白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。10周年イベントということで、取材と称して勇者万博に行きました。設定資料などを読み漁り、今後の展開に反映できそうなものが幾つかありましたね。



前回のあらすじ
歌野たちは遂に水都との再会を果たす。その際、毒によって絶体絶命に陥るが蓮華の機転により中和することに成功した。歌野たちは姫路城からの脱出を図ろうとするが……。


第九十四話 防人三大将、山伏しずく/シズク

 

 歌野は地階にて倒れている高嶋友奈を発見した。

 

「友奈っ!」

「う……ウタちゃん?」

 

 声により目が覚めた友奈は上半身だけ起こす。駆け付けた歌野はすぐに友奈を担ぎ上げて歩き出した。

 

「無事なようで安心したわっ」

「ごめんね。合流するつもりだったのに……」

「ノープロブレムっ! みーちゃんも結城さんも大丈夫だったわっ」

「よかった〜」

 

 転ばないように、頭をぶつけないようにしながら階段を上がって一階へと戻る。

 

「あ、そうだウタちゃん。地下にね、勇者御記(ポーネグリフ)があったよ」

「ん? 確か諏訪や京都にあったミステリアスな文字が書かれていた紙ね」

「諏訪……のは見てないけど、久美子さんが読んでいたものだよ。でもね……」

 

 高嶋友奈はここで見たものは紙ではなく巨大な石に彫られたものだと説明する。

 

「ストーンに。媒体は様々なのね」

「うん。でも私も今まで紙だけだと思ってたんだけどね」

 

 歌野も友奈も勇者御記(ポーネグリフ)のことはさっぱり分からない。それこそ久美子の領分だ。

 だから今は深く考えず、この城から脱出することを優先する。

 

 

 

 

 

 一方外では、両足が埋まった結城友奈をみんなで協力して引き抜こうとしていた。

 

「ぬ……ぬけない」

「結構重いし」

「そ、それは銀ちゃんも背負っているからで……」

 

 結城友奈は必死に自分だけが重いせいではないと意見する。

 

「というより、三ノ輪銀を下ろせばいいのではなくて?」

 

 早々に結城友奈を引っ張ることをやめた蓮華から指摘が入る。

 確かに今、結城友奈は三ノ輪銀を背負ったまま、みんなに引っ張られている。

 

「あっ」

 

 指摘されて結城友奈も気付く。

 

「そうだよっ!」

「「お〜い……」」

 

 今までのやりとりはなんだったのか、と水都と雪花も呆れた顔をした。

 

「じゃあ気を取り直して、もう一回だにゃぁ」

 

 三ノ輪銀をみんなでゆっくりと下して、再度結城友奈を引っ張る。すると簡単に抜け出せた。

 

「やったぁ〜。みんな、ありがとうっ」

 

 結城友奈は笑顔で礼を言うと三ノ輪銀を背負う。

 

「あとは歌野たちを待つだけだねー」

 

 歌野と高嶋友奈を待っている間、結城友奈はとある場所を指差す。

 

「あそこにあるのって……?」

「あー。お菊井戸だね。怪談としては有名なやつ。知らない? お皿を数える幽霊の話」

「ああっわかった! いちまーい、にまーい……ってやつだね」

「そそっ」

 

 広場にある井戸にまつわる怪談話について雪花と結城友奈が話し合う。

 そして歌野が高嶋友奈と共に現れた。

 

「お、きたきたっ!」

「みんなお待たせ〜。あ、ウタちゃん。もう大丈夫だよ」

「オーケー」

 

 歌野から離れて自分の足で歩き出す。

 

「これで本当に全員揃ったわねっ。じゃあ姫路城をグッパイするわっ」

「おー‼︎」

 

 歌野の掛け声に蓮華以外の四人はテンション高く返事をする。

 

「あら? ワッツアップ蓮華」

 

 蓮華は真剣な顔で遠くを見ている。しかし、歌野の声に気付き振り返った。

 

「歌野。良かったわ、一刻も早くこの場から――」

 

 その時、ピカっと何かが光った。

 

「わっ!」「雷?」「ひっ……」

 

 この場にいる七人全員、空を見る。太陽は完全に隠れて曇天と化していた。

 

「天気の変わりが早いわね」

 

