白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。
なんで弱点が露見する危険性がありながらNo.3と出撃したんですか、杏さん……。


前回のあらすじ
水に濡れた攻撃ならば砂の身体に効く……。No.3の弱点を遂に突き止めた雪花。満身創痍の中、蓮華と共にこの状況を打破することができるのか。


第九十一話 ヒュドラルギュルム

 

 雪花の渾身の一撃が命中しNo.3は後方の壁まで吹っ飛び、激突した。

 

「……っ砂⁉︎」

 

 その瞬間、No.3の背中から砂が現れるのを目にした。

 

「……やってくれたな」

 

 No.3はこちらを睨みながら起き上がる。

 雪花の槍が命中した箇所以外は砂に変えることが出来るので、彼女は壁に直撃する瞬間、背中を砂に変えてクッションの代わりにしたのだ。

 

「くっ……はぁ……はぁ……」

 

 両腕が、両足が痙攣している。先の一撃に雪花は戦える全ての力を出し切っていた。

 

(……もっとはやく、弱点に気付いていれば……)

 

 震える足を床を摺るように歩き出す。

 

「あと少しなんだ……根性、見せろよ私……」

 

 歯を食いしばり、落ち続ける水を求めて歩き続ける。

 

「この俺を怒らせたな……」

 

 No.3は右手を掲げると、それを真下に振り下ろして床に叩きつける。

 すると、周りの床が軋みをあげて古びれていった。

 

「なっ……⁉︎ 床がっ、枯れていくっ⁉︎」

 

 よく見ると、木製の床がどんどん枯れてしまっているのだ。

 

「俺の能力を殺した気でいたか? だがそりゃあ、お門違いだ。『スナスナの野菜』の能力の真髄は"乾き"にある‼︎」

 

 この事象を起こしているのはNo.3の右手だ。床に触れているその右手を中心に水分を奪われている。

 

「この右手は全てに"乾き"を与える手だ。底なしになっ」

 

 この場にいるだけで肌が乾燥してしまう。……いやそれだけじゃない。少しだけ痛みも感じる。

 

「この手に伝うもの全てだッ! 土も岩も、木もッ‼︎ 全て……砂に還る‼︎」

 

 そして床だけではなく、壁を通じて天井までその能力の範囲は及ぶ。

 

干涸(ひから)びろ。"浸食輪廻(グラウンド・デス)"ッッ‼︎」

 

 配管から漏れていた少量の水も()くなってしまう。また、その真下にできていた水溜りも完全に乾いている。

 

「そん……な。これじゃあ……」

 

 雪花の表情が絶望に変わる。

 今このフロアにおいて、床も天井も、一切の"水場"を失ってしまったのだ。

 

「雪花っ!」

 

 立ち尽くす雪花の腕を掴んで蓮華はジャンプする。

 そして剣を壁に突き刺してぶら下がる。

 

「おっと……あまりやると、姫路城自体が崩れかねん」

 

 床から手を離す。すると、"乾き"の進行は止まった。

 

「まァ……。バスターコールの集中砲火で焼け落ちる運命なんだがな」

 

 それを見て蓮華と雪花は床に着地する。

 

「はぁ……はぁ……れ、蓮華さん」

「よく頑張ったわね。次はこの蓮華に任せなさい」

 

 肩を軽く叩いて交代の合図を送る。

 雪花はその場に、膝から落ちるように座り込んだ。

 

「あァ? 復活したのか? しつこいやつだ……。だが今更出てきて何になる。この俺の能力でこのフロアのあらゆる水は()()()ッ」

「奪う……?」

 

 その単語に雪花が反応した。

 脳裏に伊予島杏、三ノ輪銀(パシフィスタ)がよぎる。そして目の前の相手を睨む。

 

 ――"体温を奪う"伊予島杏の能力。"触れたものを奪う"三ノ輪銀(パシフィスタ)の能力。そして"水を奪う"No.3の能力。

 

「みんな、奪ってばっかり……」

「そうだ。弱いやつはただ奪われるだけ。それが自然の摂理だ。てめェらの命も、弱いから奪われる」

 

 視線を雪花と蓮華へ。そして天井に向ける。

 

