ソードアート・オンライン~死変剣の双舞~   作:珈琲飲料

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これあと1話で終わらないぞ……(ボソッ




35話 決戦 2

「ごめん。……遅くなっ、た?」

 

その手には以前の戦いで苦しめられた二振りの短刀が握られていた。この世界で神刀と呼ばれるユニークウエポンの所有者は一人だけ。それは今、刀身が炎を纏っている。

目の前を走った赤い閃光もとい緋色のフードケープをなびかせたサラマンダーの少女は不安そうな目でこちらを見ていた。

 

「……ハープ?」

 

極めつけはその姿だ。身体は目に見えない何かを纏っているらしく、その影響を受けているのか、少女の周囲は僅かに歪んで見える。

 

「いや、最高のタイミングだ。……ありがとう」

「ぶいっ」

 

ピースをして若干ドヤ顔で胸を張るハープ。

同時に存在を主張するようにぐりぐりと頭を押し付けてくるユウキに思わず安堵する。

 

「本当に無事でよかった……」

 

自分の胸にはすっぽりとユウキが収まっていた。伸ばした手は届かない、そう思っていたはずなのに受け止めた体から確かな感触が伝わってくる。そして彼女に放たれた光の矢も、それを撃った騎士も、存在を証明していたポリゴンが淡い光となって散っていた。

 

「うん……。でもどうしてハープが?」

「あー。説明してなかったからなぁ」

 

一連の流れに理解が追いつかず、疑問を浮かべるユウキ。

さてどこから話せばいいのか……。これは悩める。

 

「―――っ! ユウキ、それよりまたお客さんだ」

 

唸りながらどこから話すべきか思案していると、そんな暇など与えないと言わんばかりに騎士たちの攻撃が再開される。

 

「わ、わぁっ! もうしつこいなぁ!」

「まあそう言うなって、こいつらはしつこく阻むのが役割だし」

 

ぱっと身体を離すとお互いに武器を構えなおす。迎撃態勢に入った俺たちに早々に突っ込んでくるのは先ほどユウキに魔法を放った集団とは別の騎士たちだ。仕掛けてくる斬撃を躱してすれ違いざまに剣を横に払う。続けて用意していたスローイングダガーを腰のポーチから数本引っ張り出すと大まかに狙って敵の集団に投合した。殺傷としての意味は皆無だがそれでも一応刃物に分類されるアイテム。狙い通り牽制として役割を果たすナイフを見届ける前に、俺は距離を取ってユウキに声をかけた。

 

「悪いなユウキ、落ち着いたらちゃんと説明するから」

「……絶対だからね」

 

けど、と言葉を加えつつユウキはハープのほうへ視線を移した。

 

「……どうし、たの?」

「さっきのやつ、どうやったらあんなに速く? それにその姿も」

「――――んっ! ……これのこと?」

 

そう言いながらハープは敵を斬りつけると同時にその場で一回転してみせる。すると突然、脳が身体に警告を送るほどの熱を感じ、それが周囲に満たされた。巻き上がる熱の波、それに共鳴するように神刀が一層燃え上がる。そして蒸しかえるような熱風を従えたハープはそのまま剣を構えると――――――ゆらぁと消えた。

 

「っ、嘘!?」

 

比喩なんかではない。文字通りその場から消え失せたのだ。そうして次の瞬間には離れたところで攻撃の機会をうかがっていた騎士の両腕が斬り落とされる。咄嗟のことでアルゴリズムの処理が追いついていないのだろう。無くなった部位を虚しく振り回し、金切り声をあげる騎士はこの戦いにおいて既に置物と化していた。再び消える影、無力化されていく騎士たち。

 

「熱、魔法」

 

気付くとこちらへ戻ってきたハープが何でもないように軽くその種を明かした。しかし初めて耳にする属性に俺とユウキは互いに首を傾げる。

 

「熱……?」

「魔法の基本属性のなかに炎があるのは知ってるけど……」

「……ああ。熱ってのは聞いたことないな」

 

ルグルー回廊で戦ったサラマンダーの部隊やヨツンヘイムで遭遇したウンディーネのパーティーから散々撃たれた魔法を思い出す。だが炎魔法の扱いに長けているはずのサラマンダーのメイジ隊でも熱なんて属性を使っていた覚えはない。

 

「知らなくて……無理ない。特殊、だから」

 

