白鳥歌野は農業王になる   作:amorphous

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拙稿ですがよろしくお願いします。仮にも三大将なのに、結城友奈にボッコにされる山伏シズクを見て、こちらが例の顔をしてしまいます。


前回のあらすじ
"三大将"山伏シズクによる攻撃に歌野たちは手も足も出なかった。しかし結城友奈が使う"勇気"はシズクにダメージを与えることができ、追い詰めていくがその友奈もまた倒れてしまう。バスターコールが近づく中、仲間の想いを胸に歌野は何度でも立ち上がり、何度でも戦う。


第九十六話 勝利への10分間

 

 ……結城友奈はうつ伏せの状態から顔だけ上げた。

 

「歌野……ちゃん」

 

 その微かな声に歌野と水都は気付く。加えてシズクもその声に反応した。

 

「なんだ、早え回復じゃねーか。だがまだ戦えねえだろ?」

 

 身体はまだ痺れている。手足を動かそうとしても痙攣しているような動きしか出来ない。

 

「結城さんっ。動けるまでどれくらいかかりそう?」

 

 歌野はシズクから攻撃が来るのを警戒しながら友奈へ問いかける。

 

「10分……欲しい、かな。それ……なら、動ける……っ。……戦えるっ」

「テンミニッツ? それだけあればいいのねっ」

「約束……する、よ……!」

 

 それだけ聞くと歌野は前を向いたまま笑って頷いた。

 そしてそれを聞いていたシズクは嘲笑する。

 

「10分? なんだ、10分でこの状況が変わるってのか?」

「大いに変わるわ。結城さんが動ければ貴女を倒せる。それでオール解決よっ!」

 

 今この場において、結城友奈の"勇気"がシズクを倒せる唯一の手段。無敵に近い能力を持っている山伏シズクにとって結城友奈は"天敵"なのだ。

 

「10分なんて絵空事だ。……ほら見てみろよ」

 

 遠くを指差す。その方向を水都と蓮華は見る。

 

「あ……あれって」

 

 豆粒程の大きさの何かが五つ見えた。

 

「バスターコールの本隊だ」

 

 その言葉に二人の身体は僅かに震えた。

 

「遂に……来たのね。しかも空から」

「大社の技術でバーテックス共に見つかりにくく飛行できる船を作った。それに砲台とかを備えさせている」

 

 水都は神官長たちがここへ来る際に乗ってきた"空飛ぶ木船"を思い出した。

 たしか、簡単な説明をNo.3がしていた筈だ。

 

「速度から計算して、あれが到着するのが10分ってところか」

 

 小さく見える船の数々。

 10分後、その船が到着して姫路城へ総攻撃を開始する。

 

「さあて、10分後、笑ってんのは誰だろーな」

 

 結城友奈の復活にかかる時間と、本隊が到着する時間は共に10分。

 その時間になった時、どちらに軍配があがるのか……。

 

「……‼︎ ムチムチの〜」

 

 シズクが右手をこちらへ向けたのを見て、即座に腰を落としてベルトを振るう。

 

(ピストル)〜〜!」

 

 そして同時に歌野は片膝を付いて低い姿勢をとった。

 

放電(ヴァーリー)

 

 その攻撃を首を傾けて避け、右手から電撃を発生させて歌野へ飛ばす。

 

「電気を避けられるとでも思ってんのか?」

「――ッ!!?」

 

 歌野は電撃を浴びた。攻撃が来る前に回避行動を取っていたのだが、シズクはそれを見たうえで攻撃した。当然、そのあとに歌野が避けようとしても電撃の方が遥かに速い。

 

「10秒の聞き間違いだったか?」

 

 しかし歌野の意識はまだあった。呼吸は荒くとも、皮膚に火傷を負おうとも、これくらいでは音を上げない。

 

「おいおい、おかしいよなあ。何で立ってやがる」

 

 問いかけるが答えない。歌野は肩で息をしているだけで返答する余裕はないとみえた。

 

「……ふっ!」

 

 再び歌野はベルトを波打たせて攻撃する。それをシズクは敢えて避けなかった。

 

