1年以上も続いていた奉火祭編も終わりが見えてきました。と言っても、終わるにはあと10話ぐらいかかります……。長いわ。
姫路城での戦いのおさらい
・二階:歌野VS No.5
・三階:芽吹VS亜耶&No.10
・地階:高嶋友奈VS神官長&実験動物
・一階:結城友奈VSパシフィスタ&ドクター
雪花、蓮華は姫路城の水都奪還の為、現在四階にいた。
目の前には二人の防人が立ち塞がっていた。
「来たかっ。私たちはNo.5の部下のNo.21である!」
「同じくっ。No.5の部下、No.18!」
だが、雪花と蓮華は走るスピードを一切緩めることなく二人へ突進していく。
「「防人の強さの前にひれ――」」
「やかましいわい!」「どきなさいっ」
そのスピードを維持したまま槍と剣を大振りして、目の前の敵を吹っ飛ばした。
「「んぁああひぃ〜!!?」」
そのまま二人は五階へと続く階段に向かって走り続ける。
後ろで聞こえた、人間二人が床に墜落した音など気にも止めず五階への階段をかけ上がる。
――そして五階フロアへ辿り着いた。そこで二人を待ち構えていたのはNo.3だった。
No.3はおろしていた腰を上げて付着していた埃を払う。
「来たか……。予想通りの早さと予想通りの人数だな」
先の戦いで相手のことを知っている二人は今度は立ち止まった。
「あれ……」
「ええ、蓮華の記憶にも新しいわ」
少しの間、沈黙が三人の周りを支配する。
「てめェらの"目的"はこの上だ。それには先ず俺を倒さなきゃならんが」
そして、その沈黙を早々に破ったのはNo.3だった。
「雪花。ここはこの蓮華が引き受けるわ」
「いんや。そのセリフを言うのは私だよ? 私が足止めするよ」
対する二人はどちらが水都を救出するかで意見を交わす。
No.3の能力への突破口が見つかっていない現状では、片方が足止めに徹するのが
「悪いが二人ともここに残ってもらうぞ。なんせ、この上はもう
その言葉に二人は眉を顰めた。
「伊予島杏がいるでしょ?」
「伊予島杏なら帰った」
「……なっ」
No.3の一言に二人は驚く。
「一足先に四国へな。だからここにはいない」
「信じられないわね」
「信じようが信じまいがどうでもいいがな。結局てめェらは上に行くことはできねェんだからよ」
そう言いながらNo.3は、後ろの壁際に置いてあった大きな袋を持ってくると、前へ放り投げた。
床に投げ出された袋の口から、大量の砂が吐き出される。
「……砂?」
どうやら大きな袋の正体は砂袋だったようだ。
「小癪な真似を……」
蓮華も雪花も、その砂を何に使うかを察していた。
「"周到"、と。せめてそう言って欲しいもんだな。作戦にはあらゆるアクシデントを想定して動くものだ」
No.3は神官長が本部に戻らず、前祝いをしようと決めた時からこうなる事は想定していた。
だから神官に武器を持たせていたし、自身の元へ敵が来ることを見据えて武器になる砂を常備していた。
……そして、そこまで見据えているのならば易々と水都へ辿り着かせてはくれないだろう。
雪花と蓮華は互いに頷いて、二人で戦うことに決めた。
「クハハッ。そうだ、それでいい」
その意思を読んだかのようにNo.3は不敵な笑みを浮かべる。
そしてさらに、ひとつの砂時計を床に置いた。
「まぁだが、占めて三分……と言ったところか」
「……? どういう意味さ」
「てめェらがこの俺と戦うことが出来るのはせいぜい三分だと言ったんだ。……それ以上、てめェらに費やす時間なんて無ェ」
明らかな挑発だった。No.3は、雪花と蓮華を三分間だけ遊び倒すと豪語している。
――雪花と蓮華の命など、No.3の人生という時間の中で三分間の価値しかない、と。
「三分? そんなカップラーメンじゃあるまいし」
「カラータイマーのつもりかしら? なら赤で鳴る前に倒してあげるわ」
もちろん、二人とて長い時間戦ってなどいられない。
「さあ、こい」
No.3が砂時計をひっくり返したのを合図に、戦いの火蓋が切られた。
――先制として雪花が槍を、蓮華が剣を真っ直ぐにしてNo.3の顔を目掛けて刺突攻撃を行う。
それらは当たる直前で、No.3自身が砂になって回避する。
「そこ、かっ」
背後に移動されたことに瞬時に反応して、軸足を強く踏み込んでクイックターンをきめる。そしてその勢いを乗せて槍で大きく真横に薙ぎ払う。
