呪術高専京都校〜知られざるもう一人の一年〜   作:OSTO文明

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長らくお待たせしました。お詫びではないですが今日はあの人が来ます。


第十二話 ぶん殴りたい奴って誰かの親戚とか関係ないですよね

「姉妹校交流会まであと数週間よ。だから今日は模擬戦を行うわ。総当たりの形式でやるわよ」

 

 庵先生の審判の下模擬戦総当たりが始まった。今年の姉妹校交流会では東京校側は一年生が出るらしいが京都校からは二年と三年しかでないのて一年はこっちでしばらく待機になるらしい。

 

「君とは一試合目らしい」

「そうみたいですね」

「元気がないようだがどうした?体調でも悪いのか?」

 

 体調は悪くない。でも僕は加茂先輩には聞かなきゃいけないことがあった。

 

「いえ、問題ありません」

「そうか」

「先輩。もしかして先輩は螺旋操術のことを知ってたんですか?」

 

 先輩は黙って何も言わなかった。沈黙ということは肯定と見なしていいだろう。よくも悪くもこの人は嘘をつかない。

 

 

「どうしてその事を?」

「先日ある人たちに言われました。時任の家は元々術師の家系だったと」

「……」

「そして螺旋操術は相伝の術式だったと」

「なるほど…」

 

 目をそらしたように気まずい表情を作る。というかこの人糸目だからそらしたかどうかも定かではないがそんな感じがした。

 

「何故知ってたんですか?」

「術式について調べている時に知った。私の赤血操術の『穿血』と似ている部分があったから取り込めないかと思ったんだ。しかし回転をさせるという根底から取り込むことは出来なかった」

「では螺旋操術と名付けたのは」

「ああ、書物に載っているものと似ていたからだ」

「時任の家の事は」

「知らなかったと言って信じて貰えるのかい?」

「……まぁ、先輩なので」

 

 変に嘘は吐かないと思う。吐いたところでこの人にメリットはないはず。いや、御三家的に時任がいてはまずい状況なら嘘を吐くか。だとしたら今この時点で消されてるか。

 

「真依たちから聞いたが私たちに敬意を払ってるからか?」

「いいえ、単に信用しただけです。勿論先輩でも首に刃を向けられれば全力で倒しますが」

「嘗められている……訳ではなさそうだ」

「ご冗談を」

 

 

 手を叩く音が聞こえる方をみると歌姫先生が僕たちを呼んでいた。軽くストレッチしてフィールドに向かう。

 

「時任君、今回は私を呪霊だと思って相手して欲しい」

「え、そんなことしたら」

「その程度で死ぬ私ではないよ」

 

 それこそ嘗められていると思ったが何の意図があるか分からないけど乗っておこう。

 

「いつも通り術式で殺傷性のあるものはダメよ。二人とも頑張りなさい。ーースタート!」

 

 開始の合図直後槍を地面に刺してペットボトルのフタを開けた僕は先輩めがけて水をかける。しかし相手は準一級術師、すぐに距離をとられる。

 

「何を考えているか分からないが、貴重な水をそんな風に使っていいのかい?残りのストックは一本だろう」

「いえいえ、むしろこれでいいというやつですよ」

 

 槍をとって空いた距離を埋めるように間を詰め槍を横に凪ぐ。片手で防いでるのは実力差を感じざるをえず、空いてる手で反撃をしようとしていたので今度は僕が距離を空ける。

 

「急なスピード……まさか」

「桜戯は重りである水を捨てたことで速くなったんだわ」

「でもそれじゃあ不利になっちゃうんじゃないかな」

 

 槍をぶんまわしながら攻撃するが全て防がれるか避けられる。先輩の攻撃も躱しているため互いにダメージはゼロに近かった。しかし身体の動きが妙に速い上に攻撃がいつもより重い。なにかタネを仕込んでるのか……?

