転生御曹司が恋愛マンガみたいな世界で恋と性欲と友情についてマジメに考えてみる青春ラブコメ   作:有栖川紫芋

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Number 1「男ってホントバカ」

 

 

 イケメンの背後に花が咲いている。

 美少女の背後にも花が咲いている。

 この世界の一部の人間には、ある特殊条件下で植物系の幻覚を見せる『異能力』が備わっているようだ。

 そんな事実を、俺は物心ついた時に確信した。

 

(……いや、もしかすると、これは俺だけに見えている幻覚なのかもしれないけど)

 

 ともあれ、〝イケメンと美少女の周りにだけ花が咲いて見える〟とか。

 脳機能の異常だとしても、そんな病気は一度も聞いたためしが無い。

 なので恐らく、俺は少女マンガか何かの異世界? に転生してしまったんだろう。

 あるいは、ラブコメの波動が渦巻くパラレルワールドの日本に。

 うん。何言ってるんだ? って感じだろうが、とりあえずまだ聞いてくれ……

 

 そう考えた根拠は、他にも幾つかある。

 

 まずこの世界だが、財閥制度が存続している。

 西暦2020年代。

 令和日本で元号も一致しているにもかかわらず、よく分からない聞いたコトもないような名前の財閥グループが、とにかく有名だ。

 

 そして、今世での俺の名前。

 

 『冷泉院(れいぜいいん)秋水(しゅうすい)

 

 冷泉院財閥の跡取り息子で、いわゆる御曹司ってヤツだった。

 つまり、この世界はGHQによって財閥制度が廃止されなかった、イフの世界。

 記憶を取り戻す前、幼稚舎からのエスカレーターで、晴れて初等科に上がった春の日のリムジンでのこと。

 ふと、窓から見えた煉瓦造りの塀と桜並木。

 都心だというのに、ありえないほどバカ広い敷地面積を持った『白凰陵学院 初等科』を見て、

 

(……あー? デカすぎんだろ)

 

 と思った。

 で、調べてみると。

 

 ──日本有数の名門校、白凰陵学院。

 

 そこは、各界から集った大富豪の令息に令嬢。

 天才、秀才たちが多く通う超超超が三つつくほどのエリートマンモス校であり。

 幼稚舎から高等科までのエスカレーター式一環教育。

 高額な授業料が課される一方、特別な才能を認められれば外部からの編入、学費免除なども認められる名門教育機関。

 そのため、現役のアイドルや将来有望なスポーツ選手なども一部在籍する──とかいう。

 

 まるで、マンガみたいな設定の有り得んだろって学校だったのだ。

 

 ラブコメに触れたコトのある人間なら、そりゃ思わないか?

 

(これ、少年マンガか少女マンガの世界じゃね?)

 

 ジャンルは恋愛ないしラブコメだ。

 入学パンフレットにペラペラと綴られた文言。

 フィクションみたいな舞台設定。

 それが現実に存在していて、しかも俺は大財閥の御曹司。

 アイタタタな妄想かもと自分を落ち着かせるのにも、さすがに限度があった。

 

 幼き日の俺は思ったね。

 

 これってひょっとしなくとも、俺って〝キャラクター〟なんじゃないのか?

 

 いわゆる、悪役令嬢に転生とか、そういうのと同じヤツ。

 性別が違うので、そうだな。さしづめ悪役令息転生とでも言うヤツだろうか。

 悪役かどうか決まったワケじゃなかったので、「できれば普通のラブコメヒーローだったらいいなー」と思いつつも。

 とにかく、自らの現状をそんなふうに推察した。

 

 それからしばらくして。

 

 白凰陵学院での初等科生活。

 冷泉院秋水として、度肝を抜かれる金持ち世界にビックリ仰天しつつ、いざエレメンタリースクールライフを始めたら。

 

 下駄箱、ロッカー、机の引き出し、授業中のメモ回し。

 差出人不明のラブレターに、通りすがりの女子からはいつもキャアキャアヒソヒソ。

 

 挙句の果て、初対面なのにやれお茶会だ、やれ勉強会だ、やれ誕生日会への招待だ。

 

 顔も名前も一致していないのに、ひっきりなしに「ご機嫌よう」と声をかけられる毎日。

 同性のクラスメートには、何故かゴマを擦られたり遠巻きにされる。

 

 そんなのが、中等科に上がっても一向に終わる気配を見せなかったので、俺は再び確信した。

 中でも、一番確信を抱くのに決め手だったのは、〝あだ名〟である。

 

 ──()()()()()

 

「見てっ、あそこにいらっしゃるのは秋水様よ!」

「ああっ、今日もなんてクールなお顔立ちなのかしら!」

「わたくし、一緒のクラスになったらどうしましょうっ!」

「氷の貴公子、冷泉院秋水様……ああっ、少しでもいいから、いつかお声を賜りたいものです……」

 

(…………うん!)

