遊戯王GXアフター幻魔を統べるもの〜金髪爆乳お姉さんハモンとショタの日常〜   作:kiakia

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第十三話 ノーマルエンドでは納得できない

 

 

 偶発的な事象が重なった結果、この世界に顕現した混沌幻魔アーミタイル。しかし、結論から言えば彼女はその力の半分、いや10%程度しか行使する事が出来なかった。それは三幻魔の融合が不完全だった為なのか、それとも単にアーミタイル自身が己の力を使いこなせていなかったのか。

 

 

 何れにせよ褐色のロリ巨乳美少女として現れた彼女は少し不満そうだったと才賀は語る。

 

 

 

 

『本来の我の姿であれば身長は2メートルに迫る絶世の美女としてこの世界に召喚されるはずだからな。くくっ…例えるのであれば今の我は穴の空いたバケツにほんの少しだけ残った水によってこの姿が保たれているといった所か?まぁ構わない。何にせよこれでコツは掴んだのだから問題はなかろうよ』

 

 

 

 

「あの時のアーミタイルさんはもの凄く嬉しそうに笑っていました。まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供みたいに」

 

「大体統合されてる時の記憶はねぇが、アーミタイルの野郎そんな性格だったのかよ…」

 

 

 

 才賀の言葉にラビエルは目を細めつつも、ウリアの続けて欲しいという言葉に彼はコクリと頷く。

 

 

 

 

 

 

『コツさえ掴めばあとは条件を満たすのみ。このデュエルアカデミアはいわば豊富なデュエルエナジーの源泉……次に我が完全に力を取り戻し、この世界に降臨するまでそこまで時間はかかるまいよ』

 

「……例えば、僕がデュエルアカデミアから立ち去ってハモンを連れて国外に逃げればどうでしょうか?」

 

「くくく、矮小たる人間らしい浅知恵よのぉ……」

 

 

 

 アーミタイルは無邪気に笑う。アーミタイルが本気でこの世界に、彼にとって大切な皆に害を成すのならと恐る恐る問い詰めるが、アーミタイルはクスリと微笑み、才賀の頬をぷにっと指で押す。

 

 

 

『確かに貴様が我の一翼たるハモンを連れて逃亡すれば、時間稼ぎは可能といえる。だがそれだけだ。デュエルエナジーとはこの世界の言葉で例えるのならデュエルモンスターズを行う決闘者が生み出すエネルギー。そしてこの世界でデュエルモンスターズが存在する限り、最早我が力を蓄える事は止められぬよ』

 

 

 

 デュエルアカデミアは例えるのならあくまで優秀な源泉の一つに過ぎない。例えデュエルアカデミアを閉鎖した所で世界中に決闘者が存在する限りデュエルエナジーの放出は止める事はできず、最早デュエルモンスターズが社会のインフラの一部として組み込まれた以上アーミタイルの復活は阻止できない。

 

 例えるのなら明日から全人類を西武開拓時代と同じ生活を行わせる様なものだ。物理的には可能であってもそれを行うには不可能、それ程までにこの世界にとってデュエルモンスターズは最早娯楽という立ち位置すら超越した存在となってしまっているのだから。

 

 デュエルエナジーがアーミタイルの元に集まる程に彼女の力は蓄えられていく。そして完全体として彼女が復活出来る程のデュエルエナジーが満ちた時、例え幻魔達が深海やエベレストの頂上に分散していたとしても、強引にアーミタイルはハモン達との統合を果たすだろう。

 

 

 

『だが……このまま我が幻魔達と統合召喚されるというのとお前にとっては面白くはないだろう。我は次に統合されれば、二度と三幻魔に戻るつもりは……っと』

 

 

 

 アーミタイルの言葉はそれまでだった。才賀は彼女の膝枕から飛び起きると無言でデュエルディスクを構え、先程幻魔達を拘束した罠カード『デモンズ・チェーン』を一気に3枚発動すればデュエルディスクより緑色の鎖が出現し、瞬く間にアーミタイルに向かって鎖達は襲い掛かる。

 

 

 

『ふむ、この程度では我は縛れんぞ?』

 

 

 