 

「ドーピングかなんかですか?」

「気付いていたのか」

「なんとなくですけど」

「赤血操術『赤燐躍動』だ。俗な言い方はやめて貰おう」

 

 じゃあ多分やってることは間違いないなと改めて構えると同時に地を蹴り出した。さっきより速く重い攻撃を防ぎ同時に攻撃を出すが防がれる。

 

「驚いたよ。近接だけなら私と同じくらいにまで成長してる」

「お褒めに預かり光栄です」

「だけど術式が絡めばどうなるかな」

「そうですね。殺傷性がない赤血操術を僕は知らない」

 

 だからこそ次の一手で終わらせようと構えるとニヤついた声が聞こえてくる。誰だか分からない、けれど何故か嫌悪する声。

 

「なんや面白いことしてんね」

「貴方は……」

「憲紀君久しぶりやな。模擬戦でもやってんの?」

「ええ」

 

 ヘラヘラしたような京言葉の人は僕たちの間を割って通る。その様子を見て僕と先輩は戦う気が失せて姿勢を解く。和服を着た金髪の人はそのまま真依先輩の前で立ち止まる。

 

「ちょっと真依ちゃん借りてくで」

「っ……」

 

 真依先輩の腕を掴むと何処かへ連れていこうとする。先輩は何も言わずに黙って引かれる手に連れていかれる。

けれどその瞬間、下唇を噛むような悔しいのを必死に隠そうとしている表情を見て僕は動いた。気がつけば真依さんを掴んでいる人の腕を僕が掴んでいた。

 

「なんやこのガキ」

「離してください」

「あん?」

「その手を真依先輩から離してください」

「時任君!」

 

 加茂先輩の声が聞こえたときには僕は頬を叩かれていた。目の前の男はニヤニヤしながら僕のことを見下す。

 

「なんやお前、人の家のことに口出すんか」

「何を」

「時任君、その人は禪院直哉一級術師だ」

 

 この人が禅院家の人、ってことは真依先輩の従兄弟……なのか?だとしたら尚更この人のことを嫌いになりそうだ。

 

「せいぜい四級程度のガキが誰に口出してんのか分かっとんのか?」

「生憎、最近この世界に来たもので階級で態度をどうこうするなんてまだ知らないもんで」

「ならちゃんと教え込まんとあかんなぁ」

 

 さっきまで僕たちがいた位置に立つとかかってこいと挑発する。いくら実力差が開かれていようと一発合格するぶん殴らないと気が済まなかった僕は棒を持って行こうとするが二人に止められる。

 

「待つんだ時任君、あの人は」

「偉い人でも知りませんよ。例え勝負で負けても一発当てれれば僕の勝ちです」

「冷静になれ時任。今のまま行けばお前は返り討ちに遭うだけだ」

「そうだ東堂の言う通り、ではない違うだろ」

「それもそうかもしれませんが」

「時任君はそれで納得するな」

 

 考えなしで行けば返り討ち、最悪防御も出来ないまま攻撃されて真依先輩を助けることもあの男に一矢報いることすら叶わないだろう。弱点があるのかと聞けばそんなものは知らんと跳ね除けられる。

 

「だがしかし、ヤツを倒す方法ならある」

「あるんですか?」

「敵を倒すのに信じるもの、それだけ考えれば一対一はどうにかなるだろ」

「あの先輩、言ってることがよくわかりません」

「根性だせ」

 

 背中をバチンと強く叩かれ痛みを感じながらも前に出て棒を構える。

 ヘラヘラする気持ち悪い顔を見据えながら最初の動きを連想する。水のストックは一本、一応対人模擬だから殺傷性のある術式は避けるけど捕獲……ああ、そうすればいいのか。とりあえず動いてからじゃないと始まらない。

 

「本気だしや。じゃないと面白ないからな」

「言われなくても本気で行きますよ」

「でもまぁ格の違いってのがあるからなぁ、そや、ちょっとでも触れたり一撃でも入ったらボウズの勝ちでええで」

「流石にナメすぎでは?」

「それくらいしないと勝負にならへんからな。でもこっちから触れるのはありやからな」

「絶対後悔させてやる……」

「ほな好きなタイミングで来いや。まあそれで俺が気を取られるなんて……っ!」

 

 好きなタイミング(・・・・・・・・)で来ていいと言われたからその瞬間に懐に潜り込み棒を突き上げた。しかしその程度ではすぐに反応され回避される。振り回すも距離を取られてしまう。

 

「外したか」

「いきなり怖いなぁ、人が話している最中だったやろが」

「好きなタイミングと仰ったじゃないですか」

「調子に乗るなよ、ボウズ」

 

