転生御曹司が恋愛マンガみたいな世界で恋と性欲と友情についてマジメに考えてみる青春ラブコメ   作:有栖川紫芋

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Number 7 「まずは友だちから」

 

 

 白凰陵学院高等科の図書室は、まるでイギリスのオックスフォード大学にあるボドリアン図書館のような感じである。

 重厚な内観はアンティーク調で整えられていて、俺も初めて入ってみたが、まるでここだけ本当に海外なんじゃないかと錯覚に陥りかけた。

 流暢な英語が聞こえて来たら、バカな俺は本当に錯覚していただろう。

 

「……こ、こちらですわ」

「ん」

 

 麗蘭に案内されて、奥まった位置のテーブル席までやって来た。

 始業式当日であるため、図書室内の人気(ひとけ)はほとんど無い。

 周囲には巨人のように背の高い本棚が整然と通路を作っていて、壁際のこのあたりには個別自習用のためだろう。

 小さいながらも所狭しと並べられた、ヘアサロンみたいな半個室があった。

 

(さすがは白凰陵)

 

 生徒ひとりが勉強するだけの空間に、めちゃくちゃ金をかけている。

 が、俺と麗蘭はすぐ近くのテーブル席の方に向かい、とりあえず対面に着席した。

 俺と麗蘭以外には、図書室内には司書さんしかいないだろう。

 しかし、麗蘭も俺も人目を避けたい。

 

 理由は朝の一件とだいたい似たようなものだ。

 

 たかが噂話だと侮って見過ごしてしまえば、ひどい事件に繋がりかねないのがスキャンダルの恐ろしさ。

 特に『氷の貴公子』関連は、慧怜奈ないし慧怜奈の周囲に知られでもしたら、麗蘭は過去にボロ負けして完全に心をへし折られているようなので、いろいろ心配である。

 

(まぁ、だったらだったらで)

 

 俺もこうして不用意に麗蘭と関わるのは、止した方が良かった気もするが。

 そんなコト言って何でもかんでも我慢したり杞憂してたら、息が詰まって死んでしまうのも正直な意見。

 始業式当日に図書室に来るような一年は、どうせ麗蘭と麗蘭に用があった俺だけだ。

 

 今はとりあえず、この金髪翠眼の爆乳爆イケ陰キャちゃんと、コミュニケーションを取るのを優先しよう。

 

 俺は果たして、本当に『金髪』に対し憧れがあるのか否か……

 

 ジロジロと遠慮なく視線を注いでみると、麗蘭は額にジワジワ汗をかき始めた。

 前髪の一部がしっとりと額に張り付いていく。

 緊張すると汗をかくタイプか。

 にしても、ものすごく代謝がいいな……

 

「ハンカチ、いる?」

「かひゅ」

「ごめん」

 

 何気なく発した一言のせいで、麗蘭がサングラスとマスク越しでも分かるくらい絶望した顔になって、真っ青になった。

 俺は優しさすらも時に残酷な仕打ちであるコトを察してしまい、即座に謝るしかなかった。

 麗蘭はポケットから綺麗な白レースのハンカチで自身の額を拭うと、震えながら「オ、オホホホホ……」と笑った。

 

 笑って、何とか耐えた様子だった。

 

 ……もはやこの件には、何も触れない方がいいだろう。

 

「そ、それで? 秋水様はワタクシと、話がしたいというコトでしたが……?」

「あ、ああ、うん。突然で驚かせたよな。ミス・ハニーベルにちょっと確認したいコトがあって」

「な、なんでひゅの……?」

「……」

 

 噛んだコトを指摘したい気持ちと、それはやめてやれという慈悲と、なんかだんだん虐めたくなって来たな……という気持ちでつい唇を引き結んでしまった。

 

「しゅ、秋水様……?」

「あ、うん」

 

 いけないいけない。

 首を振り、心を落ち着ける。

 

(内なるビーストよ、ステイ!)

(くぅーん)

 

 性欲は哀れを誘う声で鳴いた。

 可哀想だったが、しかし無視する。

 今の俺は、真面目に恋愛について考えているのだ。

 麗蘭には失礼な話ではあるが、もしここで俺が麗蘭と交流を重ねて、慧怜奈と同様デートをしたくなったら、朝の一件への結論は出る。

 

 ──俺って金髪が癖だったんだ……! と!

 

 なので、ここはサド欲に目を濁らせている場合じゃない。

 まずはちゃんと友だち関係になって、そこから恋愛相談しないといけないのだから。

 下心ありきで女子に近づくとかキモすぎるよな。

 

(かと言って、〈白凰会〉での仲間欲しさで声をかけたって切り出すのも、なんかドライ過ぎてマイナス印象な気もするし……)

 

 素直に理由を説明するのも、それはそれで問題がある。

 

「んー」

 

 今さら答えを焦っても仕方がない、か。

 今日一日で、長年の悩みを解決できるはずも無い。

 まずは麗蘭を、麗蘭って呼んでもいいか。

 そのへんから始めていくとしよう。

 

「ミス・ハニーベル」

「な、なんですの?」

「麗蘭って呼んでもいい?」

「────な、なにゆえ?」

 

 動揺のあまりか、古風な口調になってしまった。

 

「えっと、俺たちって一応、幼馴染って言えなくもない関係だと思うし、毎回ミス・ハニーベルって呼ぶのは他人行儀かなって思ったんだけど」

「ワタクシの財産が目当てですの……?」

「なんでやねん」

 

 突飛な発想に思わずツッコミが出た。

 白凰陵学院の内部生で、財産目当てで誰かに近づこうとするヤツはかなり少ないだろう。

 政略結婚とかが目的でもない限り、まず無い。

 あと、ゴールドスタインカンパニーの総資産よりも、冷泉院財閥の総資産額の方が大きいって去年パッパから聞いた気がする。

 

 俺は「あー……」と苦笑いした。

 

 この反応、もしかしなくてもカツアゲだと思ってないか?