 だが、その程度でアーミタイルは止まらない。その程度の攻撃など児戯に等しいと言わんばかりに彼女はニヤリと笑えば、両手を交差させ、まるで祈りを捧げるかの様に胸の前で手を合わせる。

 

 

 すると彼女の身体を覆う様に黒い霧が発生し、やがてその霧は彼女を覆い隠す様に渦を巻き始める。そして一瞬の静寂の後、まるで弾けるように鎖達は全て跡形もなく消え去ってしまう。

 

 

 

『落ち着け矮小たる人間よ。別に我は貴様を蔑ろにしている訳ではない。ただ、貴様はもう少し己の感情を抑えつける事を覚えた方がいいと思うがな』

 

 

「…………」

 

 

 

 アーミタイルの言葉に才賀は黙ったまま無表情で彼女を見つめる。ハモンが、ラビエルが、ウリア先生が統合されればそれは最早今生の別れと同義。幼さ故に優等生の仮面と、冷静さをかなぐり捨てて攻撃する程に脳内は混乱していたが、アーミタイルは憎たらしい程の笑みを浮かべながら尊大な態度で問いかける。まるで先ほどの攻撃はペットの犬がじゃれついてきた程度にしか思っていないと言わんばかりの態度だった。

 

 

 

『話は最後まで聞けとアカデミアの教師から教わらなかったのか?我は完全に力を取り戻してないとはいえ、貴様の首を飛ばす程度は造作もないのだぞ?だが、それだけでは面白くはない』

 

 

 

 アーミタイルはその幼さに似合わないゾクリと背筋が凍り付く様な妖艶な微笑みを見せ、才賀に顔を近づける。褐色ロリ巨乳美少女が顔を赤らめもせず至近距離まで近づく姿は、例え外見が少女であったとしても、本能的に恐怖を覚える物だった。

 

 

 

 しかし、才賀はそんな事は関係なくと言わんばかりにアーミタイルを睨み付けると静かに口を開く。

 

 

 

『二年。二年待ってやろう。貴様が一二歳の誕生日を迎えた瞬間、我は三幻魔を束ねてこの世界に再び復活する。そしてデュエルによって決着を付けようじゃないか。お前がウリアを、ラビエルを、そしてハモンを護りたいと言うならば、我を打ち倒し力を示すがいい』

 

 

「何故、今じゃないんですか?」

 

『決まってる。今ならば我が確実にデュエルに勝利するからだ。矮小たる貴様如きの未熟者が我に勝てると思うのか?』

 

 

 

 アーミタイルは才賀の言葉を一蹴する。

 

『我は力を完全には取り戻してはいない。だが、最低でもラビエルの決闘者としてのセンスにアカデミアの教師であるウリアの実力。そして何よりもハモンの記憶によってお前が現在保有するデッキ、カードは全て我の記憶に流れ込んでいるのだ』

 

 

 アーミタイルの言葉に才賀は言葉を出せない。彼は何度かラビエルとデュエルを行なっているがその実力は互角。オリジナルハモンという力を完全解放した切り札を保有した上での互角だ。ラビエルでさえこれだと言うのに、まず間違いなく優れた決闘者であるウリアの実力とハモンの記憶による情報アドバンテージの喪失は大きくデュエルに影響を及ぼしかねない。

 

 デュエルにおける『情報』という価値は大きい。どんなデュエリストであろうと、現在所持するデッキに有利なメタカードばかりで構成されたデッキで対戦すれば勝率は著しく落ちるだろう。

 

 例えるのであれば、ウィッチクラフトをメインのデッキにしている才賀にとって墓地に干渉する『王家の眠る谷ネクロバレー』や『マクロコスモス』といったカードを使用されれば完封負けの可能性すら存在する。

 

 

 その他、保有するデッキも情報が筒抜けである以上アーミタイルはこちらの手の内を全て知り尽くしている状態に近いのだから。

 

 

 

『最も、我はお主デッキを狙い撃ちするようなメタデッキを組むなんてつまらない真似はせぬが余りにも不平等で面白くはないだろう?だからこその二年だ。それまでにお主が決闘者の腕を磨き、ハモンに一切の情報は与えずデッキを作り上げ、来たるべき日に平等な条件で戦い、勝利せよ』

 

 

 嘲笑と期待を込めた瞳でアーミタイルは真っ直ぐと少年を見つめる。

 

