呪術高専京都校〜知られざるもう一人の一年〜   作:OSTO文明

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長い間お待たせしました。並行して続けるのは難しいですね。年内にあと一回出せるようには努力します。


第十一話 再会と別れは突然に

「そいやっ!」

「はあっ!」

「ラストよ」

 

 今日の任務は都市廃ビルの呪霊退治だった。メンバーは僕と三輪先輩と真依先輩の三人だった。新田君は術式のせいか最近はお互い別任務に行くようになった。そのうち一緒の任務があるだろうと話したりお互い任務のことを話している仲だから仲違いしているわけではない。

 呪霊退治といえど数が多かったので先輩達と行動する任務だった。しかし連携を上手く取れていたため意外と早くに終わった。

 

「ま、こんなものでしょ」

「時任君さっきのナイスプレーだよ」

「三輪先輩の合図があったからですよ」

「いやいやそんなことないよ〜」

「ほら、さっさと行くわよ」

 

 真依先輩に連れられてビルを出ると帷が上がっていた。この間の任務以来先輩との距離は少し縮まったと思う。でも帰った後特に何もなかった。レディの扱い方を教えてあげるなんて言われたけど不思議と何もなかった。そのことについて言及しようとするとリボルバーを頬に押し付けられるので聞かないようにしたけど。

 

「皆さんお疲れ様でした。このまま高専に戻ってもいいのですがせっかくですし皆さん新都の方に遊びに出てはいかがですか?」

「え、いいんですか?」

「休みの日に毎回降りてくるのも面倒だと思いますし指定の時間に集合していただければ」

「先輩方どうします?」

「せっかくだし皆で遊びに行きましょうよ」

「いいわ。戻ってもやること特にないし」

 

 補助監督さんにお願いして夕方に新都の駅に迎えにきてもらうように頼むと車を走らせてどこかへ行ってしまった。残った僕達は歩きながらこの間行ったショッピングモールへと歩き出した。ここからなら歩いて十分とかからないらしい。それを考えると呪霊のいる場所っていうのは意外と人が多いところで田舎とかよりも多いのかと考える。

 武器は補助監督さんの車の中に入れたので今は最低限の武装(拳と携帯用の水)くらいしかないからなるべく戦闘は避けたいところ………と言っても日中に現れる事はそうそうないでしょ。そう思った矢先のことだった。

 

「桜戲……」

「真依先輩どうかしました?」

「呼んでないわよ」

「じゃあ?」

「私も違うよ」

 

 おかしいなと思いつつ一度止めた足を進めようとするとまた同じ声が聞こえてきた。今度ははっきりと僕を呼び止めるように。

 

「待って桜戲!」

「その声、まさか………」

 

 後ろを振り返ると見たくもない顔が二つ、そこにあった。すぐに前を向いて歩き出すと後ろから大きな声で呼ばれる。それすら無視して歩いていると腕を掴まれる。引き剥がそうと腕を振るが取れる事はなかった。

 

「やっと見つけた。帰るぞ桜戲」

「離せよ!なんで今更親のツラすんだよ!」

「お前の親だからだ」

「ふざけんな!散々人を期待はずれだのなんだの言ってきたくせに今更そんなこと言われてハイそうですねなんて戻れるわけないだろ!」

 

 腕を思い切り振り払うとビンタされる。東堂先輩のより痛くない。すぐに立ち上がれる僕は睨みつけるため息を吐かれる。

 

「やめないか。人様の前だぞ、恥ずかしいと思わないのか」

「俺はアンタらが親のツラしてる方がよっぽど恥ずかしいけどね」

 

 鼻で笑ってやるともう一度顔を叩かれる。それでも僕は屈することだけはしなかった。

 

「何度でも言ってやるさ。親のツラなんかしてんじゃねぇよ!」

「ちょっと落ち着きなさい桜戲。一体どうしたのよ」

「申し訳ないが他人の家の事情に首を突っ込まないでくれ」

 

