シズクが大地の上で全身電気になったら一瞬で大地に流れることになるけど、それって死ぬってことなのかな。
やはりでんきはじめんに弱いのか……。
前回のあらすじではない
しずく「私は山伏しずく」
シズク「俺は山伏シズク」
しずく「主人格は私」
シズク「だが今は俺の割合の方がデケェ」
しずく「だから……?」
シズク「俺が主人格になる日も近いな」
しずく「私が主人格」
シズク「俺だ」
しずく「わたし」
シズク「おれ!」
しずく「わたし……!」
しずく・シズク「おれし!」
蓮華「俺氏?」
歌野「ハーフ&ハーフね♪」
立ち上がった結城友奈を見て、シズクは眉間に皺を寄せ睨み付ける。だがその表情に焦りがあるのは見てとれた。
「ホントに立ち上がりやがって……ッ」
歌野といい友奈といい、いくら勇者が一際頑丈だといっても程度が過ぎるというものだ。
「何度も何度も何度も……ッ、いい加減にしやがれ‼︎ どうすればくたばってくれんだよ⁉︎」
その問いは怒号のように周りに轟く。友奈と歌野は二人とも肩で大きく息をしているだけで答えない。
シズクは両手で電気を発生させようとする。しかし、両手の間に生まれる電気は目に見えるか見えない程度。
先程空に投げた雷球にかなり費やしたせいか、一時的なエネルギー切れを起こしている。
「チャンスねっ!」
攻撃が来ないと確信した歌野は右手を上げてベルトを振るう……ようにしたかったが腕が上がらない。
「あら……? あららら? 身体……が」
シズクは歌野から結城友奈へ視線を移す。呼吸する音は大きく、こちらまで聞こえるほど。また、一向に動き出す気配がない。
「はぁっ……はあ、はあ……はあ……」
歩いて友奈の前に立つ。
「おい。……お前、ホントに"勇気"は戻ったのか?」
今すぐにでも"勇気"を纏って殴りかかってくれば、回避するのは難しい。そのぐらいの距離まで接近していても攻撃はこない。
「なあ? ホントに"勇気"は戻ったのかあ⁉︎ 結城友奈ァ‼︎」
電気を帯びた拳で友奈の腹部を殴り、吹っ飛ばした。
「……ウッ!」
「ホントに10分経ったのかあ? ホントに10分で回復したのかあ⁉︎」
あれだけの攻撃を受けておいて10分で動け、なおかつシズクを倒せるほどの"勇気"を使えるようになったとは考えられない。
……それにジャスト10分など、誰が計っているわけでもない。
「お前の方がとんだ"ペテン師"だったぜ。結城友奈ァ……」
――大社本部から派遣されたバスターコールの本隊。数は5隻。1隻の木船に数人の防人と武装した大勢の神官が乗っている。
「弥勒さん! 1分足らずで姫路城が射程圏内に入ります!」
同じ木船に乗っている防人の声に、"三大将"弥勒夕海子は応える。
「分かりましたわ。……各位、砲撃の用意を。まずここから試し撃ちを行い、改めて正確な射程を見極めます」
スマートフォンを使い、他の乗組員へ話しかける。
「各船の指揮者は砲撃の号令と、標的の捕捉をお願い致しますわ!」
『了解』『了解だ』『承知しました』『…………』
標的とは藤森水都のこと。
このバスターコールは姫路城を一斉攻撃するものだが、今回は"奉火祭"の最重要人物である藤森水都の身柄の確保も兼ねている。
よって各船の長を任されている者は双眼鏡などを用いて彼女の捜索を行う。
「……あら? ひとり返事が聞こえませんでしたわ。聞こえてますの?」
四人中三人の返事は聞こえた。しかし一名は沈黙を貫いていた。
「バレバレですわ。……どういうつもりですの。
変わらず返事が無かったが、夕海子にはお見通しだったようだ。
『ひんいいいいやあああああだあああ〜〜〜!!! 帰りたいよおおおおおお!!!』
「うるっさ」
耳に当てていたスマートフォンから大きな泣き声が聞こえてきた。
「……いですわよ!」
耳鳴りがして頭を抱える夕海子。
『加賀城、黙れ』『やかましい』『耳、痛った』
『ひええっ、みんなひどいっ!?』
「……自業自得ですわ」
他三人からも半ば罵倒のような注意を受ける加賀城雀。彼女もまた"三大将"のひとりである。
『ふ、ふぇ……。ふええ〜〜ん』
「ここまで来てまだうじうじしてらっしゃるの? ……そろそろシャキッとしてください。砲撃を行いますわよ。先に向かったしずくさんたちに続いて、わたくしたちも大社のために御役目を果たさなければ!」
