呪術高専京都校〜知られざるもう一人の一年〜 作:OSTO文明
「マイ時任、今日もトレーニングしようぜ!」
呪詛師との戦闘から一週間、今日は休日だが東堂先輩が部屋にやってきた。開口一番某中島くんと同じようなことを言っているがいつも通りだと認識してトレーニング場へ向かう。準備運動を済ませて棒を軽く振り回して体を慣らす。
「俺がいない一週間どうだった」
「……新しいラインに立ったと思います」
「例の呪詛師のことか」
「はい」
「話は聞いている。だがこの世界は一つの判断が命取りになることも多い。だからこそ自分が正しいと思った判断を信じろ、いいな?」
「はい!」
「それじゃあ本気で一戦交えるか」
「は、い?」
待て待て待て待て。この人正気か?いくら人と戦ったからといって急にそんな強くなっているわけでもないだろう。シンプルに戦いたいという気持ちなのかどうかは知らないけども、本気で交えるのは嫌だ。絶対死ぬ。
「俺も遠慮無く行く。だからお前も全力で来い」
「お断りしたいです!」
「強くなるには仲間でも本気で戦うのが一番だ!」
「おっしゃる通りで!しかし先輩とガチバトルは嫌です!」
「何故だ!強くなりたくないのか!」
「強くなりたいけどレベルが違いすぎます!もっと強くなってからがいいです!」
「ややこしいのはやめだ!行くぞ!!」
「話を聞けぇぇぇ!!!」
話を聞かない先輩が襲いかかってくる。クソと思いつつ棒を構えると初撃は防ぐことが出来た。しかし二、三度防ぐとそのまま勢いに負けてボロ負けした。
一方的にボコられる組み手が終わると大の字になって地面に寝転がる。いやもう、疲れた。防げるようになったらスピードあげてくるし、躱した先に拳が飛んでくるし、結構手加減されてるのが分かる。本人は常に上のレベルに設定してくれてるから、ありがたいといえばありがたいのだが正直に言うとキツい()。あと攻撃力は普段と変わんないからマジ痛い。
「でもあの人一級だもんなぁ……」
「何言ってるんだ時任」
額の上に何か冷たいものを当てられる。受けとるとそれは缶ジュースだった。カシュッと音を立てながら開けるとシュワシュワした音が聞こえてくる。
「開けちゃったんですけど貰っていいんですか?」
「飲め、奢りだ」
「ありがとうございます!」
グイッと飲むと口の中で炭酸が弾ける。その爽快感は喉を通っていった。
「ぷはー、やっぱ炭酸はいいですね!」
「だな。しかしこの短期間で強くなったな」
「そ、そうですか?」
「あぁ、あった頃より数段強くなっている。現に俺の初撃を避けただろう?」
「確かに……」
「その調子で強くなれ。俺がお前を育ててやる」
「う、うっす……」
期待の眼差しを向けられちょっとだけ目を反らしたがすぐに返事を出す。
「そういえば先輩は何で東京に行ってたんでしたっけ?」
「んあ?ああ、姉妹校交流会の下見でな」
「そ、そうなんですか……」
「だが今年は乙骨がいない。アイツをこの手で倒したいというのにな」
「強いんですか?その乙骨さん?って人」
「奴は特級術師だ」
「特級!?」
「去年は負けてしまったからな、今年こそ奴に勝つ!」
先輩が闘志に燃え滾る中とんでもない化け物が最強レベルに勝負を挑むのか、この世界やっぱおかしいよなと思いながら残っている炭酸を飲み干した。
その日の夜、僕は部屋を抜け出して台所へ行った。夜ご飯はもちろん食べたがあれだけじゃ満たされなかった。だから夜食にカップラーメンを食べようと持ち込んでいた。作るは勿論シーフード、深夜に食べてはいけないカップラーメンでも上位のものだ。そもそもカップラーメン自体夜食に食べてはいけないが今なら誰にも邪魔されまいとお湯を準備する。
──今日僕は初めて深夜のカップラーメンに手を染める。これが悪だというのなら僕はそれでいい。けれど今の僕は誰にも止められ
「何してるの時任君?」
「……!」
ないと思っていた。声のする方へ振り向いてみるとそこには西宮先輩の姿があった。その隙にカップ麺を見られたのか西宮先輩はニヒルな笑みを浮かべた。
「こんな時間にそんなもの食べようとするなんて、悪い子だね」
「いっ、いえ!そのですね!別にこれを食べようだなんて」
「お湯沸いたよ」
「あ、ありがとうございます」
西宮先輩に勧められるままにお湯を入れる。そこで気づいた。あれ?もう隠せてないんじゃないか?お湯を半分入れると静止させられる。一度止めると先輩は冷蔵庫から何を取って来てカップ麺の中に入れていく。
