呪術高専京都校〜知られざるもう一人の一年〜   作:OSTO文明

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長い間お待たせしました!なぜか暫くこっちの筆が進まなくてですね………不定期なのでお許しください


第七話 狂気と閃きとその先を

「器が死んだ?」

「そうみたいだよ」

 

 お昼ご飯を食堂で食べていると新田君は最新のニュースを持ち出してきた。ただ言っている内容は理解していなかった。

 

「えっと器っていうのは?」

「そこからかぁ……。宿儺の指っていう特級呪物の器、要は適合者がいたんだよ。その人がこの間任務の最中に死んだんだって」

「へぇー宿儺って?」

「そこも知らないの!?」

「入学案内には書いてなかったよ?」

「書いてるはずもないけどね!?」

『俺が説明しよウ』

「メカ丸先輩」

 

 昼ごはんを食べる必要がないのかテレビを見ていたメカ丸先輩がテーブルの前に来た。よろしくお願いしますと会釈をすると近くにある椅子に座って話始めた。

 

『宿儺とは生前は腕が4本、顔が2つの仮想の鬼神とされるが、正体は1000年以上前に実在した人間ダ。呪術全盛の時代に術士が総力を挙げて両面宿儺に挑んだが、終ぞ勝てなかったとされていル。その存在は最早意志を持つ災いだったとも言われていル』

「人間だったんですか?」

『らしいナ』

「勝てた人っているのかな………」

『さぁナ。しかし宿儺は二十本の指に魂を分割してこの時代まで封印されていタ。しかしこの間、宿儺の魂が封印されている特級呪物“宿儺の指”を体に取り込んだヤツがいル』

「それって無事でいられるんですか!?」

「普通なら死ぬよ、体が耐えきれずにね。そうでなくても普通食べようと思わないんだけど」

『だがそいつはそれを体内に取り入れ、自らの力としタ。それが例の宿儺の器ダ』

「それで、最近その人が死んだと」

 

 二人は頷きながら答える。それほど強力なものを取り込んでおきながら死んでしまうとは一体どういうことなのか。不幸な事故か、それとも呪霊にやられたのか。謎が増えていく。

 

「質問いいですか?」

『?』

「その宿儺の器さん?は人間なんですか?」

「あー確かに気になるね」

『元は人間だろうが、特級呪物を取り込んだんダ。半分呪霊のようなものだろウ』

「半分呪霊、でも半分は人間………」

「でも上は喜んでいるみたいですよね」

「人が死んだのに!?」

『人といえど相手は特級に匹敵する可能性を秘めていル。それに災いと言われる宿儺の脅威が減ったんダ。喜ばれるのも当然ダ』

「でも……」

「時任君、この世界ではそれは普通だよ」

「加茂先輩」

 

 食堂の入り口の方を見ると加茂先輩が声をかけてくる。加茂先輩の表情はとても落ち着いていて冷たい声だった。そこにはまるで情がないような、それが当たり前のような声色だった。

 

「呪霊になったものも、呪霊と同じように祓う。それが私たちの役目だからね」

「それが元は人でもですか!?」

「ああ。少しやりづらくはなってしまうかも知れないが、命の危機にさらされているのならば仕方ないだろう」

「そんな………」

「それに世の中は善人だけじゃない。悪い人だっている。呪術を使って平気で人の命を奪うような奴らもな」

「え………?」

「そっか、時任君はまだ呪詛師を知らないんだっけ」

「呪詛師?」

『我々のような呪術を使うにも関わらず道を踏み外したものダ。それを人殺しに使うような奴もいル』

 

 理解が追いつかなかった。だってせっかく力があるのに人のために使わず、ましては人を殺すために使っているんなんて。この世界は一体どうなっているんだと混乱していた。

 

「その者達にも迷いはあったんだろう。しかし奪った命は戻ってこない。奪われた人たちのためにも我々は呪詛師も対峙している」

「それは…倒す時どっちが優先されるんですか?」

『というト?』

「呪詛師と元人間の呪霊、どっちを倒すのが優先なんですか?」

「そこに優先順位などはない。どちらも倒すだけだ」

 

