奉火祭の供物として選ばれたのは、はじめは"巫女"と呼ばれる六人の少女。その代わりとして選ばれたのが水都。……さあどうする?
罪無き六人の命か、先の見えねェたった一人の犯罪者の命か。救えてひとつ。
いずれも可能性は低いがな。
ギャンブルは……好きかね?
前回のあらすじ
五階に辿り着いた雪花と蓮華。あと少しで水都の元へ行けるのだがそこにNo.3が立ちはだかる。彼女の砂になる能力の前に二人はダメージを与えられず為す術なく倒れてしまう。
――痛い……。
――身体が……痛い。
胴体を銃剣で貫かれた痛み以外感じないほどに。
狭まっていく視界の中にはこちらを嘲笑うNo.3の顔があった。
「……くだらない正義感でこの俺に近付いて。とんだ馬鹿な目に遭ったな」
視覚情報が失われつつも、聴覚ははっきりしているようだ。
目の前の敵の声がよく聞こえる。
「他人への陳腐な想いが、その身を滅ぼす。……てめェも
その時、蓮華の左手が銃剣を掴んだ。
「……? なんだ、まだ息があったのか」
浅い呼吸の中、No.3を睨む。
「終われない……でしょ。水都を助ける……までは」
"助ける"。その言葉にNo.3は呆れた表情をみせた。
「この期に及んで、まだそんなことを口にするのか」
「絶対に……助けて……みせる。あなたを、倒して……」
状況を理解していない蓮華の言葉に半ば苛立ちをおぼえる。
「俺に傷ひとつ付けられない癖して何をほざきやがる」
自分を自然物である砂へ変えることができる、無敵といえるような能力。このまま続けたとしてもダメージを与えることなくただやられるだけ。
――すると、蓮華の背後から走ってきた雪花が槍を振り下ろす。
槍の穂先は銃剣を持っていたNo.3の腕を斬り裂いた。
「……フン」
No.3の腕は真っ二つになったが、辺りに散ったのは血ではなく砂。
「そっちもまだ動けたのか。……銃弾で撃ち抜いたはずだがな」
No.3は特に反撃しなかった。
雪花は蓮華を抱えて距離を取る。
「ごめん……。ちょっと意識飛んでた」
「いえ……助かったわ」
数秒程だったはずだが、戦いの最中で意識を失うことは死を覚悟する程に致命的である。
雪花は蓮華を壁際に座らせ、改めてNo.3に向き直る。
「折角生きてたんだ。命は大切にしろよ……と言っても、もう遅ェか」
雪花は槍の穂先を床に突き刺してふらつく身体を支える。撃ち抜かれた左下腹部と右の脇腹からの出血は止まらない。
(せめて……何か、弱点が分かれば……っ)
たとえ勝てなくても、突破口を見出すことができれば……。
そんな僅かな想いを胸に、雪花は槍を構えNo.3へ走り出す。
もうまもなく、自分たちの元へ追い付いてくる"彼女"に、勝機を託すために――。
――その頃、姫路城一階では。
「ギィィヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
神官長が泣き叫びながら、階段を駆け上がっていた。
地階にて高嶋友奈と戦い、その悍ましい姿を目にして乱心状態だ。
「――ぅぃてッ!」
すると、足元に置いてあった斧に躓き転んでしまう。
「ほげっ! どぅばっ! ぐえっ⁉︎」
勢いよく床を転げ回る。
「痛……てェーな、オイ! なんで、こんなところに無造作に斧置いてんだよ‼︎」
その斧は元々
ドクターが能力の邪魔になると判断して戦いが始まって早々に投げ捨てさせたものだ。
「ドクター? 戦いが終わって寝てんのか……」
壁際に倒れているドクターを見て、戦闘が終わり寝ていると勘違いしている。
この場にいないパシフィスタも、歌野たちを排除するために上へ行ったのだと勝手に思っているようだ。
「おい! No.5! No.3! 聞こえるか⁉︎ 現状は⁉︎」
ポケットからスマートフォンを取り出して怒り混じりに話し始める。
「お前らのところへ行った侵入者どもはちゃんと始末したんだろうなぁ⁉︎ 終わったんなら戻ってこい‼︎ こっちにいるバケモノを駆除しろ‼︎」
フロア全体に神官長の大声が響き渡る。
しかし、相手からは何の返答もない。
「オイ‼︎ 聞いてんのかァ⁉︎ もしもしィ!!!? ――って、えェエエ〜〜〜!!!?」
その時、神官長は自分が今、持っているスマートフォンの色に気が付いた。
「これ……"
急いで反対のポケットにあるスマートフォンを取り出す。それは普段使っている自分のものと同じ色。
そして拡声器モードにして話しかける。
「あ、あー。あー。マイクテスト……」
『あ、あー。あー。マイクテスト』
姫路城の各フロアや城の周りのスピーカーから神官長の声がする。それは当然、一階にいる彼自身にも聞こえた。
「ま、間違いねェ。…………こ……こっちがいつものスマートフォンだ……」
そこから導き出させる答えは――。
「や、やベェ、なんてこった……。『バスターコール』をかけちまったああ〜〜〜ッ!!!」
『――緊急事態発生。緊急事態発生。バスターコールが発令されました。場所は大社兵庫支部、姫路城。繰り返します…………』
喧しいサイレンの音が本部支部を問わず鳴り響く。
バスターコールの発令という一大事に神官たちは慌てふためき、各々の対応をはかる。
――北海道支部では、No.4が煩わしそうに鳴り響く銀色のスマートフォンを眺めていた。
「行くんですか? 兵庫に」
No.29に聞かれ、首を横に振る。
「こっちが行ってる頃には終わってる。……あの位置なら本部の人間が対処した方が手っ取り早いしな」