 先程、空を見た時はこんなに雲が多くはなかった。また、厚くもなかった。

 その様子が蓮華の心に一層不安なイメージを与えさせる。彼女だけでなく、歌野たちも天気の様子から悪いイメージを予感させていた。

 

「急ぎましょう!」

 

 改めて歌野が声をかけると、みんなは足早に移動し始める。

 

「ええ」「りょーかい」「「いこうっ」」「うん」「……間に合った」

 

 しかしその時、ひとりの応答で全員の思考から退却の文字が掠め取られた。

 

「――えっ?」

 

 思考が固まったのはほんの一瞬。

 

 今、この場にいるのは九人。

 その中で二人は意識を失っている芽吹と三ノ輪銀。そしてその二人を背負って移動しようとしている雪花と結城友奈。

 

 残るは五人。

 

 歌野と高嶋友奈と水都と雪花と――。

 

「……誰?」

 

 それが歌野たちの中の誰が発した質問なのかは分からないが、それは九人目への問いだ。

 

 いつの間にかここにいた、前髪で右目が隠れている白髪の少女。静かに佇んでいるその少女が現れたことに、今まで誰も気付かなかった。

 

 そしてバイザーこそ外しているものの、少女が身に纏っている装束は()()()()()()()()()()()()()

 

「……ッ!!!?」

 

 正体にいち早く気付いた蓮華が声を大にして叫んだ。

 

「――防人の三大将よッ‼︎」

 

 その声が、全員の行動をリスタートさせる引き金となった。

 

 水都を守る歌野と高嶋友奈。すぐさま攻撃に移る雪花。相手から一番離れている蓮華も左手で剣を鞘から抜く。

 

「……ん」

 

 三大将と呼ばれた少女――山伏しずくは右手で歌野。左手で高嶋友奈に触れて呟く。

 

「はや――」

放電(ヴァーリー)

 

 その時、眩い光の明滅が周りにいた少女たちを襲う。……だが、触れられていた二人は激しい痛みが襲った。

 

「……ッ‼︎ うたのん! 友奈さん!」

 

 水都を守ろうと前に立ちはだかったゆえに受けた攻撃。

 目の前の歌野と高嶋友奈の身体からは煙が発生し、焦げたような臭いがする。

 

「……ぁっ……か」

 

 攻撃を食らっている最中は声も出せなかった。全身が()()()口もうまく動かせない。

 

「はぁああ‼︎」

 

 背負っている芽吹を半ば落とすように地面に寝かせたあと、雪花が槍の穂先を相手に向けて突進する。そして先端が身体に触れた途端――。

 

 

 バチィッ‼︎

 

「え……」

 

 雪花のあとに続こうとした蓮華は足を止めた。

 

「……あ。う……ぁ……」

 

 その場で雪花も倒れてしまう。槍を握っていた手が痙攣している。

 

「か、感電、した……?」

 

 水都と蓮華は今、歌野と高嶋友奈と雪花の身に起こったことから彼女の能力について答えを見出した。

 

「電気……人間……」

 

 それを聞いた少女は、無表情を崩すことなく蓮華に背を向けて水都に歩み寄る。

 

「……っ」

 

 水都は足が震えその場から動けずにいた。ただ目だけ足元にいる歌野に向けたまま。

 

「……幻想の揺籠(ピリカ・シンタ)

「……んっ?」

 

 倒れている雪花が呟いた瞬間、しずくの動きが固まった。

 

「…………眠い」

 

 そう告げるとしずくはその場に倒れ込んだ。

 

「今のは……」

 

 水都はしずくをこの状況にした張本人であろう雪花を見た。

 

「に……にゃはは。彼女、なんでか防人のバイザー付けてなかったから、さ……」

 

 今、しずくは雪花の能力により眠りに誘われた。前髪に隠れていない方の目を閉じたまま、うつ伏せの状態から動かない。

 

「今のうちに逃げよう。彼女が来たということは本隊がもうすぐ来るってことだからね」

 

 雪花は痺れている身体をゆっくりと起こす。

 

「サンクス雪花。相変わらずスーパーな能力ねっ」

 

 歌野は水都の手を借りて起き上がる。

 攻撃を食らった者は皆、とぼとぼとした足取りで満足に歩けない。しかし、悠長に回復を待っている余裕はもう無くなった。

 目の前で倒れているしずくがいつ起きるのか分からない。

 