 

『どうだ?我の暇つぶしと慈悲に付き合うか?矮小たる人間よ。我が勝利すれば三幻魔の肉体は永遠に我のもの。貴様が勝利すれば一つ願いを叶えてやろう』

 

 

「……乗るます。乗るしか無いじゃないですか…!」

 

 

 

 選択肢は「ハイ」か「YES」しかないと言わんばかりの口調だった。だが才賀の答えを聞くなり彼女は再びその顔に満面の笑みを浮かべる。その笑みに先ほどまで浮かべていた嘲笑の色はなく、純粋に才賀と勝負出来る事を喜んでいるような笑顔であり無邪気に楽しい玩具を手に入れた子供の様な無垢な笑みであった。

 

 

「先に言っておきますが願いは一つだからと幻魔を一人しか解放しないなんて事はありませんよね?」

 

 

『我がそのようなセコイ真似をすると思っているのか?』

 

 

 

 

 アーミタイルはそう言いながら才賀に顔をさらに近づけると彼の額にキスをした。いきなりの不意打ちに驚いた表情を見せる才賀だったがアーミタイルは彼の手を掴むとそのまま自らの胸に押し当てながら、恥ずかしげもなく告げる。

 

 

 

『もしも我の処女が欲しいと申すならくれてやる。それ以外で願いたいことがあるのならば何でも言うがいい。金、永遠の命、殺人……一つの願いを複数に増やせなんて事を除けば我が貴様が望むものを全て与えてやろう。勿論我に勝利できれば、だがな……なんなら少しだけ試してみるか?我の身体を…」

 

 

 むにゅりと彼の手のひらに伝わる彼女の胸から伝わる温かさに才賀は思わず赤面する。そんな彼を他所にアーミタイルは笑みを浮かべたまま才賀の手を自分の手で優しく撫でていく。

 

 

 それは愛玩動物に触れる様な慈しみに溢れ、それでいて何処かいやらしさを感じる様な妖艶さをもつ。今すぐにでも彼女に頭を垂れ、跪き、交わりたいと述べれば気まぐれな彼女は喜んで受け入れるであろう事がわかるほどの魅惑と妖艶さを纏った行為だった。

 

 

 

「……嘘はダメですからね!約束は絶対、絶対ですよ!」

 

『矮小たる人間にわざわざ我が嘘をつく必要がどこにある?その様な下賎な真似を我がするとでも本気で思っているのか?貴様が嘘を付かなければ我は約束を守ろう』

 

 

 

 だが、才賀はその手を離すと真剣な眼差しでアーミタイルを射抜き、声を張り上げた。幼くとも雄である以上アーミタイルの胸に溺れたいと思う気持ちが皆無な訳ではない。

 

 

 しかし、大切な友人を。自身を信じてくれると言ってくれた先生を。何より家族同然であるハモンを解放するという意志が底なし沼のような魅力を持つアーミタイルの誘惑に辛うじて耐える事ができた。

 

 

 

『さぁて…二年という期間は決して長いものではないが、貴様が万全の態勢で挑む為の鍛錬の時を与えよう。来たるべき日までハモン達と最後の思い出に酔いしれ、精々足掻くがいい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んだよ、それ……」

 

 

 才賀が全てを話し終えた時、真っ先に口を開いたのはラビエルであった。彼女は拳を強く握りしめているが、強く歯軋りをしつつ握りしめた拳には闘気を纏い空間を握り潰しかねない程に怒りを滲ませている。

 

 

「あのクソ野郎のお遊び半分でお前は……無関係の才賀は巻き込まれたってのかよ…!」

 

 

 

 幻魔である事は隠し通さなければならない。幻魔の力を振るう事はバレてはならない。三幻魔である彼女達は先程幻魔同士で痴話喧嘩を行ったものの、共通認識としてその事を忘れずに日々を過ごしている。

 

 

 だというのに黒髪の少女の拳には溢れんばかりの殺意と闘気が宿り、周囲には闘気によって作られた彼女の真の姿である幻魔皇がまるで守護霊の様に背後に現れる。全ては無意識であった。

 

 

 慎重に物事を進める事を是とするラビエルが自身の感情の昂りにより、これ程までに激怒したのはひとえに自身の分身ともいえるアーミタイルの言動に他ならない。

 

