白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。タイトルはいかずちと読んでもかみなりと呼んでも問題ありません。……いかずちの方がカッコいいかな。



前回のあらすじ
歌野は五階に辿り着きNo.3との戦う。たとえ毒に蝕まれようとも、のちに総攻撃が始まろうとも、決して水都を助ける事を諦めない。その歌野たちの想いが力となり遂にNo.3を撃破する。


第九十三話 雷のごとく

 

 突然のことで一瞬、頭が真っ白になった。

 自分が座っているこの床が木で出来ているといっても、そう易々と突き破られるものではない。

 下で戦いが起こっていることは水都自身も知っていたが、その影響で脆くなっていたのだろうか。だとしても床が壊され、尚且つそこから歌野が現れるとは思ってもみなかった……。

 

 

 歌野とNo.3が現れた瞬間、突風が吹く。身を屈め、床に手をついてバランスを取らなければこちらも飛ばされそうだ。

 そして、No.3は六階の天井すら突き破り城の外へ。

 当の歌野はすぐに五階へ落下していった。

 

「あっ……麦わら帽子」

 

 吹き荒れていた風が止んだのち、歌野の麦わら帽子が水都の目の前に落ちてきた。

 最後の攻撃の時に起こした突風で飛ばされたのだろう。

 水都は手に取って麦わら帽子の外観をチェックする。

 

(穴も無いし、リボンも……)

 

 あれだけの戦いでよく無事だったものだ。帽子やリボンには砂埃が付いて汚れているだけで損傷はない。

 敢えて挙げるなら、少しあごひもがほつれているぐらい。

 

「丈夫なのは持ち主由来……なのかな」

 

 自然と笑みがこぼれた。思えば姫路城に来てはじめて笑った。

 その理由はもちろん、穴の向こう側にいる彼女。

 

「うたのんっ!」

 

 覗き込んで名を呼ぶ。今まで何度も心の中で呟いた名前。そして度々独り言のように呟いたその名前。その名を久しぶりに本人へ告げる。

 

「みぃぃぃぃぃぃちゃあああああん‼︎ むーかーえーにーきーたーわーーーッ!!!」

 

 歌野もまた穴の向こうに見えた水都に向かって声を張り上げた。

 全身血まみれで横たわった状態にも関わらず、その声は大きく水都の全身に気持ちよく響く。

 すると、歌野が急に起き上がって走り出した。

 

「歌野っ。気持ちは分かるけど急に動いたら……」

 

 そばにいた蓮華の忠告も聞かず、息を荒げながら歌野は上へと続く階段を駆ける。

 

「――ぁだッッ⁉︎」

 

 頭をぶつけた。城の階段は背が低く作られているので少し身を屈めなければならない。

 しかし今の歌野は、そんなことを気にしてられない。

 

「みーちゃんッ‼︎」

「うたのんッ!」

 

 六階へとやって来た歌野を見て、水都も走り出す。

 そして二人はスピードを緩めることなく、ぶつかるような勢いで抱き合い、その場でくるくると回転しながら勢いを鎮めた。

 

「う、う〜〜」

 

 ぎゅ〜 と水都を抱きしめる。水都もまた同じ力で返してくる。

 

「う……うたのん……あ、ありがとぉぉ……」

 

 涙が流れては床に落ちていく。姫路城に来てから泣いたのもはじめてだった。

 

「……っ! みーちゃんっ」

 

 抱き合った状態から少し離れた歌野は、改めて水都の姿を見て驚く。

 

「え、エンジェルッ!? ……の、ノー! み、みーちゃんで間違いないっ」

「え……」

 

 歌野は動揺していた。

 巫女装束を着ている水都に、この世のものとは思えぬ魅力を感じたようだ。

 

「あ、あぁ……。私のこの服? ちょっとね……」

「びっくりしたわぁ。こんなにホワイトが似合うのはみーちゃんか大根くらいでしょうねっ。いえ、カリフラワーもかしらっ」

「……それ褒め言葉?」

「オフコース♪ ……あ」

 

 抱き合った際に少し汚れてしまった。袖の部分や脇の部分が赤くなっている。

 

「あああッ!? せっかくみーちゃんがキュートなドレスを着てたのにっ!」

「別にいい。……うたのんになら(よご)されてもいい、よ?」

「ん、リアリー?」

「うん……リアリー」

 

 自分だけが綺麗な姿のままだったのが少し気に入らなかった。歌野たちが死に物狂いで戦っていたのは、その姿を見れば一目瞭然だ。

 

(私のために……こんなにボロボロに)

 

 今度は別の理由で涙が流れる。

 

「成し遂げたようね」

「あ……蓮華さん」

 

 急いで涙を拭う。

 倒れたままの芽吹を雪花に任せて蓮華も六階に上がってきていた。

 

「蓮華さん……腕が……っ」

「あなたもそれを言うのね。三人目よ」

「……ごめん、なさい」

 

 何故か謝罪の言葉が出てきた。蓮華は右腕を犠牲にしてまで自分を助けようと戦ってくれたことがとても嬉しく、少し苦しかったから。

 

