白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。No.3といいシズクといい、なまじ物理攻撃を受け流せる能力を持つだけに回避能力に乏しいですね。


前回のあらすじ
歌野たちは水都を奪還して全員集合した。そこへ防人三大将の山伏しずくが現れる。雪花の能力で眠らせることに成功するも、今度はもうひとつの人格であるシズクが目覚め、再び窮地に陥る。……しかし。


第九十五話 "勇気"を纏う

 山伏シズクは起き上がると両手を前に出す。そして、右手と左手の間で電気を発生させた。

 

「っっかしいなー。俺って電気だよな?」

 

 結城友奈の攻撃を受けたことを疑問に思った。『ビリビリの野菜』の能力を得たシズクの身体は電気そのものであり、相手が触れただけでダメージを与えられる。

 数ある『勇者の野菜』の中でも最強に匹敵する筈だ。

 しかし先程の攻撃に自身の能力は作用しなかった。

 

「まさか……」

 

 その答えについてシズクには心当たりがあった。それも確信めいたもの。

 しかしそうなると、さらなる疑問が出てくる。

 

「――やぁあああ‼︎」

「……ちいッ!」

 

 考えているうちに友奈が追撃を仕掛けてきた。右手を張り手のように広げてこちらへ向かってくる。

 シズクは両腕をクロスにして防御の姿勢をとった。

 

「ぐっ⁉︎ コイツ、また……っ」

 

 触れる寸前でまた弾かれてシズクの身体はのけ反る。そのガードの開いた胴体へ友奈の拳が吸い込まれていく。

 

「勇者パーーンチ‼︎」

「ぐっっはああ!」

 

 血を吐き、空中を何回転かして背中から地面に落下する。

 

「はあ……はあ……ぅうう」

 

 攻撃した方の友奈は何故か呼吸が荒く、歯を食いしばっていた。相当辛そうだ。

 

「……ど、どうして」

 

 水都だけが驚いているのではない。意識がある歌野や蓮華までもが呆然とこの状況を見ているしかなかった。

 先程まで威勢の良かったシズクが、仮にも防人の三大将と呼ばれる彼女が、結城友奈の前に苦戦を強いられている。

 

「結城さん。それって……?」

 

 水都から漏れた疑問に友奈は真剣な表情のまま答えた。

 

「"勇気"だよ。胸の中にある気持ちを……わーって爆発させるの」

「わ、わーって……?」

 

 口元の血を拭き取りながらシズクも話し始める。

 

「"武装色の勇気"ってヤツだろ? 聞いたことがある。一部の奴らが戦闘で使う、意志の力」

「"武装色の勇気"……。それって烏丸久美子が言ってた……」

 

 蓮華は奈良で久美子が言っていたことを思い出していた。

 

 

『――"勇気"というのは逆境に立ち向かう者に宿る"意志の力"だ』

 

『――武装色の勇気を纏えば星屑だけじゃない、進化体も殺すことができる』

 

 

 ――勇者ではない者がバーテックスと戦い、打ち勝つ為の唯一の手段。

 バーテックスの気配を強く感じる『見聞色の勇気』。

 通常兵器では傷ひとつ付かないバーテックスを殺せる『武装色の勇気』。

 

 水都も久美子から聞いた話は覚えている。しかし、あれはあくまでも"バーテックスに通用する攻撃"という話だったはずだ。

 

「ならおそらく……いえ、まず間違いなく『勇者の野菜』にも、影響があるのね」

 

 もうその"勇気"を結城友奈が使えることは疑いようが無い。

 蓮華はそこから"武装色の勇気"を纏った攻撃は能力者の実体を捉えてダメージを与えられると考察した。

 

 ……しかしシズクが疑問に思っているのは別のことだ。

 

「だが感電しねーってのはどういうことだ? いくら"勇気"を纏って攻撃しても、能力を()()()()()()()()()()()はずだ」

 

 "勇気"は相手の能力を無効にする力ではない。炎の身体に触れれば火傷をし、電気に触れれば感電するはずなのだ。

 だが結城友奈は感電していない。疲れているだけ。

 

「ぅおおおおおおおおおおお」

 

 またも繰り出す拳。シズクは反撃するために右手から電撃を放つ。

 

放電(ヴァーリー)ッ」

 

 放たれた電撃の方が友奈の拳より速い。

 

「――おおおおおおおおおおお‼︎」

 

 しかし友奈の拳は電撃を受けてもなお、そのままシズクに向かっていく。

 

「てめ……っ⁉︎」

 

 いや、よく見れば電撃が友奈の拳を避けるように軌道を変えているのだ。その拳から衝撃波が発生してシズクはまたもや吹っ飛ばされる。

 