「フン……」
先端がNo.3に触れると同時に、身体から砂が舞い上がる。
「はぁあ!」
続いて蓮華も相手を袈裟斬りにするが、またもや砂が飛び散っただけでNo.3は涼しい顔をしたままだった。
「クハハ。いいか、てめェら反逆者にひとつだけ言っておくがな……」
No.3が何かを話しているが、おかまいなしに刺突攻撃を続ける。
「……どう足掻こうとも、俺には絶対に――」
「はあああ‼︎」
右から左へ。上から下へ。様々な角度から斬り掛かっていく。
だが効果はない。
「あのな、こんな蚊みたいな攻撃をいくら続けようと俺には――」
「
蓮華は距離を取ると、その後方にいた雪花が槍を放り投げる。
「何度攻撃しても同じさ」
一直線に飛んでいき、No.3の腹部を貫通……というより素通りしただけに終わる。
「てめェらがどれほど必死になろうとも」
蓮華は剣を鞘にゆっくりと閉まっていく。
「俺には絶対に……」
「
喋っている最中、口元に蓮華の斬撃が襲う。
「勝ぺっ――」
変わらずNo.3にダメージはないが、半端なタイミングで言葉を遮られる結果となった。
「かぺ? ……というか、あなた何が言いたいのよ、さっきから」
「意味不明〜」
「…………ッ!!!」
話を全く聞いていなかった二人の反応にNo.3が怒りに震え、額の血管がぶち切れそうなほど浮き出た。
雪花と蓮華はずっとダメージを与えられる方法がないか探っていた。
このままではあの時と同じ。こちらのどんな攻撃も砂になることでダメージを無効にして埒があかない。
逆に相手からの攻撃は容赦無く自分たちを傷付ける。
「"勇者の野菜"って、とことん理不尽な能力だにゃぁ……」
「遊びはもうこれくらいでいいだろう」
「遊び? 私たちは本気だったけど?」
No.3が攻撃の姿勢をとる。
右手を砂に変え、二人に向かって大きく振りかぶる。
「
繰り出される砂の刃に、雪花は左へ蓮華は右へ跳んで回避する。
「よく避けたな。当たりゃ痛ェじゃすまねェところさ。……いや、身をもって知ってたな。そういやぁよ」
床には鋭利な刃物で傷付けたかのような跡ができていた。
「雪花!」
「おっけー!」
蓮華の合図に雪花は槍を突き出したままNo.3へ走る。
「学習できんのか……」
呆れながら視線だけ蓮華に移す。
すると、蓮華はNo.3とは別の方向へ走っていた。
「……! てめッ」
すぐにその意図に気付くと、全身を砂に変えて雪花を無視して
「くっ。はやいわね」
「言った筈だ。この上にいるのは"囚われのお姫様"だけ。行かせる気なんざ、さらさらねェってよ!」
小さな砂礫を発射して蓮華を牽制する。そして蹴りを放つ。
蓮華はその蹴りを剣の刃の部分でガードする。しかし、勢いは殺せず後退を余儀なくされた。
「
追撃を仕掛ける前に雪花から槍が飛んできたのでまた自身を砂に変えて回避する。
(砂になる能力、どうやったらダメージが……)
身体のどこかに"核"があるのか。時間制限が存在するのか。カウンターなら命中するのか。
ひとつひとつ可能性を潰していくにしても時間がかかりすぎる。
雪花は自分の能力を発動させるために、相手のバイザーを破壊しようと試みるが、
「三
「その攻撃は……っ」
蓮華は腰を落とし、頭を下げて回避する。
先の戦いでバーテックスをミイラにした攻撃だ。もしまともに受けてしまえばただではすまない。
「必死だな。ミイラになるのは嫌か?」
「当たり前じゃない」
「全身の水分を奪われ干からびるのも、それはそれで砂漠の情緒があって良いもんだがなァ」
No.3は右腕を大きく回し始める。すると、辺りに散らばっていた砂が吹き荒れ、竜巻を作る。
「
「「――うぁああああああ!!!」」
フロア全体に及ぶ程の砂塵の竜巻が逃げ場の無い二人を容赦なく襲う。
風圧とその中に紛れている砂礫が、服と皮膚を削っていく。
「三分を過ぎた。もうてめェらは退場しろ」
No.3は砂時計を見ると、すでに全ての砂が落ち切っていた。
「無駄な時間だった。暇潰しにもなりゃしなかったな」
全身を砂に変えて、その状態のまま二人へ攻撃を仕掛けに砂嵐に入った。
「きゃあああああああああ!!!?」「ぐぅああああああ!!!」
二人は砂嵐に翻弄され、自由に身体を動かせない。対するNo.3は二人に接近すると腕や足の部分だけ実体化し、雪花を殴り蓮華を蹴る。
「予想外の弱さ……だったな」