「じゃあ時間測って」
「は、はい。何入れてたんですか?牛乳とか入れてましたけど」
「ちょっと味付けをね」
「カップ麺にも工夫の仕方があるんですね」
「まぁね」
それから三分間待ってる間生活について聞かれた。東堂先輩が絡んで来ることや新しい生活に慣れたかなど軽い世間話程度に聞かれたがそこまで重圧を感じなかった。タイマーがなると蓋を外す。すると普段のシーフードヌードルよりも香ばしい匂いが漂ってきた。
「こ、これは!」
「西宮特性シーフードヌードルだよ」
「おぉ…いいんですかこれ?」
「もちろん」
「ありがとうございます!」
テーブルに運んで麺を啜るといつもより濃厚な味わいが口の中に広がった。
「すっごく美味しいです!」
「よかった。作り方は呪術廻戦の公式が上げてくれてるからそっちを見てね」
「は、はい!」
「ありがとうね」
「?何がです?」
「真依ちゃんのこと」
真依ちゃん…ああ、真依さんのことか。大したことはしてないしむしろこっちがお世話になって位なのだかどうしてだろうか。
「何故ですか?」
「真依ちゃんね、君が来てからよく笑うようになったの」
「え?」
「前も笑ってはいたのだけど表情が豊かになったというか」
「真依さんって何か大変なことばっかりだったんですか?」
「だって禪院の家だもん」
それもそうか。御三家の一つでもある禪院家なら確かに重荷がかなりあることだろう。
「呪術師ってのはね、スタート地点に立てるかどうかから始まる。例え立つことが出来たとしてもそこからなの。女なんてスタート地点にすら立たせてもらえない。そんな中真依ちゃんは必死に努力したの」
「だから笑ってる余裕がなかった」
「そういうこと。でもね、時任君が来てから随分余裕を持てるようになったみたいなの」
「僕が来てからですか?」
「うん、他の皆も。結構張り詰めていた雰囲気があったんだけど時任君が来てから皆結構変わったと思う」
「僕なんか対して役に立ててないかもしれませんが」
「そんなことないよ。皆の精神的支柱にもなってるしこの間だって加茂君と協力して呪詛師を倒したじゃん」
「それは………」
「それに後輩として可愛げもある方だし」
「それはまた別の話でしょう」
「でもそういうのが結構支えになってるの。私も呪術師は実力が一番だと思ってた。けど、こういう存在も大事なんだって気づいたよ」
なんだかそう言われると照れ臭い。気を逸らすように麺を頬張ると喉に詰まらせる。急いで水を飲むと深呼吸する。死ぬかと思った、深夜のカップ麺が死因だなんてお断りだけど。
「そんなわけだからこれからもよろしくね」
返事をすると西宮先輩は立ち上がって出て行こうとする。
「あ、それ気をつけなよ?深夜に食べるとカロリーかなり危険だから」
そういうことは早めに言ってくださいよ………。
次の日、お腹の辺りに違和感を感じながらも稽古に向かう。今日は個人練習なので筋トレをしてから槍を振り回していた。あの時の呪詛師との戦闘を振り返りながら体を動かす。もう少し動きやすいように体をイメージしようと練習していると後ろから声をかけられる。
「こんなところにいたの?」
「三輪先輩にメカ丸先輩、おはようございます」
「オハヨウ」
「おはようございます。一人で練習?」
「はい、もっと強くなりたいので」
「そっか、じゃあ一緒に練習しない?」
「いいんですか?」
「他の人にも意見を貰えた方が励みになるだろウ」
「うんうん、やろうよ!せっかくだし組手やる?」
「是非お願いします」
中心から大幅三歩離れたところで槍を構える。今更だが槍と言っても練習用の棒だ。三輪先輩は竹刀を構えている。メカ丸先輩の合図と共に模擬戦を始める。しばらく互角に戦っていたものの最後の最後で竹刀の先を向けられて終わった。この間は油断していたからなんだろうが今回は確実に落ち着いて戦っていたのだろう。礼をすると互いに大きく息を吐いた。
「お疲れ様です。お見事でした」
「いやいや、時任君も強かったよ?この間の不意打ちの時よりもずっと強くなってた」
「目を見張る成長だナ」
「そんなこと言っていただけるなんて光栄です」
「それにこの間だって、あ、ちょっと待って」
どこからかケータイの音が聞こえるかと思えば三輪先輩のスマホだった。どうやら家族と話しているらしい。数分して話し終えたのか戻ってきた。というかここ電波繋がってるんだ。