 すぐに棒を構えると目の前までやってくる。これなら防げると防御態勢を作ろうとすると飛んできたのは拳ではなく掌で軽く触れられただけだった。まだナメられられているのかと思い体を回転させようとするとピタッと止まって動けなくなる。まるで金縛りにでもあったかのように動けなくなったところを間髪入れず回し蹴りされる。地面を転がっていきながらも動くようになった身体を捻って受身を取る。

 

「まぁそれくらいはしてもらわんとなぁ」

「今のは」

「ほなどんどんいくで」

 

 次の瞬間目の前の男は消えてどこに行ったかを探すも視界に映らない。

 

「どこ見てんねや」

 

 背中から聞こえる声に反応しようとするとまた金縛りにあったような感覚に襲われる。この人の術式なのか、固まった瞬間に攻撃してくるため確実な打法を準備する時間を与えてしまっている。触れられた瞬間まるでその一瞬を切り取ったように動けなくなる。これに対応出来ないと殴るどころか触れることすら出来ない。

 

「そんな程度で俺に楯突こうとしてたんか」

「くっ……」

「度胸だけは認めてやってもええで」

「まだ、まだ終わってない……」

 

 棒を構えるとニヤケ面は余裕を見せるようにやれやれと言ってくる。術式は未だにわかっていない、でもこの人はどんどん加速していく。となると自分にも影響を与えられる術式なのだろうか。それでもってこっちにデバフをかけるわけだけどって考えてもわからない。

 

「桜戲、その人の術式は投射呪法。触れた相手に」

「おっと真依ちゃん誰が話していいって言った?」

 

 周りを駆けていたはずの男はいつの間にか真依さんの口を手で塞いでいた。嫌悪する顔を見せる真依先輩を見て自分の中で何かがプツンと切れる。

 

真依さんに触るなぁぁぁ!!!

「なんや急に声を上げて、動物でももっと静かに出来る……で?」

 

 瞬時ペットボトルの残りの水を全部左腕に纏わせて螺旋状に解き放つ。掴むように直前で展開するも避けられる。流突の応用で地面にある水ではなく呪力操作で纏っている水を放つように一気にやったが当たることはなかった。

 

「術式使えば当てられるとでも思ったんか?」

「もしかしたら殺してしまうかもしれない、怪我を負わせてしまうかもしれないと思った。真依さんの親戚だからって遠慮してた。けどもう決めた、殺してでも一撃を入れてみせる」

「よう喋るガキやな。調子乗るんやない!」

 

 何を考えているのかまっすぐ走ってくる男を前に輪唱を出して盾を作る。

 

「そんなもの効きやせぇへんわ!」

「そうだよな、そう言うと思ったわ」

 

 まっすぐ走ってきてくれるおかげでタイミングが測りやすかった。目の前まで来ると俺は跳ねてヤツの頭上になり円を描くようにヤツの頭の方に持ってきた輪唱の形を変える。

 

「雷音」

「効かないゆうたやろ。そないなもので俺に手が届くとでも」

「チャンスってのはどこから訪れるかわからないよな」

 

 男が逃げた先で術式を発動させる。流突のように螺旋を描いてまとわりつく水に困惑しているようだった。そこにあったのはさっき加茂先輩と模擬戦をした時に出来た水溜り。元々俺が呪力を通してから出したため水が残っている状態ではまだ呪力は通っていた。そしてさっき頭上から攻撃を仕掛けた時にそっちの方に仕向けるよう角度を調整した。一か八かだったから引っかかってくれて助かったけど。

 

「こないな術式程度で」

「やめとけよ、今その水に触れたらアンタどうなるかわからないぜ」

「何を仕込んだんや!?」

「王水って、言ったら信じるか?」

「そんなん信じられるわけないやろ!」

「歯ぁ食いしばれよ!」

 

 男が水に触れたことで術式の形が保てなくなった水はバシャバシャと落ちて男はフリーになる。でもその時にはぶん殴れる距離にいて胸ぐらを掴んでいた。触れられる前にぶん殴ればいいと拳を構えると体が動けなくなる。触れられたわけじゃない。でも全身に力が入らなくなる感じがして立てなくなる。