 

 笑うしかない。

 だが、現実はこれだ。

 俺はこの世界で、スーパークールなイケメンキャラだと思われていた。

 中身は割と、どうしようもない童貞なのに……!

 

 

 

 ────────────

 ────────

 ────

 ──

 

 

 

 で、中等科三年最後の春。

 桜の花弁が舞う夕方の青春一ページ。

 

「突然だけど、俺が今から胸の大きい女の子と付き合いたい、って言ったら……オマエ笑う?」

「笑わない。男だからな」

「じゃあ、もし俺が胸の大きくてドMな女の子と、ご主人様とペットな関係になりたい……って言ったら?」

「正直キモイと思う」

 

 広大な白凰陵学院中等科校舎の屋上。

 俺は親友の瑶寺(たまでら)(たまき)に、勇気を出して性癖を告白した。

 環はそれをキモイと切り捨てた。

 は? こいつ舐めてんのか?

 

「……ひどくね? オマエ、いま途中までは賛同してたじゃん」

「悪ぃ。まさか、嗜虐嗜好(サディズム)の話だとは思わなかったんだ」

嗜虐嗜好(サディズム)の何が悪いんだよ」

「異常性癖だろ」

「フッ」

 

 俺は親友を鼻で笑った。

 どうやら、コイツはまだそんなステージにいるらしい。

 ドMで巨乳のおっぱいヒロイン。

 それを虐めてヒィヒィ鳴かすのは、男なら一度は夢見るシチュエーションのはず。

 それが分からないとは、瑶寺(たまでら)(たまき)はまだまだ幼い。ガキだな、と肩を竦めて笑ってやった。

 環は泣いた。

 

「哀れだな、秋水。オマエは現実ってもんが、まったく見えちゃいない」

「なんだと?」

「ドMで巨乳の女の子。それはオマエの妄想の中にしかいないんだ。そんな都合のいい理想を、明日から高校生だってのに、まだ信じてるのかよ」

「!」

 

 俺はハッとして、思わず息を飲んだ。

 まさかコイツ、俺と同じで〝自分が上〟だと思っているのか……?

 到底許しちゃおけねぇ。

 なのに、指摘された端的な事実に、俺は悔しさから知らず知らず涙を流していた。

 お嬢様とボンボンばかりが通う名門校で、嗜虐嗜好(サディズム)は口に出せば異常者の烙印を免れない。

 ドMで巨乳の女の子とか、まったく見つからない。

 だって皆んな、マジで箱入り育ちで清楚なんだもん。

 

「泣くんじゃねえ、秋水(しゅうすい)。俺たちは明日から高校生だぜ?」

(たまき)……」

「ああ、そうだ……前を向け。上を見上げろ。俺たちは明日から、高校生なんだよ。──つまり、中学の内に大学生のお姉さんから、優しく筆を下ろされたいっつー俺の夢が砕かれたコトに比べれば、オマエの悲しみなんてクソだぜクソ。分かるか?」

「クズ野郎が……!」

 

 俺は親友にアイアンクローを仕掛けた。

 環は微動だにしなかった。

 

「な、こいつ……!」

「我がおねショタ願望に一切の揺らぎ無し」

 

 己が性癖への揺るがぬ信仰。

 環はもしかすると、すごい人物なのかもしれない。

 俺は驚きながらも、しかしやっぱり泣きそうになった。

 

(──可哀想に。この男はエロマンガと、現実の区別もついちゃいない)

 

 現実には、夏休みの浜辺で「キミ、可愛いね〜」や「お姉さんと一緒に遊ばな〜い?」なんて声をかけてくれるショタ好きお姉さんは存在しない。

 

 プールの更衣室に幼気なショタを誘い込んで、エッチな想い出を作ってくれるお姉さんなど都市伝説!

