前回のあらすじ
海賊狩りみたいに行く方向を間違えてウェストジャパンではなくノースジャパン方面へ行ってしまった白鳥歌野と藤森水都。
……テコ入れじゃないよ(笑)。北海道で会わなくちゃいけない人がいるからね。
『受け継がれる意志、時代のうねり、人の夢。これらは止める事のできないものだ。人々が自由の答えを求める限り、それらは決してとどまる事はない』
第九話 四勇会議
歌野と水都が北海道へ向かっている間、四国の徳島某所ではーー
「おはようございます。若葉ちゃん」
艶やかな長い黒髪に赤いリボンをカチューシャのようにしている少女は四勇のひとり、乃木若葉を一室に迎え入れる。
少女の名は上里ひなた。
「おはようひなた。……悪いな、少し遅くなった」
「いえいえ、まだ会議が始まるまで20分ありますよ」
「30分前に来る予定だったが、タクシーが渋滞に捕まってな」
「相変わらずですね。若葉ちゃん」
若葉は先に席に着く。そして彼女の後ろにひなたは立つ。
今回は四勇の四人が介し、各々の近況を話し合う。
四勇には、サポートする者として副官が一人ついている。
香川を統治する四勇、乃木若葉には上里ひなたがその副官にあたる。
……会議予定時刻の10分前となった。
「ーーおはよー‼︎ ん⁉︎ なんだぁ、また若葉が一番かよ! 今回こそはタマが一番だと思ってたのにぃ‼︎」
ガラガラッと勢いよく扉を開けて入ってきたのは、茶色の髪で、野生味溢れた眼光を持つ小柄な少女。
四勇のうち、愛媛を統治する者の
「ああ、おはよう球子」
「おはようございます。球子さん」
「ひなたもおはよー!」
「……タマっち先輩、入口でつっ立ってないで、早く入ってよぉ」
「おっ、わりぃなあんず」
球子は入口から若葉の正面に座る。
「おはようございます。若葉さん。ひなたさん」
「ああ。おはよう杏」
「おはようございます」
清楚、と表現するにふさわしい、白い長髪にお淑やかな表情をした少女は球子の隣に座る。
彼女もまた、愛媛を統治する四勇のひとり、名は伊予島杏。
「……あれ? 球子さん、杏さん。安芸さんはどうされました?」
「あー、ますずは今日、バックれたっ。弟の定期検診に付き添うからって」
「そうですか、では仕方ありませんね」
「真鈴さんは、メインは貴女たちだから、アタシいらないでしょ? って言ってましたね」
杏は困り顔でひなたに告げる。
四勇はそれぞれ、自分の生まれた土地を統治している。
若葉は香川で生まれ、球子と杏は愛媛で生まれた。四国の愛媛という土地に四勇が二人というのは、些か過剰戦力ではないか? と前に大社に指摘され、徳島へ一人、移すべきだという意見もあったが、若葉たちはそれを却下。ひなたも、今回はいないが二人の副官である安芸真鈴も若葉たちに同意したので、愛媛は二人で統治。残った徳島は中立の場としてあてられた。
そして、残るはあとひとり。彼女は高知を統治しているーー
「……皆様、おはようございます」
ペコリと頭を下げてメガネをかけたおさげの少女が入ってきた。
「さぁ、郡様。皆様がお見えになっていますよ」
「……ええ」
メガネの少女、名は花本美佳。その後に入室した、横に揃った黒髪が腰辺りまで届く程長く、静かだが少し暗い影を持った表情の少女は若葉の隣に座った。
彼女こそが、高知を統治する四勇のひとり、名は郡千景。
「開始5分前だが、いいだろう。今回の会議を始める」
若葉の号令で、四勇会議は始まった……。
「……ではまず、今回四国外へ調査しに出かけたのは私と千景。その調査結果から話す」
若葉は一週間程の間、サウスジャパンの熊本へ行っていた。
「熊本には大社支部は無いが、人が住んでいた形跡があった……」
「形跡があった?」
「ああ。進化体バーテックスによって既に壊滅させられた後だった。……生き残りはいない。どこかへ避難したと信じたいがな」
開始早々から重苦しい内容に室内の空気も重くなった。
「乃木さん……。壊滅させた進化体の……正体は、わかるかしら」
