ソードアート・オンライン ブレイクアンドリベッツ   作:難聴の村上さん

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ローカルギャング

リーダー格の男が、自慢の武器に手をかけた。しかし今、戦いはじめると言えば戸惑うクラインたちは何も出来ないであろう、そんな事を思い、重装備や強面の男たちが囲む中、ルナは一歩前に出た。

 

「おお?お嬢さんが始めにやろうってのか?」

 

丸一日水分をとっていないような、ヘビのようなガラガラとした声は、ルナにも微かな恐怖心を仰がせる。ゲームシステム上あり得ないが、自分とは桁違いの大柄では何らかの理由で体格差にシステムアシストがかかってしまうのではと錯覚させた。リーダー格の男がここばかり似合わぬ丸くクリクリとした目をルナの装備へと動かしている。

 

「へえ、お嬢ちゃん商人なんだ。だったら物の大切さとか分かるんだろうなー、倉庫とかに大量のアイテムもありそうだけど、逆に手持ちには何も持ってなさそうだな。仕方ねえから、お嬢ちゃんだけは薬置いていくだけでも良いって事にしてやるよ。」

 

男たちは下品にも笑い、腹を抱えた。アイテム採取に来ただけだと野次を入れ、笑いがひと段落すると同時に固まるクラインたちを睨んでいた。

 

「どけよ、俺たちは良い人だから、女の子までに手を上げるような奴じゃないんだ。」

 

「ふん…笑わすんじゃねえよ…」

 

舐められまいと口調を強張らせてみるが、男たちの表情は一切変わらない。とうとうリーダー格の男が武器を抜き、ゲラゲラと笑いながら足を動かした。周りもそれに釣られ動き、クラインたちとの距離を詰めて行く、しかしルナも後には引かず、言葉を続けた。

 

「舐めてんじゃねえ!こっちとらゲーム開始直後から、プレイヤー商人としてやって来てるんだよ。お前らみてえな薄汚いNPCの強化したへっぽこ装備なんかとは桁違いの、強化品を幾つも付けてね!!」

 

その言葉に、男たちの耳がピクリと動いた。

 

 

商人とは、本来ならその名の通り商人のはずだ。特にVRMMOでも、所持金がカンストを越える低レベルのプレイヤーは少なくはない。しかし通常のプレイヤー商人のほとんどは、狩りと商売を両立しているプレイヤーが多かった。あくまで自分を強化するという目的があるため、商売をしている。

 

 

しかしSAOでは、HPが0になれば死ぬデスゲーム。本来多いはずの両立商人は少なく、純粋な商人が多いのが現実であった。そこが男たちの勝手な想像につながり、商人=装備が弱いと結びついたのだろう。

 

 

が、今は状況は全く別。強い装備を持ったカモが、突如として目の前に現れたとでも言う状況だろうか、一気に目付きが変わり、mobで言うヘイトが一気に稼がれた状況に冷や汗をかいた。

 

「お嬢ちゃんもやろうっての…上等だよ!!」

 

「お嬢ちゃんなんて呼び方、二度と出来ないくらいにしてやるよ、明日から私の名前がお嬢になるくらいになぁ!!」

 

「うらああああ!!」

 

一人の男が斬りかかるのを受け流し、足を引っ掛けた。ゴロンと転がる重騎士を見下しながらも、ルナは言葉を続けた。

 

「ねえ、ただ単に戦うだけじゃ、あんたたちもオレンジプレイヤーに成り下がっちゃうんじゃないの?ここは素直に3本勝負の《初撃決着モード》で、負けた方が素直に言いなりになるって事にしておけば、どちらとしても都合がいいのだろうと思うんだけど。」

 

転げた男は額をピクピクさせつつも、それを無視してリーダー格の男は返答した。

 

「ん?お、おう。もちろんそのつもりだよ!!」

 

では、早速。即席で作られたルールは、パーティーの中から選抜で3人選び、先鋒、中堅、大将と言う順番でデュエルをする。その際、勝ち残ったプレイヤーは任意で次の試合に参加可能とした。

つまり、先鋒があり得ないほど強ければ中堅と大将が弱くても戦うのは先鋒だけ…と言う状況が可能な訳だ。

 

 

