秘伝書クン   作:jejjsuususuwu

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試合開始

 

 帝国学園との練習試合当日、雷門イレブンはユニフォームに着替え帝国の到着を待っていた。

 

「き、緊張してきたっす」

 

「お、俺も緊張してきたぁ」

 

 初めての練習試合。一年生たちは緊張していた。緊張している一年生と対象的にニ年生たちは試合が楽しみだと言わんばかりの顔である。

 

「だらしねえ。 もっと堂々としてろ」

 

「で、でも相手はあの帝国だし……」

 

 緊張からか弱腰になっている宍戸に染岡は一喝する。

 そんな宍戸に円堂は元気づけるためにこれまでの練習を思い出すように伝える。

 

 重りをつけた状態で富士山をドリブルで登った。 

 タイヤでは生温いと鉄球にぶつかって吹き飛ばされた。 

 優れた選手を抜けるようにと必殺技を一万回繰り返し、技を進化させてきた。

 どれも厳しく辛いものばかりだった。 部活を辞めたくなったこともある。それでも辞めなかったのはサッカーが好きだから。 共に乗り越えて行きたいと思った仲間たちが居るからだ。

 

 宍戸はもう怯えない。

 何故なら仲間がいるから。 

 サッカーが好きだから。 

 

 顔を上げ円堂を見る。その表情に怯えはなくただ闘志だけが湧いていた。

 

 そんな宍戸の闘志を目の当たりにし他の一年生たちは自分も負けられないと気を引き締める。 一年たちに負けてられないと二年生たちもより闘志を燃やす。

 

 皆やる気十分。 俺たちは弱小イレブンなんかじゃない。こいつらと一緒にもっと()()行きたい。F F(フットボールフロンティア)の頂きにこいつらと立つ。 そしていつかは世界にだって……。

 

 いや、それはまだだ。 まずは帝国。 

 彼等を倒さなければ日本一はおろか世界の舞台に立つことはできない。 このメンバーと一緒にサッカーできる興奮ですこし想像が飛躍してしまった。 ふゆっぺとは違う、もうひとりの幼馴染の考えに毒されていたようだ。

 

 そう思い円堂は考えることをやめた。 キャプテンとしてやる気十分な仲間たちに号令をかける。

 

「みんな今日の試合相手は帝国学園だ。日本一だ。そんなすげえやつらとサッカーできるなんてすごく楽しみだよな! 俺たちのサッカーを帝国にみせてやろうぜ。そして勝とう。F F(フットボールフロンティア)に出場して優勝するぞ!!」

 

 

「「「「「「「「応っ!」」」」」」」

 

 円堂の号令が雷門イレブンの士気をあげる。

 士気、技、自信、根性。

 雷門イレブン全員が闘う覚悟はできている。

 

「ところで、風村のやつどこ行ったんだ?」

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 雷門中のグランドの近くに植えられている木の背にツンツンヘアーの少年、豪炎寺修也がたたずんでいる。 

 彼は事故で意識不明の妹への贖罪としてサッカーを辞めた。妹の由香が大変な目にあっているのに自分がノウノウとサッカーをすることは彼自身の性格が許さなかった。 

 だから今回の雷門中の練習試合を見に来ることははじめ彼の選択肢にはなかった。しかし、自分をしつこく勧誘してきた円堂と初対面の人の(何故か知っている)に塩を塗りだくってくる風村がどんなプレイをするのか気になったから試合を観に来たのだ。いや、この二人だけではない。 

 転校してきて何度か耳にした『サッカー部はヤバい』

 この言葉が彼の頭の中に残っていた。円堂(ねっけつバカ)風村(イカれやろう)以外にどんな生徒がサッカー部に居るのか。そんな好奇心も彼がここにいる理由の一つである。

 

「おーい豪炎寺、昨日の返事をしてくれ。 サッカー部に入るんだろ? 」

 

 そう声をかけてきたのはサッカー部副キャプテン、風村颯太である。

 

「昨日も断ったはずだ。 俺はサッカーを辞めたんだ。 由香が目覚めるまではな」

 

「ふーん。 で、妹さんが目覚めるのっていつ?」

 

「……わからない。 だが絶対に由香は目覚める。 俺はそう信じている」

 

「あんまり言いたくないけど、このままだとお前、実力的に置いていかれるぞ」

 

「………なに?」

 