 その言葉を聞いて心苦しくなった。呪詛師は仕方ないと飲み込めるものの元人間の方は飲み込めなかった。呪霊といえど元人間、ならば肉があるはずだ。そしたらきっと痛いはず。そしてもし心が残っているのならば悲しくなるのだろう。それを想像すると辛く感じる。だけどそうしないと被害が出てしまうことに納得せざるをおえなかった。

 

「さて、こんな話をしてすぐで悪いが任務に行くぞ」

「え、加茂先輩も行くんですか?」

「ああ、今回は私、メカ丸、西宮、三輪、新田君、時任君のここにいるメンバーで行く」

「準一級の先輩たちが同行するってことはかなり危険な任務なんですか?」

「いや、全員が見事にバランスの取れたメンツだからな。それに危険ではあるがこの人数なら問題はないだろうとのことだ」

 

 行き先の任務を聞くと今度は廃業した遊園地から人の声が聞こえるとのことで調査すると複数の呪霊が発見されたらしい。どれも特徴が違い、連携をとっているものが多いため僕たちが呼ばれたとのことだ。もっと適任がいたのではないかと聞くと今空いている術師が少なく学生だが呼ばれる、なんてこともあるらしい。車に乗って移動しながら作戦会議が始まる。

 

「先ほども説明したが複数の呪霊が連携をとって行動している。だから我々もメンバーを分けて探索及び呪霊を祓う。メンバーは私、西宮、時任君のA班とメカ丸、三輪、新田君のB班だ。各班準一級の術師がいるため指示は基本的に聞くこと」

「了解です」

「わかりました」

「特級と遭遇した場合は即撤退すること。いいな?」

「「「「『はい!』」」」」

 

 全てを確認し終えると車のスピードがどんどん遅くなっていく。目的地に着いたのだろう。車を降りて景色の確認をするとボロボロになった遊園地の入場ゲートが見える。明らかに数十年くらい経ってそうなボロさに一瞬声が出そうになったがすぐに落ち着きを取り戻す。遊園地の中を探索すると本当に何十年も使われていないかと思うくらいボロボロになっていた。僕たちA班は上空の西宮先輩と連絡を取りながら探索をしている。

 

「時任君、先程はすまない」

「何がですか?」

「いくら現実とはいえ急なことを言ってしまった。そのことについてだ」

「い、いえ。こちらこそすみませんでした。少し取り乱してしまって、まだまだ勉強が必要なのでご指導よろしくお願いします」

「いやこちらも言い方が悪かった部分がある。それにしても君は本当に礼儀正しいな」

「そ、そんなことないです」

「普段の態度から見てとれる。この間いた君の御兄姉のことを少し調べさせてもらった」

 

 少しばかり心にグサッとくる。もしかしたら比べられたのではないかとドギマギする。

 

「どちらも功績を残しているみたいだな。それも有名人ときた。生憎私は知らなかったがね」

「そうなんですか?」

「そういったものには疎くてね。ただそれを見て思ったんだ。君と私は正反対の位置にいながらも似た存在だったと」

「僕と先輩が似ている………?」

「ああ。私は本来後継にはなれないんだ」

「でも先輩は加茂家次代当主だって」

「そうだ。本来正室から生まれる筈の子がこの術式を受け継ぐはずだった。しかし側室だった私の母が私を産み私が相伝を受け継いでしまった。だから私が後継になったんだ」

「だけどそれと僕たちの共通点と何の関わりが」

「君はおそらく兄姉に比べられたんじゃないか?常に比べられて孤独感があったはずだ。………私は周りに人はいたが、そこにいて欲しい人はいなかった。どれだけ次代当主だなんだと持ち上げられても、結局私は一人だった」

「だから正反対で似ている………」

「そういうことだ。だからというわけじゃないがこれからも仲間として一緒に戦わないか?」

 

 一度止まって差し出された手を見る。一瞬戸惑いもしたが手を握って握手する。だけど一つだけ思うところがあった。

 