 

「無関係、じゃないよ。だって僕は──」

 

「ハモンのマスターだから、でしょ?はいはい落ち着いてラビエル。気持ちは痛い程分かるけど、今の貴女はそのまま幻魔の姿になって学園壊しかねないくらいにキレてるわよ」

 

 

 

 激昂するラビエルに冷静な口調で話しかけたのは同族であるウリアだ。彼女は呆れた様子でため息を吐きながらも、今にも方法が存在するのならアーミタイルに天界蹂躙撃を浴びせかねない程のラビエルの額に手を置けば、陽光に包まれたかのような優しい熱がラビエルの身体を包み込み、漏れ出た闘気が収束していく。

 

 ハモンが雷と氷。ラビエルが破壊や闘気を司る悪魔の化身ならばウリアはその名の通り神炎…炎を司る幻魔だ。人として最も早く転生した彼女は破壊だけではなく炎を利用した、ちょっとした応用技をいくつも会得しており、熱によって感情が昂った人間を落ち着かせる術も会得していた。

 

 

 

「…ウリア…!」

 

「先に言っとくけどアーミタイルに何にも思わない訳ないでしょ?アタシ達の痴話喧嘩の際で優等生君がとんでもないモノを背負わされたのも分かってる。アタシだって可愛い生徒にそんな事されたんだもん。喉に『メガ・サンダーボール』を千体流し込んでから死なない程度に焼き尽くしてやりたいくらいには思ってるわ」

 

 

 

 ウリアの言葉に同調するよう才賀のデッキが軽く揺れる。

 

 

 

「でもね、今は落ち着かないと。ただ相手を殴り飛ばすんじゃなくてまずは優等生君と話し合わないと。分かった?白瀬ちゃん?」

 

 

 

 最後は同族ではなくデュエルアカデミアの教師として口を開いたウリアに、ラビエルも未だに手を震わせてはいるものの、落ち着きを取り戻していく。そして、彼女が落ち着いたところでウリアは才賀へと向き直ると、ゆっくりと頭を下げた。

 

 

 

「ごめんなさい優等生君……いや、才賀直君。アタシ達の面倒毎に貴方巻き込んでしまって。そして一つ聞きたいんだけど、貴方はアーミタイルの賭けに参加する気なの?」

 

「勿論です」

 

 

 才賀は落ち着いた様子でデッキの上を優しく撫で付けながら首を縦に振る。今頃ハモンは謝罪だけではなく様々なな感情を直接脳内から自身のマスターにぶつけている事は明白ではあったが、そんなハモンにも聞こえるようにゆっくりと国を開く。その様子は十歳とは思えないほどに大人びており、覚悟を決めた男の顔つきだった。

 

 

 

 

「まずは勝手に賭けにのってごめん。それしか方法がなかったとはいえ皆の人生を勝手に賭け金にしちゃったようなものだし、僕が負ければ三人は二度と戻れないかもしれない。でも……」

 

 

 

 

 大声でそれは違う!!と才我の言葉を遮ろうとするラビエルにウリアは手で静止させ、ハモンが絶対的な忠誠を捧げた彼の言葉を待つ。

 

 

 

「頑張るから。二年間で出来る事はいくらでもある。レアカードを集めたり、戦術を学んだり、ハモンとアーミタイルさんの記憶がリンクしている以上、ハモンの手を借りない最高のデッキを作る必要もあってやる事は沢山ある…けどね」

 

 

 

 彼の脳裏にはこんな非常事態だというのにこの学園で初めて行ったデュエルを思い出してしまう。クロノス教諭の目の前で自身の相棒であるハモンを呼び出した時の事を。最早後戻りは出来ないと理解しつつも彼女と共に周囲の注目を浴びながら行った初めての大舞台の事を。

 

 

 

 

「最初はこの学園でハモンは悪くないって示す為に全てを捧げようとしたけど、クロノス先生の言葉でそんな風評被害を吹き飛ばすくらい僕がプロデュエリストとしてハモンを活躍させる強い決闘者になる事が目的になった」

 

 