 風村の言葉に豪炎寺は眉を(ひそ)める。

 豪炎寺修也は昨年一年生ながら名門木戸川清修のエースだった。今はサッカーから離れてはいるが、全国クラスの力はいまだ有している。 すくなくとも、全国どころか公式試合に一度も出場したことがない弱小イレブンでは歯が立たないほど実力差はあるだろう。こいつはそれがわからない莫迦なのだろうか。

 

「豪炎寺がいまどう思っていようがどうでもいけど、この雷門で、いや、日本でサッカーをするなら出来るだけ早く復帰したほうがいいぜ。 一年後には俺たち()()が世界トップクラスの選手になるからな」

 

 傲慢が過ぎる発言。 だが、当の本人は実現可能な未来だと本気で思っている。

 

「もう行くは。 一人行動しすぎてふゆっぺに怒られるのも嫌だし」

 

 そう言って雷門イレブンのもとに帰っていく風村。

 その背を見ながら豪炎寺修也は思う。

 弱小チームがたった一年で世界トップレベルになるだと? 面白い。ならまずは四十年玉座に座る帝国との試合を見せてもらおうじゃないか。サッカー後進国と言われる日本の頂点、帝国に勝てねば世界の舞台に立つことすら叶わない。

 大層な事を言ったのだ、お前たちの実力を俺に見せてみろ。

 

 

 ☆☆☆

 

「風村どこに行ってたんだ? サッカー部の進退とお前の退学がかかってんだぞ!」

 

 帰ってきた風村に染岡が詰め寄る。

 

「悪い、ちょっと()()()()があってな」

 

 悪いと言う割にはまったく反省した様子のない風村の様子に染岡は息を吐く。心の中で小野がキレるのもわかるな、と思った。 

 

「あれ、久藤監督は?」

 

 帰ってきたばかりの風村が言った。

 

「校長室に向かわれましたよ。 生徒会の人が校長からの伝言を久藤監督に伝えに来たんです」

 

 風村の疑問に少林が答える。

 自分で聞いておきながら興味なさげな顔をする風村。

 

「風村はやくユニフォーム着ろよ。もうすぐ帝国学園が来るんだから」

 

 半田が風村のユニフォームを手渡し、はやく着替えるように促す。

 

 その時、快晴だった空に厚い雲が覆い風が吹き、地面が揺れた。皆が何事かと思っていると校門の前には装甲列車をモチーフにしたような、車というには大きすぎる鉄の塊が停まっていた。

 

「……来たか」

 

 誰かが呟いた。

 扉が開き、レッドカーペットが扉からグラウンドまで敷かれる。中から軍服を着た十数人の者たちがカーペットの傍でサッカーボールを踏みつけ敬礼する。

 敷かれたレッドカーペットの上を帝国ウェアを着た11人が歩く。その様は異様な光景で彼らが放つ圧に誰も声を出すことはできなかった。

 

「あれが、帝国学園……」

 

 半田真一が呟いた。怯えはない。

 ただ、今まで感じたことのないプレッシャーに戸惑っているのだ。他のメンバーも同じく、帝国イレブンの放つプレッシャーに戸惑っていた。

 そこに丸い眼鏡をかけ、マイクを持った雷門の生徒が雷門イレブンの元に走ってきた。突然やってきた生徒に雷門イレブンは困惑する。 皆が困惑する中、風村がその生徒に声をかけた

 

「ナイスタイミングだ、角馬(かくま)

 

「知り合いか?」

 

 風丸が風村に聞いた。

 

「ああ。 去年知り合ったんだ。 紹介する、こいつの名前は角馬圭太(かくまけいた)。将棋部の部員で()()()()()雷門の試合を実況してくれる。以上、紹介終わり」

 

「はい! 小生、角馬圭太と申します。 風村から皆さま雷門イレブンの実況をしてほしいと頼まれ馳せ参じました! これからよろしくおねがいします!」

 

 テンションが高い角馬に「スゴイのがきた……」と皆一様に思った。 

 マックスが風村に質問する。

 

「これからのってどういう意味だ? そもそもソイツ実況なんてできるのか? 」

 

 マックスの疑問は当然だろう。

 サッカーの実況を将棋部員がするのだ。サッカーと将棋、共通点が見えない。

 

「ああ、角馬の父親ってあの角馬王将(かくまおうしょう)なんだ。 こいつ、父親に憧れているみたいで、実況の練習をしてたから大丈夫だ」

 

「実況の練習って何だよ。 父親が角馬王将ってのは驚いたけど」

 