「結城友奈からの攻撃を受けちまって警戒してたが、お前の攻撃は食らわねーんだったな」

 

 シズクの身体に触れた瞬間、電気はベルトの表面を走り、歌野の右手を伝って感電した。

 

「――ッあ⁉︎」

 

 ベルトを離せないまま歌野は電気を浴び続けてしまう。

 人間の筋肉は電気が流れると収縮する性質がある。故にベルトを掴んだまま感電すると自分の意思では手放せないのだ。

 

「う、……ううう……っ!」

「その道具、材質は"革"だろ? 絶縁体であるそれで電気の俺に攻撃が通ると思って仕掛けたんだと思うが、その判断は半分間違いだったな」

 

 シズクの言うとおり、歌野の持つ武器(ベルト)は革製である。一見、絶縁体故に電気のシズクへの有効打になりそうなものだが、今のベルトの絶縁性能はほぼ無いに等しい。

 何故ならそのベルトには、歌野や芽吹の"血液"がべっとりと付着しているからだ。故に電気はベルトの表面を流れて歌野を襲う。

 No.3との戦いで勝利の決め手になった血液が、シズクの能力である電気の通り道になってしまっていた。

 

「次からは絶縁性能が高い武器を使うこったな。"新品のゴム"とかよ。……まあ次なんて無えんだが」

 

 シズクはベルトから離れると歌野は解放されて地面に倒れた。それでも右手は痺れたままだ。

 

「次は結城友奈、お前だ。俺に触れられるお前は確実に潰す」

 

 シズクはそう言うと、真上に向かって両手で生み出した小さな雷球を放り投げた。

 

「あれは……!」

 

 蓮華はその雷球を目で追う。それは先程と同じくらいの高さで止まり、空中で電気を蓄え続ける。

 

「さっき食らわせた"神の裁き"(エル・トール)の卵だ。これから少しずつデカくして最後に落雷させる。避けられやしねえ、確実に終わりだ」

 

 空中に留まり、その中で摩擦により膨張していく。あの雷球は雷雲のようなものだ。

 

「……ならそれを、結城さんに当てさせる訳には、いかないわっ」

 

 シズクと蓮華は上げていた視線を落とす。

 

「歌野……」

「何で立ってんだよ、おい」

 

 歌野は左手でベルトを掴み、右手を地面に付けてゆっくりと身体を起こしていく。

 

「……ふふっ♪」

 

 歯を見せて笑う。だが痺れによる苦痛は続いている筈だ。

 

「大した根性だな。……だが所詮は当たらねえ攻撃をして、俺の一撃に沈む。これをまた繰り返すだけだ。バケモノ並みの体力と精神力で時間稼ぎしてるだけだ。みっともねえ」

「みっともない。……そうかしら?」

「そうだろ。何が『世界の偉大な"大地の王"』だ。ハッタリ効かせてメンバーに偽りの安心感を与えてるだけじゃねーか。とんだペテン師だぜ」

 

 歌野の威勢の良さは水都たちを安心させるためのただの虚勢だとシズクは指摘する。

 どんなに息巻いても、歌野の攻撃はシズクには当たらないし、シズクの攻撃を歌野は避けられないのだから。

 

「お前に俺は倒せねえ」

「私は貴女を倒したいわけじゃない。みーちゃんを助けたいだけ」

「……あ?」

 

 少しだけ歌野の声のトーンが下がった。

 

「みーちゃんを助けるために貴女が邪魔してきたから倒す。それだけなのよ」

「だからお前じゃ倒せねーって――」

「倒すのは()()()()()()()()の」

 

 言葉を遮り歌野は話し続ける。この戦いの目的を、自分の役割を。

 

「みーちゃんを助けるため、貴女を倒す。その力を結城さんが持ってる。なら結城さんが復活するまでは私が何度でも貴女に挑むの」

「ヒヤハハッ。そりゃ情けねーんじゃねえか? 自分の仲間の安全をよ、無関係な他人に確保してもらうなんざ。仮にもリーダーはお前だろ?」

「無関係じゃないわっ。それに私は結城さんを()()()()からっ!」

 