 先輩達に睨むような視線を送るこの男は自分が行ったことをなんとも考えいないようだった。あまつさえあの母親は見ているだけで止めようともしない。堪忍袋の尾はとっくに切れている。その上のボルテージが完全に上がり切るのに時間は要らなかった。

 

「いい加減にしろよ!」

「いい加減にするのはお前の方だ。いつまでも駄々をこねてないで早くこっちに来なさい。全く、家出をしたと思ったら今度は我儘か」

「アンタは……アンタって人は!」

 

 我を忘れた僕は思い切り力を込めてクソ野郎を殴ろうとすると目の前に男の人が現れたことに気付く。ワープでもしてきたのかというくらい一瞬で現れた男に拳は当たることなくまるで止められているかのように動きが遅くなった。

 

「元気にしてた?」

「あ、貴方は」

「なんだ君は。どこから来た」

「どうでもいいじゃんそんなこと。とりあえず桜戲は拳をしまいな」

「は、はい………」

 

 突き出していた拳をしまうとクソ野郎は安心したのかため息をつく。腹が立ち今度は当てに行こうかと考えたが今は目の前の人物に目を奪われる。高専の制服のような服を着た逆立ちの白髪男。目には黒い布を巻いている特徴的な人物。僕を呪術界へと案内した張本人。

 

「なんで特級の貴方がこんなところにいるんですか」

「え、実家に顔出した帰り道的な?」

「そんな理由で」

「いいじゃんいいじゃん、それでどういう関係?」

「………」

「その子は私達の子供だ。返してもらおうか」

「あー、そういうこと?」

 

 黙って渋々頷くとこの人は納得してくれたのか僕の方に背中を向けた。

 

「経緯は大体聞いていたけど話し合いくらい一回しとこうよ」

「えっ!?」

「ご両親も一回落ち着けるところに行きましょう。この辺お茶が美味しいお店があるんですよ」

「見ず知らずの君に案内されるほどではない。それに急いでいる。さぁ帰るぞ桜戲」

「あ、あなた」

「そうやってアンタは人の話を聞かないのか。またそうやって繰り返すんだな」

 

 嫌味込めて言うとクソ野郎が僕のことを思い切り睨む。でもこれは事実だ。昔から変わらないこの性格にはもううんざりしていた。

 僕の言ったことにイラついたのか一周して落ち着いたのかおすすめの店に行って話くらいは聞いてやるとのことだった。上から目線と言うのが気に食わないし話し合いのテーブルにつくのすら嫌だと思ったがここは乗っておくべきだと判断した。移動するに当たって特級術師を挟んで一番後ろに僕らはついた。勿論先頭はあのクソ夫婦だ。

 

「本当に親子なの?」

「あまり聞かないでください」

「似てないわね。でもアンタの気持ちは少しだけわかるわ。ウチも似たよおうなものだから」

「えっ」

「ま、話せるだけアンタはマシよ」

 

 真依先輩は僕の後ろについて逃さないようにしてくる。三輪先輩は店に着くまで隣でフォローしていてくれたがそれでも奴らに湧いてくる怒りは止まらなかった。

お店に入りテーブル席に着くと正面につく形で座ることになった。真依さんたちは左右にいて特級術師は誕生日席にいる。

 

 

「さて、現状をまとめるとご両親は桜戯を連れて帰りたい。桜戯は高専に居続けたいってことでいいかな」

「はい」

「そうだが、そもそも君はなんだね」

「あぁ申し遅れました。僕、特級呪術師の五条悟と申します」

 

 母親は口を押さえクソ野郎は目を見開いている。呪術という単語を聞いて何も思わないってことは兄さんたちから聞いたかそもそも知っていたかの二択。可能性としては後者のほうが高い。

 

「じゃ、仲良く家族で話し合ってください!僕は見てるんで」

「待ってくださいよ五条さん!」

「ちゃんと話し合いな。暴力沙汰になりそうだったら止めるから安心して。あと店内だから大きな声は出さないようにね」

 

 親指を立てて頑張れとでも言ってそうな五条さんに一応会釈だけして向き直る。

 正直コイツらには二度と会いたくなかった。さっきまで冷静さを失っていたのは当たり前のようにも思えるくらいだ。だけどもしここで何もなければきっとこの先も変わらずコイツらに怯える日が来るかもしれない。だとしたら今ここで変えなきゃいけないんだ。