「奉火祭の生贄となる藤森水都も、弱いから運命に抗えず奪われるッ」

 

 今度は人差し指を下に向ける。

 

「人間兵器となった三ノ輪銀もそうさっ。奴は弱いから記憶も自我も奪われたッ! ……弱い奴は何も守れねェ。所詮、強い(奪う)弱い(奪われる)かの二択。()()()()()()

 

 その言葉が雪花の憎悪をより増長させた。防人の在り方、大社の在り方が、"あの頃"から何も変わっていない。

 

「弱いから奪われて……。強いから奪い取って……。それが人間……? ()()()()()()()……? ふざけるな……。人間ならもっと"自由"だ‼︎ 大社(お前ら)が一番人間扱いしてないじゃないかッ‼︎」

 

 怒鳴ったあと、すぐに咳き込む。

 

「クハハ。口だけは動かせるようだが……」

「く……くっそぉ……」

 

 仕留め切れなかった悔しさで頭がおかしくなりそうだ。

 

 ――奪う、奪われるで全てを語るのなら……それはバーテックスと何ら変わらない……。自分たちは"人間であるべき"だ。

 それを、あいつらに叩き込みたいのに……。

 

「てめェらには理解できんか……。砂漠の宝刀(デザート・スパーダ)‼︎」

 

 蓮華が前に立ちはだかり剣でその攻撃を薙ぎ払った。さらに瞬く間にNo.3の間合いを詰める。

 

「速い……っ」

「確かに速いが……」

 

 完全に懐に入られているがNo.3には焦りひとつない……。

 

「水が無い状態で……また串刺しにされ――」

 

 ……次の瞬間までは。

 

「ぐぅぉあ⁉︎」

 

 刺突攻撃が自分の肩を抉ったことに動揺する。二撃目がくる前にすぐさま蓮華から距離を取った。

 

(かぶら)……」

 

 蓮華はゆっくりと剣を鞘に戻す。

 

矢筈(やはず)()り」

「がァああッ⁉︎」

 

 鞘に完全に収まるのと同じタイミングでNo.3の顔に横一文字の斬撃が入り、血が噴き出る。

 

「い……か、ぁあ…………」

 

 その傷は左目の下から右目の下までの長さに及ぶ。

 No.3はすぐに血を拭いとった。

 

「なぜだ……てめェの能力のどこに……」

 

 元京都支部からの報告書により蓮華の能力は、武器の材質をあらゆる金属に変えられることを知っている。

 しかし、それでどうして砂の身体に攻撃できるのかが分からなかった。

 

「あら、この蓮華の能力を知っているのね。誰かが口を滑らせたのかしら」

「……様々な金属に変えられるだけで、俺を斬ることは出来ないはずだ……」

「ええ、そのとおり。普段蓮華はこの"精霊刀(ソウルソリッド)"の材質を扱い慣れた"鉄"してるけど、今は違うわ。別の金属に変えてる」

「別だろうが金属であることに変わりはねェだろッ。一体どこに"水になれる金属"……が…………」

 

 話している途中でNo.3が何かに気付き口を閉じた。それは心当たりがあったからだ。

 彼女の脳裏に"とある金属"が浮かんだからだ。

 

「気付いたようね。……実はあるのよ。あらゆる金属の中で、常温常圧において水のように()()()()()()()がっ!」

 

 そう言いながら蓮華は、自分の武器をNo.3に向ける。……一見、何の変哲もないただの剣を。

 

「原子番号80番。記号はHg。――"水銀"」

 

 今、蓮華の剣は水銀の性質を持っている。先程蓮華が言ったとおり、水銀は金属の中で唯一、常温常圧下で液体なのである。

 蓮華はNo.3の能力の弱点が水であるということから、砂が砂たりえる条件を阻害すれば能力が無効になると考えた。液体で濡らせば砂の性質を保てなくなる、と。

 

「能力の弱点は、必ずしも水である必要はない。雪花が証明した事実を元に蓮華が立てた仮説よ。そして今、それが実証され真実となったっ!」

 

 蓮華は走り斜め下から勢いよく剣を振り上げる。

 ワンテンポ遅れたNo.3は咄嗟に左腕でガード姿勢に入る。

 

