秘伝書クン   作:jejjsuususuwu

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試合開始②

 

 雷門中本校舎の雷門夏未に与えられた個室にて、雷門夏未と雷門中サッカー部()()監督の久藤道也(くどうみちや)の二人がいる。

 グラウンドでは雷門イレブンと帝国イレブンの試合が始まっている。にも関わらず、雷門の監督である久藤道也がコートを離れ、女子生徒と二人っきりになっているのは、久藤道也の眼の前にいる雷門夏未に呼び出された事と、雷門夏未に確かめねばならないことがあったからだ。けっしてロリコンだとか、雷門夏未に催眠術をかけて自分のことを父親と認識させるためではない。

 

「本日はどういったご要件(ようけん)でしょうか。

 私は監督としてチームを導かなくてはならない。聡明(そうめい)貴女(あなた)なら、それが分かるはずです」

 

 苛立(いらだ)ちからか語気を(つよ)めた久藤道也の(とい)に、雷門夏未は沈黙で答える。そのまま数十秒時が流れた。外から歓声が聞こえた。

 久藤道也は雷門夏未の態度を見て、要件はない、と解釈し、退室しようとする。

 

「お待ちになって」

 

 沈黙していた雷門夏未が口を開く。

 

「貴方のことは雷門サッカー部の臨時監督になられる前に、()()()()()調査させていただきました。人柄やその経歴も」

 

 雷門夏未が語りだしたが、それは久藤道也が本当に聞きたかったことではなく、また、試合直前の監督を呼びつけて話すことでもなかった。

 

「それは試合の直前に言わなければならないことですか? それだけなら失礼します」

 

 止めていた足を再び動かし始めようとした時、もう一度雷門夏未が口を開く。

 

「『風村颯太(かぜむらそうた)の退学』これについて知りたいのではなくて?」

 

「……もったいつけずに教えて頂きたい。何故今なのですか? 本人が問題を起こして退学処分は分かります。ですが、お咎めなし、となった(のち)に『試合に負ければ退学処分』これは横暴が()ぎる。

 一体誰の指示なのですか? 貴女個人で決定したとは思えない」

 

「貴方に其れを話す筋合いはないわ。 でも、これだけは言えます」

 

 真剣な面持(おもも)ちになって、雷門夏未は話す。

 

(風村颯太)の背後にいる存在に、上は目を光らせている。 今、私が言えるのはそれぐらいです」

 

 ☆☆☆

 

 雷門夏未との会合を終え、久藤道也は監督としてチームの元に向かう。

 彼女の言葉に出てきた『上』という存在はおそらく雷門中の理事長ではない。

 もし仮に理事長が、風村の背後にいる存在を警戒しているのなら、娘の安全を確保するために娘にはそんなことは伝えないはず。だが、彼女はそのことを知っている。これは理事長本人が雷門夏未に情報を流したからだろう。それならば、彼女は『上』と呼ばずに『理事長』と言えばいい。久藤道也に話しても危険はないと確信しているのだから。だが実際に彼女は『上』と発言した。彼女が『上』というからには理事長代理(雷門夏未)よりも強い権力を持っているはず。理事長代理より上と言えば理事長しかいないだろう。しかし、その『上』というのは理事長ではない。では一体誰なのか。その正体は全く不明だ。だが、久藤道也にまったく違う憶測が生まれた。

 

 風村の両親はすでに他界。保護者も仕事ばかりで世話をしているのは家政婦のみ。あいつの礼儀作法や常識の欠如は家庭環境と両親の他界が原因なのではないだろうか。『幼い時期に親から愛情を受けていない子供はそうでない子供と比べて精神的に未熟』ということを聞いたことがある。もしかすれば風村もそうなのかもしれない。いや、間違いない。普通の子供は授業中窓から飛び降りてサッカーしないし、プールを毎年破壊しない。夜中に学校に忍び込んでボヤ騒ぎを起こしたりしないし、立入禁止区域に侵入しない。もしや風村の背後にいる人物は世話をしている家政婦か? それとも保護者である叔父か。情報が少なすぎて判断ができない。

 だが、しかし、教師として、サッカー部の監督として、大人として子供を守り、育てねばならない。何が悪かったのか、何が良いことなのか、自分で気付き、反省し、改善していくことが子ども自身の成長につながるはずだ。だが、もし、間違った道を歩むのなら責任を持って止めねばならない。もし、風村が誰かに操られていたり、虐待されているのなら助けなければならない。それが教師として、大人としての責務だろう。

 

 久藤道也はそう決意し、廊下を走らないギリギリのスピードで歩く。子供を導き育てる教師(大人)生徒(子供)の手本にならなければならない。

 外からまた歓声が聞こえた。試合は前半をあと半分残している。久藤道也がチームに合流する頃には前半終了間近だろう。後半が始まる前にチームと合流し、作戦を伝える。

 

 この日より、サッカー部の部員、特に風村は久藤道也にサッカーだけでなく、道徳や勉学を叩き込まれることになる。

 