「がっ……は」

 

 お互いに攻撃を繰り出した筈だが、一方的にシズクだけがダメージを受けている。

 

「どうやらお前の"勇気"は特別性のようだな」

 

 両手を上下に重ねて獣の口を真似る。そこから電気が発生して四足歩行の獣の姿を形作る。

 

雷獣(キテン)ッ!」

 

 電気の獣は光を放ちながら友奈へ向かっていく。そして友奈の身体へ噛みつこうと口を大きく開けた。

 

「食いちぎれッ。んで痺れちまいなッ!」

 

 対して友奈は右の拳を上に掲げて獣を叩きつけるように殴った。

 

「ゃああ‼︎」

 

 地面に衝撃が走り、獣の姿は消え去っていく。

 

「は……ぁあ⁉︎」

 

 自分の技が一瞬にして消し去られたことに驚愕する。その隙に、シズクの懐に入ると一回転して蹴りを放った。

 

「勇者キーック‼︎」

 

 反射的に両腕をクロスにして受け止めようとする。

 

「……ッ! これじゃあ同じかッ」

 

 受けるのを嫌がって、蹴りが右腕に触れる前に後ろに軽く跳び、自身を電気に変えて一瞬で更に距離を取った。

 

「……は? ウソだろ……。避けただろーが」

 

 右腕の前腕部分が痛いのか、その箇所を左手で押さえている。

 

 

 ……今までの流れを見ていた蓮華は友奈の攻撃が普通ではないことに気付いていた。そして水都も。

 

「「――()()()()()」」

 

 二人同時に呟いた。

 先程から友奈の拳や蹴りは一度もシズクに触れていないのだ。にも関わらず、シズクへ明確なダメージが入っている。おかげで感電もしていない。

 

 "勇気"について詳しいことは分からないが、今は友奈だけがシズクの能力に対抗出来る希望なのだ。

 

「……俺の能力が効かねー訳じゃあねえはずだ。要はお前の"勇気"を上回る程の電撃を繰り出せばいい」

 

 両手から電気を発生させる。光の明滅が更に激しく弾けるような電気特有の音が大きくなっていく。

 

「生み出せる電圧はしずくよりシズク(おれ)の方が高えからよッ!」

 

 溜めていた電気を友奈に向かって飛ばす。

 

稲妻(サンゴ)ーーッ‼︎」

「勇者パンチーッ!」

 

 友奈は拳をぶつけて相殺しようと試みる。

 

「う……ッ⁉︎」

 

 電気の獣を殴り倒したときのようにはいかず、相殺し切れない。

 

「まだいくぜっ」

 

 両手で電撃を出し続けながらも、口を大きく開けてビームを発射するかのように吐き出した。

 

雷獣の伊吹(エル・キテン)ッッ‼︎」

 

 口から放たれた電撃は一際大きく、友奈は押し負ける。

 

「――うわぁあ‼︎」

 

 砂煙と灰色の煙が立ち込め友奈の姿を覆い尽くした。

 

「結城友奈ッ⁉︎」「結城さん……っ」

 

 蓮華と水都は名前を呼ぶ。いくら友奈の使う"勇気"が感電せずに相手へダメージが与えられるといっても、今の攻撃を無傷で防ぐなど不可能だろう。

 

 ……友奈を覆っていた煙が晴れる。

 衣服はところどころ焼け、そこから見える肌も少し火傷を負っている。

 それでも友奈は立っていた。意識もある。

 

「ダメージは、流石に入っているよなあ。つってもその程度で済むような威力じゃあねえはずなんだが」

 

 シズクの表情に余裕の笑みが表れてきた。友奈に攻撃が通るということが彼女を勢い付けさせる要因となっているのだ。

 

「それに結構苦しそうだぜ? ()()()()()()()()()奴がこれ以上でしゃばんじゃねえ」

 

 水都と蓮華は結城友奈の顔を見る。確かに苦しそうだが、これはシズクの攻撃を食らったからだけではなかった。

 

「痛い……痛いよ。でも私は……この痛みに耐える。……耐えなきゃ」

 

 本来、人と戦うことを友奈は望まない。ましてや"人を殴る"という行為自体が自分自身の心を傷付け、すり減らせていく。

 

 だが……その痛みを背負ってでも、戦わなければならない時があることも知っている。

 

「辛くても……苦しくてもっ、守りたいものがあるから。大好きな友達のためだから!」

 

 一歩、一歩と大地を踏みしめる。友奈の背負っているものがしっかりと地へ伝わる。

 