「二つ目の質問の回答は以上。 順番が逆だけど、最初の質問に対する答えは……」

 

「答えは何だよ」

 

 言いよどむ風村。マックスからの質問に彼としても答えたいが、流石に今、「宇宙からの侵略者・エイリア学園がやってきて、その試合を実況してもらうから」と言えばマックスだけじゃなく、他の部員たちにも「ついに頭が壊れたか」と思われ、練習試合の前に、学校のすぐ近くにある病院に緊急搬送されるだろう。 

 四十年間無敗の帝国が、弱小チームと称されるチームと正々堂々戦い、敗北する。 

『チーム全員が世界トップ選手』そんな未来を見たくて今まで無茶な事をし続けたのだ。 帝国との試合はその第一歩。最初の一歩を踏みハズすのは御免被る。

 

 マックスからの問いにどう答えようか迷っているとサッカー部の顧問、冬海先生が額に汗を浮かべ、雷門イレブンのもとにやってきた。

 

「ハァ、ハァ、あ、あなた達、お客様を無視して一体いつまでボサッとしているのですか!? あちらは大変お待ちになっておられますよ!」

 

 冬海の言葉に雷門イレブンはグラウンドの中央で待ちぼうけている帝国イレブンを見る。 帝国イレブンを含む雷門イレブン以外の者は一体いつになれば試合が始まるのかと苛つきだしている。

 その雰囲気に気付いた円堂は帝国イレブンに近づいてキャプテンとして帝国イレブンに謝罪する。

 円堂の謝罪を帝国学園キャプテン、鬼道有人(きどうゆうと)は受け入れ、ウォーミングアップのためにグラウンドを使う許可を円堂に求める。

 それに対し円堂は勿論だと頷き、帝国学園のウォーミングが始まる。

 

 帝国のウォーミングアップが始まり、雷門のマネージャー、木野秋は同じくマネージャーの小野冬花と共に試合が始まるのをベンチで待っていた。そこにある人物が声をかける。

 誰なのだろうかと振り向くと、左手には手帳を、頭に眼鏡を、カメラを首に()げる女子生徒がいた。 

その生徒に木野は思いあたりがないので一年生だろうかと思った。 何の用だろうかと思っていると女子生徒が元気な声で自己紹介する。

 

「こんにちは! 私、新聞部の音無春奈(おとなしはるな)っていいます! サッカー部の皆さんを、特に風村先輩を取材させていただきたく来ました! あっ、隣いいですか?」

 

「隣に座ってもいいか」と聞いておきながら返事を待たず自分の隣に座る音無に苦笑いする木野。

 二人のやり取りを見ていた小野は「この子、風村くんと近い感じがする」と長年風村に振り回されてきたことで身に付いた直感が告げていた。

 

「取材? みんなのことだけじゃなく風村くんのことも?」

 

 サッカー部の取材だけなら別に構わないが、雷門中、いや、日本一の問題児である風村の取材も、となると些か(いささ)警戒してしまう。

 

「はい! 私、実は入学式の日に風村先輩にナンパされたんです!」

 

 コイツ、とんでもない爆弾を落としやがった。

 

 こんな汚い言葉遣いを本来の木野なら使わないが余りにもインパクトが強過ぎる話に脳が少しおかしくなってしまった。いや、これだけでは大した問題ではない。問題なのは風村の第三の保護者となっている小野冬花の前で暴露したことだ。

 小野に風村への恋慕があるか木野は知らない。前に一度その場の勢いで聞こうとしたが目が怖かったので聞くことをやめてしまった。例え小野にそういった想いが無くとも入学したての新入生をナンパしていたことを知れば間違いなく小野はプッツンする。流石にそれを諌めて小野と風村が双方納得出来るように調整するなんてことはできないし、やりたくない。プッツンした(小野)の怖さを知っているからだ。

 背に冷ややかな汗が流れた。小野の最初の言動を一挙一足、一言一句逃さないように木野は神経を(とが)らせた。

 

 小野が座っていたベンチから立ち上がり、木野と音無の間に無理矢理座る。

 音無の方に顔を向けて発する。

 

「その話、詳しく教えてくれるかな?」

 

 ああ、これはダメだ。

 自業自得(じごうじとく)だが、これから散りゆく風村に木野は心の中で冥福を(いの)った。

 

 

 

 ☆☆

 