「あら? 何故謝るのかしら。この蓮華の右腕はあなたに謝ってほしくてこうなったわけではないのよ?」

「……あっ、ごめ……。じゃなくて……そうだよね。ありがとう」

「フッ。この蓮華の腕は高くつくわよ。あとで返しなさい。……生き延びた後でね」

「うんっ」

 

 その二人を見て歌野は微笑む。そして下の階にいる二人と合流するために歩き出そうとしたその時――。

 

「ごほぁあッッ‼︎」

 

 突然、口から大量の血を吐き出した。

 

「うああッ⁉︎」

「歌野ッ⁉︎」

 

 床に両手を付き、呼吸が激しくなっている。

 

「か……っ。はぁ……あ、ぅぐ……」

「歌野ッ。息は出来る⁉︎ ゆっくり吸えるッ⁉︎」

 

 呻き声をあげながら呼吸を試みようとするが、上手く空気が口に入らない。

 

「えっあの……これ……」

「水都。歌野は毒にやられたの。その症状だと思うわ」

「そ、そんな……」

 

 No.3の攻撃によって受けた毒の効果が表れたのだ。歌野の両目は充血して今にも血が噴き出しそうだった。

 

「折角、ここまできたのに、こんなことって……っ」

 

 蓮華は必死で考える。毒の抜き方を。中和の方法を。

 

(傷口から吸い出す? いえ、現実的では無いわね)

 

 この状態では傷口からでは遅いし、吸い出す方が毒にやられるだけだ。

 

「中和。……ワクチンがあればっ」

 

 蓮華は何かに気付いて周りを見る。そして祠に目を付けた。

 

「水都。No.3か、この際、神官の誰かでもいい。あの祠に何か隠してなかったかしら」

「え、祠? ……あっ、そういえば」

 

 水都は、自分が着ている巫女装束がNo.3から渡されたものだと説明する。そしてそれは祠のところにあったことも。

 苦しむ歌野を水都に任せて蓮華は祠を調べる。すると、引き戸を見つけた。

 

「ここね。……お願いっ!」

 

 左手で引き戸を開けて中を覗き込む。すると、奥にケースがあるのを発見した。その中は一本の注射器。

 

「あっっったああ‼︎」

 

 驚いて水都の身体がビクンっとはねた。思った以上に大きな声が出たことに若干恥じらいながらも蓮華はケースから注射器を取り出した。

 

「それが……ワクチン?」

 

 注射器の中には透明な液体が入っていた。

 

「No.3が用心深く、念には念を入れていたのだとしたら……」

 

 No.3はこれまで用意周到に事を運んできた。彼女自身も言っていたが、あらゆるアクシデントを想定してその保険を用意している。

 ならばおそらく今回も……。

 

「塗られていた毒は()()だった。ならそれが自分に触れてしまった場合を考えない彼女じゃない」

 

 銃剣に隠していた毒針。それがもし敵に利用され自分を襲った時、その対処として自分自身が解毒剤を所持、または近くに隠しておくだろう。

 それがこの注射器の中身だと蓮華は考えた。

 

 だが確たる保証はない。……もしかするとまったく別の意図で用意された薬なのかもしれない。

 

「それでも蓮華はこの正体不明の注射器をあなたに打つわ。……いいわね歌野」

「ええっ。お願い蓮華っ」

 

 歌野は笑って即答する。

 この状況でも笑顔を絶やさないのは歌野自身の心の強さか。はたまた仲間である蓮華への信頼か。

 

「必ず助かるわ。……助けてみせるわ」

 

 水都に支えてもらいながら注射器の針を歌野の左手首に刺す。そしてピストンを押して注入させる。

 

「あ……っ。う……う〜」

 

 全て注入したあと、力が抜けて歌野は倒れ込む。水都はその場に座って頭を膝の上に乗せる。

 

「うたのん、気分はどう?」

「う〜〜〜」

「歌野?」

「うううぅぅぅぅうううぅぅぅ」

「壊れた……?」

「うーー、楽になってきたわぁ……」

 

 目を閉じたまま暫く唸っていたが、歌野の呼吸が落ち着いてきているのが分かった。

 

「よ……よかったぁ〜〜」

「ひとまず、安心……ね」

 

 蓮華は使い終わった注射器を見て笑う。今回に限ってはNo.3の周到さが裏目に出た。

 

「少し休んだら、みんなと合流するわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――下の階では、雪花が眠っている芽吹と共に上にいる三人が戻ってくるのを待っていた。

 

「いやー、回復してきたにゃぁ」

 

 完全回復、とまではいかないが、立ちあがって動き回れるほどには回復している。

 もう少し休めば芽吹を背負いながら跳んで移動することも出来るだろう。

 

「お互い上手くいかないもんだね、芽吹」

 

 名前を呼んでも反応はない。

 