「銀ちゃんが()()()()()()! 私の弱さを! 戦う怖さを!」

 

 決して傷だけではない。あの戦いのあと、三ノ輪銀が"歩みを止める呪い"を友奈から奪い取ってくれたのだ。

 故に今、友奈は迷いなく"勇気"の拳を振り下ろせる。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 友奈は走る。その拳には目に見えるほどの"オーラ"を纏っていた。

 

「言葉や気持ちでどうにかなるかよッ。稲妻(サンゴ)ッ!」

 

 シズクは両手を友奈に向けて電撃を放出させる。

 

 ……しかし、それを友奈は敢えて受けた。最速で目標に到達する道を選んだのだ。

 

「う……ぅぅおおお‼︎」

「動けんのか⁉︎ ウソだろッ!」

 

 攻撃が電気である以上、その速度を、幾ら勇者でも避けられる自信はない。ならば、ダメージを負う覚悟で挑む。だが絶対に倒れはしない。

 

 ――それが、守るものがあるからこそ生まれる強さだ。

 

「はぁあ⁉︎ この俺の攻撃が……こんな……ッ」

「"覇王"・勇者パァァァァンチーーッ!!!」

 

 ――拳から、幾つかに分かれた黒い閃光のようなものが蓮華たちには見えた。

 

「ぐぁああああああーーッ⁉︎」

 

 身体全体に強い衝撃が走る。まるで爆風をじかに受けたかのように。

 友奈の拳は決して大きくはない。年相応の小さな拳。

 しかしそこから放たれる一撃は、今まで自分が受けたどんな攻撃よりも重いものだった。

 

「……がはっ……あぁ」

 

 吹っ飛ばされたシズクは城の石垣に激突する。

 

「は……はぁ、はぁ、はぁあ……」

 

 ――これが"七武勇"結城友奈の本当の力。

 

「……す、すごい。たおし……」

 

 水都は身体が震えて上手く言葉に出来なかった。だがその震えは決して恐怖からきたものではない。

 

「あの三大将を……」

 

 蓮華も言葉を失う。梅田地下街にいた頃、京都支部にいたNo.7から名前や肩書きは聞いていた。

 "三大将"という大層な称号を付けられているから相当な実力者だと思っていた。

 いや、現に蓮華たちは手も足も出なかったのでそれは間違いないのだが……。

 その彼女を、"七武勇"結城友奈は撃破したのだ。

 

「何が起こるか、分かったものではないわね……」

 

 結城友奈はその場に尻餅を付いて座り込んだ。どうやら急に力が抜けたようだ。

 

「あ、はははっ。疲れちゃった。……早く逃げなきゃなのに。10分は動けないやっ」

「じゃあ誰か……」

 

 短時間でも"勇気"の使用による疲労は重くのしかかる。

 

 三ノ輪銀の方を見た。この状態では少し休まなければ再び背負って逃げる事は出来ないだろう。

 

 

 ……だがそれをシズクは許さない。

 

 

「――まだッ……だ!」

 

 誰もが勝ったと思った筈だ。

 身体に降りかかっていた小石の数々を振り払い立ち上がる。

 

 

 ……上から何かが弾け続けている音が聞こえてきた。それは徐々に大きくなっていく。

 

「……え?」

 

 友奈は音のする方を見る。すると空中に雷球が浮かんでいた。大きさは人間の頭より2倍の大きさであり、それが頭上10メートルの場所で電気を溜め続けていた。

 

「い、いつ……っ」

「降りてこい。神の裁き(エル・トール)‼︎」

 

 合図に応じて雷球が一層光って下の友奈目掛けて落雷する。

 

「ゆう……っ」

 

 落雷は一瞬。誰かが友奈の名を呼ぶ頃には、すでに本人は地に伏していた。

 

「ヒヤハハ……。手間かけさせやがって」

「…………うぅ

 

 うつ伏せのまま友奈の身体は動かない。

 生きてはいるが、痺れて指一本すらもまともに動かせないのだ。

 

「こいっ」

「きゃ……!」

「水都……っ」

 

 シズクは目的を果たすべく水都の腕を掴んで引っ張り連れて行こうとする。

 

「い、いや……っ痛」

 

 水都も振り解こうとするが力が入らない。しかも掴まれている腕から微弱に電気が流れている。

 

「あっ、帽子が……」

 

 水都の手から麦わら帽子が落ちた。

 

 シズクはそのまま歩き続ける。

 

「……あァ? お前何のつもりだよ」

 

 すると突然、水都は全身の力を抜いて地面にしゃがんだのだ。

 

「ワリぃが御役目なんでな。早くいくぞ。これ以上、お前の大事な仲間が傷付くのを見てえのかァ?」

 