『う、うん…………』
雀は涙の鼻水を流しながらも、小さく返事をした。
「それでは、砲撃開始」
木船に搭載されている砲塔が次々と姫路城の方へ向いていく――。
――結城友奈は立ち上がった。苦しそうに腹部を押さえている。口から流れた血が地面へ一滴ずつ落ちていく。
「しぶといな。でも立っているのが……精一杯ってとこだろ?」
「それは……あなたも……同じだよ」
シズクの方も満足に電気を生成できないほどに疲弊している。攻撃方法も腕に電気を流して相手を殴る程度のもの。しかし、電気は生み出せなくともシズクには雷球がある。
対する友奈は右手を強く握りしめて、一点に力を集中させる。
「これで終わりだ。今回の落雷の規模はここら一帯。細え避雷針じゃ防ぎ切れねえぜ」
頭上に浮いている巨大な雷球から発する音がうるさく轟く。その間も大きさを増していく。
「――落とさなきゃいんでしょ?」
声が聞こえた。
その主は結城友奈でもなければ歌野でも水都でもない。
視線は蓮華の方へ。その後ろにもうひとりいた。雪花である。
「
槍を思いっきり上空に向かって投げる。その行き先はもちろん雷球。
「なっ……んだと⁉︎」
「消えろォォォォォォォォォ!!!!」
雪花の槍が電気を通すことはしずくに攻撃した時点で分かっていた。
槍が雷球にぶつかると、激しい光の明滅と凄まじい音が鳴り響く。
雲の中で雷が轟いているかのように、槍によって雷球はただひたすらに放電させられているのだ。
そして数秒後、雷球は霧散した。あとに残るのは、電気熱による焦げ跡がはっきりと見られる槍だけ。それが落下して地面に刺さる。
……シズクは暫しの間、声を失っていた。
「……う、動けたのか、てめ……っ」
「いやー、そちらさんの電気は効いたよ」
雪花は動けるようになったときから、このチャンスをずっと待っていた。はじめは蓮華と同じく、自分の槍を避雷針にしようかと考えたが、落雷させるよりも上空で放電させて無力化させた方が安全だと結論を出した。
「まーずっと眠ったふりしてたから気が気じゃ無かったんだよねー。……でも私も歌野を信じてたからさ。……いや、歌野たち、か」
シズクが追い詰められ、あの雷球を決め手に選ぶ瞬間を。自身の生み出せる電気の規模が縮小される中で、一旦放てば自動で出力を上げてくれる雷球に最後を飾らせることは想像に難くなかった。
そして、今にも落ちてこようとするぐらい巨大になった"それ"を、雪花の手で無力化させた――。
「さて、ここで雪花さんから問題! 今、貴女さ……
その言葉に、シズクに悪寒が走る。
確かに今、シズクは雪花の槍が飛んでいくのを、雷球を放電させるのを、自分の目で見ていた。
「……ッ⁉︎ やべぇ‼︎ しずくッ! 今すぐ俺と代わ――」
「もう遅いけどね。――
雪花がそう唱えた瞬間、脳内が停止したかのように何も考えられなくなり、睡魔に襲われる。
視界がボヤけて焦点が定まらない。黒い羽虫のようなものが目の前で蠢いているようにも見えるし、黒い砂嵐が舞っているようにも見える。
「ムチムチの
その中で歌野の叫びだけが鮮明に聞こえる。そして次に襲ってくるのは……。
「……ぐっ…………ふ」
意識が途切れる寸前だったのと、疲弊していたのと相まって攻撃を受け流せずに被弾する。シズクの左頬を回転するベルトが正確に捉えた。
吹っ飛び、地面に頭をぶつけながら二転、三転と転がっていく。
「あ……ぁあ⁉︎」
今の激痛で眠気が一気に吹き飛んだ。歌野を睨み付ける。たったの数秒程でもう動けていることに今更驚いていられない。
「
右手で歌野。左手で結城友奈へ。同時に電撃を飛ばす。
――しかし、歌野の前には高嶋友奈が。結城友奈の前には
「
「
結城友奈を守るために突然、三ノ輪銀は動き出したのだ。その事態に誰もが驚く。
「な……パシ…………」
シズクもまた唖然とする。誰の命令も受けていない、機能停止していた筈なのに。それがまさか
「何度も……ありがとう。銀ちゃん」
返答などないが、友奈は微笑んで三ノ輪銀の手を一瞬だけ握りしめた。
「……ハァ……ハァ…………クソっ」
結城友奈は歩き出す。右の拳に纏うオーラは、ハッキリと見えるほどに集約されていた。