 ☆☆

 

 コイントスの結果、雷門ボールからのスタートになった。 試合開始を告げるホイッスルがなった。

 

『さあ、始まりました! 帝国対雷門! ボールは雷門イレブンからです!』

 

 染岡はボールを後ろにいる半田真一にパスして相手陣地をあがっていく。

 風村や他のメンバーも戦線を押し上げる。

 

()がれ、上がれ!」

 

 後方からゴールキーパー、円堂守がチームに檄を飛ばす。

 FWだけでなく、MFやDFも前に進む。ボールを持った半田真一は染岡にボールをパスする。半田からのパスを受け取った染岡に佐久間(さくま)寺門(じもん)がスライディングでボールを奪おうとする。染岡はジャンプして(かわ)し、ゴールに向かう。

 

「染岡先輩、パスください!」

 

 宍戸が染岡にパスを要求する。

 

「ああ! いくぞ宍戸!」

 

「はい!」

 

 染岡から宍戸にポールが渡り、更にそこから少林、半田、松野にポールが流れる。

 

「風村!」

 

 松野が風村にボールをパスする。

 松野からボールを受けた風村の前に、帝国DF五条勝(ごしょうまさる)が立ちふさがる。

 

「通らせてもらうぜ、人気投票一位!」

 

「!?」

 

 突然意味のわからない言葉を投げられて、五条はフリーズする。そのスキに風村は五条を抜き去り、帝国キーパー、源田幸次郎(げんだこうじろう)と向かいあう。

 風村がシュートを打ってきても対応できるように腰を落としてゴールを護る。

 

「オラァ!」

 

 風村のシュート。無名の選手にしてはスピードのあるシュート。しかし、KOG(キング・オブ・ゴールキーパー)源田幸次郎には例え1億回打ってもそんなシュート通用しない。

 真正面から受け止めて終わりだ。源田は迫ってくるボールをキャッチしようとするが、ボールは源田のすぐ目の前で()()()曲がった。

 

「なに!?」

 

 あり得ない軌道を通るボールに源田が硬直していると、一人の選手がゴールに向かってくる。

 丸刈りにしたピンク色の髪を持ち、強面な漢、染岡がニヒルに笑い、ボールを()()()()

 

「ドンピシャだぜ!」

 

「いけ! 染岡!」

 

「ああ! 喰らえ、俺の必殺技を!」

 

 ボールに青いエネルギーが集まり、染岡が右足でゴール目掛(めが)けて必殺技を放つ。

 

()ドラコンクラッシュ!!」

 

 (あお)い手足のないドラゴンが、エネルギーとボール共に、獲物(えもの)に飛びかかるようにゴールを襲う。

 あまりの威力と威圧感に源田は必殺技どころかボールに触れることさえできず、ボールがゴールに突き刺さる。

 

 雷門中の生徒も、実力を(はか)ろうと試合を観戦していた豪炎寺も、そして、今、ゴールを決められた帝国イレブンも、雷門イレブンとマネージャーたち以外は今起こった出来事に反応することが出来なかった。故に、静寂。

 実況の角間でさえ、それを頭で処理するのに数秒かかった。 処理が終わり、現実を認識した角間は、実況を再開する。

 

『ゴ、ゴール!! 染岡が決めたぁ! 雷門の先制点です! 繰り返します、雷門が先制点を決めました!!』

 

 

 実況の声でもっとも早く、かつ、同時に我に返ったのは、帝国キャプテン・鬼道有人と豪炎寺修也の二人である。

 昨年、()()()事故が無ければ決勝を(たたか)うはずだった二人を共通の恐怖と緊張が襲った。

 

 

「なんだ、いまのシュートは?」

 

 

 今まで見たことのない威力のシュート。

 

 デスゾーン(帝国最高火力)では敵わない。

 

 ファイアトルネード(己の代名詞)では()えられない。

 

 鬼道、豪炎寺、両者ともにサッカーで名を挙げた、謂わばエリートだ。才能だけではない。才能を開花させるために努力した。 誰よりサッカに己の(すべ)てを捧げた。そのはずなのに、なんだあのシュートは。

 無名の、それもたった二年前に再建されたサッカー部に何故こんな化け物がいる? 

