「颯太にとっては良くない展開だな」
豪炎寺修也はその呟きを聞き逃さなかった。
「? 雷門は2点のビハインドがあって、今も攻め続けている。 これの何処が良くないんだ?」
豪炎寺の指摘は万人がそう理解する正論だが、颯太郎は違うらしい。
「んんー、雷門にとっては良い流れだ。でもそれはチームの話だろ? 風村颯太というプレイヤーにとって自分がボールを持っていられないなんてのは退屈以外の何物でもない。あの子我慢強くないんだ。もうすぐ爆発する」
その言葉通り、風村颯太は我慢強くない。あと欲深い。
前世でも欲深い男であったが生まれ変わり、
ゴールを決めたい。力が欲しい。異性にモテまくりたい。美味いものを死ぬほど食いたい。年単位で眠り続けたい。
人間の持つ欲求とは恐ろしいもので一度
ゴールを決めた。
美味いものを食った。思う存分眠った。
そして必殺技を使った。
これにより風村颯太は他の人間と比べて倫理観や理性の許容できる幅が拡がり、グレーなことも
そんな人物が我慢や自身の身を粉にしてチームに貢献する等という
ボールに触れず、ゴールも決められない現状を耐えられるはずもなく、暴走してしまうのは当然の道理だろう。
「ほら、僕の行ったとおり、暴走し始めたよ」
幻獣が一匹、ピッチに出現した。
☆☆☆
side:
『順調』
それがこの作戦の中間評価。
傍から見れば帝国は雷門に攻め続けられている様にしか見えていないだろう。しかし試合開始時点と比べると状況は少しずつ帝国よりに傾いてきている。その証拠に雷門はあれからゴールを決められていない。
雷門のゴールキーパーも含めた全員攻撃は得点のチャンスが増え、帝国の選手により負荷をかけているが、それは裏を返せば雷門のゴールがガラ空きになり得点されやすく、雷門側にも疲労が溜まっていく。
雷門のFW二人は佐久間たちが潰れる覚悟で抑えてくれている。人数差は帝国が不利だが、あの二人のFWレベルと同程度のストライカーが居ないため、
このまま雷門を自陣に釘付け、意識を完全に俺達に向けた段階でカウンターを仕掛ける。雷門のゴールキーパーも攻撃に参加しているので、得点できる確率は極めて高い。
俺から五条、辺見、鳴神、万丈、源田、大野、そして俺へとボールを回していく。個人がボールを保持し続ければ囲まれてボールを奪われる。そうなれば奪い返すのは至難の業だ。
パスのみを徹底させ、雷門の選手をバラけるように仕向け、現状を打破するチャンスを待つ。
ボールが辺見から鳴神に渡った瞬間、佐久間たちが抑えていたはずの
「限界だァァ!! ボール寄越せ!!」
「ッッ!?」
タックルを鳴神に仕掛ける99番。
99番の奇襲に硬直し、タックルを
「アアアアアアアアッッ!!!」
ボールを奪った99番は
叫びと共に99番の身体から
「何だ、アレは?」
その言葉を発したのは俺だったのか、帝国の誰かなのか、はたまた敵である雷門の選手なのか分からない。
しかし99番から現れたソレは、誰もが知る生物だ。
獰猛な蒼い瞳。鎧のような
口から
───
大気を震わす龍の咆哮に、本能的な恐怖がこみ上げてくる。
強い、強くないの物差しでは測れない。
帝国、雷門共に龍の存在感に威圧され、試合中であることを忘れ
「に、逃げろ!」
この言葉を
フィールドの外側に居るのは雷門のマネージャー達(一人は何処かに走っていた)と、生き別れの最愛の妹春奈、雷門のユニフォームを着た眼鏡の生徒と雷門の監督。そして審判と名解説角間王将似の雷門生徒。
フィールドには帝国11人と雷門10人と龍が一体。
龍が更に雄叫びをあげようとした瞬間、
「風村────!!!」
雷門のゴールキーパーの叫びがフィールド全体に届いた。
☆☆
円堂守がいち早く我に返ったのは、