隣に座っている千景は問いかけた。
「酷い荒れようだった。地面は割れ、陥没している箇所が幾つもあった。あれはまるで大地震が起きた後のようだ」
「ーーッ‼︎ それってもしかして」
杏は若葉の説明で壊滅させたであろう進化体バーテックスの正体に気付いた。
「ああ。杏の予想通りだと思う。……地震のような衝撃波を繰り出せる能力。『グラグラの野菜』の能力をもつ『山羊座』だ」
「「「「ーーッ‼︎」」」」
その言葉にこの部屋にいる若葉と杏以外の四人は驚きの表情を浮かべた。
『山羊座』は十二体いた進化体バーテックスの中の一体。その姿と能力は既に大社に知られている。
「なーんか、最近、進化体の行動が活発化してきてないか?」
椅子を後ろに傾けるように深く座った球子は両手を後頭部に回してボヤく。
「球子の言う通りだ。情報では『蠍座』『蟹座』『射手座』の三体が島根で確認された、と言う報告が大社からあった。流石に戦力差がありすぎて現場にいた防人は気付かれずに撤退した、とのことだ」
「犠牲がなくてよかったです」
「そう、ね」
「おっ! ならさ、そいつらの懸賞額はアップするのか?」
カタッカタッと椅子を前後に揺らしていたが、バンと球子は机を叩く。
「タマっち先輩。面白そうに言って、遊びじゃないんだよ?」
「もちろん遊びじゃないぞ! 懸賞金の額はタマが大社と連携して決めてるんだから、そういう話は早くしとかないとダメだろ?」
「球子の言うことも一理ある」
「だろー! 若葉」
「なら、球子はこの後に大社と連携して懸賞額の話を進めといてくれ」
「了解だ!」
球子は敬礼ポーズを取るが……。
「……あっ! そういえば言うの忘れてたぞ!」
「なんだ?」
「あっ、でも後でいいや。……先に二人の調査結果を知りたい」
「そうか? なら、私の報告は以上になる。あたりを探し回ったが山羊座を見つけることはできなかった」
そう言った後、若葉は千景の方を見る。と同時に球子と杏も千景に視線を送る。
「……私は先日、奈良へ行ったわ。そこも大社支部なんてなかったけど、生存者は確認できたわ」
「そうか、それは何よりだ」
「現地の人に、支部を置いて援助をさせるか提案したんだけど……、大丈夫だって断られた、わ……」
「ほう、それは意外だな」
大社の援助を拒むとは、何か考えがあってのことだろうか。
「私も詳しくは聞かなかった。……けど、あの人たちは、自分たちでバーテックスと戦えると言っていた」
「……!」
「そうなのか⁉︎ 奈良にはタマたちとは違う戦力があるってことなのかッ!」
球子が食い気味に千景に問いかけた。
「千景さん。もしかして、七武勇の誰かがいたんですか?」
杏はすぐにその可能性を指摘した。大社の助けなしでバーテックスに対抗できるのは、七武勇くらいだからだ。
「……いいえ、違うと思う。それだと思う人は……いなかった」
「……」
その言葉に後ろに立っていた花本は僅かに眉をひそめた。
「そっかー、なら何だろうなー?」
「ふむ。奈良にいる人たちへ、また調査が必要だな」
「あっ、それなら、また私が行くわ……」
「ん? そうか、ならその時はまた頼む」
若葉は千景が積極的になっていることに若干、疑問を持ったがすぐに振り払った。
(御役目に積極的なのは良い事だからな)
「私の報告は以上よ……」
「なら、球子。さっき言いかけていたことを頼む」
球子は、ゴホンと咳払いして話し始める。
「進化体バーテックスのことだけどな。昨日の夜ぐらいに、千葉の支部から連絡があって乙女座が討伐されたらしいんだよ」
「なにぃ⁉︎」
「……!」
若葉は驚き、千景も目を見開いた。
「タマっち先輩。私それ聞いてないんだけど」
杏も寝耳に水の様子だ。
「タマだって驚いたぞ。だからみんながまとまってる今日の会議で話そうとしたんだ」
「……でもさっきまで忘れてたんでしょ?」
「あんずっ。余計なことを言うなよー」
「……で、誰が倒したんだ? あそこには防人はいるが、防人装備で進化体を倒すことはできないだろう?」