 

 理解できない。

 起こってはならないことだ。

 

 豪炎寺の脳裏に風村の言葉が(よぎ)る。

 

『来年には俺たち全員が世界トップレベル』

 

 嘘ではなかった。莫迦ではなかった。傲慢ではなかった。

 

 本当に実現できることをアイツ(風村)は言ったのだ。

 

 

 試合開始からまだ、一分も経ってはいない。

 

 帝国ボールから試合再開だ。

 

 

 

 ☆☆

 

 

 

「どうだ決めたぞ! 初ゴール!」

 

 染岡が歓喜の声を上げる。

 ゴールを決めた染岡のもとにチーム全員が集まって染岡を賞賛する。

 

「ナイスシュート!」

 

「かっこよかったでヤンス!」

 

「すっごくシビレましたよ、いまのシュート!」

 

 チームメイトからの賞賛を染岡は恥ずかしそうに受け取る。そして、最高の()()をくれた風村に礼を言う。

 

「風村、いいパスだったぜ!」

 

「帝国のゴールキーパー、シュートだと勘違いしてたし、やっぱ風村の器用さってホントとんでもないよ」

 

 そうなのだこの選手(風村颯太)。サッカーにおいては誰にも負けない技術を持っており、それが必殺技と言って差し支えない。

 ボールの進行方向を自由自在に操作する。こんなことが出来るのはコイツだけだろう。

 ボールの進行方向が突然逆になるなんて誰にも予想が出来ない。源田が弱かったのではない。コイツの技術が化け物すぎるのだ。

 

 

「よーし! もう1点! ガンガン攻めてくぞ!」

 

 

「「「「「「おう!」」」」」」

 

 

 雷門イレブンが先制点を取り、士気が爆発する。

 先制点を奪われた帝国イレブンは困惑していた。

 

「なんなんだ今のシュートは」

 

「明らかにデスゾーンを上回る威力だぞ」

 

「いや、11番(染岡)のシュートもそうだか、99番(風村)のあれば何だ? パスの必殺技なのか?」

 

 染岡のシュートは帝国イレブンたちに衝撃を与えた。

 しかし、それをアシストしたのは風村からの変幻自在のパスだった。ボールがキーパーの直前で軌道を変える。その技術を必殺技だと誤認してしまっても可笑しくはないだろう。

 巣を突かれた蜂のように慌てる帝国イレブンに帝国キャプテンテン鬼道は一喝する。

 

「確かに11番と99番の組み合わせは脅威だ。それならこの二人を近づけさせねばいいだけのこと。あの一点は俺たちの油断から産まれたようなものだ」

 

「どんなシュートを持っていようと、撃たせなければ意味がない。 洞面(どうめん)咲山(さきやま)。11番と99番をマークしろ。 この二人を近づけるな。

 寺門(じもん)佐久間(さくま)、デスゾーンを開始する。 洞面の位置に寺門が入れ。 俺が始動を行う。 ディフェンスはー」

 

 冷静に指示を出す鬼道であったが、実は彼がもっともショックを受けていた。

 帝国の狙いは転校してきた豪炎寺修也の力量の把握。

 雷門イレブンのことなど気にしていなかった。

 だが、練習試合とはいえ、相手の情報を知らないということは司令塔としての鬼道有人が許さなかった。

 調べによると、雷門はその昔は強豪だったようだが、それ以降は()ちぶれたようで、今のチームは二年前に再建された弱小チーム。 公式試合にも参加記録がなく、どんな選手が居るのか全くわからなかったが、所詮は弱小。帝国が遅れを取ることなど無いと判断し、雷門のリサーチは終了した。

(調べる過程で雷門中の様々な噂を知ったが、こんなことが毎年起こるなんてあり得ない。と思ったが、もし噂が本当なら、妹である音無春奈が影響されたり、巻き込まれていなければいいが、と心配して前日は眠れなかった)

 

 

 だが、蓋を開けてみれば厄災が出できた。

 帝国エースストライカー、寺門を遥かに上回る必殺シュート。 己を上回る超技術の持ち主。それを見て一切慌てるどころが、次は自分が決めると云わんばかりの表情の雷門イレブンたち。

 再建されてニ年なら奴等は二年で帝国(頂点)を超えたことになる。そんなことがあり得るか? 厳しい練習を、日本各地からやってきた天才、秀才たちとの過酷なスタメン争いを制した自分たちが弱小チームに劣る。

 その事実が鬼道を苦しめる。それに加え、実の妹、音無春奈がウォーミングアップ中に発言した言葉がより心抉(こころえぐ)られる。

 幼い頃はずっと一緒にいた。春奈がいじめられたら真っ先に駆けつけて守った。

 その後自分は鬼道家に引き取られ、春奈は別の家に引き取られた。帝国に入ってFF(フットボールフロンティア)三連覇すればまた、春奈と暮らせる。幼い頃のように兄妹一緒にいられる。そのためにサッカーに総てを捧げた。

 

 その裏では、風村とかいう鬼道以上の技術の持ち主が春奈に近付き、春奈を手に入れようとしていた。

 最悪(恋人関係)の状況になってはいないが、雷門のマネージャーと話をしていた表情は風村を意識していることが感じ取れた。

 

絶対に赦さない

 

 

貴様(風村)に春奈が護れるか? 

 

 

春奈を幸せにできるか? 

 

 

貴様(部外者)に勝利も春奈も渡さない

 

 

 

 一切の油断なく、全力をもって叩き潰す。王者として、兄として負けるわけにはいかない

 

 

 

俺たちの実力を雷門に教え込んでやる

 

 

さあ、サッカー(蹂躙)を始めよう

 

 

 

 

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