「こちらこそよろしくお願いします。ですが先輩と僕とでは違います」

「……違くない」

「いえ違います。別に僕は比べられてきただけで周りに理解者がいなかったわけではありませんから」

「…そうか………」

 

 しゅんと俯いた表情を見せる加茂先輩だったがその後なんとかフォローして持ち直した。しかし呪術師の世界でも一般の家庭でもやってることややられていることは変わりないのかな。どこに行っても皆が皆楽しているわけではないんだ。僕はこれから先いろんなものに向き合っているのだろうか。などと考えていると西宮先輩から連絡が入る。人がいるとのことだ。念のため槍を構えると物陰から上半身裸の上に革ジャンを着た人が出てきた。手には棒らしきものを持っている。

 

「何者だ?」

「んー?若い男が二人…おっほ、空には飛んでる女の子!しかも高専生なのぉ、嬉しいわねぇ!」

「なんなんですか!?」

「呪術師なのよぉ、俺も」

 

 怪しい男は棒を勢いよく引き摺り出して横に突き立てる。形状を確認すると大きなバトルアックスだと分かる。男は妙にくねくねしながら話しかけてくる。

 

「久しぶりの来客だからなぁクロちゃんが帰ってきたら餌にしてやろうかしらぁ」

「(クロちゃん…?)一体何を言っているんですか?」

「時任君気をつけろ。彼は呪詛師だ」

「なっ!?」

 

 呪詛師、ってことはこの人は道を踏み外した呪術師。さっきの自己紹介はあながち間違ってはいなかった。しかしここにいるということは複数の樹齢の情報は嘘なのか?でも情報を得るのは窓の人たちって言ってたしな………。

 

「呪詛師、ここを徘徊しているという呪霊を知っているか?」

「あー、そういえばいたわねぇ。低級だから腹も満たせねぇし欲求も満たせない。だからほったらかしにしてたわぁ」

「じゃああなたは何を」

「そりゃあ勿論ここにくる馬鹿な人間どもを殺してるに決まってるじゃなぃ!男は見つけたらすぐに殺す。女はおもちゃにして飽きたら殺す。当たり前よねぇ?」

 

 同意を求める目で訴えてくる。頭の中で何かがプツンと切れる音がした。理性的ではない感情が言っている。思考ではなく本能が言っている。

 ────コイツは生かしていてはいけない。

 

「先輩、呪詛師って遭遇したらどうすればいいんですか?」

「捕獲だ。最悪の場合殺しても構わない」

「では、先に謝っておきます。善処はしますが」

 

 先輩から許可をもらったので呪詛師に急接近する。槍で一突きしようとすると持っていたバトルアックスで防がれる。連続して刺していくがすべて弾かれる。槍の軌道が大きく逸れた時腹にエルボーを決められる。思ったより鋭く重い痛みが体を突き抜ける。

 

「カハッ」

「時任君!」

「若いわねぇ、これは前よりも楽しみ甲斐がありそぅ」

「何をしているんだ!独断先行など」

「カハッカハッ、大丈夫です。次はやります」

「そういうことを言ってるんじゃない!落ち着きたまえ、もう少し冷静に戦わなければ」

「何を言ってるんですか!アイツは人殺しを楽しんでます!」

「わかっている。しかし相手はこちらが考えていたよりもはるかに強い。だからこそ一度頭を冷やさなければならない」

「でもそれじゃあ」

「別に私は何もしないとは言っていない。もう少し冷静に戦ってくれればそれでいい」

「?」

「後方支援は私に任せろ。これでも加茂家次期当主だ、君のサポートくらいやってのけるさ」

 

 差し出された手を取って立ち上がる。どうやら今日はよく周りが見えなくなるらしい。一度顔を叩いて気を取り戻す。

 

「すみませんでした。先輩、僭越ながらサポートの方よろしくお願いします!」

「ああ、いくぞ!」

 

 弓を構える先輩を背に走り出す。今度はちゃんと戦えるよう相手全体を目に捉える。槍を振るい攻撃を仕掛ける。薙ぎ払われる時は距離を取ると加茂先輩の矢が飛んでくる。至近距離に入った時格闘技をするとある程度捌かれる。この人かなり戦い慣れてる。