 

「ハハハ、呪力切れとは惨めなもんやなぁ」

「な、に………」

「無理に楯突こうとするからや。でももう動けへんなぁこんな近くに俺がいるのになぁ」

 

 しゃがみ込んで君の悪い顔を見せつけられる。屈辱だ。こんな屈辱認めたくない。

 

「ガキは大人しくしてろっちゅうことやなぁ!」

 

 立ち上がった男は俺目掛けて全力で蹴ろうとしていた。避けることすら叶わないだろうと諦めようとしていた時乾いた音が聞こえた。目を瞑っていたが痛みが訪れることはないむしろお腹に何かが当たって足と腕が宙ぶらりんしている感じだ。目を開けると校舎が見えた。

 

「なんや葵君か」

「それ以上は男じゃねぇだろ」

「邪魔せんで欲しかったわ。君らに変わってちゃんと教育しようと思ったのになぁ」

「時任はよくやった。これ以上やるってんなら俺が相手になる」

「しらけるわドアホ。また今度な真依ちゃん」

 

 スタスタと歩いて行く音が消えていくと同時に俺の意識もどんどん消えていった。

 次に目を覚ました時、そこは僕の部屋だった。誰かが運んでくれたのだろうか、起き上がると体のところどころに痛みが走る。アレだけ会心の一撃並みのダメージをモロに喰らったのだよく立っていられものだ。しかしあの男に一発でも殴れなかったのが悔しくて仕方ない。もう少し呪力の調整をしておくべきだった、あの時こう動けていたらなどとすぐに振り返るが悔しい気持ちが募っていくばかりだった。

 

「あら、起きたのね」

「真依先輩……」

 

 ノックもせずに入って来た先輩はお盆に水と果物を乗せて椅子に座った。正直先輩に合わせる顔がない。あんなことを言っておきながら親戚の人に喧嘩をふっかけた挙句負けたなんてカッコ悪すぎる。

 

「体は動くの?」

「なんとか、ですけど」

「そう」

 

 淡々とした様子で果物を剥き始めるとさらに移していく。その皿を僕に渡してきた。

 

「食べられそう?」

「……置いといてください」

「そんなこと言ってアンタ自分で食べられるの?」

「先輩に顔を見せたくないだけです」

「だからってベッドの上で体育座りしてんじゃないわよ」

「でも僕、あんなことして、迷惑かけたのに先輩に来てもらう資格なんて」

「そうね。迷惑だったわ」

 

 グサリと言葉の矢が刺さる。

 

「あのまま何もなければ今までと同じようにしてやり過ごせていたのに、全く厄介なことをしてくれたわね」

「………ごめんなさい」

「全く、家に帰るのも余計億劫に感じるわ」

 

 先輩からネチネチと言われるかと思いきや次に飛んできたのは意外な言葉だった。

 

「でも、ありがとう」

「………え?」

「私が嫌がっていることに気付いてくれて」

「そりゃあ気付きますよ……」

「ただ負けたのは許さないわ」

「えぇ……」

 

 今のはそういう流れじゃないじゃん。もっと違うパターンだったじゃん

 

「正直あの人をあそこまで追い詰めることができるとは思ってなかったわ。だからもっと強くなりなさい」

「言われなくとも、強くなります。アイツを、一発ぶん殴るまで」

「俺って言ったわね」

「あ、すみません」

「いいわ。私の前でくらい気を抜きなさい」

「そんなこと」

 

 出来ないと言おうとすると口を塞がれる。まるでマシュマロのような柔らかい感触。少し熱があるような、でも何かが満たされるような変な感じ。先輩の顔が離れると妖艶な笑みを浮かべていた。

 

「真依さん……今」

「今日はさっさと寝なさい。明日また来るわ」

「は、はい……」

 

 真依さんが部屋を出ていくと再び静寂が訪れる。一体何が起きたのか理解ができないまま何も考えないようにして布団の中に入り眠ることにした。

 




 私は部屋に戻るとドアを閉めてその場に座り込んだ。自分が何をしたか振り返ってみると恥ずかしくて仕方なかった。でも何か、伝えたくて仕方なかったんだからしょうがないじゃない。

「……桜戲の、バカ」
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