転生御曹司が恋愛マンガみたいな世界で恋と性欲と友情についてマジメに考えてみる青春ラブコメ   作:有栖川紫芋

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Number 2「恋は憧れ?」

 

 

 前回までのあらすじ。

 日本有数の名門校、私立白凰陵学院。

 政治や経済、各界から集まる大富豪の子女や子息、天才たちが通うエリートマンモス校。

 大財閥の御曹司である冷泉院秋水こと俺は、氷の貴公子と呼ばれてカリスマ性を宿していた。

 端正な顔立ちと切れ長の柳眉、年齢に似つかわしくないクールで落ち着いた性格。

 中身を知らない周囲からは、そんな感じでスーパークールなイケメンキャラを期待されている。

 

 しかし!

 

(俺はクソ拗らせサド童貞だった!)

 

 一般通過思春期男子性欲大爆発。

 スーパークールなイケメン?

 氷の貴公子?

 残念ですが、中身はそこらの一般男子高校生と変わりありません。

 よく、この手のクール系キャラは優等生タイプで、メガネの似合う生徒会長だったりすると思うが。

 俺はべつに勉強が得意とかではない。数学は特に苦手だ。

 運動もふつう。スポーツ万能とかそれこそフィクションの世界。

 最近は暇さえあれば、エッチな妄想ばっかしている。

 

 けれど、そんな俺でも。

 

(こんな環境にいるんだから、『恋愛』はしてみたい……)

 

 人並みにそんな願望はあった。

 というワケで。

 

「──夏乃ちゃん、夏乃ちゃん」

「はい? なんですの、お兄様?」

「恋って、なんだと思う?」

「まあッ! 恋バナですのねっ!?」

 

 夜、自宅、夕食後。

 おねショタ野郎こと瑶寺(たまでら)(たまき)と別れて自宅に帰った俺は、今世の妹である冷泉院(れいぜいいん)夏乃(なつの)ちゃんと思い切って話をすることにしてみた。

 

 四月からは晴れて高校一年生になる俺だが、入学式というか進学式? を迎えるまではまだ中学生。

 

 これから高校生という大人の一歩手前のステージに向かう前に、一個下である現役JCからリアルな意見も募っておこうと考えた次第である。

 

 おねショタ野郎は同じ男ということもあってか、イケメンのクセにまるで役に立ちそうもなかった。

 ヤツの脳はチンポにやられている。つまり俺もやられている。

 

 使えないクズより、ここは家族でも異性ではある妹に頼ってみよう。

 

 妹ではあっても、やはり異性からの忌憚なき意見を参考にすれば、明日からの貴公子ハイスクールライフもより華やぐはず。

 なにせ表向き、俺は氷の貴公子として学院じゃ有名なのだから。

 そう思ってペラペラ相談すると、

 

「でも、お兄様が氷の貴公子だなんて、考えてみるとちゃんちゃらおかしいですわよね」

「夏乃ちゃんっ!?」

「だってお兄様、四則演算すら怪しいんですもの。どちらかというと、アヒルの貴公子ですわ!」

「夏乃……!」

 

 気づけば俺は、妹に速やかなアイアンクローをしかけていた。

 小さな頭がミシミシと音を鳴らす。

 

「いっ、痛い! 痛いですわお兄様っ! 図星を突かれたからといって、暴力に訴えるのはおよしになってっ!」

「くっ……! 覚えておきなさい、夏乃ちゃん。正論はいつだって人を傷つける。キミはもうちょっと、手心を加えた発言をした方がいい」

「わ、分かりましたわ……これからは、どんなにちっせぇプライドでも、ものすごく気を遣って発言いたします……」

「ふふふ、できてないぞ?」

 

 俺はガックリと肩を落とし、アイアンクローをやめた。

 夏乃ちゃんは「ハァー! いったかったですわー!」と大袈裟にコメカミをさする。

 

 ……そう。家族なのだから当たり前だが、妹である夏乃ちゃんに、俺は貴公子の仮面を被っていない。

 

 というか、とっくにアホなのがバレているから、このように隙あらばおちょくられていた。

 数学が苦手なのではなく、算数から苦手なのでしょう? とは夏乃ちゃんの鋭い指摘である。

 そりゃたしかに、掛け算割り算どころか足し算引き算でさえ計算速度に自信は無いけど……

 

「やれやれ、夏乃ちゃん、夏乃ちゃん?