一年前、入学式が終わりサッカー部の部室を掃除していた
「化身、松風天馬、フェイ・ルーン、アームド、未来、プロトコル・オメガ、タイムマシーン、セカンドステージチルドレン、ミキシマックス、
木野は「またか」、と呆れた。
小野は45度の角度で手刀をいれる準備をした。
そして円堂は、『化身』、『アームド』、『ミキシマックス』
この三つの単語に不思議と
手に持っていた
「化身? アームド? ミキシマックス? ってなんだ?」
円堂は純粋な興味からの質問であったが、風村はバツが悪そうな表情で「これって教えてもいいのか?」とブツブツ呟き、悩んだ。
悩んだ末に風村は、「ちょっと早いけど、どうせもう少しで知るからいいか」と結論付け、円堂の疑問に答えた。
化身の概要、化身アームドの効果、ミキシマックスの原理等を丁寧に教えた。
これだけなら良かった。化身やミキシマックスはその存在を知ったところでどうしようもないのだから。
(名も無き小市民という例外あり)
しかしそれを聴いた円堂のテンションは高まり、風村を褒めまくった。
「スゴイ」、「カッコいい」、「もっと教えてほしい」等の言葉に風村は超絶調子に乗った。
化身やミキシマックスのついでに、ということで頼まれてない『ソウル』についても教え、『ソウル』について、自身の考察も円堂に披露した。
その結果、円堂の中では「化身とソウルは努力でどうにかなる技術であり、ミキシマックスは二人必要」という結論に至った。
それからというもの、円堂は必殺技だけでなく、化身やソウルを習得する事も目標にした。
そして現在、ソウル又は化身を出し、意識を失っている風村に円堂の魂の叫びが呼応し、風村は意識を取り戻した。
風村颯太の背から現れた龍は、本体である風村颯太が意識を取り戻すと
意識を取り戻した風村颯太の身体には
ではない汗が流れ、顔色が悪い。
龍を出現させた風村颯太に帝国、雷門問わず様々な色が混じった視線が集中する。
恐れ、好奇心、興奮、驚愕、失望。
誰も言葉を発さない中、円堂守だけが風村颯太に近付いた。
「大丈夫か?」
颯太は円堂の言葉に頷いた。
「そっか」
そう言って、円堂は風村からボールを取り、フィールドの外に蹴り出した。
「さっきの化身か、ソウルか知らないけど、かっこよかったぜ? ドラゴン」
嘘偽りない真っ直ぐな心を風村に伝え、円堂は走りながら相手のスローインに備えるようにチームに指示を出した。
我に返った雷門の選手達は急いでスローインに備え、その動きを見ていた帝国の選手達も改めて動き出した。
去って行く円堂の背を見ながら、風村は頬を手で叩き、笑った。
「よし、試合再開と行くか」
2ー0 前半39分。
帝国のスローインから試合が再開される。
☆
龍の出現に観客たちは驚き、恐怖し、逃げ出した。
観客として残ったのは豪炎寺と風村颯太郎の二人だけである。
豪炎寺は龍の出現に驚いていたが、隣で観戦していた風村颯太郎はアレを知っていたようだ。
興味本位で問うた。
「あのミサンガやスパイクがあれば、あの龍を超えられるのか」と。
しかし颯太郎は首を横に振り、無理だと告げた。
そして豪炎寺は隣の颯太朗の顔を見て一瞬、豪炎寺の時が止まった。止まったように感じた。
颯太朗の眼には光が無かった。真っ黒で無機質な瞳。
何者も映さない闇がそこにあった。
唾を呑み込み、一歩後ろに引く豪炎寺。
そんな豪炎寺に颯太朗は嗤った。
「大丈夫さ。 ゴメンね、怖がらせて」
機械音声が聴こえた
気付くと隣に居たはずの颯太朗は豪炎寺の眼の前から消えていた。
周りを見ても人っ子一人いない。
「風村颯太、風村颯太郎……一体何者なんだ?」
彼の言葉に答える者は居なかった。
両方の作品(私の)完結させる気はあるんですけどね。