彼女たちの戦いはもう一悶着ありそうです。ですのでまだまだ奉火祭編は終わりません。頑張れみんな!
前回のあらすじ
神官長のミスにより、姫路城がバスターコールの対象となってしまった。まもなく、大社本部から更なる強者たちが城ごと歌野たちを殲滅にやってくる。
姫路城大天守から外に飛び出した人物がいた。
「やべェやべェ……。この歴史ある姫路城が、遺産にも登録されてるってのに……」
バスターコールを発動した張本人はこの先に起こる事態に頭を悩ませている。
一度発動したが最後、それがどんな施設だろうと徹底的に破壊する。
施設内にいる人たちはもちろん、その周辺の区域に人が住んでいようとお構いなしに攻撃を行う。
「お、俺……もしかして失脚かあ⁉︎」
神官長自身はいのいちばんに安全地帯を目指して走り続ける。
人間の足で攻撃範囲外まで逃げ切れるかは分からないが。
「ん……? いや待て。
だが何かを思いついたのか、すぐに足を止めて不敵な笑みを浮かべた。
「……良いっ! 良いじゃねーかっ。所詮、侵入者共は助からねェんだからよ。こっちの方がより確実ってモンだぜ!」
周りに人がいないのを良いことに大きい独り言を吐く。
「奉火祭という偉大な御役目を阻止しようとするクソ勇者共を皆殺しにする為だ。……未だに残ってる中の奴らはお気の毒様だがな」
神官長は姫路城に残っている防人や兵庫支部の神官たちを早くも見捨てる道を選んだ。
「第一、たった数人程度の小娘相手に遅れを取るような
姫路城地階で高嶋友奈と戦い、逃げてしまった自分のことなど一切省みない。
「この世界の未来がかかってるんだ‼︎ それを邪魔立てするバカ共をより確実に葬り去る為ならばッ! たとえこちら側が何人死のうとも、栄えある未来の為の致し方ねェ犠牲といえる!」
奉火祭の要といえる水都自身がまだ姫路城にいることも忘れて。
「そうだ、忘れちゃならねェ。……大社は今や世界そのもの。1000人の命を救う為に100人の死が必要ならば、我々は迷わずその場で100人殺してみせる。……真の正義にゃ非情さも必要なのさ」
高らかに吠える。
「何より俺の出世もかかってるしなァ!!!」
……それが、姫路城にいる者たちに聞こえているとも知らずに。
「さて、本部に今の状況を聞こうか…………って、あれ?」
そこでようやく、神官長は自身のスマートフォンが拡声器モードのままだということに気付いた。
「――えええ〜〜!!!? は、入ったまんまじゃねーかあああ‼︎」
誤ってバスターコールを発動してしまい、冷静ではなかったうえにサイレンの音により完全にパニック状態に陥っていた。
「……というわけで、俺の名前は『白鳥歌野』だ‼︎ 以上!!!」
そして放送を終える。
咄嗟に歌野の名前を出したものの、苦し紛れの誤魔化しが通じる訳もなく……。
「……馬鹿かあいつは」
No.3は呆れながらその放送を聞いていた。
(……ち、きしょ……)
――雪花は倒れているままだが意識はあった。
必死にNo.3の弱点を探る為奮闘したが手掛かりを見つけられない。
なにか、なにか無いのかと、しきりに考える。
ここで戦っているときだけではなく、初めて自分たちの前に現れ戦ったとき。
No.3とパシフィスタと伊予島杏と……。
(……? 伊予島杏と……戦った……?)
その時、雪花の頭にある仮説が浮かんだ。
(……そういえばあの時、なんで伊予島杏の注意に、素直に従ったの?)
No.3が杏の能力を勝手に話したとき、杏自身は嫌がりクロスボウを向けて注意した。No.3は素直に応じて口を閉じた。
攻撃を全て受け流せてダメージを無効にできるなら、杏の牽制は無意味だ。
(第一、伊予島杏はなんで効かないと分かってたのにクロスボウを向けたの……?)
攻撃しても無意味な能力だったのなら、クロスボウを用いても脅しの道具にすらならない。
――単純に四勇である伊予島杏の顔を立てた?
