の中に
「つまり藤森水都のおかげでこの子は死なずに済んだんだよ。……当然負い目を感じるよね、この子の性格上」
「だから……姫路城に呼び付けた……のね」
「そう。二つ返事で来てくれたよ。"対芽吹隊長"の秘密兵器としてね」
その言葉で全て理解した。
大社は芽吹が歌野と共に姫路城にやってくるだろうと予想したうえで彼女を連れてきた。
芽吹が亜耶と戦い、迷えばそこを討つ。だが亜耶自身も戦力にはなり得ない。
だから盾に使った。
「……亜耶ちゃん」
懐の彼女に話しかけても返事がない。次の瞬間、No.10が刺していた刀を思いっきり引き抜いた。
「――ッがはァッ‼︎」
再度、芽吹は血を吐いた。それはすぐ下にいた亜耶の頭に降りかかる。そして頭から伝って顔へ血が流れる。
亜耶の方は抜かれたあとも何の反応も示さない。
芽吹の呼吸が浅くなる。彼女もまた意識が今にも途切れそうだった。
「よしよし、これでトドメだ」
刀に付着した血を振って落とす。そして上段の構えで一気に振り下ろす。
No.10にとって最早亜耶の生死など眼中にない。抱えられている彼女ごと芽吹を斬るつもりだ。
「――ッッ‼︎」
それに気付いた芽吹はカッと目を見開きNo.10を射殺すように睨みながら叫んだ。
「やめなさいッッ‼︎」
――刹那、芽吹を中心に波紋状の突風が吹き荒れた。その衝撃波にも似た風圧によりNo.10の身体が静止する。
「……? そんな凄ん、だ……って……」
両腕を上げたままNo.10の身体はまったく動かなかった。と、同時に全身を駆け巡る電流のような衝撃、目眩と吐き気に襲われて視界が暗転していく。
「……うっ⁉︎ あっ……あがっ」
口から泡を吹き、白目を剥き、全身から異臭を放つ脂汗をかく。
……そして持っていた刀を落とし、自らも仰向けでそのまま倒れた。
「……な、なにが」
失神するNo.10と動かない亜耶。そして周りを見渡すが何が起こったのか分からない。
ただ言えることは、この場にいる人間は全員戦闘不能だということ。
「あっ……」
手の感覚が無くなり、亜耶を支えることが出来なくなってしまい彼女を落としてしまう。
床に落ちたあと一回転して彼女の顔がはっきりと見えた。
亜耶の目元は芽吹の血で赤くなりいつの間にか瞳は閉じていた。
(亜耶ちゃん……)
静まり返る部屋の中、芽吹は立ち尽くす。完全に身体が硬直して倒れることも出来ない。
今、自分からどれだけの血液が流れ出たのかは分からない。しかし見るからに、常人なら失血死してもおかしくないほどの量だ。
そんな中、芽吹の脳内はある思考に支配される。
(私は……
亜耶がこうなってしまったのは自分のせいか。自分が防人を出ていったから……。
(三好さん……。貴女と私と、一体何が違うというの?)
不意に夏凛の顔が頭に浮かんだ。
夏凛がなぜ、防人を離れたのかは分からない。
そして恐らく彼女はもう二度と戻るつもりはないのだろう。
だが芽吹は違う。目的を果たせば防人へ戻ろうと思っていた。裏切り者である夏凛を倒すという約束を守って……強くなって戻ってこよう、と。
――何が違う。
去ったことに。
大社に、防人に敵対しているという点では何ひとつ変わらない。
……
――約束を守れない奴にはなりたくない?
――それって沢山の人を不幸にしてでもやらなきゃ駄目?
あの日、双子座をめぐる戦いで芽吹は確かに言った。『後悔はしていない』と。『謝るつもりはない』と。
……だが今は同じ気持ちで国土亜耶を……防人のみんなを見れない。
(馬鹿ね……私は)
歌野と行動を共にして防人の敵になるということがどういう結末を辿るのか。頭で分かっていても、その対応などまるでしていなかった。
それでは分かっていないことと同じだ。
「――え……っ。芽吹ッ‼︎」
どこからか、歌野の声が聞こえた気がした。だが身体は動かない。
頭はずっと同じことを考え続ける。
「…………」
夏凛に対して一時的にでも激しい憎悪を抱いておきながら、夏凛と自分は違うと勝手に決め付けておいて……。防人の仲間に同じ思いを抱かせておいて……。
『――だからそれまで待ってなさいッ!! ――これは命令よッッ!!!』
そんな言葉を、一体……どの口が言えたというんだ――。
自分が姫路城へ取材に行った時、実際に刀が展示されていました。もちろん三代鬼徹ではない。
さて、ONE PIECEのアニメが漫画の続きをやってくれるので重い腰を上げていきましょう。
……ちなみに作中では白鳥さんたちが姫路城に突入してまだ1時間も経っていません
次回 バケモノVSケダモノ