 

「バックだ!」

 

 先輩の指示で一度後ろに跳ぶと呪詛師も追いかけてくる。防ごうと構えたが間に合うか分からない。術式を展開した方が早いかと考えた瞬間男は地面に叩きつけられる。吹き抜ける風を感じて上をみると箒に乗った西宮先輩の姿があった。

 

「私のこと、忘れてた?」

「そんなつもりは」

「大丈夫、本来戦闘に加わるタイプの術師じゃないからね。でも一応戦えるの」

「か、かっこいい………!」

「あまり油断しないで。くるよ」

「は、はい!」

 

 先輩たちのサポートに頼りながら呪詛師と戦う。距離がとれた時には輪舞を使うがバトルアックスを振り回されて弾かれる。しかしそれは僕の作戦のうちだった。それを機に接近して隙の出来た部分を狙い刺しこむ、つもりだったがここで想定外のことが起きた。近くの壁が破壊される音が聞こえたのだ。思わず意識はそちらに向かう。壊れた壁の向こうから現れたのはこの前見た犬よりも大きな鰐だった。

 

「クロちゃんおかえりなさぁい!」

「あれがクロちゃん………!?」

「言ってなかったわねぇ、あれは俺のペットなのよぉ」

「呪霊を飼っているのか!あれはメカ丸!?」

 

 壁の方から三人くらいの人影が見える。B班の人たちだろう。どう見ても苦戦を強いられているようにしか見えない。

 

「大丈夫なの?」

「ちょっとキツイかもだけど」

『問題ナイ』

 

 とりあえず安心だとわかると拳が突き出される。寸前のところで躱して後ろに下がってからもう一度刺しこもうとすると槍をアックスで防がれ挙げ句の果てには刃の部分を壊されれてしまった。

 

「なっ!?」

「ワキが甘いのヨォ!」

 

 そのまま回し蹴りで遠くまで飛ばされる。かなり重い一撃だったからか脇腹がかなり痛い。壊れた槍を杖代わりに立とうとするとうまく力が入らない。駆け寄ってくる足音が聞こえる。誰だと痛みから目を逸らして確認すると新田君の姿があった。

 

「無理しちゃダメだよ!」

「ごめん、でもアイツのことが」

「それは見ててわかった。でも一つの油断が命を落とすことにつながるから……はい、とりあえず僕の術式付与したからこれでしばらくは戦えると思う」

「ありがとう、行ってくるよ」

「一応言っておくけど治ったわけじゃないからね!」

「合点承知!」

 

 新田君の術式もあってかある程度自由に動かせる。しかし武器を一つ失ってしまった。矛先を失った槍などただの棒でしかない。あの変態を牽制しながら加茂先輩がやってくる。

 

「時任君大丈夫か?」

「ええ、まあ。新田君のおかげでどうにか動けます。ですが」

「それでは十分に戦えないな。私が気を引くからそのうちに術式で対応してくれ。棒は念のため持っておいてくれ。近接になった時刺すことぐらいはできるだろう」

 

 刺すというワードを聞いて閃く。しかしどうするか考えると思考が重なっていくのを感じる。ある地点まで行った時頭の中は真っ白になった。

 

「どうしたんだ?」

「先輩、僕まだいけます」

「その棒で何ができるというんだ!?」

「これからただの棒じゃなくなります。あと次の一手で終わらせたいので先輩は一番決め手になるやつ用意しておいていただけると助かります。なんか命令しちゃうようで悪いんですけど」

「勝算はあるのか?」

「思いつきを数字で語れるか、って言いたいところではありますけど本当のところを言うと五分五分ですね」

 

 嘘、本当は三割しかない。けどすぐにでも決着をつけないと体力を時間に奪われそうだから適当なことを言っておく。流石にそれくらい見抜かれるだろうか。まぁあの加茂先輩だから絶対に止めに

 