「ごめんね待たせちゃった」
「大丈夫ですよ」
「アア、そっちも大丈夫カ?」
「お母さんから、元気でやってるかーって」
「お母さん………」
その単語を聞くのは久しぶりだった。いや、自分の口から発したのが久しぶりだった。正直存在を忘れかけていたところだ。兄さんや姉さんに言われた時以来特に考えてこなかったせいだろう。
「そういえば時任君親御さんとは連絡取ってるの?」
「あー、いえ、あまり取ってないというかなんというか………」
「え、心配されてたりしない?」
「多分心配はされてないと思うので大丈夫です」
「もしかして……仲が悪いとか?」
三輪先輩はおそるおそる聞く様子で訪ねてきた。そんなことはないと慌てて否定するがそれは先輩達に迷惑をかけないためだ。
実際のところはすごく仲が悪い。普段は兄と姉に比べられ、二人がいないからといって出来損ないだのなんだのと言ってきたくせに呪術師になると言った瞬間に猛反対してきた。せっかく自分の才能を見つけたのに否定されて頭に血が上った。だからその日のうちに荷物をまとめて夜逃げするように家を出てきたのだ。兄達から捜索願の話が出てこなかったということはおそらくそういうことだろう。
練習を再開しようと話を切り出して組み手に戻る。途中からパターンや呪霊の種類の講座になったがすごく勉強になった。
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私は禪院の屋敷に久しぶりに戻っていた。経過報告と通達とのことらしい。正直あんなところ戻りたくはない。けど面倒臭い当主様がいるから戻らなきゃいけない。適当に話を聞いて終わりにしようかしら。
帰宅して一度部屋に戻ろうとすると女中に声をかけられる。小さい頃から仲良くしてくれている子だ。かといって聞いてくることは大体外の話だけど。
「真依ちゃんおかえりなさい」
「ええ、ただいま」
「今日は大変だよね、ご当主様に呼ばれちゃって…」
「どうせ姉妹校で真希潰せってことでしょう?言われなくてもやるわよ」
「…真依ちゃん、最近良いことあった?」
「え?」
「今まで見たことない良い顔してるから」
「え?」
表情に出てたかしら。だとしたら何でだろう。そんなに思い当たる節はないんだけど。
「いい男の人でもいたの?」
「そんなんじゃないわよ」
「え、じゃあ何?気になる子?」
「ほぼ一緒じゃない。でもそうね…」
思い返してみると確かに面白いことはあった。
「とても手のかかる後輩ができたのよ」
「後輩さん?どんな人なの?」
「私の一個下だからあなたと同じくらいよ」
「えー!どんな人なんだろう」
「賢いわよ。それに純粋なところがあって可愛げがあるの」
「それってペットみたいな…?」
確かにペットと言われればそうかもしれない。どの種類かって言われたら子犬ね。
「カッコいい系ではないの?」
「カッコイイところ?」
「なんかここに惚れたみたいなの」
「そんなこと」
思い返してみれば一度だけあった。初めて自分の術式を理解した戦いの動きを習得した時。あの時は最初とのギャップがあって少しだけ心を奪われたかもしれない。でもそれ以外のところは本当に手のかかる後輩みたいな感じで、だから……
「真依ちゃん?」
「何よ」
「顔赤いよ?」
「っ!」
「さてはその気があったな〜?」
「うるさいわね!」
「その子の名前は?」
「と、時任桜戲」
「オウギって名前なんだ。そっかそっか、真依ちゃんはオウギ君が気になってんのか〜」
「や、やめてよ!別にそんなんじゃないから!」
なんだか恥ずかしくなってきた。あの子にそんな感情なんてない。でも違和感を感じる。焦ったく感じむず痒くなってきた。
「とにかくあの子にそういうのはないから!」
「真依ちゃんどこ行くの?」
「広間よ!」
「全く、真依ちゃんは可愛いんだから」
襖を勢いよく閉めると一度顔を押さえる。今どんな顔をしてるか分からないから、誰にも見られないように。一度落ち着いて広間に向かって歩き出すと父親と遭遇する。見たくもないと思いすぐに歩き出した。なんだか複雑そうな顔をしていたがそれはこっちの気分だ。桜戲の話をしていた時になんで………?桜戲?確かあの人の名前は………考えたら腹が立ってきた。こうなったら桜戲に文句言ってやるんだから!