 シズクの嘲笑を、歌野は一切気にしていない。

 

「結城さんは必ず貴女を倒してくれる。でも今、貴女に立ち向かう人がいなくなれば、貴女は結城さんにとどめを差すっ。だから私は貴女を10分間足止めするの。……リーダーとしてっ!」

 

 それを黙って聞いていた。『信じる』という単語が強く耳に残ったから。

 

 出会って1日も満たない結城友奈のことを信じると言った。リーダーとして、目的のためならばチームの垣根を越えて。

 たとえ自分自身が捨て駒になろうとも構わない。

 

「……なかなかのリーダーの器。どっかのバカに聞かせてやりたいくらいだ」

 

 頭上の雷球から発する音が急に大きくなった。充分に溜まった証拠だ。

 

「だがその覚悟にお前の身体はついてこれるかあ? ……今くたばれば全て終わりだぞッ!」

 

 落雷の対象を歌野に決める。シズクが右手を掲げて一気に振り下ろす。

 ――と、同時に歌野は走り出す。

 

神の裁き(エル・トール)!!!

 

 落雷は一瞬にして地上へ落ちる。そして落下地点にクレーターを作った。

 

 ――歌野はシズクに向かって走り続ける。

 

「なッ、はぁああ⁉︎ どーゆーことだあ⁉︎」

 

 向かってくる歌野には目もくれず、落下地点を見る。クレーターの中央には一本の剣が置かれてあった。

 

「あれは、片腕が干涸びてるヤツの剣か……!」

 

 電撃が放たれる直前、蓮華は左手で自分の剣を歌野の近くに投げて地面に突き刺したのだ。

 落雷は歌野を勝手に避ける。通りやすい材質となった蓮華の剣は、避雷針の役割を担ったのだ。

 

 ――それは金属の中で最も導電性が高いとされる『銀』。

 

「ムチムチのおおおおおおおおおおお‼︎」

 

 目の前に歌野が迫ってようやく視線を向けた。しかしシズクは歌野の攻撃に対して回避行動をとらない。

 

「寿命が2、3秒延びただけじゃねーか。結局俺には――」

銃弾(ブレット)ォォォ‼︎」

 

 シズクの()()()()()()()()。故に攻撃は全て意味をなさない。

 だから歌野は、真下に向けて繰り出した。

 

 ――狙うは、山伏シズクの"足"。

 

「――痛ッッてえええええ!?」

 

 ベルトの先端が右足の甲へ直撃した。その激痛にシズクは悲鳴をあげる。

 

「攻撃が……当たった⁉︎ 歌野、どうやって」

「足……が弱点?」

 

 蓮華と水都はシズクの足元を見る。"武装色"による攻撃ではないのなら、歌野は能力の弱点を突いたことになる。

 

「……っ! そういうことね。だから足を」

「蓮華さん……?」

 

 気付いた蓮華は水都に説明する。

 『ビリビリの野菜』の能力者が唯一、電気になれない身体の部位を。その条件を。

 

「電気というのは通常、電位が高いところから低いところへ流れていくもの。逆はない」

「う、うん」

「彼女、山伏シズクは全身を電気に変えられる。でも、地面の上では足まで電気になれないの。……なってはいけないの。地面に流れるから!」

「そっか……! ()()()()()()()から……!」

 

 水都もそのことに気付いた。

 

 シズクは今、地面の上に立っている。ということはシズクは常に接地状態にあるのだ。もしも、足元が金や銀のような金属であったならば全身を電気に変え、自由に金属内を移動できただろう。

 

「でも地面に足を付けている状態で頭からつま先まで電気になれば、彼女は一気に大地に流れてしまう。……漏電した電気が接地線(アース)によって地表に流れるのと同じように」

 

 故にシズクが全身を電気に変えるには地面から離れている必要がある。

 電位0Vに値する大地に落ちた電気が高位側に(もど)ることはない。よって地面に接している部分は電気になれない。

 

 つまり『ビリビリの野菜』の能力者の最大の弱点は、大地の上に立っていること。

 

「まだ、まだぁああっ」

 