「わかった。やろう」

「そうですよねって、え!?」

「何を驚いている。今の君の考えに合わせる。ただし条件がある」

「なんですか?」

「私はしばらくここから動けなくなる。狙いを定められるよう隙ができた時はちゃんと狙えるようにしておいてくれ」

「了解です!」

 

 棒を振り回して敵に構える。すると西宮先輩から声がかかった。

 

「私はどうすればいいのー?」

「西宮先輩はメカ丸先輩たちのサポートに回ってください。多分こっちよりそっちの方が必要かと」

「わかった、気をつけてね」

「畏まりました!さぁ、ファイナルラウンドと行こうか!」

「長い間待ったけどもういいのねぇ?じゃ、本気で殺すわよ!」

 

 刃のない槍を構えて僕は正面切って突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァァ!」

「ゔぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 俺たちは今大型のワニ型呪霊と戦っている。壁をぶち破ってきた時にクロちゃんという名前が聞こえたのを考えるとこの呪霊は今加茂たちが戦っている男の呪霊なのだろう。そっちの方はアイツらに任せるとしてこっちはかなりキツい。三輪のシン陰流が整う隙がなく速い上に狙いが定まりにくい。非戦闘員に近い新田は攻撃に加わらせる事は出来ない。どうにかトドメを指す方法はないかと試行錯誤しながら戦っている。奴との距離ができた時に上から西宮がやってきた。

 

「メカ丸、大丈夫なの?」

『西宮、見ての通り手が出せない状況が続いていル。どうにか動きを止められれば一回の砲撃で終わるだろウ』

「アイツってワニでいいんだよね?」

「そうだと思いますけど」

「そう、なら私に任せて」

「西宮先輩どないしはるんですか?」

「メカ丸、私が気を引くからその間に準備しなさい(・・・・・・)

『!イイだろウ』

 

 西宮は箒に乗って飛んでいくとワニの周りを旋回している。どうやら本気で囮になってくれるらしい。

 

『三輪、シン陰流はやれるよナ?』

「う、うん!やれるよ!」

『じゃあ簡易領域を構えロ。斬る部分は足でイイ。斬ったらすぐに離脱しロ』

「何か作戦があるんだね、わかった!」

『新田は離れておケ。何かあった時に動いてもらえると助かル』

「了解です」

 

 指示を出し終えた俺は三輪が構えているところの数メートル先に砲呪強化形態(モード・アルバトロス)の状態で構える。呪力も装填を始めある程度貯まったところで西宮に合図を送る。合図を受け取った西宮は再び鰐の周りを旋回してこっちの方み向かってくる。ワニに喰われそうになりながらもちゃんと三輪の元に案内してくれた。ワニは目の前の獲物に集中しきっているせいで足元の存在に気付かない。

 

「シン陰流 簡易領域」

 

 よそ見をしていたワニは三輪の領域に入ったことにカウンタースラッシュを膝に入れられる。足がなくなった巨躯は滑りながら俺の方にやってきた。三輪が既に射程内にいないことを確認し照準を合わせる。滑らせた巨体は俺の眼の前で止まりその大きな目を見開かせる。

 

『終わりダ』

 

 三重大祓砲(アルティメット・キャノン)をワニの鼻先から放ち呪力砲が体を包む。光が消え去るのと同時にワニの姿も無くなっていた。状況を解決すると三人が集まってくる。

 

『呪霊は完全に消滅したカ?』

「うん、しっかり消えてたよ」

「やったねメカ丸!」

「お疲れ様です」

『アア』

 

 今回の敵は皆がいたから倒すことができた。協力することも必要なのだなと鑑みながらも間接部位などの稼働状態を確認してから加茂たちの方へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 呪詛師との距離を詰めて格闘に持っていく。バトルアックスを手足のように振り回してくるのをかわしつつ入り込む隙を探す。棒同士がぶつかり合う音が響く。男の胴体がガラ空きになった瞬間棒を引っ込めて勢いよく放てるようにする。

 

「(水…?)そんなもので倒せると思ったら大間違いよ!ッ!?」

「胴体ガラ空き、貰った!」

「だから甘いのヨォ!」

 

