転生御曹司が恋愛マンガみたいな世界で恋と性欲と友情についてマジメに考えてみる青春ラブコメ 作:有栖川紫芋
「お兄様? 本日のアレは、いったいどういう了見ですの?」
図書室での『ハリスミ』談義を終えると、すっかり夕方。
俺は迎えのリムジンに乗って家に帰ると、妹である夏乃ちゃんに絡まれてしまった。
冷泉院邸の無駄にデカい玄関。
夏乃ちゃんは両腕を組み、右手の人差し指を左腕の上でトントンさせている。
どうやら完全に尋問モードのようだ。
「本日のアレって?」
「すっとぼけても無駄ですわ! 本日のアレと言ったら、言うまでもなく今朝のアレですわよ!」
「知っているのか雷電」
「ネットミームで誤魔化そうとしても無駄ですわ!」
俺は夏乃ちゃんがこんな古臭いネットミームを知っていることに驚きだ。
現代人はインターネットのおかげで、不必要な情報まで入手できてしまう。
いったい誰の影響で、こんな俗な一面を育ててしまったのやら。
黒髪ロングに白のブラウス、紺のロングスカート。
見た目はこんなに良家の子女なのに!
「とりあえず、手洗いうがいくらいさせてくれ。あと着替える時間をくれ」
「部屋でお待ちしておりますわ!」
「嵐のようだぜ……」
クルリと踵を返して階段を駆け上がっていく妹の姿に、やれやれと肩を竦めてしまう。
出迎えのメイドさんやら爺ややらが、クスクスと笑っているのがちょっと恥ずかしい。
ともあれ、夏乃ちゃんがこんなにも無遠慮な振る舞いを取るのも、兄である俺にだけ。
可愛い妹に懐かれていて悪い気はしないので、仕方なしを装いながら相手をしてやる。
十分後、夏乃ちゃんの部屋。
「それで? 何から知りたい」
「すべてですわ! 私はすべてを所望しますわ!」
「セリフだけなら、かなりラスボス感あるな」
「悪くないですわね。ラスボス系妹」
って、そうではなくて!
夏乃ちゃんはリラッ●マのぬいぐるみを抱えながら、リラッ●マの座布団を床に投げた。
「あ? この兄に床に座れってか?」
「お兄様には地べたがお似合いですわー!」
もしや俺と同じでSのケがあるのだろうか?
一瞬疑問に思ったが、夏乃ちゃんの無邪気なニヤニヤ顔を見て、こりゃただ単に俺をムっとさせて構ってもらいたいだけだなと分かった。
第一、本物のSなら座布団は寄越さない。
軽く笑って、リラッ●マの顔面に尻を乗せる。
「フン……それで、今朝の件だっけ?」
「思いのほか素直に従いましたわね……はい、アレはどういう了見で?」
「どういう了見もなにも、ただ校内の問題を未然に防いだ。それだけじゃないか?」
「お兄様、完全に白馬の王子様でしたわよ!?」
「ノープロブレムだ。アフターケアはしっかりやった」
かくかくしかじか、のこのこたんたん。
あらかたの説明を終えると、夏乃ちゃんは納得した顔で胸を撫で下ろした。
「なるほど。そういうことでしたの。であれば、予後は大丈夫そうですわね!」
「予後って」
まるで病気みたいな表現に困惑せざるを得ない。
しかし夏乃ちゃんは、「大袈裟ではありませんわ!」と声を荒げた。
「恋は病と、昔からよく喩えられるじゃありませんの」
「恋煩いってヤツ?」
「ですわ! でも、お兄様がしばらくの間いつものように一人ぼっちでいらっしゃるなら、騒がしい風も次第に桜吹雪と一緒に消え去りますわね」
「急にポエミーだな」
「孤高のお兄様に乾杯、ですわ!」
夏乃ちゃんはウィンクして、エア
余計な一言が多かったが、今は見逃してやろう……小生意気なガキめ!