 

 エロ同人の中にしかありはしない。

 それなのに、コイツは何をあたかも夢敗れた悲劇の主人公感を醸し出して泣いているのか。

 あまりにもキモすぎるので、俺は鼻で笑って罵倒しておいた。

 

「フン……キモイな、オマエ」

「おっと……? 戦争かな!?」

「上等だゴラ。やってやらァ!」

 

 くだらないケンカだった。

 しかし、青春だった。

 男同士でやるバカのひとつ。

 然れど、互いの性癖をキッカケにした以上、やるからには本気で。

 環はキレ、俺もキレ、夕日が沈む直前まで不毛な殴り合い。

 

「オマエはそんなだから、彼女のひとりもできないんだ!」

「そっちこそ、一生不良気取ってぼっち続けてろ!」

 

 彼女いない歴=年齢の男子たちによる、それは虚しい呪い合い。

 桜の花弁が風に乗り、屋上を悲しく通り過ぎる夕刻。

 茜色の陽射しに照らされて、俺たちは間違いなく青春(バカ)をやっていた。

 アホな男子そのものだった。

 

「そもそもさぁ、ご主人様とペットの関係って何なんだよ?」

「文字通りの意味だろうが!」

「いやいや、よく考えろ。仮に、オマエ好みのドMおっぱいが見つかったとして、それがどうしてオマエみたいなカスをパートナーに選ぶと思うんだ?」

「そりゃ決まってるっ! 俺が冷泉院財閥の跡取り息子で、外面だけは上等なイケメンだから! 大抵の女子はキャーキャー言ってるから!」

「うわキッショ! 見てくれと家柄だけかよ! でもその割に、オマエ彼女いたこと無いじゃん?」

「はいピピーッ! レッドカード! それ二度と言っちゃダメなやつ! ライン超え!」

 

 環はゲラゲラ笑った。

 ムカつくので、少し拗ねる。

 

「つか分かれよ。フツー、女子に向かって「キミ、ドMだったりする?」とか聞けねぇから。あと、俺は性癖を重要視してんの。相性が大切なの。オマエみたいに、現実から目を背けたりはしてねぇの」

「はっあーん!? 現実から目を背けてるとは言ってくれるな! この異常性癖の鬼畜外道野郎が!」

「サディズムは割とポピュラーな性癖ですぅ。一歩間違ったら児ポ法に引っかかりかねないオマエの性癖の方がヤベぇだろ」

「そそそそんなコトないし! エッチで美人な優しいお姉さんに憧れるのは、俺らくらいの年頃ならゼェンゼェン普通だと思いますねっ!」

「いや、だからってなぁ? オマエ、いつからその性癖だよ」

「初等科の四年からだが?」

「うん。性の目覚めが早すぎて、普通にキモイわ。つかマジ? そんなに早くからかよ……」

「教育実習のセンセーで扉を開きました」

「知らねぇよ。聞いてもいねぇ追加情報出してくんな。何のサービス精神だ」

「へぇへぇ……じゃあ、そういうオマエは? なんで嗜虐嗜好者(サディスト)になったんだ?」

「……あー、いつだったかな。クラスの女子が食堂でスっ転んで、頭から牛乳被ってさ。そん時ショックと臭いからか、割と綺麗めな子だったのに、めちゃくちゃ顔ぐっちゃぐっちゃにして泣いてたんだよね。──たぶん切っ掛けは、アレ、見た時じゃねぇかと」

「引くわぁ」

 

 俺たちは互いに互いを軽蔑し、こんなヤツが親友なのかと頭を抱え合った。

 そして、我に返ると、「もしかして俺たちって、同類なんじゃね?」という激しい危機感にも襲われた。

 同族嫌悪ってヤツかもしれない。

 だからその後、俺たちは日を跨ぐことなく握手を交わすと、互いの秘密(性癖)を絶対に墓場まで持って行くことを無言のままに誓い合った。

 男同士の、固い約束である。

 

 ちなみに、瑶寺環は白凰陵学院では珍しいコトに、不良くんである。

 

 不良といっても、そんなガチのヤンキーじゃないが。

 冷泉院(れいぜいいん)秋水(しゅうすい)こと俺の親友で、最初はスカしたキザ野郎かと思っていたのだが、関わってみたら意外と話の通じるヤツで、この通り仲良くなった同級生のひとり。

 おねショタ願望という、非常に非現実的な性癖を抱えている哀れなクズ野郎ではあるが、基本的にはそこそこ信頼の置けてイイヤツだと認識している。

 恐らく、向こうも俺を、そんなような感じで思ってくれているだろう。

 

 ──さて、俺たちは何故、こんな風になってしまったのか?