シズクは気圧され、後ずさる。
「……こんなときが来るなんて思わなかった……」
「ああ⁉︎」
「銀ちゃんがこうなっていたことを、もっと早く知ってたら……」
一歩一歩、シズクに近付く。その度にシズクは退がる。
もし、三ノ輪銀が大社に囚われていたことを"七武勇"全員が確信していたなら……。
証拠なんて無いが、行方不明の原因が大社だと。そう勝手に決め付けていたならば……。
――もっと早くに助け出せた
「歌野ちゃんたちみたいに!」
目の前で奪われた、ということもあるが、歌野たちは水都をその日に奪い返そうと実行に移した。
相手が大社だということを承知の上で。
――姫路城の逸話を知る者たちの。
――大社の強大さを知る者たちの。
その常識を遥かに超え、覆しながら歌野たちは前に進む。
「友達を助けるためにみんなが命を懸けて
結城友奈が力強く大地を踏みしめたのを見て、シズクは上に高くジャンプした。空中なら全身が電気になれる。
そこからバスターコールの本隊である5隻の木船が砲撃準備に入っているのを見て、引き攣りながらも笑う。
「たとえ
もう攻撃できる力は残っていない。まさか自分がここまで追い詰められるとは……。
――だが、まだ"敗け"ではない。
「たとえこの姫路城が無くなろうが……"奉火祭"は執り行う! "巨大な敵"の怒りを鎮める為に! 世界の未来を守る為に! その犠牲に
「――"そこ"からみーちゃんを、逃がす為に私たちは来たの!!!」
歌野はベルトを結城友奈の身体に巻き付かせる。そしてそのまま両足に、腰に、両腕に力を入れて、真上へ放り投げた。
「ムチムチのミサイルーーッ‼︎」
飛んでいった友奈はシズクの上をとった。
そして今まで溜めていた"勇気"を解き放つ――。
「"覇王"・勇者パァァァァァァァァァァンチッッ!!!」
巨大な拳を形どった"勇気"が、シズクの全身を捉えて振り下ろされた。
逃げ場などない。自分の身体を遥かに越えた"勇気の拳"を浴びる。抗うことなどできる筈もなく――。
「…………ッ」
真下へ一直線に叩き落とされ地に沈む。
地面は陥没して、シズクは身動き取れず、白眼をむいて沈黙に伏す。
「はぁ……はあ……は」
結城友奈も落ちていく……が下で高嶋友奈が上手く受け止めた。
「お疲れさまだよ! 結城ちゃん‼︎」
「……高嶋ちゃん。……うんっ!」
そこに歌野が歩いてきた。
「結城さん‼︎ アンド友奈っ! 倒してくれて……助けてくれて、ありが――フォムグッ⁉︎」
シズクを倒してくれたこと。最後の攻撃から身を挺して守ってくれたこと。感謝の言葉を述べようとするが口を塞がれてしまう。
「歌野ちゃん」「ウタちゃん!」
そして二人は同時に口を開いた。
「「それより先に言うことがあるよ!」」
その言葉が何を意味するのか、歌野は即座に理解した。
口が解放されると、歌野は友奈たちに背を向けて水都の方を向いた。
――そして口を開けて告げる。
自分が今まで
ボロボロになりながらも、何度も電撃を食らおうとも。諦めず必死に立ち向かっていったその理由を。
――水都へ。
「一緒に帰ろう! みーちゃん!!!」
手を伸ばして歌野は笑った――。
・山伏しずく(女ですよ!):『ビリビリの野菜』を食べた電気人間。高エネルギーの電気を生み出し、また自身の身体も電気になれる。数ある『勇者の野菜』の中でも最強格の強さを誇る。
今の所『勇者の野菜』にゴム人間になれるものは無いので無敵……と思いきや白鳥さんが弱点を見出した。
ちなみにONE PIECEに倣うのなら『ゴロゴロの野菜』になるのだが、『勇者の野菜』の性質上、相応しくない名前だそうなので却下された。まあ雷の正体は電気だとフランクリンが証明してたし、上下関係ということで。
掲げる勇気は『受け入れる勇気』
・山伏シズク(女ですか?):山伏しずくのもうひとつの人格。おとなしい主人格とは真逆の荒々しい俺っ娘。多分、No.3はこの人の口調を真似したんだと思われる。能力の出力はしずくより高いらしい。性格としても戦闘向き。しずくの時は片目が前髪に隠れているが、シズクの時は隠れなくなる。
一応、しずくが眠らなくても出てこれるが、眠ってくれた方が出やすい。その為に雪花を利用したのだが……。
掲げる勇気は『あらがう勇気』
次回 姫路城、脱出