「ま、尾之花さんについてはそれでいいとして、差し当たっては慧怜奈が問題だ」
「オリヴィアお姉様が?」
「デートするのは土曜だし、白鳳陵の外で会うワケだから、誰かに見られる心配とかは全然してないんだけどな?」
恋は憧れ。
肝心のこの仮説を、俺はまだ立証できていない。
「夏乃ちゃんの意見に従って、俺って金髪に憧れがあるのかも? と思ってさ」
「はぁ」
「今日の放課後、さっそく麗蘭──ほら、あのゴールドスタインカンパニーの──とも結構お喋りして来たんだよ」
「……ン、ン?」
「でな? 結論から言うと、麗蘭にも慧怜奈と同じように心惹かれるものを感じた気がする。でもまだ、確信が持てないんだ」
「え、えーっと……お兄様?」
「そこでだ。この気持ちをスッキリさせるためにも、金曜日までにもう何人か金髪の子と喋ってみて、自分の中の感情を確かめてみようと思ってるんだ」
「た、確かめる……具体的に、何をどう確かめるおつもりで?」
夏乃ちゃんは「え、嘘でしょう?」という顔になりながらも、恐る恐るといった様子で尋ねて来た。
ズバリ答えてやる。
「金曜日までに会った金髪女子と、土曜日に会う慧怜奈。俺が慧怜奈に恋してたら、土曜日の方が楽しいはずだし、自信を持って慧怜奈の気持ちに応えられる。だろ?」
「だ、だからデートの約束をした女性がいるのに、その前日まで他の女性とも緊密に……!?」
「緊密? 緊密ってのは大袈裟じゃないかな……ただくっちゃべって、友だちになるだけだぜ?」
「Oh My God」
妹が突然、天を仰ぎながらリラッ●マの首を絞めた。
「おい。可哀想だぞ?」
「お兄様の頭の方がお可哀想ですわよ!」
「え!?」
「お、お兄様はヘンなところで抜けていますわ! 百歩譲って、オリヴィアお姉様の気持ちに誠意を持って応えようとしている姿勢は褒めて差し上げますけれども! 金曜日までにお兄様に声をかけられた方たちが、いったいどうなると思っていますの!?」
「どうなるって……」
べつに、今日の感じを見るに麗蘭とはただの読書友だちになれそうだし、あくまで普通に接していれば、他の女の子とも普通の交友関係を築けるはずだ。
だいたい、今日は火曜日である。
金曜日までの残り三日間程度で、何がどうこうなるとは思えない。
万が一そういう展開になったとしても、コトが起こるのは慧怜奈とのデートを終えてからになるだろう。
「その時はその時、また真面目に考える」
言うと、夏乃ちゃんは赤くなりながらジト目になって唸った。
「ウー! そういう不意に見せる顔がよくありませんわ!」
「えぇ……?」
「断言しますが、100%惚れられてしまいますから! マジLOVE1000%で、世界中の女の子がメロつきますわ!」
「さすがに色眼鏡が過ぎる」
とんだブラコン妹だぜ。
「まぁいいや。とにかく、何かあったとしても俺がどうこうなるだけだからさ、夏乃ちゃんも協力してくれよ」
「ファーーー!? お兄様は私が、オリヴィアお姉様に刺されてもよろしいんですの!?」
「夏乃ちゃんのコトは俺が絶対に守るよ」
「キュン! 協力しますわ!」
ノリがいい。
チョロバカ可愛い妹である。
「それで? お兄様は私に何をご所望ですの?」
「そうだな。イギリスとアメリカはチェック中だから、できれば他の国の子もチェックしてみたいんだけど、誰か知ってたりする?」
「最低ですわねこの発言」
夏乃ちゃんは呆れながら、「今年の外部生に、東欧系の方がいらっしゃったはずですわ」と教えてくれた。
「東欧系か。知ってる知ってる。あれだろ? バルト三国とか、なんかそのへんだろ?」
「具体的な国名は何も思い当たってない反応ですわね。バルト三国が何かも分かってなさそうですわ」
「う、うるさい」
「ちなみにその方は、ラトビアの日系クォーターだそうですわよ」
「へ、へー」
「名前は水鳥サラ様。今は活動休止中みたいですが、現役ティーンズモデルで大人気な芸能枠入学の方ですわ」
「ほほう」
それはまた、すごく美人そうだ。
興味を示すと、夏乃ちゃんがスマホをイジって、検索画面を見せてくれた。
「ほら、この方ですわ」
「おおー」
そこには、長い金髪をポニーテールにし、爽やかな綺麗系ファッションに身を包んだ碧眼の子が映っていた。
やはり海外の血がなせる技か、目鼻立ちがクッキリしていて大変な美少女である。
画像はモデルのプロフィール情報も小センテンスで載せていて、水泳が得意とも書かれていた。
スクロールすると、小学生の時に地元の水泳大会で準優勝したとの情報も出てくる。
(ふむ。水泳が得意なスポーティ系の白ギャルって感じか)
「なんで活動休止してるんだろうな?」
「本人のSNSでは、理由は家庭の事情とありましたわ」
「フォロワーかよ」
「カリスマモデルSaLa様ですもの。フォローは当然ですわ!」
夏乃ちゃんは謎にドヤ顔だった。
スマホ操作とソーシャルネットワークに明るい深窓系お嬢様。
深層系ではないコトを、兄としては切に祈る。
ともあれ。
「芸能枠入学の外部生か……こりゃさすがに、絡むのは無理かもしれないな……」
「カリスマモデルで人気もあるでしょうし、お兄様が近づくチャンスは無いかもしれませんわね! 大人しく土曜日を待ったらよろしいのではなくて?」
「うーむ……」
夏乃ちゃんの言う通り、さすがに金曜日までに接触を図ってみるのは難しいかもしれない。
「まー、無理だったら無理だったでいいや。そのぶん麗蘭に集中するだけだし」
「!? いったいどうしちゃったんですのお兄様! 高校生になったからって、急にアグレッシブになられて! お兄様みたいなバカは、誰とも付き合っちゃいけないんですのよ!?」
「フン。夏乃ちゃんには分からないさ」
男には十代の内に童貞を捨てたい。
そう言う見栄と欲望がある。
あと、普通に手とか握ってドキドキしてみたりしたい。
そんでもって、ゆくゆくはドM調教とかも……
(──水鳥サラ、か)
チャンスがあったら、果敢に話しかけてみよう。
翌日。
「付き合ってください」
「……え?」
水鳥サラに、俺は告白された。