呪術高専京都校〜知られざるもう一人の一年〜   作:OSTO文明

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第十話 それ、ずるいです

「真依先輩とですか?」

 

 庵先生からタブレットを渡されて任務内容を確認する。どうやら今回は真依先輩と二人で任務へ向かうらしい。任務に行くこと自体は問題ない。けど一つだけ問題があった。

 

「なんかあったの?」

「いえ、この間の戦闘で槍が折れたのでどこで買えばいいのかなーって」

「倉庫から持っていっていいわよ」

「そんな勝手に」

「勝手に持って行くのはダメだけど、石像の一件あって学長から君に許可が降りてるのよ。一回だけだけどね」

 

 ここまで嫌われてたのかよ。てか石像君本当は悪くないよね?こんなところに置いた人が悪いと思うんだけど。

 というわけで倉庫に槍を取りに来た。勿論一人だと不安なので任務に同行する真依先輩と一緒に。

 

「あんたも馬鹿ね。こういうのはズカズカやっちゃって良いのよ」

「でもまだ入って一月ちょっとなので……」

 

 それもそうね等と相槌を打っている。そのまま槍が置いてあるところまで案内してくれると早く選ぶよう言われる。

 この間はなんとなくで決めてしまったけど今回はちゃんと選ぼうと見渡していると一刀の薙刀を見つけた。

 

「武器を変えるの?」

「いえ、普段の戦い方を思い出したら薙刀みたいに振り下ろす時も少なくないのでその分の威力も欲しいなって」

「でもあんたの技って突くものもあるんでしょう?」

「そうなんですよ。だからイメージしやすいようにもしないといけないのであまり刃の形状を変えたくないっていうか」

「じゃあ大槍にしなさいよ」

 

 真依さんは近くにあった槍を取って渡してくる。前まで使っていたのとは違って刃の部分が長い。持ち手の部分もより長いため感覚が変わってくる。でも何故かこの間のやつよりもしっくりきた。

 

「どう?少し長すぎるなら他のに変えるわよ」

「いえ大丈夫です。よくわかりませんがこれが良い気がします」

「わかったわ。なら任務は午後からだからそれまで軽く振ってなさい」

「はい!」

 

 倉庫を出て一度別れて練習場に行く。いつもの槍の運動を出来るか試すと意外にも振り回せた。自然と持つ場所の感覚も分かりブンブン振り回せる。

槍とも馴染めたので任務の用意をしに行く。水をバッグに補充し槍を鞄にいれる。しかしサイズが変わったためか入らなかったので布を巻くことにした。明日には鞄を注文しよう。

準備を整えた僕はお昼ごはんを食べて集合場所へ向かった。もう先輩は着いてるかと考えているとそうでもなかった。僕の方が先に着き十分くらいしてから先輩がやってくる。

そのまま車に乗り込んだ僕たちは任務について改めて説明される。今回の任務内容は大型の呪霊を退治すること。目的地である巨大廃図書館に着いた。だが降りた時に雨が降っていることに気づく。

 

「傘なんて仕事中は邪魔なだけよ」

「それもそうですけど……」

「何、雨嫌いなの?」

「いえ、先輩の体が冷えてしまうなって……」

「ヒトの心配より自分のことを心配をしなさい!」

 

 先輩はフンといって図書館内に入っていく。後を追うようについていくと水が当たる。どういうことだと上を見ると雨漏りしているところがあった。更に近くの階段を見ると二階の天井が無かった。工事中に被害にあったということを思い出して納得がいく。

 

「滑りそうね」

「そうですね。でも好都合かもしれません」

「どうして?」

「まぁそれは後でのお楽しみってことで」

 

 先輩は少し不機嫌な顔をして歩を進める。

 

「あんたってたまに狐っぽいところあるわよね」

「そうですか?」

「そうよ」

 

 そのまま二階の順路を辿っていくと小型呪霊の群れが現れる。足下は大きな水溜まりになっていて本当に好都合だった。

 