「――ちぃっ」

 

 腕を剣で斬り付けられ舌打ちする。

 

「前にあなたは言ったわね。……"敵の能力が分かっていて、尚且つ対策方法が確立されてるというのにやらない奴はいない"と」

 

 追撃を行う前に全身砂になり、素早く蓮華の間合いから離れた。

 

「舐めるな。……言ったはずだぜ。砂の弱点(そんなこと)が分かろうとも俺とてめェらには"格"の差があるってよォ……」

「フッ。こんなに距離を空けて何を……」

 

 その時、No.3が跳び上がり蓮華の上を取った。

 

砂嵐(サーブルス)"重"(ペサード)!!!」

「ぐぅう……ッ」

 

 砂嵐を生み出す力を一旦手に収縮させたあと、真下の蓮華に向けて放つ。

 それは重く、衝撃波を受けているようだった。

 

「まだ……ここまでの力を……」

 

 蓮華が身動きが取れない内に床に降り立つと追撃を行う。

 

「吹き飛べッ。砂嵐(サーブルス)‼︎」

 

 今度は従来どおりの砂嵐を起こして蓮華が囚われているものにぶつける。

 

「ぅぐあああッ⁉︎」

 

 蓮華は後方にいる雪花の元まで吹き飛ばされた。

 

「蓮華さ――うぉああ⁉︎」

 

 そして雪花と衝突して二人して壁まで追いやられた。

 

「……はッ! 雪花ッ‼︎」

 

 すぐに顔を上げるとNo.3が砂の刃を飛ばしてきた。咄嗟に雪花だけ突き飛ばす。

 しかし自分は避けられず砂の刃が横腹を切り裂く。

 

「がはっ……か、は」

 

 咳と共に血も吐く。

 

「クハハ。限界か……。そもそもてめェは最初、腹を突き刺したはずだ。そんな状態で素早く動き続けていればバテもする」

 

 呼吸が荒くなる。No.3の言ったとおり、蓮華に蓄積されたダメージは早々回復出来るものではない。

 だが全ては弱点を暴き、志半ばで体力が尽き、託してくれた雪花に報いるため。

 そして何より、下のフロアのみんなに託された目的を果たすために挑み続ける。

 

「それでも蓮華はああっ!」

 

 右足を力強く踏み込み、剣を握る右手に力を込めて渾身の一撃を放とうと動く。

 

「三日月形砂(バルハン)丘ッ‼︎」

 

 対するNo.3も右手を砂に変え、弧を描くように蓮華に振るう。

 

 

 ――そして二人は交錯する。

 

 

「はぁ……は、はぁ……あ、あぁ……」

「ハァ、ハァ……」

 

 蓮華もNo.3も、背中越しに荒い呼吸を感じている。

 ただ、蓮華の方がより荒い。

 

「れ、蓮華さん……」

 

 雪花は先程の二人の攻撃がどのような結果をもたらしたのか、見届けていた。

 

「ク……ククク……」

「右腕が……」

 

 握力の無くなった右手から剣が床へ落ちた。蓮華の()()()()右手から。

 

クッハッハッハハハ!!!

 

 蓮華は振り返ることもせず、雪花から表情は見えない。……いや、振り返ることが出来ないのか。

 

「そん…………な…………」

 

 涙が滲み、歯を食いしばる雪花。

 

「倒せなかったなァ⁉︎ 負けちまったなァ! ……結局てめェがやったことはなんだ。液体ならこの俺に攻撃できるってことを……証明した()()じゃあねェかッ」

 

 このフロアにNo.3の勝利の笑い声が響く。

 

「いいザマだぜッ。クハハ‼︎ クハハハハハッ!!!」

 

 蓮華は未だ動かず、雪花は床に額をうずめて唸る。

 

「クハハハハハハハハ……ッ」

 

 盛大に笑ったあと、二人に向けて言い放つ。

 

この俺に……()()()()ッ! ()()()だッ!