あとになって分かったことだが、魔法が実装されているALOにおいて使用できる魔法には適正と条件が存在するらしい。前者はその言葉通り魔法の得手不得手に関する要素であり、その使用に制限はなく誰でも発動させることができる。大半の魔法はこれに該当し詠唱者の種族によって魔法に補正がかかることが特徴だ。例えばシルフであるリーファが風属性の魔法を発動すればその魔法には威力上昇や効果継続などの上方補正がかかる。逆に炎や水などの属性を使おうとするとサラマンダーやウンディーネの術者には数歩劣ってしまう。それらを加味して基本的にメイジと呼ばれるジョブは自分の得意属性を強化していくのが定石とのこと。

 

「この魔法、使えるの……領主。サラマンダーの、<モーティマー>だけ」

 

その言葉を聞いて俺は思わず息を呑んだ。つまりこの熱という属性に分類される魔法は完全な固有スキルというわけだ。それも領主しか使用することが許されない切り札。あれほど不可思議な効果を及ぼす魔法なのだから、おそらくずっと秘匿され続けていたのだろう。来たるべき時に備えて。

 

「でもハープは領主でもないしモーティマーって人でも……」

「…………魔法の一時的な譲渡。ゲーム風に言うなら<付与>ってとこか?」

 

魔法の付与なんて聞いたこともないし普通は考えられないがそれくらいしか思いつかない。ユウキの疑問に答えるように俺はハープに問いかけた。

 

「正、解」

 

俺の言葉に得意気な笑みを浮かべるハープ。

 

「少しだけ……私も、使える」

「……それってつまり」

「サラマンダーの領主がハープのことを信じて託したってわけだ。そしてそれは――――」

 

刹那。

俺の説明を遮って塔内部に新たな音が響いた。

赤く燃える金属鎧はがしゃりと重い音を立て、その存在を天に舞う騎士たちに示す。そして重厚な朱の塊は塔内底辺部に号令と共になだれ込むと一斉に背中の翅を震わせる。雄叫びを上げて飛び立つその様はこの世界で最も戦闘に長けた炎の妖精たち。

 

「―――種族全体としての決定ってことだ」

 

サラマンダー。その大部隊がグランドクエストに雪辱を果たす瞬間だった。

 

 

 

―☆―☆―☆―

 

 

 

「ダメだ、許可できない」

「……っ」

 

否定の言葉と共に向けられる赤い瞳がまっすぐ自分を射抜き、ハープは苦悶の表情を浮かべた。ぎゅっと握られた拳は望みが絶たれたという事実を飲み込めずさらに力がこもる。

それでもここで引きさがるわけにはいかない。再び自分に言い聞かせたハープは口を開いた。

 

「どう、して?」

「今言った通りだ。グランドクエスト攻略には時間をかける必要がある。装備を整えることはもちろん、攻略の糸口となる情報収集。それに部隊内での連携とプレイヤー個人の練度の上昇……やるべきことは山ほどある。それは前の攻略に参加したお前も良く理解しているだろう?」

「それは……」

「加えて今回のシルフとケットシーの会談襲撃の中止。これはサラマンダーとしても痛手となった。他種族からの印象も含めてな」

 

畳みかけるように説明をするモーティマーは一呼吸置くと組んだ手を机に投げ出した。

 

「お前が他人に対して、特に他種族のプレイヤーにそこまで興味を持つのは珍しいが、それだけの理由で攻略部隊を出せるほど今のサラマンダーに余裕はない。それが領主としての俺の判断だ」

 

分かってくれ。最後にそう締めくくって、モーティマーはハープから視線を外した。

 

「でも――――」

「話は終わりだ。下がれ」

 

なおも食い下がるハープに言葉を被せ、モーティマーは続きを遮った。

鋭く尖った雰囲気は言葉で表さずともハープに訴えかけている。二度目はない、と。

 

たまらず腰に差した短刀にハープは手を伸ばす。短絡的だと理解はしている。それでも何の成果も得ることができないまま引きさがる自分を想像して、ハープは焦りと憤りを感じていた。かくなる上は領主としての権限をかけて――――

 

「まあ落ち着け」

 

その時、よく通る低い声が部屋に響いた。そして声の主は刀を抜こうとしたハープをそっと制すると静かに前に出る。

 

「……ユージーン?」

「何の用だ? 次の指示を出すまで待機を命じていたはずだが」

 

唐突に現れたユージーンを怪訝そうな目で見るモーティマー。

 

「別に大した用ではない。次のレイドクエストについて編成を相談しようと思っただけのことだ。まあ不本意ながら中でのやり取りを聞いてしまったわけだが」

 

にやっと獰猛な笑みを浮かべたユージーンにモーティマーはぴくりと頬を動かす、がすぐに表情を戻すと口を開いた。

 

