白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。二人目の友奈が戦う話です。


前回のあらすじ
高嶋友奈は神官長と彼が連れて来た実験動物と戦い、見事撃退することに成功する。だが消耗が激しく彼女は束の間の休息をとる。あとのことを歌野たちに任せて。


第八十七話 銀色の想い

 姫路城の地上階。

 そこでは結城友奈が、三ノ輪銀(パシフィスタ)とそれを指示するドクターとの戦いを繰り広げていた。

 

「やーれやれ! パシフィスタ」

「うっ……!」

 

 パシフィスタの圧力(パッド)砲を避け続けるも、友奈の体力は底を尽きかけていた。

 

「フォスフォスフォス! ホントによく避け続けられるなっ」

 

 パシフィスタである三ノ輪銀の能力はよく分かっている。

 触れたものを自らへ引き寄せる能力、『ヒトヒトの野菜 幻獣種:モデル"立烏帽子"』は能力者と一定の距離と時間によって効力を失っていく。

 それが友奈が彼女との戦いを望み、尚且つ今に至るまで避け続けている理由だ。

 

「はぁ……はぁ……。銀ちゃんは前に、能力を鍛え続けていればその時間と距離をのばすことができるって言ってた。……でも、それでも地球の裏側まで範囲を広げるには、長い年月がかかるって……」

 

 もし一度でも触れたものを気軽に引き寄せられるのなら、歌野たちはここまで自由に動けてはいない。

 こればっかりは三ノ輪銀が能力を極限まで鍛えていなかったことが皮肉にも幸いした。

 

「だがぁ! だがだがだがだが‼︎ それを分かっていたところでパシフィスタを倒せる手段なんてねェ!」

 

 ドクターは勢いよく友奈を指差す。同時にパシフィスタは両手を前に出してそれを交互に、引いて押しだすような動作を繰り返す。

 

「またくるっ!」

 

 何発もの空気の砲弾――"圧力(パッド)砲"を繰り出す。

 友奈は両膝を曲げて状態を低くし機敏な回避行動をとる。

 

「……ぁ‼︎」

 

 友奈が空気の砲弾を避けている最中、パシフィスタは距離をつめて前に立っていた。

 そして右手を広げて友奈に張り手で攻撃しようとする。

 

「うー、ごめん。銀ちゃん‼︎」

 

 床に向かって思いっきり拳を振り下ろす。床は破壊され残骸が隆起する。

 

「勇者パンチ!」

 

 残骸を殴り付けてパシフィスタへ飛ばし、右手に当てた。

 

「んお⁉︎ 残骸をぶち当てて触れられるのを防いだのか! 器用な小娘だ!」

 

 ドクターの言ったとおり、飛んできた残骸はパシフィスタの張り手に当てて反らせたことにより、自分の身体に触れられるのを防いだのだ。

 そのあと、友奈はすぐにバックステップで距離を取った。

 

(よく避ける……じゃあおれも)

 

 ドクターは懐から拳銃を取り出した。そしてそれを友奈に向ける。

 

「オラッ‼︎」

 

 連続で五発の弾丸を放つ。

 

「――ッ⁉︎」

 

 友奈は発砲音にすぐさま反応して、横に跳んで回避する。

 

「ふー。危なかったぁ」

「まだまだまだァ」

 

 シリンダーにまた五発の弾丸を込めて友奈へ撃つ。

 だが、同時にパシフィスタがまた両手を交互に押し出す行動を取る。

 当然その意図は――。

 

「ここで圧力(パッド)砲ッ⁉︎」

 

 無数の空気の砲弾が、実弾を避けて体勢が崩れている友奈に襲いかかる。

 

「うああああーーッ!!?」

 

 圧縮された空気は身体の節々で破裂し、その痛みで全身が悲鳴をあげる。

 

「う……」

 

 力無くうつ伏せで倒れた。一度倒れてしまえば、疲労もありなかなか立てない。

 

「ぎ……銀……ちゃ…………」

「なんだぁ? この期に及んでまだコイツの心配か?」

 

 ドクターは銃弾を込めながら友奈の方へ歩く。

 

「お願い……だよ。目を……覚まして……。銀ちゃんは……」

「うるせェ‼︎」

 

 小さな声でパシフィスタへ語りかけていた友奈の頭を踏みつける。

 