「さっさと倒すわよ」

「先輩、弾が勿体ないんで戦わなくていいですよ」

「あんた何言って」

「ちょっとだけ動けなくなるんでもしもの時はお願いします」

 

 僕はその場に膝を着くように座りクラウチングスタートを取るようなポーズになる。水溜まりに手をつけた僕はそこに向かって呪力を流し込む。それぞれの道筋を計算して確実に倒せるように設計する。

 

「流突」

 

 水溜まりから四本の水柱が発生し途中で折れると枝分かれして呪霊の群れを串刺しにした。刺された呪霊は塵になって消えていく。

 この技はこの間の練習でたまたま出来たものをもっと緻密に出来ないかとイメージさせたものだ。ただ使ってみてわかったことは二つ。これは固定砲台になるため近付かれたとき反応が鈍る。そして結構な呪力量を持っていかれる。

 

「あんた、こんな技を……」

「っはー」

「な、なによ」

「この技、ちゃんと使ったの初めてなんですけど結構つかれます」

「何やってんのよ!本丸はまだ先なのにそんなにつかれるようなことやってバカじゃないの!?」

「あはは……面目ないです」

「仕方ないわね」

 

 真依先輩は呆れたように言うと屋根があるところの椅子に腰かけた。腕を組んでこっちをにらんでいる。

 

「何してるんですか?」

「休憩よ休憩。言っとくけどあんたの為じゃないから。私が疲れただけだから」

「先輩……もしかしてツンデレですか?」

「違うわよ!!」

 

 先輩にピシャリと言われて黙った僕はやっぱり優しいよなぁと思いつつその場に座り込む。飲料用の水を飲んだりしていたがお互い黙ったままだった。ただ雨の音だけが聞こえるなかその静寂を破ったのは先輩だった。

 

「ねえ」

「どうかしましたか?」

「あんたの名前、何で桜戯っていうの?」

「急にどうしたんですか?」

「…………私の父の名前も同じなのよ」

「えっ」

 

 正直驚いた。こんな名前そうそういないと思っていたのに同じ名前を知っている人が近くいたらしい。でも真依先輩の家を考えると珍しくもないのかもしれない。逆に言うと一般の家庭で僕の名前の方が珍しいのだ。

 

「私はね、父親が大っ嫌いなのよ」

「り、理由を聞いても……?」

「無理、生理的にやだ、シンプルに嫌い」

「はぁ……()」

 

 どうやら年頃の娘っぽいようだ。でも多分それ以上のことがあるんだと思う。なんとなくでしか分からないけど、多分、そんな気がする。でも聞いちゃいけないような気もした。

 

「で、何であんたの名前は桜戯なのよ」

「さっきから思うんですけど随分哲学的ですよね」

「そういうのじゃなくて由来とか聞いてるのよ」

「そっちですか」

 

 確か小学校の時に作文かなんかで調べてこいって言われた気がする。その頃には父も母も嫌いになり始めてたけど。

 

「確か──技術において桜のように綺麗に舞えるように──という意味だったと思います」

「ふーん」

「ま、あんなクソヤロウ達のいいなりになってわがままを聞いていたのに兄たちより劣っていると分かった瞬間に失望する奴らにつけられるような名前じゃないと思いますけどね」

「急に悪口言うじゃない」

「事実ですよ」

「それもそうね。──でも、良い名前じゃない」

「え?」

 

 先輩はとても落ち着いて、逆に清々しい顔でこっちを見てきた。

 

「納得いったわ」

「……何がです?」

「あんたの名前よ」

「何処がですか」

「あんたの技、その名の通り綺麗よ」

 

 ドキッとした。自分でもだがあくまで有用性でしか考えてなかった。そして何よりそんな風に褒められるなんて、才能を認められるなんて思いもしなかった。そのせいか先輩の顔をハッキリみたくなくなる。

 

「何よ顔をそらして」

「いえ、その、少し恥ずかしいというか……」

「え?」

「あまり、そんな風に褒められたことがなかったもので……どういう顔して良いのか分からなくて……」

「バカね、堂々してなさい。その自信はいつか大事なものになるわ」

「は、はい……」

 