 キミはどうして、そんなにお口が悪いんだい?」

「お兄様の妹だからですわー!」

「ぶふっ……いやいや、俺は関係ないだろう? それ言うのやめてくれない? 叱られるの、俺なんだぜ? ほ、ほらっ、鏡を見なよ! 見た目はこんなに可愛いらしいお嬢様じゃないか! ピアノのコンクールだって、この前また優勝したって聞いたんだけど?」

「お兄様と違って、私、完璧ですわー!」

「このクソガキッ!」

 

 キレると、夏乃ちゃんは「キャッキャッ」と喜びの鳴き声をあげた。

 じっとしていれば、黒髪ロングのそれは見事な深窓系お嬢様に見えなくもないというのに。

 我が妹ながら、冷泉院夏乃はとんだイカレポンチだった。

 

(見た目と中身のギャップが凄いんじゃ〜!)

 

 環もそうだが、もしかすると俺が地を晒した人間は、全員どこかおかしくなっているのかもしれない。

 

「やれやれ。部屋の中はこぉぉんなにピンクいっぱいで、本当は夏乃ちゃん、女の子らしさ全開のファンシープリンセスなのになぁ……」

「なっ! お兄様!?」

「ククク、夏乃ちゃんよ。あまり舐めた口を利くなよ?

 俺が外じゃ貴公子の仮面を被っているように、夏乃ちゃんも外じゃ、相当に猫被ってんのは知ってるんだぜ?

 たしか──氷の姫君、だったか? 完全にオレの二番煎じだが、みんなはどう思うだろうなぁ?

 夏乃ちゃんが本当は、可愛いもの大好きで、部屋の中にはリラッ●マのぬいぐるみを百体以上飾りまくってる、ゆるふわフラワー頭だって知ったら!」

「クッ……! さすがはお兄様ですわ……私たちはお互いに、命綱(秘密)を握り合った関係というコトですわね……ならば死なばもろとも! 私も死んで、お兄様も死ぬがいいですわ!」

「覚悟が早すぎる。ヤンデレのブラコン妹みたいになってるぞ」

 

 俺はどうどうと妹を落ち着かせた。

 

「ってか、そうじゃなくてだな……俺は、そう。明日から始まるハイスクールライフに思いを馳せて、ズバリ、恋について聞いてみたいんだよ」

「まぁ、お兄様ってばまるで、女の子みたいですのね」

「茶化すな。夏乃ちゃんはさ、誰かに恋したコトってある?」

「私はいつだって、お兄様が大好きですわ♥」

「そういうのいいから」

「まぁ! ツレないおヒト……でも、私もよくよく考えたら、筆算もロクにできない方は御免でしたわー!」

「なるほど! つまり筆算は、異性に求める最低条件ってことだな……!」

「いえ。その前にまず兄妹でしてよ。倫理的に考えてありえませんでしょう」

「うわぁっ!? 急に落ち着くな!」

 

 テンションアッパー系の妹が突然冷静になると、めちゃくちゃ心臓に悪い。

 急高下したノリに振り回され、俺は文字通り「うわぁっ!?」と飛び上がった。

 夏乃ちゃんはチベットスナギツネみたいな顔で肩を竦めている。

 なんてこった。本当に言動が読み切れない。

 まったく、冷泉院夏乃ってのはとんでもねー女だ。

 

「そんなコロ●ロコミックみたいなノリで評されましても」

 

 どんなノリだよ。

 

「それはさておき……たしか──恋、だったかしら?

 ふぅ……お兄様ったらおかしいですわね。おカラダの具合はよろしくて?

 それとも、ついに本格的にヤキでも回られてしまったのかしら?