「あっ」

「知らねェのかよっ。コイツはな、もうとっくに意識は無ェんだよ! 見た目だけそれっぽいだけで思考能力も人間性の無ェ!」

「…………帰ろう? 東郷さんやそのちゃんも、心配して……」

「うるせェって!」

「ふみゅ……ぐっ……」

 

 歯を食いしばる友奈。それは自身の痛みと()()()()()を想ってのことか。

 

「フォスフォス。まーあ? バーテックスをいち早く滅ぼすための致し方ない犠牲と考えれば、割り切れるんじゃあねェか」

「そんな、こと……っ」

「この世界に住む誰しもがあんな化け物、いなくなっちまえばいいと思ってる。かくいうおれもそうさっ」

 

 ドクターは友奈を見下しながら、昔を振り返る。

 

「おれには医者としての才能があった。金の為にオペはやったが正直面倒だったよ。……気が付きゃおれは医者として確たる地位と名声を手に入れた」

 

 嫌気が差す毎日だったようだが、それでも関係無いかと言わんばかりに、彼の腕を聞きつけた患者達が次から次へとやってきた。

 暮らしが裕福になってくる一方、なぜか胸の内側は貧しかった。

 

「そんな日常が続く中、()()()が来た。……全部()くなったさ。家も仕事場も、診ていた患者も…………惚れた女も」

 

 生き残ったドクターはその後、大社の神官達から勧誘を受け、バーテックスによって負傷した人々の治療にあたる。

 そして数ヶ月前、四国にいた彼は三ノ輪銀(パシフィスタ)と出会い、そのメンテナンス係に抜擢される。

 その時の三ノ輪銀の身体は、もう人間であった頃のものから大分逸脱していたのだが、それでも元が人間だった分、医学の知識を持った人間による調整は必要であった。

 

「……あ? 泣いてんのか?」

 

 ドクターの自分語りを友奈はただ聞いていた。すると、彼女の瞳から一筋の涙が流れた。

 

「気持ち悪ぃ小娘だ!」

 

 友奈を踏みつけるのをやめて、数歩退がる。そして右手に持っていた銃を向けた。

 

「くたばれ‼︎」

 

 ――ドンッドンッドンッドンッドンッ‼︎

 

 目の前の友奈へ全弾を放つ。

 友奈は咄嗟にガードの体勢をとったが二発は左肩をかすめ、一発は外れ、残り二発は両腕に食い込んだ。

 

「――ぁぁあああああああ!!!?」

 

 腕の中に残った弾丸の熱が更なる痛みをもたらす。

 

「うぅ……ぐぅ……っ」

 

 呼吸が荒くなる。

 

「……痛いよ。……苦しいよ」

「フォスフォス……。だろう? そのまま苦しみながらくたばりやがれ」

 

 友奈から漏れたその言葉にドクターは薄ら笑いを浮かべながら勝利を確信する。

 

「……違うよ」

「あ?」

 

 しかし友奈の目はまだ死んでいなかった。先程漏れた言葉も自身への情け無さから出たものではない。

 

「身体じゃない……心だよ。銀ちゃんの心が……()()()の心が痛がってる……苦しんでる……よ」

「な、何言ってんだ?」

 

 ぐっ と両手を拳にして地面に叩きつける。そしてその反動を利用して立ち上がった。

 腕の中に残っている弾丸の痛みなど一切気にしない。

 

「痛いよ! 辛いよ!苦しいよ! でも私のことじゃない! 銀ちゃんだけじゃない!あなたも! とっても苦しんでる! ……でも、だったらなんで!その辛さを他の人たちにも与えるの!」

「な……っ、て、てめェ」

『…………』

 

 友奈の目からは涙が溢れていた。

 それは三ノ輪銀を想っての涙だ。そしてドクターを想っての涙だ。

 

「あなたにも、大切な人がいた! バーテックスのせいで台無しになっちゃった! 辛かったよねっ? 苦しかったよねっ? ……その気持ちが分かるのに、どうして……」

「う……うるせェ!うるせェよォ!」

 

 友奈の叫びに呼応するかのようにドクター自身も声を大きく荒げた。

 

「そのバーテックスをこの世から消すためにやってることだ! 必要な犠牲ってやつだ! この世はな、何かを捨てなければ何かを手に入れられないんだよ‼︎」

 

 叫びながら引き金を引いた……が。

 