 水都は動かない。

 仕方がないのでシズクは強く引っ張り引き摺っていく。

 

「ちっ。とっとと帰りてえんだ」

 

 地面に擦ったあとが線のように出来ていく。

 

「足掻いたってみっともねえだけだ。どーせ誰も動けやしね――」

 

 その時、水都を引っ張っていた手を歌野が掴んだ。

 

「うたのん……!」

「何故動ける。他の奴らは地べただぜ? 喋れねえほどにな」

「みーちゃんを離しなさい」

 

 歌野に言われても当然シズクは離さない。

 

「分かってんのか。今俺が電気にならねえのは、水都(コイツ)が感電するからだ。じゃなきゃ触れてるお前なんか即終わりだぜ」

 

 シズクが水都を離さないように歌野もシズクを離さない。

 

「なら今、貴女はエレクトロになれないってことでしょう。じゃあ……」

 

 歌野はもう片方の手に持っていたベルトでシズクへ攻撃する。

 

「ッ⁉︎ てめ――」

「ムチムチの(ピストル)ーーッ‼︎」

 

 向かってくるベルトの先端を、寸前で頭を右に振って避けた……つもりだったが頬に僅かな擦り傷が出来た。

 

 少し掴んでいた力が弱まった。その隙を狙って水都は一気に走り出した。

 

放電(ヴァーリー)ッ」

「――うッ」

 

 後方でバチバチッ と音が聞こえて振り向く。シズクが歌野へ何をしたのか、その音だけで充分わかる。

 

「うたのんッ!」

 

 歌野からは煙が上がっていた。そのまま地面に両膝を付く。

 

「う……」

 

 水都は下を向いて立ち尽くす。……もうこれ以上、傷付いていく歌野を見たくない。

 

「ごめん、うたのん……。ごめん、みんな……」

 

 涙で視界がボヤける。勝手に口から謝罪の声が漏れていく。

 

生きたか――」

「みーちゃん‼︎」

 

 その声をかき消すように歌野が大きな声で名前を呼んだ。

 

「お前まだ動け……」

「この帽子……っ。大切に……持っててっ」

 

 歌野の手には先程落とした麦わら帽子があった。

 

「帽子……。あっ」

 

 立ち上がり、苦しさ半分に歌野が投げ飛ばした麦わら帽子は、バナナ軌道を描いて丁度水都の頭に被さった。

 

「うたのん……戦うの?」

「……オフコース」

「なんで……」

 

 微笑みかけてくるそれが、苦し紛れの笑顔なのは誰の目から見ても明らかだ。

 ……それなのに歌野は。

 

「あの人の力分かってるでしょ、うたのん。……諦めたくないけど、でも……結城さんもやられちゃったし……。うたのんのことは信じてるよ。……でも勝てる保証がないよ。でも……私。…………だって、でも……どうしよう」

 

 水都の思考は混乱に陥っていた。歌野たちが必死に自分を助け出してくれたのに、それを無碍にはしたくない。しかし、山吹シズクという強者の前には自分を差し出す以外に歌野たちを助ける手段がない。

 だがそれでも、水都は歌野たちといることを諦めたくない。

 しかしそれでは…………。

 

「落ち着いてっみーちゃん♪」

「……え」

 

 チッチッチッ と人差し指を振る。今度の笑顔は苦し紛れではなく、不思議とこちらに安心感を与えてくれる。

 

「未来の農業王の"親友"(ソウルメイト)がさ、そんな顔しちゃノンノンよ♪」

「うたのん……」

 

 水都は涙を拭いた。根拠など無いもない。しかし歌野にはこの状況を変えてくれる頼もしさがある。

 

「ノーギョー王? ソイツは一体、どこの王様なんだ?」

 

 向かい合うシズクと歌野。

 

 バスターコールの本隊は刻一刻と迫っている。もうすぐ肉眼で捕捉できるだろう。時間はない。

 

「世界の偉大な"大地の王"よっ‼︎」

「ご立派だな。……じゃあケリ付けよーじゃねえか。他でもねえ……この大地の上でなあッ‼︎」

 

 

 そして……奉火祭の行く末を決める戦いは最高潮(クライマックス)を迎える――。

 




 今回、"武装色の勇気"が『勇者の野菜』の実体を捉えることで、相手の流動する身体へダメージを与えられることが分かりました。
 ……察しがいい方はもう気付いたことでしょう。
 以前、"勇気"を纏った攻撃でバーテックスを倒すことができると烏丸先生は証明してくれました。


 この共通点は、一体……⁉︎


次回 勝利への10分間
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