 

「……とりあえずアンタらの要望を聞きたい」

「随分と偉そうだな。お前にそんな権利があるのか?」

「いつまでも一方的な意志の押し付けあいじゃ解決しないだろ」

「お前にしてはまともな意見だ」

 

 一つ一つの言動にイラつくがここは我慢しろと自分に言い聞かせる。

 

「まず私達は桜戲を家に連れ戻し呪術師とは無関係の学校に行ってもらう。そして一般人と同じような生活を生きてもらう」

「随分と勝手な理想を押し付けるんだな。大体才能のない俺はいらないんだろ」

「そのような事は言っていない。舞雪や和月のように才能に恵まれなかったのには残念だがそうでなくても自分の子供を守りたいと考えて何が悪い」

「その化けの皮絶対剥がしてやる」

「それでお前の要望はなんだ?」

「俺は呪術高専を卒業して呪術師として生きていく。アンタらが認めなかったこの才能を仕事にして生きていく」

「そんなのは認めん」

 

 クソ野郎が即座に否定している。それに関してはさっきまで同じようなやり取りをしていたから慣れてきていた。だが別の理由でまた怒りが現れる。

 

「なんでアンタは黙ってんだよ」

「わ、私は」

「母さんは私と同じ意見だ。だから言う必要もない」

「ハッ、所詮言いなりの人形かよ。まだ昔の方が色々と言ってきてマシだったな」

 

 行っていたことには腹が立ったが意見を出されないよりかはマシだ。ただの同調圧力で俺を止めたいって言うならそもそも止めないで欲しかった。

 この状態ならきっと話は進まないだろうと考えた俺は別の話題から突破口を見つけ出す作戦を考える。

 

「あの時もそうだがアンタらは何故呪術という言葉を聞いてすぐに受け入れられているんだ。普通なら知らないはずだろ」

「それは」

「兄さんや姉さんはこの間話した時初めて聞いたって言っていた。なのにアンタらはまるで知っていたかのように話がスムーズに進んだ。おかしくないか?」

「……いきなり核心を突くか」

「その様子だと知っていたってことでいいんだよな」

 

 クソ野郎は諦めがついたように母さんはおどおどした様子を見せる。あの日兄さんたちと話した時から確信に近いものを持っていた。そしてそれが今確信になった。コイツらは僕が持っていた唯一の才能を喜ばない理由、それは呪術というものを知っていてコイツらにとっては気に入らないものだったというわけだ。

 

「時任君って怒ってる時自分のこと俺って言うんだね」

「そうね。普段は僕って言っている分ギャップがありすぎるわ」

「先輩方小声でも僕を挟んだら聞こえますよ」

「あ、戻った」

「先輩方は目上の人なんで一応敬意を込めてるつもりです。でも俺にとってコイツらは敵なんで敬意もクソもないんですよ」

「へ、へえ………」

「親を敬えない気持ちは分かるわ」

 

 家族の話になると真依先輩はすごく共感を持ってくれるが禅院の家の話は聞いたことがない。気になるところではあるが今は目の前の問題を片付けるべきだろう。

 何も言い返せないかと思っていたが意を決したのかクソ野郎の口が開いた。

 

「お前が呪術師になるのを何故否定したか、その真実を話そう」

「はぁ?」

「時任の家は本来術師の家系だった。しかし有名どころのように大きいわけではなく衰退していた。さらには私達の代は術式を持った子が生まれなかった。それ故に時任家は消失、事実一般人と変わらない家になった」