まだ気になるところはある。
No.3と杏は離れて戦っていた。それはお互いの能力が干渉することを避けるためだとその時は気にも止めていなかった。
しかし改めて考えると、そんな連携姿勢が取れるような性格とは思えなかった。
そして杏が雪を降らせたとき、No.3はこう言っていた。
『――オイオイ……勘弁してくれよ。今日は降水確率0%の晴れだったんだぜ? これじゃあお天気キャスターが泣くじゃねェか』
そして砂嵐を起こした時……。
『――晴れ模様だったからな。……いい砂の渇きだ』
――No.3は明らかに天気を気にしていた。それは晴れではないと自分に不都合が生じるからだ。
では、何が不都合なのか……。
雪花の思考は"その仮説"を確定付ける方へと働く。
ここまで思考が働くのは、頭に上っていた血が外へ出たからか。何としてでも弱点を暴きたいという強い想いゆえか。
そしてその仮説を……今ここで
「はぁああっ‼︎」
槍を握りしめ、起き上がり様に振り上げる。そしてその遠心力を利用してその場で一回転して、上方向へ放り投げた。
「……何の真似だ」
No.3は目で槍の行方を追った。槍は天井に勢いよく刺さる。
「天井を崩してお姫様ごと落とすつもりか?」
だが、槍は数秒間突き刺さったのち、自重で落下するだけで天井には亀裂しか入らない。
次の瞬間、雪花は落下してきた槍を掴むとNo.3に振りかぶる。
「わかんねェ奴だな。何度
刃はNo.3の身体を斜めに斬る。
すると斬られた部分が
「――ぐあっ⁉︎」
混乱する中、雪花の拳が顔を正確に捉え殴り飛ばされる――。
「やっっかましいわいッッ‼︎」
……その光景を蓮華は後方から見ていた。
「攻撃が……あたった……⁉︎」
殴り飛ばされたNo.3は仰向けで倒れている。唇を切って血が流れていた。
「ク……ハハ……」
「はあ……はあ……はあ……ようやく一発……」
自分の身に何が起きたのか。それは天井から滴り落ちる"もの"を見れば一目瞭然だった。
「ずっと考えてた。弱点について」
雪花は槍を天井から落ちてくる"もの"に浴びせた。そして"それ"は槍を伝い雪花の手を
「……水っ」
蓮華は目を見開いて言葉にする。
天井から落ちてきたのは何の変哲もないただの水。
しかし、今はそれがNo.3の能力の突破口であった。
「……フン。
天井にある蛇口のような形状をしたスプリンクラーを見て呟く。
「そう。この姫路城は……っていうか城は大抵木造なんだよねー。ってことは消火設備を完備させとく必要がある。重要文化財ならなおさら」
雪花が破壊したのは天井内に張り巡らされているスプリンクラーの配管。それにより配管内に充填されていた水が噴き出したのだ。
そうして水を一緒に落ちてきた槍に浴びせ、その状態でNo.3を斬ったのだ。
……砂になれるNo.3の身体を。
「あの時の戦いが教えてくれた。……あなたは、水に濡れたら砂になれなくなるっ!」
伊予島杏は雪や氷の能力を使う。その彼女の近くで戦うことで自身に
また、伊予島杏は冷気を放出する攻撃もしていた。余計に嫌がったことだろう。
「雪や氷は体温に触れれば溶けて水になる。だからあなたは伊予島杏の戦いを気にしてたっ! だから天気を気にしてたっ! ……あなたは水が怖いからッ!!」
再度槍を落ち続ける水に濡れさせ、その先端を向ける。
「これでようやく攻撃が出来るッ! こっからがケンカだにゃぁッ‼︎」
明らかに満身創痍であるはずだが、今の雪花は一縷の希望を掴んだゆえに芽生えた気力と根性で立っていた。
そしてそれをNo.3は滑稽に思う。
「随分と城に詳しいんだな……」
「この程度……別に詳しい範疇には入らないけどね」
城内の見学をするにしても、歴史的な武器や道具の展示。城周りのジオラマなどに目を取られ天井など見向きもしない。
そのあたりの着眼点の相違は城好きな雪花だからといえるのかもしれない。
