さて、今回は高嶋友奈の戦いです。
前回のあらすじ
国土亜耶とNo.10との戦いで芽吹は深い傷を負い、その場で戦闘不能となってしまう。その心にも、決して無視出来ない深い傷を負って……。
姫路城の地階に高嶋友奈は来ていた。
「うん。水都ちゃんはいないね。よしっ、ウタちゃんや結城ちゃんの様子を見にいこっ」
そこは灯りはなく薄暗い場所だった。
友奈は水都の名前を呼んだが返答はない。また、護衛の一人もいないのではずれだと判断した。
「あれ……?」
戻ろうとする友奈だったが、壁際に異様な物体が置いてあるを発見した。
「これ……確か……」
それは自分と同じくらいの大きさの正四面体キューブだった。
しかしそのキューブの異様さは形だけに留まらず最大の特徴はそこに彫られていた
「久美子さんが……言ってた……」
そしてそれを、友奈は幾度か見たことがある――。
I learned from the materials at that time.
When you want to be friends forever, you call them “Zuttomo”.
It was very interesting so I liked it.
The three of us have been friends forever.
I still feel close to you.
「名前は、何だったかな。……! そうだっ。"
久美子から何度も名前を聞かされたので、忘れっぽい友奈でも不思議と記憶に残っていた。
「でもこれ……何かがおかしいようなぁ……。う〜ん」
ぼんやりと全体を見渡しながら首を傾げる。
自分が今まで久美子から見せられてきたものとは僅かに違う点があったからだ。
「今までは紙に書かれていた不思議な文字だけど……これは石、かな」
触れてみるとひんやりと冷たい。日陰に放置されていた石を連想させる。
何故、わざわざこんなにも大きな石の塊に文字を彫ったのだろうか。紙では駄目なのだろうか。
「……ぐわー! 考えても仕方ないやっ。急いで戻らなきゃ」
いつまでもここにいる訳にはいかない。確かに
――と、その瞬間。友奈に向かって何者かが刃を突き出してきた。
「あぁッ‼︎」
振り返りざまに避け、脳天への直撃は免れたが、数本の髪の毛が切られ床に落ちる。
そして一度、後ろへステップを踏んで距離を空ける。
「……! あなたはっ」
「こんなところに小娘が何のようだァ?」
そこにいたのは顔の半分以上を黒い仮面で隠した男だった。
その男とは歌野たちが銃撃戦を繰り広げた際に広場を仕切っていた男――すなわち神官長である。
「……え、と……奇抜な仮面ですねっ」
友奈は神官長に付けられている黒色の
「なんだ急に? てめェの方が変な仮面付けてるだろうが」
神官長のマスクは昔負った顔の傷を隠す目的でつけているのに対して、友奈の仮面は自身の素顔を隠すためである。
しかし、神官長のマスクは普段大社神官の付けている仮面ではない。完全に隠されているのは右頬と顎、そして鼻筋。
彼自らが製作者に作らせた穴あきの特注品だ。
「じゃあ私たち似た者同士ですね!」
「アァ?」
友奈の仮面も目元を覆っただけで他は晒しているもの。久美子から貰った『国防仮面』という架空のヒーローを模したものらしい。
「じゃあ私はこれで……」
「待てや‼︎」
戻ろうとする友奈に対して神官長がサーベルの切っ先を向ける。
「う〜。どさくさに紛れて逃げようと思ったのに」
「紛れてねェよ!」
突っ込みを入れる神官長と恥ずかしそうに頭を掻く友奈。この場に奇妙な空気感が漂う。
「ったく調子狂うガキだぜ。これから地獄を見るってのになァ」
神官長は薄気味悪い笑みを浮かべる。
戦いを避けられないと感じた友奈は両手の拳を握り集中して相手を見る。……すると神官長が持っているサーベルが気になった。
「生きてる……?」
今、そのサーベルから何かの"声"が聞こえた気がした。
「いくぜ‼︎ "ファンクフリード"!!!」
その瞬間、神官長がサーベルの刃の先を友奈に向けて刺突攻撃を繰り出す。
反射的に友奈は回避行動を取るため横に走る……が。
「えっ⁉︎」
ぐいっと何かが腕に巻き付いてそのまま神官長側へ引っ張られた。
「きゃああ⁉︎」
間合いに引き込まれた友奈の上腕部をサーベルの鍔から
「おっらよぉ‼︎」
間髪入れず相手の蹴りを横腹に食らう。
「……がっ、うっ」
友奈は今、自分に起こった出来事を振り返る。
「その剣……動物に……」