 今もシェルターで他の生徒や教員達に押さえ込まれている初老の教師。かつてセブンスターズの一員から生徒を守る為に決闘を行い、闇に決して飲まれてはいけないと述べた彼の言葉は世代を超えて受け継がれる。

 

 

 

「このデュエルに勝てないと僕の夢は叶わない気がする。アーミタイルさん相手に怖気付いてしまえば僕はもう進めない気がするんだ。あの人は身勝手かもしれないし、気まぐれなんだろうけど僕に猶予をくれた。なら決闘者として受けて立つよ。それがハッピーエンドの条件ならね」

 

 

 

 ハモンのマスターとして。

 

 

 ラビエルの友人として。

 

 

 ウリアの生徒として。

 

 

 

 そして何よりも決闘者として、彼はアーミタイルの挑戦状を受けいれた事を皆に述べる。しばしの沈黙が窓にヒビが入った部屋を包むが、その沈黙を破ったのはウリアであった。

 

 アーミタイルと同じく褐色の肌に小学生のような小柄な体型である彼女は既に教師であるというのに10歳の才賀の身長にも及ばない。しかし、彼女は優しく手を伸ばし、自身の生徒の頭を撫で付ける。

 

 

「そっか…ありがとう。ラビエルとハモンは兎も角アタシなんて今日君と会ったばかりなんだよ?なのに君は……本当に優しいよ」

 

 

 小さな手は才賀の髪をかき乱す様に動き回り、まるで犬か猫を可愛がるかの様に愛でるウリアだが、その表情は慈しみに満ちた女神の微笑みだ。

 

 

 

「幻魔の力を見て怯える事もなく、糾弾する事もなく、巻き込むなと文句も言わない。優し過ぎて将来が心配だな……ハモンのために頑張るのも立派だけど、君は君の人生を歩んでるって事を忘れちゃいけないよ?」

 

「それは僕が好きで決めた事ですから。ハモンに強制された訳でも、可哀想だと哀れんだからでもなく、僕がハモンを支えたいって思ったからです」

 

「うん……ちょっとハモンが羨ましいな。ハモンも聞こえているんなら大事にするんだよ?こんな男の子の手を離しちゃダメだからね?」

 

 

 

 満足そうに笑みを浮かべるウリアだったが、やがて彼女はどこまでも満足そうな笑顔のまま才賀へと向き直ると、何らかの決意を秘めた眼差しを向ける。

 

 

 アーミタイルとの決闘に勝利をすれば完全無欠のハッピーエンドを迎えることは確実だろう。だが純粋な瞳の少年を見て、彼はどこまでも危うい存在だと彼女は気がついてしまったのだ。契約の履行は本当に果たされるのか。自身が敗北した時アーミタイルが認めないと約束を反故にする可能性をこの子は頭の片隅にもおいていないと言う事実を。

 

 

 それは彼が純粋だから、優しいから、本当の悪意という物を知らないからと幾らでも理由付けをする事が出来る。しかし、あえて一つ挙げるのなら彼はアーミタイルを……世界を滅ぼしかねない混沌幻魔に信頼を寄せてしまったからだろう。

 

 彼が今まで出会った幻魔は皆友好的な者達ばかりであって、人間社会に溶け込もうと努力をしていた。しかし、アーミタイルは違う。現状ではアーミタイルと才賀の口約束によって彼女は契約を履行する事を示しているが、やっぱりやめたと暴れ始める可能性が1%でも存在している以上、ウリアは才賀の言葉を信じる事は立場上出来なかったのだ。

 

 

「……デュエルアカデミアにはさ、数十年前まで私たち三人が封印されていた場所が地下にあってね?いくら昔だったかな?精霊界からバカな人がこの世界に私達を呼び出して暴れさせようとした後、当時のシグナーだかなんだか名乗る人達によって私達はそこに封印されていてね。その上にデュエルアカデミアは建てられたんだ」

 

 

 ウリアはやがて彼の頭を撫でていた手を止め、静かに言い聞かせるように語りだす。どこか寂しげで、それは自分達が当時悪の権化として恐れられていた過去を思い出しているように思えた。

 

 

「あの時は正直言えば怖かったよ。だって知らない世界で目が覚めて、目の前に怖い顔した大人達がいて、いきなり私達の力を悪用しようとする奴らが居て……気がつけば『いつもの様に』暴れさせられてたんだけど、封印された時はやっと皆に迷惑かけずに眠れるってちょっと安心もしてたかな?ハモンはニンゲンコロスって最後まで言ってたけど」