 冷泉院秋水はオネショタ不良野郎こと、瑶寺環と友人である。

 そのせいで、環のバカと同じように不良なんじゃないかと思われていたりもする。

 

「もしかして、俺がユスリに来たとか思ってる?」

「ヒィィ! 怒らないでくださいまし! 秋水様がワタクシに用があるなんて、だってそのくらいしか考えつかなかいんですわ!」

「ネガティブ過ぎて、何気に失礼なコト言うなぁ」

 

 違う違う。そうじゃ、そうじゃなぁい。

 

「実はさ。ミス・ハニーベルと友だちになりたいと思って」

「ハッ! それはやっぱり、〝お舎弟〟と書いて〝おダチ〟と呼ぶ感じの……?」

「なんか中途半端な不良マンガでも読んだ?」

 

 陰キャ化してからの麗蘭は、図書委員で文芸部員の文学女子。

 すっかり本の虫でもあるので、マンガとかも読むようになったのかもしれない。

 今のご時世、スマホさえあれば電子書籍とかいくらでも読めるしな。

 それはともかく、お舎弟はいいにしても〝おダチ〟ってなんだよ……

 

(イントネーションが完全に、〝お出汁〟と一緒だったんだが)

 

「って、そうじゃなくてな? ミス・ハニーベルって、よく本を読んでるじゃん?」

「本がワタクシの、唯一のお友だちですわ……」

 

 急にめちゃくちゃ悲しいコト言いだしたよ。

 

「そ、そんなコトは無いと思うけど、実は俺も読書が好きでさ」

「存じておりますわ。秋水様はワタクシより、文系の成績が良いですものね……」

「英語は苦手だし、歴史もそれほど得意ってワケじゃないけど?」

「ですが現代文の成績に関しては、前々からかなりの読書家だと推察しておりましたわ……」

「小説が好きなだけだよ」

 

 勉強の話になったら、少しだけスムーズな会話が始められた。

 やっぱこのへんは、学生ならではの取っ掛りだよな。

 俺は閃いて、もうひとつ麗蘭との共通点を見つける。

 

「でさ。今もそこにあるけど、その本」

「? 『ハリスミ』が、どうかしまして……?」

「そう。その『ハリエット・スミスと愚者の火』なんだけど、俺もそのシリーズが好きなんだよね」

「まぁ! そうなんですの!?」

 

 麗蘭の顔が急にパァァ! と輝き出した。

 同好の士を見つけた歓喜の顔である。

 ちなみにハリスミというのは、この世界で超絶大ヒットしたファンタジー大作映画の原作小説であり、日本でも非常に人気を博している海外の児童文学作品の通称である。

 俺の感覚だとタイトルからしてパチモノ臭さを禁じ得ないのだが、読んでみたら全然内容が違うしで、結構おもしろい作品だったんだよな。

 

 麗蘭は中等科でも、いつもハリスミのハードカバーを持ち歩いていた。

 

 よほどのファンなのだろう。

 

(俺もハリスミは好きだし、麗蘭ほどのファンではないかもしれないけど)

 

 好きな作品の話ができる友だちって、いたらめちゃくちゃ嬉しいよな。

 好きなキャラの魅力を語り合ったり、この設定はああだと思うとか考察してみたり、何巻の何ページのあの表現が最高、とか。

 

(うん)

 

 麗蘭とはそういう話をキッカケに、仲良くなりたいかもだ。

 

「ハリスミ好きに悪い人はいませんわ……! 秋水様、疑ってしまって申し訳ございません!」

「いいよいいよ。それより、ミス・ハニーベルって英語が得意だったよね?」

「ハーフですもの。長期休暇では父の実家に遊びに行ったりもしますから」

「じゃあさ、ハリスミの原語版も持ってたりする?」

「! 持ってますわ! もしかして秋水様……!?」

「あー、もし迷惑じゃなかったらなんだけど、これから何度か、放課後にこうやって一緒に原語版を読んだり出来ないかな……?」

 

 言った瞬間、麗蘭がブワッ! と泣き出した。

 

「分かりますわ……っ! やはり真のファンなら、オリジナルも知りたくなりますわよね……!」

「難しくて途中で、投げ出すかもしれないけど……」

「それでもいいですわ! ワタクシのことは是非、麗蘭とお呼びくださいまし。今日からワタクシが、秋水様のベストハリスミフレンドですわー!」

「ベストハリスミフレンド」

 

 思っていたより熱量がすごいが、ニコニコルンルンしている麗蘭は顔の大半が隠れていても可愛いかった。

 俺はたしかに、金髪の女の子に惹かれやすいのかもしれない。

 

 

────────────────

tips:ハニーベル・麗蘭・ゴールドスタイン

 

 T176 B99(Lcup) W56 H94

 白凰陵学院高等科1-B 文芸部 図書委員

 アメリカと日本のハーフ。

 豊かなハニーブロンドと青林檎色の眼の持ち主。

 毛量が多いためか、付近に寄るとカモミール系の匂いがする。

 高貴なる縦巻きロールヘアースタイルだが、カールがかかっているのは肩から下だけでふんわり緩め。

 今はじゃっかん萎れ気味。

 幼い頃は典型的な高飛車お嬢様でクラスの人気者だったようだが、何かあって現在は大人しめな文学少女(陰キャ)化している。

 趣味は乗馬と読書と恋愛小説の執筆で、アポロチョコが好き。

 

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