「上手くいったの久しぶりだけどね。だってここ最近、敵さん対策してん……だか、ら……」

 

 言いながら雪花は疑問に思った。

 

(あれ、ちょっと待って……)

 

 仮にも防人三大将も呼ばれる彼女が、雪花の能力を知らないなんてことありえるのだろうか。

 指揮官型防人の全員はバイザーで対策をしてきたというのに。

 

(油断? ……いや)

 

 一抹の不安を感じて雪花は走りながら後ろを振り向いた。

 

「――オイ。よくもやってくれたな」

 

 眠らせていた筈の相手が、いつの間にか背後に迫り雪花の背中に触れた。

 

放電(ヴァーリー)‼︎」

「ぅうう……ぁぁあ!!!?」

「雪花ッ⁉︎」

「そんな⁉︎ 早すぎるッ」

 

 雪花が黒い煙を吐きながら倒れた。その状況を周りのみんなは理解出来ずにいた。

 雪花の能力により眠った相手は外部からアクションがない限り早々に起きる事はない。

 しかし今、しずくが眠ってから1分も経っていないのだ。にも関わらず眠りから目覚め活動している。

 

「――まだ名乗ってなかったか、そういやあよ」

 

 眠る前とは雰囲気の違う彼女が初めて歌野たちへ名乗る。

 

「"俺"は山伏シズク、周りからは防人三大将って呼ばれてる」

 

 その違和感に蓮華や水都はすぐに気付いた。

 

「さっきと性格が……違う?」

「ああ、さっきまでのは"しずく"の方だな。俺たちは二人でひとつだからよ」

 

 シズクの言葉を完全に信じるとするならば、二重人格のようなものだろうか。

 しかし今は、冷静な思考を巡らせる時間が無い。

 

「ってことで挨拶して早々悪いが、ここで終わりだ!」

 

 シズクが右腕を大きく一文字を描くように払う。すると、辺りに電撃が走り歌野と蓮華を襲った。

 

わぁ⁉︎」

「み、みんな……」

 

 残された水都は地面に伏す歌野の身体に触れる。

 

「いたっ」

 

 触れた瞬間、静電気が走る。しかしその痛みは日常生活で起こる静電気の比ではなかった。

 

「食らったばっかのヤツに気安く触れんな」

 

 シズクの能力が電気に関係することは嫌でも分かる。

 しかし問題は他にある。

 

(触れると感電。……こんなのどうやって)

 

 地面の砂を握り水都は涙を浮かべた。シズクの電撃を受けた者たちは痺れて立ち上がれない。

 

 立っているのは……ひとりだけ。

 

「……銀ちゃん、またちょっと下ろしちゃうね」

 

 水都は振り返る。

 ひとりだけ、背負っていた三ノ輪銀をまた下ろして結城友奈はシズクに近付いていく。

 

「結城、さん……」

 

 真剣な表情のまま結城友奈は右の拳に力を込めた。

 

「勇者ぁぁああ……」

 

 シズクへ攻撃するつもりだということは誰の目から見ても明らかだ。

 

「だ、だめっだよ……っ」

「ヒャハハ! 今の見てなかったのかぁ? 俺に触れたら――」

「パァァァァンチ‼︎」

 

 水都やシズク本人の忠告を無視して結城友奈は拳を振るった。

 

「――はっ?」

 

 シズクの身体が、結城友奈の拳が触れる寸前で、弾き飛ばされた。

 

「があァ……あ⁉︎」

 

 吹っ飛ばされたシズクは地面を転がっていく。しかしすぐに受け身を取って起き上がる。

 

「ど……どうして……?」

 

 水都は目の前の光景に目を疑った。

 先程まで、誰もがシズクの高威力の攻撃に倒れ、反撃しようにも()()()()()()()()彼女へは触れた途端に感電してしまう。

 

 ……だが結城友奈は、シズクを殴り飛ばすことができた。

 

「感電……しなかった?」

 

 歌野たちが見ているのは強敵――『"三大将“山伏シズクを倒す』という迷いの無い覚悟を決めた結城友奈の姿。

 

 

 ――己の内に秘める"勇気"を力に変え、結城友奈は立ち向かう。

 

 





しずく(アイツ)じゃねぇ。しずくとシズ(アイツら)クだ……多分な。



次回 "勇気"を纏う
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