 涙が出てくる訳じゃない。けど今は先輩の顔を見たくなかった。今見たら、自分の中で何かを勘違いしてしまいそうだから。

 

「そろそろ行くわよ。体力は戻った?」

「あ、はい、なんとか」

「次はもう少し考えてから使いなさい」

「はい……」

 

 そのまま暫く歩いていくと二階が終わり一階への階段を下る。二階は群れ以外何も出てこなかったため呪力も回復する方に専念できた。一階に降りて入り口の方を目指そうという話になったので僕を先頭に歩いていく。

 

「しかし話に出てきた大型呪霊出てきませんね」

「祓われたという報告は受けてないからまだいるはずだけど」

 

 一階は暗く窓の外の光以外明るくさせるものはない。念のため構えておこうという話になり左手に水を纏わせる。同じ状態の維持はここ最近無意識に出来るようになってきた。呪力消費を抑えるため戦闘時と念のための時しか使わないようにしているけど。

 警戒しながら歩を進めていくと前の方で一瞬だけ何かが光った。それが危険なものだと直感的に理解してすぐに水を展開させた。

 

「……ッ!」

「どこから!?」

「多分向こうの方です。水出してなかったら輪唱出来なくて間に合いませんでした」

「今の水の盾のこと?」

「そうです。とりあえずもっと警戒して行きましょう」

 

 輪唱──輪舞や連弾のように水を手に集めて渦を巻くように隙間を詰めながら円を書く術式だ。呪力をさらに上乗せすることにより硬度を増すためある程度は防ぐことが出来る。

 多分あの針も防げる程度だったのだろう。針を飛ばすタイプとなるとどういう形の呪霊だろうかと針が飛んできた方に向かうとすぐにその正体がわかる。

 ──ムカデだった。そこには巨大なムカデが図書館の柱に纏わりついてこちらを睨んでいた。

 

「気色悪いわね、さっさと倒すわよ」

「でも何をしてくるかわからないので気を付けます!」

「いい心掛けね!」

 

 先輩が銃を撃ち始めると同時に輪舞を放つ。その足の多さ故か器用に銃弾を避ける。名前は伊達ではないらしい。六発ずつ撃ったところでこれじゃあ当たらないと先輩がリロードしている間に槍を構えて突っ込む。

 

「あんた何してんの!」

「誘導の方お願いします!タイミング合わせて斬りますから!」

「いいわ、やってみなさい」

 

 再び撃ち始める先輩を信じてムカデの動きを見る。そのままタイミングの合わせられるところに走り槍に呪力を込める。

 

「桜戯!」

「ナイスタイミングです!」

 

 跳んで回転を加えながら壁に向かって槍を振るう。そこに降りてきたムカデの尻尾側1/3を斬り取ることに成功した。悲鳴のような叫びをあげながらムカデは天井に這いつくばる。

 

「すみません、自分で言っておきながら」

「そうね、今ので仕留めておきたかったわ」

「うっ……」

 

 ムカデは体を再生させて体を生やす。その姿を見てキモいと思ったが先輩の方が先に言ったので黙っといた。

 

「でもあんたにしては頑張ったんじゃない?」

「えっ」

「ボサッとしてないでさっさと倒すわよ」

 

 そう言われた瞬間だった。天井のムカデはいつの間にか先輩の横の方にある壁にいた。

 

真依さん(・・・・)!」

 

 一体何時移動したと考えるよりも前に体が動いた。キラリと光る針が沢山飛んでくる。先輩を押し倒すように地面に伏せると僕たちの上を紫色の針が通りすぎていく。なんとか避けることが出来たと安心すると少し怒っているような声が聞こえてきた。

 

「とっさの判断としては正しいけど、レディの扱いがなっていないようね」

「……ッ!?ごめんなさい!!」

 

 押し倒す直前、頭も守らないとと左手を先輩の頭の後ろに回したお陰でダメージはないようだが、逆に右手があってはならないところにあった。確かに少し柔らかいなと疑問に思ってはいたがまさかそこにあるとは思わなかった。

 