数秒間、二人は痛め付けられた後、砂嵐は止み力無く落下する。
「う…………くっ……」
「これが現実だ。てめェらがいくら仲間を助けようと奮闘したとて俺の足元にも及ばん」
そう言いながら足元に転がる蓮華を腹部を蹴り付ける。
「蓮華は……水都を……助ける」
蹴られながらでも蓮華は己の意思を曲げない。
「私たちは……その為に来た……から……」
いや、蓮華だけではなく雪花もである。
「くだらん。俺が最も軽蔑するタイプの人間を教えてやろうか? ……友達やら家族やらの"小さな幸せ"ってやつを後生大事にしている偽善者さ」
蓮華を蹴り飛ばし、そのすぐ後に雪花も蹴り飛ばす。
「友情やら愛情で世界を救えるのなら、実際にこんな荒廃なんざしちゃいねェ」
壁に叩きつけられ、糸の切れた人形のように壁に寄り掛かるように座る。
「"愛"が無くても地球はまわるぜ。クハハ」
床に散らばった砂をかき集めて鋭利な塊を二つ作る。
「笑っちまうぜ。藤森水都も、お前らも、"誰かを救える気分"でいやがる。……実際は無駄に死ぬだけなのになァ」
「どういうこ――ッぁああ‼︎」
その二つの塊をそれぞれに向かって投げる。
一つは蓮華の右肩に。もう一つは雪花の左の腿に刺さる。
「聞くが……。たかが小娘ひとりを生け贄にして本当に世界が救えると思ってるのか?」
その質問の意図を蓮華と雪花は悟った。
「奉火祭は本来、大社側で決めた"六人の巫女"を供物にする手筈だった。それがたまたま"例の件"で藤森水都に白羽の矢が立ったってだけだ」
水都が選ばれたのは双子座が守ったからだ。たったそれだけの理由だ。
しかし、それで本当に奉火祭の生け贄として相応しいのかは
もしかすると、水都よりも六人の方が適しているかもしれない。
――ではなぜ、水都にこだわるのか。
「藤森水都を奉火祭の生け贄に使うことの
奉火祭の生け贄という名目の処刑。
ただ単純に大社にとって目障りだった彼女が、たまたまバーテックスと一悶着あったから……。
ただ、それだけ。
「だが奉火祭の為だってのも事実ではある。一人の命で世界が救えたなら上々。もし駄目だったとしても後から"六人の巫女"を
「何よそれ……そんな無意味なこと、今すぐやめなさいよ」
「アァ?」
蓮華は怒りに震えながらゆっくりと立ち上がる。
「水都を犠牲にしたって……その六人の子を犠牲にしたって……バーテックス側が聞き分けてくれる確証なんてないわっ!」
「その通りさ」
No.3の即答に青筋が立つ。
蓮華は話している最中の敵へ近付いていく。
「はっきり言ってやるよ。たった数人の小娘どもを供物にしたことで聞き分けてくれるような甘さをあのバケモノが持ってたんなら、そもそも人類はここまで追い詰められてねェ」
「ふざけるのも大概にしなさいっ」
蓮華はNo.3の胸ぐらに掴みかかった。
「人の命を何だと思っているのよ‼︎ 水都もっその子たちもっ、あなたたちのおもちゃじゃないわ‼︎」
蓮華の言葉をNo.3は冷めた目で見ていた。そしてだんだん煩わしく感じてきた。
「……だからこんな無意味なことをっ、今すぐやめ――ッ⁉︎」
その瞬間、蓮華の周りの空間が止まった……ように感じた。
何故か、身体の感覚が突如として無くなったのだ。
……いや、正しくは"痛覚"のみを残して。
「"やめろ"、だと?」
視線を下に向けると、蓮華の身体を銃剣の刃が貫いていた。
今までどこに隠し持っていたのか、No.3の銃剣だ。
「てめェら、この俺を誰だと思ってやがる」
「蓮――⁉︎」
――ドンドンッ‼︎
「……がッ、がはッ……!」
蓮華を貫いた状態で後方にいる雪花を、銃の方で撃ち抜いた。
「てめェらレベルの、口先だけの勇者なんざいくらでもいるぜ」
雪花は壁にもたれたまま頭を垂れて動かなくなる。
蓮華もまた項垂れたまま動かない。
「――あの
ONE PIECEでMr.0が言っていた「てめェの様な口先だけのルーキーなんざ……」のセリフは、海賊なら如何なる手を使ってでも目的を成し遂げろ、甘ェんだよ。みたいなニュアンスでしたね。
今回のNo.3のセリフも上記のような意味で、勇者は世界を救うのが目的だろ。なのに、友達や家族をひとりも犠牲にしないとか、リスクがあるから拒否するとか、そんな生半可な覚悟とやり方じゃあ何も守れねぇよ、もっと失うぞ。みたいな意味です。
次回 生存率0パーセント