「呪力があれば戦うことはできるんじゃないの?」

「呪霊は見ることができても戦えはしなかったのだ。当然和月は舞雪も術式を持たないどころか見ることすら出来なかった。

 けれど桜戯が呪霊を認識出来る上に術式をもって生まれてしまった。当然知ったのはこの間だ。それまでそんな気配すらなかったんだからな」

「突発的な覚醒型だったわけだ。時任家、一応僕も調べたけどもう消えてたね。けれど術式を使える老人達が生きてる」

「その通りだ。もし桜戯が呪術師ということが老人達に知られれば利用されるに間違いない。挙げ句の果てには自由を奪われてしまうかもしれない」

「アンタらよりかは自由かもしれないけどな」

「それはないと断言出来る」

「何で」

「相伝の術式なら確実に継げるようにされるはず。そして時任家再興をさせるために和月や舞雪も巻き込まれるだろう」

「兄さんや姉さんは関係ないだろ!」

「桜戯、残念だけどこれは関係あるんだ。君が時任家の相伝を受け継いでしまった場合その種があるものとして兄姉は可能性が高い。つまり君一人の問題じゃなくなってしまうってことだ」

「でもそれは、あくまで相伝を受け継いだって仮定ですよね?その術式は」

「桜戲が使っている『螺旋躁術』、時任家相伝の術式だよ」

 

 話の流れで焦りに焦っていた僕は言葉を失った。相伝の術式、家の存続を分ける重大なことだとはわかっているがそんなもの知ったことではないと思った。けどそれは僕が普段使っているものでそれのせいで兄さんや姉さんが危険な目に遭うかもしれないと考えると体が震えた。嘘だと否定しようとするがクソ野郎たちは顔を抑え五条さんは無言を貫いている。三輪先輩は目を逸らして真依先輩はため息をついて何も言わなかった。

 

「これが現実だ桜戲。和月たちのためにも術師を辞めて戻ってこい」

「まだそんなこと」

「そうすればお前の身の安全も保証される。今なら奴らに気づかれることもない」

「桜戲、私たちは本当にあなたの未来を心配しているの」

 

 今まで喋ってこなかった母が急に口を開く。僕が何をされていても何も喋らなかったこの人が急に口を開いたことには驚いたがそれよりも更に怒りが増した。

 

「なんで、なんで今になってそういうことを言うんだよ!何も言ってこなかったくせに!」

「今まで何も言えなくてごめんなさい。でももし私が口を開いたら本当のことを言ってしまいそうで怖かったの。私たちがなんであんなことしたのか、この人がなんでこんな風に厳しいのかも全部言ってしまいそうで。それが怖くてずっと黙っていたの」

「そんなことなんの」

「──だって桜戲は優しい子だから」

「っ!」

「本当は優しい子だって私たちは知っていたからどんな態度をしてても心のどこかでは申し訳なさを感じている子だって知ってたから」

 

 なんだよ、それ。頭の中はこの言葉だけになった。

 じゃあどうすればいいんだよ。そんなふうに不器用にしか振舞えなかった親たちの元に戻ればいいのか?それが皆が望んでいる時任桜戲の姿なのか?

 コイツらの横暴な態度に素直に従ってきてそれは全部作り物で本当は愛していましたごめんなさい。そんな言葉を信じて本当に見つけた自分の才能を捨てて戻ればいいのか?

 

「桜戲」

 

 悩み悩んでいる僕を小さく呼ぶ声の正体は真依先輩だった。

 

「アンタはアンタのやりたいことを正直に言いなさい。何かあればどうにかしてあげるわよ」

「先輩…?」

 

 真依先輩はずっと同じ方を向いたまま表情を変えなかった。それでも言ってきた言葉はまるでなんでもできる魔法のようにも思えて僕は自分のやりたいことを思い返した。そして覚悟を決めて親に対して言葉を放つ。

 

「父さん、母さん、ごめんなさい。僕は呪術師を続けます」

「そっ、そんな」

「桜戲、本気で言っているのか?」

「もう、何を言われてもこの意志は揺らぎません」

「そんなことをすれば和月や舞雪は危険に遭うかもしれないんだぞ」

「兄さんと姉さんは僕が守ってみせます」

「ただの子どもにそんなことが」

「もうただの子供ではありません。呪術師です」

「だとしてもあなたに何ができるの。和月や舞雪が」

「あなた方は才能のある兄さんや姉さんの方が大事だと思います」

「あなただって大事に決まって」

「でしたら、何故あなたは“和月や舞雪”と兄さんと姉さんの名前を出したんですか?」

「「!!」」

「普通の親というのは知りません。もしかしたらこれは勝手な妄想かもしれませんが………この状況なら僕の安全を第一に考えるのではないですか?」

「そ、それは」

「お前の身の安全はお前自身で守れるだろう。あの子らは術師ではないんだどうやって」

「本人が戦えれば実の息子でも守ろうと思わないんですね」

「っ!」

「僕なら、力があってもなくても守りますけどね」

 