「へっ。気付いたか。ワーッハハ! そうさ、これは俺の愛剣。その名も『象剣"ファンクフリード"』だ!」
象。そう呼ばれて納得した。確かに思い返せば、友奈の腕に巻き付いてきたのは象の鼻だった。
「象、さんが武器に……。勇者の能力、なのかな……」
「違うぜヘンテコ仮面。これは大社で作られた人造勇者の野菜を、武器に喰わせることで生まれた新兵器だ」
「え……。ええ……っ?」
友奈の思考は混乱する。長い間、奈良で過ごしてきた友奈にとって大社のことなど久美子から聞いた情報しか知らない。
しかしそれも僅か程度。久美子自身が大社の近況を友奈や茉莉にあえて説明しなかったからだ。
「大社は
大社がそれらをどのような過程で開発したのか、詳しくは分からない。だが話を聞く限り、その"とある科学者"は相当優秀な頭脳を持っているのだろう。
……
「そしてもうひとつ。この場に連れてきた新兵器。こい‼︎ "スフィンクス"!」
ピィー! と神官長が指笛を鳴らすと、二人の目の前にライオンが現れた。
『グルルル……』
「ラ……ライオン⁉︎」
また驚くべき事象が友奈を襲う。ライオンが姫路城に現れたこともそうだが、そのライオンには"羽毛"があったのだ。
……まるで空想の世界から飛び出してきたかのようだ。
「それも……新しく作ったんですかっ」
「ああ、そうだ。こいつは人造勇者の野菜である『トリトリの野菜:モデル"オカメインコ"』を喰わせ誕生したライオン。名はスフィンクス!」
ライオンの象徴であるタテガミの中に、確かに鳥のトサカのようなものがみえる。
そして背中には羽が生えている。
「人の言葉を覚え、自ら喋ることも可能だ。……そらっ、なんか喋れスフィンクス」
神官長が命令すると、スフィンクスは口を開けて言葉を発した。
『ソ……』
「そ?」
『ソーメン……』
「……え?」
その言葉を発した瞬間、スフィンクスの鉤爪が友奈に襲いかかる。
「――っあ!」
『ラーメン!』
「ラーメン⁉︎」
右、左、右……と交互に、その強靭な爪を友奈へ繰り出す。友奈はその動きを見切って回避し続ける。
「わっ、あっ、よっと!」
『タンメン! ヤキソバ! レーメン! チャンポン!』
「も、もしかして麺類を中心に覚えさせられてる〜〜‼︎」
最後に頭突きを繰り出すも、斜め後ろにジャンプして回避した。
『……ア、アーメン』
「祈った……!」
どこの誰かは分からないが、余程の麺好きが飼い主なのだろう。そこは別にいい。……いいのだが。
「ちょっと待って、ライオンさん」
友奈個人的にはどうしても聞かなければならないことがある。
それは――。
「なんで"うどん"が出てこないの‼︎」
「知るかァァ!!」
友奈の憤りに神官長が食い気味に突っ込みを入れる。友奈にとってうどんの名がないことは致命的な問題のようだ。
「大切なことだよっ。今からでも覚えてもらわなくっちゃ」
「うっぜェんだよ‼︎」
スフィンクスに微笑みかける友奈へ、サーベルの刃を突き出したまま突進していく。
「
友奈はそれを、右足の蹴りで防いだ。
「足でガードしやがった⁉︎」
「久美子さん直伝‼︎
サーベルを蹴られた衝撃で仰け反ってしまうが、その反動を勢いにかえて、振り下ろす。
「これはどうだ! エレファント・チョップ!」
それを友奈は両手を床に付けた逆立ちをする。そしてその場で回転しながら蹴りを放つ。
「パーティーテーブル・キックコース‼︎」
蹴りは神官長の手首に命中してサーベルを手元から弾き飛ばした。
「ちっ」
「よしっ。久美子さんに教わった通りにでき――」
その瞬間、激しい痛みが左半身を襲った。と、同時に友奈は吹き飛び壁に叩きつけられた。
「――キャアッッ‼︎」
痛みを与えた正体はスフィンクスだった。
「や……やっちゃった……」
神官長はその間にサーベルを拾いあげる。
「よーし、よしよしよし。よくやったスフィンクス」
神官長の攻撃は友奈の注意をスフィンクスから離すための囮だった。
決して無視出来ない一撃を食らい、友奈の身体は痺れ満足に立てない。
「くっ……かはっ」
「直撃だぜ? 痛ェだろ、当然だ。人工的に作ったとはいえ『勇者の野菜』を食べたやつの身体能力がどれほど強化されるか……。ワハハッ、動物なら尚更だ」
ただでさえ獰猛な爪を持つライオンだ。それに勇者の野菜により総合的な運動能力も上昇している。
その一撃をまともに受けてしまったのだ。
「さぁて……トドメだ。このままひと突きか。それとも象の姿にして踏み潰すか……」
「うぐっ……このままじゃ……」