「クッハハハハ‼︎ ……まァ確かによく見抜いたもんだ。あの死に際の状況でな……。だがっ、そんなことじゃあ覆せねェほどの"格"の差が俺とてめェにはある」
何事も無かったかのように起き上がり右手を砂に変えて刃を形成する。
「それを今から教えてやるよ」
砂の刃を雪花に向けて繰り出す。
「
「
同じタイミングで槍を放り投げる。
濡れた槍は砂の刃を散らしてNo.3へ一直線に襲い掛かる。
「そんなもの、避ければ意味は無く……」
身体を少しばかり右にずらして槍を避ける。そして通り過ぎようとする槍の、柄の部分を手で掴んだ。
「濡れていようがいまいが、俺の掌はあらゆる水分を吸収できる」
掌を槍に這わせたあと、雪花に向けて投げ返す。
「……ッ! ご丁寧に……っ」
「結局その洞察は徒労に終わる……」
拾い上げた槍は綺麗に拭き取られたかのように水滴ひとつない。
「広大な砂漠に水一滴落ちたとて、それが"オアシス"になる訳でもない……」
雪花はまた槍を水に浴びせる。さらに、槍を持っていない方の左手に水を溜めた。
「そっっれっ!」
No.3の元へ近付き彼女の方へ水を投げかけた。
「当然の狙いだろう……。
槍だけで無く、相手の身体に水を浴びせることで更に攻撃を通りやすくする。しかしその狙いは見抜かれていた。
「ぐわァ!」
砂嵐に巻き込まれて雪花は吹き飛ばされた。
「く……ぅ」
ゆっくりと立ち上がると、また水の元へ歩く。
「クハハハハハ‼︎ 必死じゃねェかッ! 結局その水が無けりゃ何も出来ねェってわけだっ! それじゃ何も変わらん」
天井から落ちる水の勢いが弱くなってきた。もうすぐ配管内の水も抜け切ってしまうだろう。
(その前に……決めるっ)
雪花は真下に立ち、水を頭から被った。
「クハハッ。それで体当たりでもする気か?」
全身びしょ濡れになりながら雪花は走り出す。
「無駄だ、
またもや吹き荒れる砂嵐。
雪花はその攻撃を、槍を深々と床に突き刺すことで耐える作戦に出た。
「ホウ……。全身濡れていることでちったぁ耐えられるようになったか」
雪花は声ひとつあげず、風圧や砂礫が身体を傷付けるのを必死で耐えている。……そして砂嵐が止んだ。
「クハハハハハ‼︎ 耐え切ったことは褒めてやる……が、全身濡れた意味は無くなった。……無駄な足掻き、ご苦労だったな」
そう言いながら、雪花に近付く。雪花は力を込めて床に深く刺さっていた槍を引き抜いた。
「これで何度目だ……。くたばれッ!」
トドメを差すために手を砂に変える。
しかし同じタイミングで、雪花が両足に力を込めて槍を突き出し向かってきた。
「クハッ! 冷静さを欠いたなッ! 濡れてねェ槍で何が――」
――ピシャッ。
……その時、雪花は
(なにっ……⁉︎)
下半身から上半身へと力を流していくように……。そしてゴール地点である両腕から外へ解放させる。
「――私の全力ッッ! 食らえぇぇーーッッ!!!」
(しまっ――)
"水に濡れた槍の穂先"をNo.3の胴体のど真ん中にぶち当てた――。
「
まともに攻撃をもらったNo.3は、一気に後方の壁まで吹っ飛ばされた。
そして背中から壁に直撃すると同時に、そこから砂が飛び散った……。
・No.3(女だと信じたい):自身を自然物である砂に変えて操ることができる『スナスナの野菜』の砂人間。
周りの砂を操ることで砂嵐を発生させられる。また、水分を奪って干涸びさせられる。身体が砂になれるので相手からの物理的な攻撃を受け流すことができる。
しかし自然物なので自然の法則には従ってしまう。
外的要因により"砂"という条件を失ってしまうと能力の影響が及ばなくなる。
能力者であるNo.3は過去、芽吹と夏凛の才能の前に、自分の限界を思い知らされ上昇志向を失ってしまった。
……ちなみにどうでもいいが小学生の頃のあだ名は"くろちゃん"。
次回 ヒュドラルギュルム