 帝国のウォーミングアップ終了後、フィールドの中央に帝国、雷門のそれぞれ11人が揃う。

 一方は余裕の表情を、もう一方は緊張で表情がカタイ。

 帝国イレブンから放たれるプレッシャーに雷門イレブンが驚いているなか、風村は原作を振り返る。

 

 帝国学園との練習試合。原作なら帝国のウォーミングアップを見て圧倒される雷門イレブンと円堂に鬼道がシュートを放つ。それを円堂が正面から受け止める。あまりの威力にグローブが焦げ、円堂は鬼道の実力を知る。鬼道がコイントスを必要ないと審判に伝え試合が始まる。

 

 というのが大まかな原作の流れだが、今現在、鬼道は円堂にシュートを放っていないし、コイントスを拒否していない。

 ①風村颯太という異物が混じってしまった影響だろうか? 

 ②俺の存在が帝国に何かしらの影響を与えたのか? 

 ③帝国は俺たち雷門イレブンの実力に気が付いていて警戒しているのか? 

 そう考え一時思考を中断し、考えを精査する。

 

 まず①だが、これは可能性大だろう。帝国の総帥影山の背後にはガルシルドがいる。だが、当のガルシルドは風村颯太の叔父(完璧超人)にナニカされて光堕ちしている。

 ガルシルドの力を利用していた影山にとってガルシルドの消失は大きなダメージだろう。

 

 次に②。これも可能性大だ。帝国の総帥、影山がガルシルド消失の影響を受けているのだろうから影山の最高傑作である鬼道有人(きどうゆうと)にも何かしら影響があるはずである。ならば、彼が指揮するチームも原作との相違点があるはずである。だが、それは実力が飛躍的に上昇しているということではない。去年のF F(フットボールフロンティア)決勝とつい先程のウォーミングアップを観た限りでは帝国の実力は原作の第一話から大きくは離れていない。誤差の範囲内だ。

 

 そして③これはない。もし、帝国が今の雷門の実力を知っていれば余裕の表情を見せたりはしないはず。

 

 しかし、余裕の表情をみせる帝国イレブンの中に一人だけ風村を睨み付ける者が一人いた。鬼道有人だ。

 何故鬼道が風村を睨み付けるのか、風村にはわからなかった。風村自身、鬼道に接触したこともなければ彼の()()()()()に近づいたことさえない。

 自分でも気づかぬうちに鬼道の恨みを買うことをしたのだろうか。心当たりが多すぎてどれが原因か全く分からないでいる。

 

 

「ん? 風村試合が始まるぞ。はやく配置につけよ」

 

 円堂が考え込む風村に声をかける。

 コイントスが終わり、雷門も帝国の選手も各々の配置に付き始めている。風村が一言「ごめん」というと風村は自分の配置につく。円堂も自分の配置につく。

 風村は染岡の隣、つまりFWの位置にいる。雷門には染岡、風村、目金の三人がFWである。しかし、目金は情報戦の担当でもあり、チームを勝利に導くための戦術家なので前半は参加せず、情報が集まりきった後半から入るのだ。(後半から入るのは目金の体力も関係している)

 なので雷門のフォーメーションはこうなる。

 

 FW       染岡   風村

 MF  宍戸  少林(目金) 半田  松野

 DF 影野    栗松    壁山    風丸

 GK           円堂

 

 試合が後半になれば相手を解析した目金が少林と交代し、試合に入る。

 

 試合開始を告げるホイッスルの音が鳴る。

 雷門対帝国。無名対無敵。劣等生(落ちこぼれ)優等生(エリート)

 雷門監督久藤道也が不在の中、試合が始まる。

 

 

 




『サッカー部はヤバい』噂話
曰く、ラーメン屋の店主を拉致ろうとして店をキャンプファイヤーにしかけたらしい。

曰く、プールや学校の建物が壊れるのはサッカー部が建設会社と裏で手を組んでいて金儲けしているらしい。

曰く、サッカー部員の親はサラリーマンを装った化け物らしい。

曰く、立入禁止区域である富士山に合宿と称して山頂まで登ろうとしたらしい。

曰く、雷門中に救急車や消防車がよく来るのは雷門親子を過労と評判で押しつぶし、雷門中を支配するためらしい。

他にも嘘か真か分からない噂話が横行している。
因みに、新聞部がサッカー部その全容を暴く事を正式に発表しており、生徒、教師、用務員、経営陣が密かに楽しみにしているらしい。

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