「それがさー。詳しいことは教えてくれなかったよ。大社の人たちは、旅のものが倒したって報告を受けたって……」
「それこそ、七武勇のだれか、か?」
「だったら七武勇って話題が出てくるはずだろ? それに、ちゃんと大社は向こうに400万ぶっタマげ(600万円)送ってたんだ。七武勇へは送らないぞ? おたずね者だし」
「……不思議な事が立て続けに起こるものだな」
「もしかしたら……、新しい勇者が、現れたのかしら……」
「その可能性も出てきたな。大社の防人部隊は最近、勇者の野菜を集めていると聞く。それを使って戦力を増やしているかもしれん」
ひなた伝いに聞いた話では、防人の現リーダー。名は弥勒というらしいが、彼女は大社本部にかけあって勇者の野菜を集めているという。それを仲間に食べさせ勇者を量産させているのではないだろうか。
「よし、その辺りも含めて、球子は大社への調査を頼む」
「オッス!」
「また、ひなたと花本さん、安芸さんも含めて大社の情報を探ってくれ」
「わかりました若葉ちゃん」
「承知致しました。乃木様」
後ろにいるひなたも頷き、花本は頭を下げる。
(最近、大社もキナくさくなってきたよなー)
球子は天井を見上げて思う。
「……うん。これでタマの話は終わりだ」
「わかった。……他に言っておきたいことはあるか?」
会議も終わりに近付いている。
「すみません。最後に、いいですか?」
杏が手をあげた。
「ああ。杏、頼む」
「話に出てきた七武勇のことです」
「何か動きがあったのか?」
「動き、とは言い切れないんですけど……。七武勇のひとり、『結城友奈』なんですが……」
「……!」
千景がピクッと反応した。
「結城友奈に何か動きが?」
「彼女自身が、ではなく彼女の言動に感化された外の人たちが四国への侵入を試みようとしたみたいで、大社と一触即発の状態だったらしいです。結果はおおごとにならずに退いたようですけど」
七武勇の結城友奈は四国外の人たちに接触し、四国内への侵入を呼びかけているらしい。その行動に焚き付けられた人たちが今回の行動を起こしたという。
集団の中に結城友奈本人はいなかったようなのでおそらく彼女は呼びかけた程度のものだろう。
「結城友奈か。……七武勇の中でも厄介なやつだな」
「懸賞額も一番高いからタマげたタマげたっ」
七武勇にも懸賞額が付いている。額自体は人に危害を及ぼす進化体バーテックスより低い者もいるが、杏が報告してきた出来事もあり、大社が危険視していることに変わりはない。
特に、一番高いのは結城友奈。額は500万ぶっタマげ(750万円)。
「やはり、侮れないですね……。友奈の一族は」
ボソッとひなたは呟いた。おそらく、誰にも聞こえていないだろう。
「……結城友奈をはじめとする七武勇への対処は現在、大社防人に任せてある。要請があり次第私たちも出るが、ひとまずは自分たちの土地にて待機だ」
「了解っ」
「はい」
「……ええ」
「よし。何もなければ以上をもって会議を終了する。みんなおつかれ」
ーーそうして会議は終わり、それぞれ部屋を後にした。
帰り道、千景は花本と共にタクシーに乗って高知へ帰っていた。
「……郡様」
「どうしたの? 花本さん……」
「先の話、郡様が奈良に行って、会ったというあの方の話はされなかったのですね」
千景は動きを一瞬止めた。
「あの話の中では、関係ないことだったもの。余計なことを言って……変な気を起こすこともない……わ」
「そう、ですね」
そして、無言のまま二人は高知の境にさしかかった。
(また、会いたいな……。高嶋、さん)
遠くを見つめて心の中で彼女の名を呼んだ……。
四勇の人たちを、四皇の人たちみたいな笑い方にさせるか想像してみた。
球子「マママ、マママ〜ッ!」
杏「ウオロロロロロ〜〜」
千景「グララララ……」
若葉「ゼハハハハハーーッ‼︎」
……うん。絶望的に合わない(笑)
次回 ビバッ 北海道!