 真依先輩の方を見ると察したように通路側へと移動してくれる。僕に並んで三輪先輩と五条さんも出てきてそのままテーブルの横に立つ。

 

「待て、話はまだ」

「これ以上は本当の無駄でしょう。話さなくても結果は目に見えている。僕は、あなた方が捨てたこの才能を使って生きます」

「言葉が足らなかったのはすまなかった。だからもう一度話をさせてくれ。そうでないとお前やあの子らだけでなく私達も」

 

 今、魂胆がようやくわかった気がする──いや、確信を持った。コイツらは最初からそれが目的だったんだ。

 

「結局、自分たちの考えを押し通すつもりだったんですね」

「ちがっ、そうじゃない」

「なんで今僕が敬語かわかりますか?」

「何故そんなこと急に」

「今理解していないあなた方には、きっと一生をかけてもわかりませんよ」

 

 深くお辞儀をして店を出る。今までそいつらに抱いてきた感情も思いも優しさも全て一緒に置いてきた。

 ──さようなら、もう二度と会うことはないでしょう。

 お店を出て少ししたところで後ろを歩いている五条さんに向き直して深く頭を下げる。

 

「すみません五条さん」

「何が?」

「お気に入りのお店であんな雰囲気にしてしまって。それに仲直りの機会を作ってくれたのに別れるようにしてしまって」

「いいんじゃない?これで」

「えっ?」

「桜戲は自分のやりたいことを素直に言ったんだ。しかもそれを逃げずに叩きつけてきた。それだけで僕は満足だよ」

「五条さん………」

「それだけじゃないでしょ?桜戲が頭を下げた理由は」

「もしかしてもうわかってますか?」

「お兄さんとお姉さんにことは任せといて。五条家(ウチ)で守ってもらえるようにしておくから」

 

 流石は特級、というわけではないだろうがここまで察してくれるなんてとてもいい人だと思う。しかも兄さんたちのことまでちゃんと考えてくれている。きっと一生をかけてもこの恩は返しきれないと思う。

 

「ありがとうございます、五条さん」

「先生って呼んでくれてもいいんだよ」

「あー、そう呼びたいのは山々なんですけど歌姫先生から五条さんは先生呼びするなって言われてて」

「なんで?」

「よくわからないんですけどそう呼んではダメだって言ってました」

 

 五条さんは顎に手を当てて考えようとしていたが諦めたのかそれとも気分が変わったのかケロッとした表情に戻った。そのまま姿勢を変えずに宙に浮き上がる。

 

「じゃ、僕は色々とやることあるからこの辺で」

「今日は本当にありがとうございました!」

「桜戲もこれから頑張るんだよ。無論二人もね」

 

 一瞬にして五条さんはその場から消えた。瞬間移動でも使ったの如く移動で捉えきれなかった。

 夕陽が差し込んでいることに気づいた僕たちは新都の待ち合わせ場所に向かう。

 

「先輩方、今日はすみませんでした。この埋め合わせはいつかします」

「そうね。今度の休日にでもまた出かけましょう。その時は桜戲の奢りでご飯ね」

「は、はい………」

「私は別にいいんだけど、時任君ご両親のこと本当に良かったの?」

 

 三輪先輩の質問に対して答えは決まっていた。僕にとっての家族は二人しかいない。だから先輩の質問にはちゃんとした答えを出すことは出来なかった。

 だから僕は先輩たちよりも五歩くらい前に出て太陽に背を向ける。それはある種の決意表明のように。

 

「先輩、僕に両親なんていませんよ」

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