「……⁉︎ 弾が無ェ……ッ」

 

 先程、自分が全弾を友奈に向けて撃ったことを忘れるほど冷静さを欠いていた。

 すぐに懐に手を入れて弾を補充しようとするが、それよりも早く友奈は持っている銃を蹴り飛ばした。

 

「いっってェ⁉︎」

「そんなの間違ってる!」

「……ぁあ⁉︎」

「何かを捨てて手に入れたって、そんなもの……きっと何かが足りないよ‼︎」

「綺麗事なんざ何ひとつとして、罷り通る世界じゃ無ェんだよ‼︎」

「ならっそんな世界なんて、私はいらない‼︎」

 

 友奈は両手を強く握りしめ自分の想いを叫ぶ。

 

「私はッ! 大切な人を誰も犠牲にさせない‼︎ 銀ちゃんも絶対に助ける‼︎ 東郷さんやそのちゃんも、みんなが銀ちゃんを……大好きな友達の帰りを待ってるんだ‼︎」

 

 その言葉に、僅かだがパシフィスタの表情が変わった。

 

『……スミ……ソノコ……』

 

 何かを呟いた気がしたが、よく聞こえなかった。

 

「ちっ。おいパシフィスタ! 早くこの小娘を仕留めちまえ!」

『…………』

「おい⁉︎ どうしたパシフィスタ! 攻撃しろ! 圧力(パッド)砲だ‼︎」

 

 しかしパシフィスタは棒立ちのまま微動だにしない。攻撃する姿勢も無ければ指ひとつ動かさない。

 

『……カラダガウゴキマセン』

「あ⁉︎」

「銀ちゃん……?」

 

 パシフィスタはそう言葉を発した。

 

「パシフィスタ……? 何のつもりだ?」

『システムエラー。イチジテキナキノウフゼン……ニオチイリマシタ……』

「ああ⁉︎ ふざけてんじゃェ‼︎」

 

 ドクターの怒りが頂点に達する。

 

「このポンコツがあ‼︎ 指示通りに動かねェロボットなんざぁただのくず鉄だろーが‼︎ 動けッスクラップにするぞ‼︎」

 

 怒りに任せてドクターはパシフィスタの身体に蹴りを入れた。

 だが、その鉄の塊である身体により、逆に自分の方がダメージを負った。

 

「いってェ〜! ……そういやコイツ、身体は金属だった。……クソ、()()()()()がぁ……」

 

 やけになっているのか、ここにいない人物にまで非難し始めた。

 

「やめてよっ」

 

 怒りでパシフィスタに夢中になっていたドクターは、先程まで戦っていた友奈から完全に背を向けていた。

 

「もうこれ以上、銀ちゃんを傷付けないで!」

「こ、のぉ……」

 

 射殺すように睨む。しかし今のドクターの手には武器はない。

 銃は友奈の蹴りによりこのフロアの隅に飛ばされている。

 

「銀ちゃんはロボットじゃない‼︎ 人間だよ‼︎ 東郷さんやそのちゃんの……ううん、二人だけじゃない。私たち勇者部の大切な友達なんだよ‼︎」

「だから"その"三ノ輪銀はとっくに死んだんだ! ここにいるのはそっくりなロボット(パシフィスタ)だ!」

「銀ちゃんはここにいる‼︎ 生きてる‼︎」

 

 パシフィスタは攻撃命令を拒絶した。それはつまり、"三ノ輪銀の想い"がまだ心の奥底に残っている証拠だと友奈は考えた。

 身体の機能を強制的に停止させることで必死に抗っているのだ。

 

「いくらあなたたちが銀ちゃんの身体を変えても、その心まで好き勝手に変えることはできないよ!」

「意志も無ェ、記憶も無ェコイツのどこが人だってんだよ、このッ!」

 

 ドクターは友奈を殴った。しかし友奈は怯む様子もない。

 

「人は、"心"だよ!!!」

 

 逆にドクターが友奈の勢いに怯んでしまい数歩退がった。

 

「ぬおっ……⁉︎ なんだこの圧」

「だから私はこんな戦いを終わらせるために戦うっ。……辛くても苦しくても、背負って進むんだ」

 

 友奈は右手を拳にして構えをとる。

 

「えっ……⁉︎ 殴るのか⁉︎ この天才的なおれの顔を⁉︎」

 