 歌野は右手に持ち替えてベルトを波打たせる。ベルトは素早く、蛇のように地を這いながらシズクの左足に狙いを定めて払った。

 

「く……っそが」

 

 右足で倒れないように力を込めたが、疲労と先程のダメージにより踏ん張りが効かず転んでしまう。

 ……これでシズクの身体が地面に付いたことになる。

 

「ムチムチの〜〜(ピストル)〜〜ッ‼︎」

「――ぐぅ……ッは‼︎」

 

 シズクが血を吐く。強烈な一撃を浴びせた証拠だ。そしてとどめにもう一撃を振るう……が。

 

「ムチムチの……ッ⁉︎」

 

 それより先にシズクが歌野の身体に触れた。

 

放電(ヴァーリー)ッ!」

 

 狙った場所へ当てるために接近しすぎたことが仇となった。

 歌野は電撃を受け続ける。

 

「ナメんじゃねえ‼︎ 俺は"三大将"山伏シズクだぞ⁉︎ てめーみてえな少し名の知れただけの田舎勇者にやられるわけにはいかねーんだよ!!!」

 

 電気を帯びた右手の拳で殴り飛ばす。そして両腕を大きく伸ばして翼を広げた鳥を形作る。

 

雷鳥(ヒノ)!」

 

 鳥を模した電撃が歌野を襲う。

 

「……く……かは……っ」

 

 歌野は口からは血ではなく煙を吐き出した。

 

「ハア……ハア……。これ以上疲れさせんじゃ……」

 

 周りの煙が晴れて歌野の姿が鮮明になる。彼女は立っていた。肌が焼け焦げても、全身が痺れようとも決して倒れはしない。

 

「……な、なんだよ。バケモノかよ……」

「……そんな低圧電気……いくらやっても……効かない、わ」

 

 歌野は笑う。実際、シズクの生み出す電気の出力は下がってきていた。

 

 シズクは能力上、これまで一瞬で敵を倒してきた。だから『最速最強』という名前を周りが付けた。しかし、ここまで戦いが長引いたのは初めての経験だった。

 本来、10分などかかるはずもない。だがこれだけの数の能力者(勇者)と戦ったのは初めてのこと。

 それ故に彼女はエネルギー切れを起こし始めていた。

 

「貴女には……決して倒せない……でしょう」

 

 しかし歌野も限界なのは変わらない。持ち前の精神力と大事な目的の為に、必死で耐えている。

 

「仲間のいない……"ひとり"の貴女には私たちは決して倒せないッ。……例え立場は違っても互いを強く想うマジェスティックな"力"。それはどれだけ傷付けられようと決して切れない"絆"ッ‼︎ だからっ農業王(大地の王)は……絶対に敗けないわッ‼︎」

 

 歌野の気迫に呑まれそうになる。だがもう武器を振るうだけの力など無いのか、腕は力無く垂れ下がっているだけだ。

 

「その虚勢だけはすげーぜ! もう身体は動かねえのに口だけはよく動きやがる!」

 

 両手でまた、雷球を生成して上空に放り投げる。

 

「だがもう落ちろ。農業王(大地の王)らしく、地に眠れ」

 

 今度こそ確実に歌野を仕留める為、雷球を今まで以上に巨大化させていく。

 

 

 ……だがその時、ひとりの少女が立ち上がった。シズクはすぐに気付いて視線を送る。

 いつ起き上がるのか、ずっと気にしてきたその少女の方へ。

 

「……おい。()()()()()()()

 

 遠くの空を見る。本隊はもうすぐそこまで来ていた。間もなく砲撃が始まるだろう。

 

 ……歌野は変わらず笑っていた。勝利を確信した笑みだ。

 

 

「結城……友奈……ッ」

 

 再びシズクは、自身の天敵ともいえる結城友奈と相対することになる――。

 




この奉火祭編で白鳥さんが戦った敵はというと。

何でも食べる能力者→砂になれる能力者→電撃を繰り出す能力者。

 …………詰め込みすぎて忙しすぎですね。(さらに氷の能力者とも戦いましたよね)




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