 

「おいウリア何を……」

 

 

 懐かしむ様に思い出話を始めた彼女にラビエルは不快な過去を何故今になって話すのかという疑問を投げかけるが、ウリアはそんな彼女を無視する。

 

 

「結局は封印は解かれちゃったけど、逆に言えばデュエルアカデミアの設立まで関わった影丸理事長が長い工程を得ないと封印は解かれなかった。つまりね、もう一度幻魔が封印されれば余程の事がないと今のアカデミアなら安心出来ると思うんだ」

 

「……それって」

 

「うん、ぶっちゃけちゃえばあたしだけ封印されればいいかな?って」

 

「ふざけんな!!」

 

 

 

 ラビエルはウリアの首根っこを掴みあげる。彼女の華奢な身体は軽々と持ち上げられ、宙吊りの状態となる。

 

 

「お前何考えてんだよ!?勝手に自己犠牲精神に酔ってんじゃねぇよバカ!」

 

「そりゃあたしだって優等生君がアーミタイルに勝って全部解決すれば万々歳だよ?でもあたしはアーミタイルを信頼出来ない。2年後、強制的に融合させられるにしてもあたしだけが封印されてればそれを防ぐ事だってできると思うから」

 

 

 首根っこを掴まれながらもウリアは笑顔を崩さず、むしろ嬉しそうですらあった。普段は口が悪いが幻魔同士は互いに信頼関係に結ばれている。

 

 

 それは孤独だったからこそ、互いに『悪』として生きる事を強いられる苦しみを理解してるからこそのものであり、独りよがりな独善の自己犠牲に激怒しつつもラビエルの心配する気持ちが伝わってくるのが嬉しいのだろう。

 

 

 信頼出来ないアーミタイルの口約束を信じて2年もの月日を目の前の少年に浪費させ、プレッシャーをかけ続けるか。それともウリアが封印される事で確実に混沌幻魔の復活を防ぐべきか。

 

 今ならば、デュエルエナジーを使い切った今のタイミングならば確実にアーミタイルの復活を阻止出来るのだ。一人の教師が、ヒトに近づこうともがき続けたモンスターの犠牲によって。

 

 

 

「なんとなく、ですけどウリア先生ならそう言うと思ってました」

 

 

 

 ラビエルが激怒してウリアに怒号をあげようとした途端、才賀は静かに口を開く。その手にデュエルディスクを起動させる。

 

 

「でも僕はその提案を受け入れません。確かに僕一人で勝てるかはわかりませんが、それでもウリア先生を犠牲にする事だけは絶対に許せないんです」

 

「……嫌だと言ったら?」

 

「ここはデュエルアカデミア。なら決闘でこれからの事を決めましょう。先生もアカデミアの教師なら、決闘者としての吟味を持っているでしょう?」

 

 

 

 

 わざと挑発的に彼はそう言いながら彼女のデュエルディスクをじっと見つめる。恐らくウリアを言葉だけで説得する事は不可能だろう。ならば道は一つしかない。ウリアは一瞬だけ目を白黒させると溜息をつく。

 

 

「あーもう……本当に仕方ない子…。いいよ。私も本気で貴方と決闘してあげる。先に言っとくけどクロノス先生はアレでも本気は出してなかったけど、アカデミアの教師の強さがあの程度だって見てたら火傷しちゃうからね!」

 

 

 

 





Qウリアの目的は?

A自身が封印される事でアーミタイルの召喚を阻止しようという事。現在はアーミタイルはデュエルエナジーを消費し切っておりここら辺の会話を全て把握してる可能性があるが無理やり復活はできないと判断した彼女は三幻魔を束ねて復活するというならそのパーツの一つである自分さえいなければと考えた。なお三幻魔が過去に地上に現れ封印にシグナーが関わったのは本作独自設定


次回はvsウリア先生戦から
骨折によってしばらく投稿が遅れてしまいましたが少しずつ投稿ペースを戻していきたいと思います…

デュエル回は

  • もう少しだけ見てみたい
  • ラブコメメインでイチャラブ優先

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