「そう……ですね」
他に何かを言いたそうにしていたがNo.29は口をつぐんだ。
何を言いたかったのかはNo.4も分かっている。
(本部ってぇことは"三大将"のお出ましかァ? ……折角の獲物が……残念だよ)
――元京都支部のメンバーがいる大阪の梅田地下街では、No.30が耳を塞いでいるNo.7に必死に呼びかけていた。
「ウメ……じゃなくてNo.7! 行かないんですかっ?」
「あー。聞こえなーい! 目覚ましアラームがうるさくて聞ーこーえーなーいー!」
「バスターコールですよー!」
「聞こえないったら聞こえない〜〜」
「……そうですかっ。ばーかばーか。めちゃくそ音痴ぃ」
「なんだとぉ⁉︎」
「嘘つき! 聞こえてるじゃないですかあ!」
わざとらしく振る舞う。地下に響き渡る騒音に神官たちも一般の人たちも迷惑に思っている。
「大阪から姫路城だと割と近いです。しかも能力者であるNo.7の機動力なら1時間もあれば……」
「いいの。本部から出動するんならその方が戦力として充分でしょ。バスターコールの理由が理由ならね」
事の大きさを理解すれば、どんな人間が出動するかなど目に見えて分かる。
(蓮華さん……)
耳を塞いでいた手を離して、真剣な表情になったNo.7はため息を吐いた……。
――四国にて。
バスターコールは、四勇が所持しているスマートフォンから警報として発令されている。
「姫路城……か」
香川の丸亀城にいた若葉はすぐに他のメンバーに連絡を取る。
『タマだ! 連絡してきた内容はなんとなくわかるぞー』
『さっきから鳴ってる……警報のこと……でしょう?』
愛媛県にいる土居球子と高知県にいる郡千景がすぐに応じる。
「……ん? 球子。杏はどうした?」
普段ならば球子の近くにいて応答してくれるのだが、今回は杏の声が聞こえなかった。
『んー? あんずは
「そうなのか。ならば私が本部に行き杏と合流しよう」
杏が御役目で本部と連携することは
そしておそらく今回のバスターコールもその件に関係しているに違いない。
であれば若葉も本部、または姫路城に向かい杏と連携をとるのが妥当だろう。
『いや、警報が鳴ってすぐに連絡が来たけど、あんずは一人で良いって言ってたぞー?』
「なに? バスターコールがかかるような案件だぞ?」
杏の思惑は読み取れないが、緊急事態であることに変わりはない。加勢は一人でも多い方が良いはずだ。
『私も……行かなくて良いと思う、わ。伊予島さんは御役目の一環で行っているのでしょう? ……それに、これは大社本部の管轄だから』
「千景……」
確かに千景の言うとおり、バスターコールの対応を行うのは大社の神官やその指示を受ける防人たちの仕事だ。
若葉たち"四勇"は大社本部と協定関係にあるから、その情報共有をされているだけだ。正式に出動を依頼された訳ではない。
「……分かった。だが、一応連絡は取っておこう」
通信は終了し、若葉は杏個人への連絡を試みる。
――そして、岡山にある大社本部では。
バスターコールの発令を受け取った銀色のスマートフォンがけたたましく鳴り、本部内は慌しくなる。
場所は隣の県の姫路城。そしてそれは大社が計画していた奉火祭に関して何らかのアクシデントがあったということだ。
そして防人三大将が出撃の準備に取り掛かる。
「ぴえええ〜〜〜‼︎ いやあああだあああ‼︎」
「雀さん、うるさいですわよ。緊急事態です、わたくしたちが出張らずして誰がこの事態を収拾できるというのですかっ」
「でも死にたくないいいい〜〜〜‼︎」
加賀城雀は相変わらず戦地に赴くのを嫌がる。
「あなたの能力があれば、死ぬなんてことは絶対にありえませんわ……。あっ、しずくさん? お願いがありますの」
「……何?」
「一足先に向かってくれます?」
現在、防人のリーダーとして任されている弥勒夕海子は山伏しずくに先んじて姫路城に向かうよう指示する。
「準備はもう少しかかりますわ。その間に姫路城にて
「…………分かった」
こくっと静かに頷きしずくは防人の装束を身を纏い外に出る。
「さあ、雀さん。わたくしたちもすぐに準備しますわよ。本部勤務の防人と神官のみなさん総掛かりですわっ」
「う、う〜〜〜」
渋々雀は従い、夕海子と共に準備する。
また、武装する神官たち。本部に駐機している"空飛ぶ木船"に武器を持ち込み、砲台の整備や砲弾のチェックを行う。
「でも、弥勒さん。しずくちゃんだけ先に行かせてよかったの?」
しずくの心配をする雀に対して夕海子は笑みを浮かべて首を横に振る。
「しずくさんなら……いえ、
「う〜ん。……た、確かにしずくちゃんは強いもんね」
「ええ、純粋な強さならわたくしたち"三大将"で最強ですわ」
それに加えて、しずくの能力ならばここにいる誰よりも早く姫路城に到着できる。
山伏しずくの能力は……『最速最強』なのだから――。
――場所は戻り、姫路城五階。
兵庫支部である姫路城もまた、城内にサイレンが響いている。
「まさかバスターコールをかけるとはな」
No.3は半ば呆れながら呟く。
「どうやら……万が一の可能性も潰えたようだな。……てめェらが助かる確率は、完全に"ゼロ"だ」
壁にもたれ掛かっている蓮華に向けて……。そして、足元にうつ伏せで転がっている雪花に向けて、そう告げた――。
何をやっとるんじゃ、あの馬鹿は……。
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