 突き出した棒はバトルアックスで防がれる。しかしこれが一番の狙い(・・・・・)だった。戦う前から流し込んでいた水が棒の先に団子のように集まっている。

 

「おかしいと思わなかったの?当てられた時棒の感触ではなく柔らかい感触だったのを!」

「どういうこと!?」

「こういうことだよ!“雷音(ライオット)”!!」

 

 術式を発動させると棒先の水は螺旋を描くように形を変えていく。それはまるでドリルのような形になり回転数を上げていった。防がれていた戦斧の胴体に穴を開けるように回転は早くなっていく。

 

「なっ!?」

「あなたは強い!けれどその怠慢があなたに油断をもたらした。昔から言うでしょう、油断大敵即ち怠惰ってね!」

「俺は油断なんてないわよぉ!なにか隠してるとは思ってたさぁ、こんな芸だとは思ってなかったけどねぇ!」

 

 男は削られている戦斧を押し返してくる。さっきよりも硬度が上がったのか削れてる感じがしなくなってきた。

 

「俺の呪力を通せば硬度は上がることを知らなかったの?まだまだ甘ちゃんね!」

「知ってたさ。だからこそ残りの呪力()を使いきってでも貫いてやる!!」

 

 僕も徐々に呪力を流し込んで威力を上げていく。飛び散っていく水を回収している暇はない。永久機関になれないこの技は諸刃の剣とも言える。しかし僕は削って穴を開けるだけでいい。だが願わくば、コイツの腹に風穴を開けてやりたいという気持ちが勝ってくる。

 

「ハァアアアアアアア!!!」

「オォオオオオオオオ!!!」

 

 互いに力んでいるのが分かる。自分の呪力が最大になった時、水が棒先からなくなった。しかしそれと同時に戦斧に大きな穴が開いた。

 

「ナッ!?」

 

 やった──と言いたかったが立てるほどの体力も同時になくなり倒れる。しかしこれでいい。僕の役目はこれで終わりだから。

 だから────頼みましたよ、先輩。

 

「その願い、受け取ったぞ時任君!」

「まさかッ!」

「『穿血』!!」

 

 伏せていた身体を起こして呪詛師の方を見上げると一筋の朱い線がヤツの身体を貫いていた。狙いは心臓部分、流石は加茂先輩だ。男は貫かれた胸に手を伸ばしながら血を吐いて倒れる。先輩が近寄って確認すると死んでいるらしい。それを聞いて安心し仰向けに倒れた。

 

「時任君!」

「ハハハ、やりましたね」

「全く、心配かけさせないでくれ」

「すみません。あの時は無我夢中で」

「しかし、意外だったな」

「何がです?」

「時任君が人を殺そうとするとは」

「………本当は人殺しはいけないことだと思います。ですがこの世界に生きている以上どこかで割り切らなきゃいけない時がきっと来るはす。だったら人として許してはいけない人は殺す、僕はそう決めて吹っ切りました」

「そうか………だがそれも君の選択だ。しかしもし君が道を踏み外した時は」

「その時は先輩が殺してください」

「いいのか?自ら命を差し出すような真似をして」

「先輩が見てるって思えばきっと間違えることはないと思いますし、何よりその方がいいと思いました」

「フッ、いいだろう。だがそれまでは君を導いて見せるとしよう、先輩として」

 

 先輩は口角を上げて静かに笑うと手を差し出してくる。その手を握って立ち上がってあたりを見回す。

 

「よろしくお願いします。じゃあそろそろ西宮先輩たちの方に」

「その必要もないみたいだぞ」

 

 遠くの方を見ると先輩たちが並んで歩いてきていた。どうやら向こうも片付けられたらしい。皆でボロボロになりながらも僕たちは笑いながら学校に戻った。




雷音 らいおっと
 拳や槍の先に纏わせて相手にぶつけたときに発動する。駒のようにぶつけた箇所で回り続けてドリルで削るように攻撃する。ただしぶつけるまで纏わせておくときの呪力操作など細かな作業を必要とする。
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