口の中が血の味で充満する。拳を握り締め立ちあがろうとするも全身にうまく力が入らない。
「ごめん……」
友奈は何かを決心したような表情を浮かべ、小さな声で囁いた。
「誰に謝ってんだァ? 上のお仲間か? それとも無能な自分自身にかァ?」
「ゾウさん……ライオンさん……ごめんね。痛くて……怖い思いをさせちゃう、ね」
「あ?」
友奈は目を閉じて精神を集中させる。神経を研ぎ澄ませ力を溜める。
『――友奈、お前の力は暴走する危険性を秘めている。使っていいのは周りに味方がいないとき。解放していいのは一部分だけだ』
奈良にいた頃、鍛錬の過程で久美子にそう教わった。前に一度、力を解放してしまった時は周囲にクレーターができ、瓦礫の残骸が散らばっていた。
結果としては久美子が友奈を止めたのだが、彼女も少し疲れた様子だった。
……その力の一部を今ここで発現させる。
もしかすると予想以上に力が溢れてここ以外の人間に危害を及ぼすかもしれない。
だがここで黙って終わるわけにはいかない。
(私自身も……友達の為に、命を懸けたいんだ……だからっ)
歯を食いしばる。そして溜め込んだ力を溢れ出させる。
「お願い……誰も来ないで……」
「……? なんだ、ファンクフリード?」
最初に異変に気付いたのは手に持っていた象剣"ファンクフリード"だった。
ファンクフリードは短いなきごえを発したのち、部位全てがサーベルの状態のままで無反応になった。
『グルルルル……』
「スフィンクス?」
次にスフィンクスが今まで以上に低い声で唸り、倒れている友奈を睨む。
そして次の瞬間、友奈目掛けて鉤爪を振り下ろす。
『ジョーシューソバアア』
友奈はそれを右手で受け止めた。
「なっなにィ⁉︎」
受け止めた痛みや衝撃は感じない。ただ、スフィンクスの爪と爪の間に指を挟ませて衝撃を完全に殺している。
そしてグッ と強く掴み下方向へ振り下ろす。スフィンクスは勢いよく床に顔を叩きつけられた。
「おいおいおいおい。何の冗談だッ⁉︎ スフィンクス‼︎ てめェ力で負けてんじゃねェぞ!」
神官長の言葉でスフィンクスはすぐ顔を上げて反撃を繰り出そうとする……が、それは現実にはならない。
友奈はその場でジャンプし、空中で2〜3回、回転して踵落としを放った。
「うおおおおォォォーーッ‼︎
踵はスフィンクスの頭部にめり込み、脳天は軋みをあげる。
『グ……グゥ……』
スフィンクスの顔は陥没した床にすっかりハマってしまい動けない。いや、気を失ったのか、力尽きたのかピクリとも動かない。
「ア……アァ……」
神官長はその瞬間を見逃さなかった。
――"高嶋友奈"の内に潜んだ、悍ましい姿を。
チラッ。
「ヒッ。ギャアアアアア〜〜!!!」
友奈に一瞥された神官長は泣き叫びながら、サーベルを投げ捨て走り出した。
(なんだよ
己の生存本能がようやく機能した。これ以上アレの近くにいては駄目だと。
(まるで……"バケモノ"じゃねェか‼︎)
――神官長は地上階へ逃げ、この場に動いているのは友奈だけになった。
「ハァ……ハァ……。フウゥ……ハアァ……」
友奈は自分の心を落ち着かせる。たった一度の攻撃だったが、それでものみこまれないように神経を研ぎ澄ませるのに必死だった。
それはひとえに久美子との鍛錬のおかげだ。
「あ……だめだ。……意識が…………」
その場にうつ伏せで倒れてしまう。
「ごめん、ウタちゃん……。結城ちゃん……。ちょっと、休むね……」
全身強張っていた筋肉と張り詰めていた緊張を解き、友奈は目を閉じて暫しの休息をとる。
不安定になった精神を、己の奥に潜む"
・神官長:バーテックス襲撃時の余波で顔に怪我を負い、特注マスクを使用するようになった。家のコネで今の権力を手にする。ああ見えてドジっ子。ぶっちゃけモデルはスパン……。
・象剣"ファンクフリード":大社の革新的な技術のひとつ。動物のゾウから血統因子を抽出して作り出した人造勇者の野菜『ゾウゾウの野菜』を食べたサーベル。
詳細は不明だがとある科学者が、勇者が能力を付与させた武器を扱うことからヒントを得たようだ。これにより勇者ではなくとも勇者に似た力を振るえることが可能となった。
まだ量産は出来ていない。
・スフィンクス:大社の革新的な技術のひとつ。その実態は『トリトリの野菜:モデル"オカメインコ"』を食べた羽毛ライオン。
能力の副産物か言葉を覚える。羽のような部位はあるが飛べない。なぜか麺類中心に覚えているがなぜかうどんの名は覚えていない。四国の勇者が怒るぞ。
次回 銀色の想い