「お前が意見しても決定は変わらないぞ?」

「それはどうだろうな」

「……何?」

「聞けば頼みを断った大きな理由は無条件の協力。要は全体として動くためのメリットとそれ相応の理由があればいいわけだろう? これを見てくれ、兄者」

 

そう言って自分のウインドウを操作するとそれを可視化させてモーティマーとハープの前に表示させる。そして映し出されたものを確認した瞬間、モーティマーの表情が驚愕に染まった。

 

「馬鹿な……。エンシェントクラスの装備が部隊に行き渡るまで目標金額の半分ほどしかなかったはずだ」

「それが……これ、全部?」

「そしてハープが話していた男から言伝を預かっている。……『もし今回の一戦に協力してくだされば、資金の提供とALO最強の三人を一か月無料でお貸しします』だそうだ」

 

ユージーンはさらに続ける。

 

「その三人というのは俺から見てもかなりの強者、現にそのうちの一人に俺は負けた」

「お前を倒すほどのプレイヤーが三人……」

 

もしその三人が一か月でもレイドに加われば他種族を抜いてサラマンダーの優位は揺るがなくなる。そして先ほどのエンシェントクラス装備の購入資金。一回の出撃としては破格の条件にモーティマーは逡巡した。

 

「……分からんな。現状攻略不可能とまで言われているエンドコンテンツになぜそこまで賭けることができる? その男の目的はなんだ?」

 

<甘い話には裏がある>のがALOに限らず世界の常識だ。警戒心を強めたまま、モーティマーはユージーンに問う。

 

「それがだな……」

 

するとユージーンはバツが悪そうに頭を掻いた。

 

「俺も言いにくいんだが……」

「勿体ぶるな」

「『親友とその恋人を早く会わせてやりたい』と言っていた」

 

百に迫る部隊を動かすにはあまりに弱い答え。しかしその答えに、警戒心を隠さずにいたモーティマーは思わず吹き出していた。込み上げてくる笑いを抑えようともせず、楽しそうに、吐き出すように笑った。

 

「あ、兄者?」

「くくっ、すまんすまん。こんなに面白かったのは久しぶりだ。お前を負かし、ハープをここまで変えたそのプレイヤーたち……。俺も少し興味が沸いてきた。」

 

目じりに浮かんだ涙を拭うような仕草を経て、モーティマーは数秒目を閉じた後にハープを見る。

 

「ハープ、お前に聞きたいことがある」

「……何?」

「お前にとってそのプレイヤーたち……いや、カエデというプレイヤーはなんだ?」

「仲、間」

「それだけか? 弱いな」

 

突き放された返答にハープはさらに続けた。

 

「モーティマーと、ユージーンが……この世界で、私に居場所をくれた。カエデは……カエデは私に、生き方を……この世界は生きているって、教えてくれた」

 

そしてハープは静かに耳を傾ける兄弟に告げる。

 

「わたし、は…………カエデが―――」

「――十分だ。その続きはカエデとやらに直接伝えてやれ」

 

最後まで言わせることはせずモーティマーは満足げな笑みをハープに見せた。

 

「お前の覚悟と想い、委細承知した。……ユージーン将軍」

「はっ!」

 

先ほどまでのやり取りが嘘のように執務モードに入った二人。装備の調整や出撃ルートなど、急な話の変化に追い付けずハープは珍しくぽかんとしていた。

 

「今からすぐに動けるか?」

「問題なく」

「戦場での指揮はいつも通りお前に一任する。編成は前に伝えたグランドクエスト攻略用の陣形を使え。お題目はそうだな……種族の壁を越えた<義>によってグランドクエスト攻略を援護、としよう」

 

燃える瞳を輝かせてモーティマーは椅子から立ち上がると

 

「さて、他種族からの信頼回復に一役買ってもらおうか」

「俺もグランドクエストへのリベンジを果たさせてもらう」

 

兄弟でこつんと拳を打ちあった。

そこでようやく我に返ったハープの前にモーティマーは立つ。

 

「ハープ、お前に領主としての力を貸し出してやる」

「……力?」

 

手早くウインドウに指を走らせるモーティマーに聞き返すと、その返答は通知となってハープに返ってきた。

 

「熱―――俺だけが使える最強の魔法だ」

 

 




モーティマーの描写って原作でもなかった気がするので
兄弟のやり取りは少し自信ないです。

それと熱魔法はオリジナル要素です。
ケットシーの切り札が竜騎士隊なので各種族にオンリーワンの何かを持たせたいな
と考えた結果こうなりました。


次回もよろしくお願いします!
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