 まるで反撃されることなど想定していなかったかのような口振りだった。

 

「パシフィスタァァ‼︎ 何してる‼︎ おれがピンチだ、守れ‼︎」

 

 今まで、戦闘は完全に任せ自分は安全地帯で息巻いていた。

 

「脳に何かあったら四国全民の損失だぞっ⁉︎」

 

 度重なる予想外の事態にドクターの思考はもはや正常では無かった。

 

「勇者ぁぁ……」

「おれを――」

「パぁぁぁぁぁぁンチっ‼︎」

「――カッ

 

 その拳はドクターには触れていない。だが確かに、殴られたかのような衝撃に襲われた。

 

「カヒナァァラァァァァ‼︎」

 

 ドクターは左頬に凹みを作りながら壁まで吹っ飛ばされた。

 

「そんな世界……っ! 私が絶対に変えてみせる‼︎」

 

 そしてドクターは意識を失い倒れ込んだ。

 

「だって私は……"勇者"だから」

 

 

 

 

 

 

 ――戦いが終わり、友奈はその場で息を整える。

 

「う……っ……う」

 

 ドクターへ振りかぶった方の手を胸の手前で軽く握る。

 

 ……殴る方にも痛みはある。特に友奈にとっては。

 

「あっ! 銀ちゃんっ!」

 

 振り返るといつのまにか、パシフィスタが来ていた。

 パシフィスタは静かに手で友奈の身体に触れる。

 

 次の瞬間、友奈から赤色のエネルギー体が取り出された。

 

「わっ! ……えっ、身体が……」

 

 そのエネルギー体が取り出されるのと同時に、疲れや痛みが綺麗さっぱり無くなった。

 友奈はすぐに"勇者の野菜"の能力だと分かった。しかし、取り出したエネルギー体は放置すればいずれ持ち主に戻ってしまう。

 

 友奈はその意図が理解出来なかった。……が、すぐにその答えは目の前に提示される。

 

「――ッ⁉︎ ダメだよ銀ちゃん!」

 

 そのエネルギー体を、なんとパシフィスタ自身が取り込んでしまったのだ。

 

『……⁉︎ ナイブニジンダイナダメージジアリ』

 

 全身が痙攣したあと、不気味な機械音と共にその場に倒れた。

 

「銀ちゃん⁉︎ なんでこんな……」

 

 その身体を起こすも反応は無い。深刻なダメージで完全に行動不能になっているのだ。

 

 ……友奈の傷を癒す為に、"三ノ輪銀"はその苦痛を一身に背負ったのだ。

 

「……ありがとっ銀ちゃん。……そっか、そうだよね。戦いはまだ終わってないもんね」

 

 天井を見たあと、三ノ輪銀に向かって微笑む。そしてすぐに真剣な表情に変わる。

 

(ねぇ銀ちゃん……。大社に行って何があったの? 何を知ったの? なんでこうなっちゃったの? ……私は、それを知りたいよ)

 

 だが、そんなことを聞いても今の三ノ輪銀から返答が無いことは分かっている。

 ならば、この戦いを終えて仲間の元に戻って、三ノ輪銀を完全に取り戻したあとで聞けばいい。

 

 そう考え、友奈は無言のままパシフィスタを背負って歩き出す。

 身体に金属がある分、重い。回復してくれなければ背負えなかっただろう。

 

 

 

 ――そして友奈は階段を一歩一歩、ゆっくりとあがっていく。

 




ドクター:元医者。精神面に難あれど医療界隈では名の知れた腕利きだった。バーテックス襲撃時、好きだった女優が死亡。失意に暮れている中、大社に誘われ一員となる。現在はパシフィスタ(三ノ輪銀)の人間的なメンテナンスを行っている。(ちなみにパシフィスタそのものをつくったのは彼ではない)
 ぶっちゃけモデルはドク……。


 さて、もうみなさんご存知かと思いますが、三ノ輪銀の立ち位置はバーソロミュー・くまをモデルにしています。
 ……ごめんなさい。今はこれしかいえない。

 彼女がどうして人間兵器となる事を決めたのか。過去に何があったのか。
 ヒントが欲しい人はONE PIECE108、109巻を読んでください。もしくは、もうそろそろアニメでやってくれるので観てくださいね(宣伝)。


次回 レベル:グランド・ライン  
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