 三階で国土亜耶と何があったのかは分からない。だが、こんな結果になることなど思ってなかった。

 もし、蓮華か雪花が彼女たちと戦えばこんなことにはならなかった。それは間違いない。

 しかし、そんなことは芽吹も分かっていたはずだ。分かっているからこそ、あえて芽吹は残ると言ったのだ。

 

 蓮華や雪花ならば容赦無く国土亜耶(かのじょ)を斬ることができる。……それが芽吹は嫌だったのだ。

 

(んでも……芽吹がこうなったんじゃあ世話無いよ)

 

 ここに来る前、お互いに衝突してしまった。だから雪花も芽吹も水都を助けるために奮闘した……はずだった。

 

「世の中ってほんっと、上手くいかないにゃぁ……」

 

 すると階段から誰かが上がってくるのが見えた。歌野が見えた時と同じシルエット――結城友奈だった。

 

「あっ! やっほー!」

 

 雪花は結城友奈と、彼女が背負っている三ノ輪銀を見て驚いた。と同時に少し口角が緩んだ。

 

「にゃはは。そっちも上手くいったんだねー」

「"も"ってことは雪花ちゃんたちも水都ちゃんを!」

 

 雪花は頷き、結城友奈はにっこりと笑った。

 

 

 

 ……数分後、暫しの眠りについていた歌野が目を覚ます。

 

「ん〜っ! グレイトフル‼︎ ポイズンはパーフェクトにヒーリングされたわああっ‼︎」

 

 立ち上がって大きく背伸びをする。

 

「うたのん、急に動いたら……」

 

 水都の心配など関係無しに歌野は元気そのものだった。

 

「流石……のひと言ね」

「蓮華ッ、みーちゃんッ。ありがとう‼︎」

「ううん。私は何も……」

 

 その後三人は降りて、高嶋友奈以外の全員が五階に集合した。

 

「みんな……本当にありがとうっ」

 

 水都は頭を深々と下げて礼を述べた。雪花も結城友奈も安心して口元が緩む。

 

「ふふっ♪ じゃあエブリワンっ。ここから脱出しましょ」

「でもまだ高嶋ちゃんが……って」

 

 結城友奈が言い終える前に、歌野はベルトを伸ばして全員に巻き付けた。

 

「ちょっと歌野?」

 

 そして姫路城の格子窓に向かって走り出した。

 

「まさか……っ!」

「いっっくわああああああ!!!」

 

 格子窓を蹴破り、全員は姫路城の外へ飛び出した。

 

「ああああああああああああああああああああああ!!!!」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?」

 

 半ば墜落するかのような勢いで下へ着地する。

 その中で結城友奈と雪花は、それぞれ一人背負ったまま下へ着地した。

 

「うえっ⁉︎」「きゃ……こほん」「ふわわっ!」「いっっった〜〜〜」

 

 両足同時に地面についたので、衝撃で全身が痺れる。

 

「あれっ⁉︎ ぬ……抜けないよっ」

 

 結城友奈に至っては背負っているものの重さゆえに地面が陥没して足がはまってしまった。

 

「歌野ォォッ‼︎ 無茶苦茶にも程があるッ!」

「ソーリー。でもこっちの方が早かったでしょう?」

「確かに急いでここから離れなきゃいけないんだけど……っ」

 

 バスターコールの総攻撃により、ここら一帯は焼け野原と化してしまうだろう。1秒でも早く逃げるためには姫路城の階段を降り続けるよりずっと早いのは確かだ。

 

「みんな無事だったから良かったけど」

「じゃあ地下にいるはずの友奈を連れてランナウェイね♪」

 

 そう言うと歌野は大天守へと再び入っていく。その他のメンバーは結城友奈の埋まってしまった足を必死に引き抜こうと引っ張る。

 

「……空、曇ってきたわね」

 

 蓮華も左手で結城友奈の腕を引っ張りながら空を見る。雨は降らないだろうが、太陽は雲に隠れてどんよりと地表に陰が差してくる。

 

 

 ――すると、遠くの方でチカッと何かが光った。

 

「……? 雷?」

 

 蓮華の肌は静電気が走ったかのように逆立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――姫路駅に少女がやって来た。

 

「戦い、終わってる」

 

 遠くから見える姫路城は何の変わりもない。発砲音もしない。

 

「またきた」

 

 姫路城を遠目で眺めている彼女に白い化け物が数体突撃してくる。

 

 少女はまず、一番先頭にいる化け物(バーテックス)に手を添えて呟く。

 

「……放電(ヴァーリー)

 

 瞬間、激しい光の明滅と共に対象は黒焦げになって消滅した。

 

「……雷獣(キテン)

 

 右手と左手を縦方向に挟むようなポーズをとる。そして、両手から狼のような光る獣を(かたど)る。

 その獣はまるで生きているかのように動き回り、すべてのバーテックスに喰らい付いて電撃を発生させた。

 

「……これ以上やると、気付かれる」

 

 敵を殲滅させたあと、その少女――"三大将"山伏しずくは高く跳び上がり目標地点へと向かっていく。

 

 




 一難去って……なんとやら。


次回 防人三大将、山伏しずく/シズク
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