 お兄様みたいなバカは、誰ともお付き合いしてはいけないんですのよ?」

「オマエ、いまバカっつった?」

「空耳ですわー!」

 

 夏乃ちゃんは何気にイイ性格をしている。

 いったいどんな家庭環境で育ったらこんな子になってしまうんだろう?

 親の顔が見てみたいぜ。

 

「私の性格は、間違いなくお兄様の影響が一番デッケーですわよ?」

「やめなさい。怒られるの、マジで俺なんだから」

「オホホホホホホっ!」

 

 夏乃ちゃんは片手の甲を口に寄せ、クイッと小さめに顎をしゃくると、見事なお嬢様高笑いを披露した。

 は、腹立つ〜! こまっしゃくれたクソガキめ!

 

「でもまぁ、実際どうしたんですの?

 お兄様ってば、ご学友の瑶寺様と遊んでばかりで、異性にはテッキリ興味が無いものと思っていましたわ」

 

 いったいどういう心境の変化ですの?

 夏乃ちゃんは可愛いらしく、コテンと首を傾けた。

 

「高校生になるからといって、私たちは初等科からの内部進学。授業を受ける校舎が別の校舎に変わって、制服(見た目)も多少は変わりますけれど、内情的には何も変わりありませんことよ? クラスメートだって、どうせ大した変わり映えはしないですのに」

「そうだけどさぁ! ほら、オレもそろそろ彼女がいてもおかしくない歳じゃん? 

 でもよ、周囲から氷の貴公子だなんだと言われて、実際は女友達のひとりもいねーワケ。

 これじゃあそのうち、冷泉院秋水様ってもしかして童貞なんじゃないの……? ってウワサになっちまうよ!」

「驚くほど低俗な心境の変化でしたわね!?

 というか、実の妹の前でドっ、童貞……っ、とか! そういう卑猥な言葉をおっしゃるのやめてくださいます!?」

「まぁまぁ、実の妹だから気を許してるんじゃないか。

 で、どうなの? 夏乃ちゃんモテるでしょ? 恋のひとつやふたつ、経験、あるんじゃないのー?」

「けっ!? いっ、いいいいえ?! 私たしかにモテモテですが、あいにく恋愛は未経験なもので! お兄様と同じ! ザマァないですわね……!」

 

 夏乃ちゃんは顔を真っ赤にして吠えた。

 羞恥心のせいで、罵倒と自嘲が混ざってしまっている。

 イカレポンチとはいえ、世間知らずのお嬢様育ちなのは変わらないから、こういう時にあたふた慌てふためく様子は素直に可愛らしかった。

 血の繋がった兄が嗜虐嗜好だって知ったら、卒倒して泡吹くんじゃないだろうか?

 とはいえ、

 

「うーん、参ったなぁ。兄妹揃って恋愛はザコか……これは聞く相手を間違えちったな……」

「むっ! 失敬ですわねお兄様! 私を舐めないでいただけます? 私これでも現役バリバリのティーンなガールですのよ? 耳に入ってくる情報は、それなりのものがありますわ!」

「なに……? じゃ、じゃあっ、恋って何なのか答えられるか!?」

「もちろん──余裕ですわ!」

「おお……!」

 

 俺は神の啓示を受ける忠実な信徒のように、妹の前で跪いた。

 現役女子中学生のリアルな恋愛観から繰り出される貴重な御言葉である。

 たとえ小憎たらしくとも、伏して拝し、一言一句聞き漏らすワケにはいかなかった。

 

「して神よ、恋とは何でありましょうか?」

「よろしい。教えて差し上げましょう。恋とは、すなわち──」

 

 憧れ、ですわ。

 夏乃ちゃんはクスリと微笑み、そう語った。

 なるほど。恋は憧れ……

 

「年頃の女の子らしい、実に甘々な意見が飛び出て来たぜ……」

「む。バカにしてますの? 張っ倒しますわよ?」

「滅相もございません。我が神」

「オーホッホッホッ! そうでしょう、そうでしょう!」

 

 御しやすい妹である。

 

 

 






冷泉院夏乃
 黒髪ロングの深窓系お嬢様妹。ブラコン。可愛いものが好き。

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