 

 仮にこの世界が、少女マンガだった場合。

 登場人物であるイケメンたちが、いくら男同士だからといって、こんなにも低俗な会話を舞台裏で繰り広げていたら。

 読者層としてメインターゲットであろう女性たちからは、『最悪』のレビューをつけられてしまう。

 

(しかしまあ、ぶっちゃけた話……)

 

 少女マンガの世界だろうが何だろうが、こうして此処に俺が転生してしまっている以上、多少のバタフライエフェクトは仕方がない話だろう。

 これでも一応、素を知られた人間の前以外じゃ、外面を意識して頑張って『冷泉院秋水』を続けているし、周囲からのイメージや期待もなるべく壊さないよう努力もしている。

 だからどうか許して欲しい。

 

 最初はイケ好かないイケメンがやたらと多くて、かなりうんざりしていたが。

 

 この世界、モブっぽいと言うと失礼なのだろうけれども、やたらと美少女が多くて。

 一見パッとしないな? っ娘でも、よく見ると結構可愛いのだ(これもまたマンガあるあるだよな)。

 なので、今ではすっかり、俺も二度目の人生を受け入れている。

 

(──そう、我が名は冷泉院秋水!)

 

 スーパークールなイケメン。

 人は俺を『氷の貴公子』と呼ぶ!

 サドの童貞なのは秘密だけども。

 まあ、それはさておき。

 

「……なぁ」

「あん?」

「恋ってさ、どういうモンなんだろうな?」

「はぁ? なにその拗らせ童貞みてぇな質問」

「いや、誰かを好きになるって、どういう気持ちなのか……割とマジに分かんなくないか?」

 

 俺は環に素直な心境を打ち明ける。

 恋愛が主題っぽい世界(舞台)に転生したんだ。

 どうせなら、恋のひとつやふたつ経験してみたい。

 けれど、こちとらあいにく、思い出せるのは十六歳までの記憶だけだ。

 前世でも、恋愛は未経験だった。

 なのでそのへん、どうにもよく分かっていない。

 

 恋愛って、何をどうしたら正解なんだ?

 

 少女マンガのヒーローっぽい立場なのに、俺にははそれが全然分からない。

 分かるのは、ただ……

 

「そーだなー。とりあえず、エッチで優しいお姉さんがいたら、俺は恋をしちゃうだろうな」

「クズ野郎が。それは恋じゃなくて性欲だろ。断言できるぜ」

「でも、間違いなく胸はトキメク!」

「かもしれないが! いいかげんおねショタから離れろよ!?」

「俺さ、いつか海かプールで、キレイなお姉さん二人組に「ぼく? お姉さんたちとイイことしない?」って声掛けられてさ? ひとりは黒髪清楚なギャルで、もうひとりは金髪褐色の淫乱ビッチなギャルなんだ。そんで、人気のない更衣室に連れ込まれて、ドキドキしながらエッチなことをさせてもらうのに憧れてる……。この気持ちは、きっと恋だ……」

 

 澄んだ目で語られてしまった。

 

「……ったく。とりあえず、オマエがどうしようもねぇバカ野郎ってことだけは分かった。妄想力たくましいな。普通に引いたわ」

「んだよ。これって、理想の初体験を考える話題じゃないのか?」

「違ぇよ! 話聞いてた!?」

 

 同性ながら戦慄する。

 コイツ猿みたいな性欲だな。

 

「オイオイ、十代の男の子から性欲取ったら、後にはなーんも残らねぇって!」

「クソ。否定しにくいこと言うなよ」

「んじゃ、次オマエの番」

「えっ、お、俺? ……あ、あー、そうだな。じゃあ、どっかに胸が大きくて、緊縛OKだったりスパンキングOKだったりする、できれば美人な女の子とかいたら……マジで好きになれそうな気がする」

「キッショ」

「環ィィィッ──!!」

「ちょっ、わっ! ぅわっ、よせ! く、首を絞めに来るのはやめろ!」

「……チッ、月夜の晩には気をつけるんだな」

「あ、あぶねぇ。どこの殺し屋だよ。つか、マジメな話、誰かテキトーに彼女でもつくってみれば、そのうち分かるんじゃねぇの?」

「それは……そうかもしれないけど」

「……アレか? やっぱ誠実さに欠けるとか思っちゃう?」

「まぁ」

「だよなー、俺も思う」

「ハァ……思春期って、なんでこんなにエロいことしか考えられないんだ? いっそ、キンタマでも切り落とせば、少しはマトモに恋について考えられるんだろうか」

「ヒェッ、オマエさぁ、サラッと怖いこと言うなよ! けど、違いねえ! 俺、さっきから自分がどうして高校生になっちまうのかずっと悩んでるし。あ〜あ、アポト○シン4869さえあればなぁ!」

「──おい。オマエ、やっぱマンガと現実の区別ついてないだろ」

「え?」

 

 俺たちはバカでアホなクソガキのまま、高校生になる。

 恋ってホント、何なんだろうね?

 

 

 






冷泉院秋水
 クールイケメン枠。ドM巨乳が好き。サドの拗らせ童貞。

瑶寺環
 不良イケメン枠。おねショタ好き。年の離れた弟が五人いる。

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