 

 蓮華の方を向いて足で背中を小突くと、反発することなく膝から崩れ落ちた。

 

「てめェらがどれほど仲間を想おうと……てめェらが"奉火祭"を阻止する為に、どれだけ立ち回ろうともッ! ここで俺に勝てねェのなら、今までのてめェらの努力は全て水の泡だ!」

 

 そこでようやく蓮華が顔だけ動かしてNo.3を見上げた。

 

「所詮、てめェらのような寄せ集めの勇者共が楯突いていい相手じゃ無かったのさっ。……世の中にゃどうにもならねェことなんざ腐るほどある」

 

 一瞬、No.3の表情が曇った。過去にあった苦い思い出が頭を過ったのだろうか。

 

「田舎で……弱小で……何の価値もねェ小娘が()()()()()()()"勇者"になんざなれるはずもねェ……」

 

 両手を広げる。

 バスターコールのサイレンはすでに止まっていた。

 それはつまり、大社が殲滅に向けて準備が整ったことを意味する。

 一度発令されたバスターコールに停止命令など存在しないのだから。

 

「終わりだ……」

 

 

 ――だが。

 

「それでも……」

「あァ?」

 

 蓮華は……蓮華たちは諦めていなかった。

 

「蓮華たちは、何が何でも……何としてでも、水都を助け出してみせる、わ……」

 

 見苦しいほどの虚栄心に、諦めの悪さに、頭に血が昇ってしまうほど苛立つ。

 

「あーすれば助けられる。こーすれば助けられる。……何が何でも、何としてでも助け出す……」

 

 その自信は、下にいる歌野や芽吹、友奈たちが来てくれると信じているからなのか。

 バスターコールの爆撃の混乱の中で、水都をこっそり奪うつもりなのか。

 いずれにせよ、そんな奇跡を自信に繋げているのなら、彼女たちの正気を疑う。

 

「状況を解れよ。見苦しくてかなわねェぜ、てめェらの理想論は」

 

 蓮華の首を掴んで引き寄せる。

 

「"理想"ってのは実力の伴う者のみ口にできる"現実"だ。てめェらがいくら吠えようとも、それはただの戯れ言以下だ」

「見苦しくても……蓮華たちは――ウッ⁉︎」

 

 黙らせるために手に力を入れた。

 

「そもそも、藤森水都が奪われたその時に、てめェらはとっとと諦め、その屍を踏み越えて生を謳歌するべきだった」

 

 わざわざ危険を冒してまで姫路城に乗り込まなくても、生きてさえいればそれでよかった。

 たとえ水都が死んだとしても、それでバーテックスのいない世界になれば、何より喜ぶべきことだ。

 そうすればもうこれ以上、誰かが死ぬこともない……。

 

「『仲間を死なさない。絶対に助ける』なんていう甘っチョロイ戯れ言が、結局はその大事な仲間を皆殺しにさせる結果を招いた」

 

 バスターコールにより歌野たちの全滅は確実。

 

 ……仲間への想いが一体の何の役に立つのか。

 たとえ想いが強かろうと結果に繋げられなければ……無駄。無意味。

 

「奉火祭を止めるだの、仲間を助けるだの、そんなくだらねェ理想論に付き合わされた結果、無駄な犠牲者が増えただけだ」

 

 水都ひとりの犠牲のはずが、歌野、雪花、芽吹、蓮華、そして友奈たちまで失う羽目になってしまった……。

 

「教えてやろうか……。勇者(てめェら)には何も救えない」

 

 抵抗しない蓮華をそのまま空き缶を投げ捨てるように放り投げた。

 

「今度こそ、終わったな……」

 

 

 

 

 

 ――こうして雪花や蓮華の想いは、虚しくもNo.3を越えるには至らず……。

 その先にいる水都には届かなかった……。

 

 

 

 

 

 

 ――されど。

 

 

 

 

 

「――あら? この先がトップフロアだったかしら……?」

 

 

 

 二人の想いは、"彼女"に託された――。

 




 タイトル名は水銀という意味です。……カッコいい名前ですよね。

 蓮華の能力は材質を様々な金属に変えられます。しかし、変えられるのは金属単体です。なので複数の金属を組み合わせた"合金"は無理です。
 また、金属なので"錆"には要注意ですね。


 そして次回は、久しぶりの…………。


次回 越えてゆく!
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