「すみません、自害します」

「あんた何考えてんの!?」

「いくら仕事中とはいえ男としてあるまじき行動です」

「だからって今そんなことしてんじゃないわよ!そんなことはあいつを祓ってからにしなさい!」

 

 槍を止められる僕は後回しにしようと立って槍を構えようとするが左手に痛みが走って両手で持つことが叶わない。よく見ると手のひらから血が出ていた。水で軽く洗い流して再度槍を持とうとすると痛みが走って持つことができない。

 

「あんたその手」

「いえ、これくらい大したことないです」

「無茶しすぎよ。少しここでじっとしてなさい」

 

 先輩は銃を撃ちながら走っていく。それを追いかけるようにムカデはうねうね動く。先輩の銃はリボルバー式、リロードにはそれなりに時間がかかる。それを想定した僕は床に槍を刺して手を付ける。ムカデがグネグネと動く中先輩がリロードに入った瞬間邪魔をさせないように流突を展開する。なるべく逃げられないようにと網を張るように展開させたがその判断は甘かった。逆に僕の方へとやってくる。術式を解除して槍を構えるがやはり左手に力が入らず弾き飛ばされる。先輩が受け止めてくれたせいか衝撃は緩和されたがそれでもお互い動けなかった。

 

「すみません」

「いいわよ。それよりあんたまだ呪力残ってる?」

「輪舞数回分くらいは。あと数秒程度なら流突が出来ます」

「じゃあ手伝いなさい」

 

 作戦内容を伝えられ、一か八かの作戦に出た僕たちは立ちあがろうとする。しかし先輩が座っていろというので後ろの方に回って座る。なぜ後ろに回ったか、それはそれは流突をやりやすくするためだ。

 睨みつけてくるムカデに対して流突を展開させた僕は僕たちと一直線になるように仕向ける。逃げ場をなくし突っ込んできたムカデは大きな顎を開いて僕たちに向かってくる。

 先輩が構える銃に手を添えて僕は銃口に輪舞を用意する。

 

「これで決めるわ。気抜くんじゃないわよ!」

「はい!」

 

 いくら狭いとはいえ避けられる距離にいれば当たるものも当たらない。だからギリギリまで距離を粘る。先輩がカウントを始めると同時に水流の回転率を上げていく。やがてカウントがゼロになった時先輩が合図する。

 

「ゼロ!」

「発射!」

 

 合図と撃ちそれはドリルのように出たそれは先にムカデの頭に刺さり回転しながら後からやってくる弾丸によって体を貫通される。ムカデは悲鳴をあげながら塵となって消えた。辺りから呪霊の気配がなくなったのを感じると腕を下ろす。

 

「終わりましたね………」

「全く、どうなるかと思ったわよ」

「先輩使った銃弾少なくなかったですか?」

「あんたが倒れてくるせいでこぼれたり湿気ったりしたのよ」

「う、ごめんなさい………」

 

 立ち上がった僕たちは入り口に向かって歩き出した。それぞれボロボロにはなってるが傷の具合からして少ししたら元通りになるだろうと話した。

 

「さて、帰ったらみっちり教えてあげるわよ」

「あ、その件なんですが」

「何よ」

「まだ清算が終わってないので自害します」

「そんなことしなくていいわよ」

「えっ、じゃあ何で清算すれば……っ!?」

 

 突如、僕の目の前が真依さんの顔でいっぱいになった。唇には柔らかい感触、体に押し付けてくる胸の形。理解が出来なかった。そして息ができなくなると思った瞬間唇が離れていく。突然のことに頭がショートした僕は混乱する。

 

「言ったでしょ、レディの扱い方を教えてあげるって」

「………」

「ボサッとしてないでさっさといくわよ」

 

 先輩は先を進んでいく。慌てて追いつこうと走ろうとするが唇に触れる。人生の中で唇を合わせたのは初めてだった。こっちはドキドキしているのにあんなすました顔して………

 

不意打ちとか、ホントに誤解しちゃうじゃないですか………




『真依さん!』

 先に不意打ちして来たのはそっちじゃない………
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