しかしこのルールは、初めに持ちかけてきたのは男達だった。先鋒だけで3人を倒し抜く精神的攻撃も加えて来たいのであろうか、それとも純粋にデュエルが慣れているのだろうか。彼らのカーソルは初めからグリーンだったので、駆け出しのPKかと思ってもいたが断言は出来なさそうだった。

 

「それじゃあ、10分間の作戦会議時間だ、そっちも誰が戦うかくらい決めておけよ。」

 

「ええ、そうね。会議はなるべく離れてさせてもらうわ。」

 

無論だ、男は言った。男達は今まで数もはっきりわからなかったメンツを集め、子供のように集まりこそこそと話し始めた。

 

 

男達は合計で8名、対するこちらはルナ含め6名で、誰を行かせるかの選択肢の幅で負けてしまっている。それでは、純粋に強さで勝負するしかない、相手に誰が出てくるかと簡単に予想されてしまいそうだが、今は実力のゴリ押しでしか対処法がない。

 

 

…しかし、怯えていた彼らが自分の実力を出し切れと言われても、はたして実力を出してくれるのだろうか…?少なからず立候補した奴ではないと信用出来ないが…

 

 

先ほどからルナの神速の思考の様子を伺っていたクラインが、ここだと言わんばかりに少し手を上げ、小声ではあるが力強い声で立候補した。

 

「俺…俺は行くぜ!!パーティーのリーダーとして仲間に逃げてる背なんて見せられねえ!」

 

今までおちゃらけた根性無しと言うレッテルをルナに張り付けられていたクラインは、ルナを感心させる。店に来ていた頃よりよっぽど男らしい風格を見せつけ、そして同時に、リーダーでもないのに出しゃばりすぎた、と自覚させた。

 

「そうね…パーティーリーダーだしあとはクラインに任せるわ。私は少し出しゃばりすぎた。」

 

「いや、ルナちゃんがあいつらに引きを取らなかったおかげで、俺たちにも自信が付いたんだ。俺も行く!!」

 

パーティーいちの大剣使い、アツも立候補してくれた。アツの志望で、先鋒に大剣使いを出してインパクトを与えたいらしい、あながち間違いでもない選択に、ルナも賛成した。

 

「かなりいい考えね、でも対策を取られていたり、万一負けてしまったらそのインパクトは逆手に取られてしまうわ。そこは気を付けて。」

 

「わかってるよ!!」

 

アツは威勢良く答えた。

 

「それじゃあ他の立候補者は…いねえか。まあうちのパーティーは似たような武器を使ってる奴が多いし、同じ武器になっちまうって考えるのも仕方ねえかもな。」

 

全員が、申し訳なさそうに顔をそらす。しかし、行きたいが武器が被ってしまい連戦になると対策を取られてしまう。と言う思考より、やはり恐怖に屈してしまっているように見えた。そこは、仕方ないか、とルナも思っていた。

 

 

突然、クラインは振り向き、ルナと真っ向から顔を合わせた。先ほどまで円状になり、すぐ隣にいたクラインが、顔を横に向けるだけではなく体ごと向けてくる。

何かを言う、その前に、ルナは釘を刺した。

 

「仕方ないわねぇ、デュエルになったのも全部私の責任だし、行ってやるわ。ただし私が大将をやる、それでもいいなら出てやってもいいけど?」

 

「…すまねえ!!」

 

薄々と気付いていた。自ら立候補したクラインでも、どこか恐怖心はあったはずだ。リーダーである自分のせいで負けた、そうなるのが怖かったのだろう。まさか最初から大将のポジションすら押し付けるつもりだったとは思えないが、少ない詫び程度にはなるだろうか。

 

「じゃあ決定ね、先鋒がアツで、中堅がクライン。大将が私で、気分的に次鋒と副将が優男とそこの赤いのね。」

 

「そこの赤いのって酷くねぇ!?名前くらい覚えてよルナちゃん!!」

 

それに次鋒も副将もねえしな、と、少しばかり笑話しも混ぜて。パーティーは凄くいい雰囲気になった。これなら勝てる、後は戦うだけ。そう、かすかに呟いた。

 

 

相手方も、どうやら選手選抜が終わったようだ。意気込むアツと同じく相手も数歩前に進み、デュエルの挑戦コマンドを叩いた。アツと戦う男は、目が極端に細い、長髪の槍使いだった。おそらく、アニメやマンガによくある目が線で描かれているキャラはこんな目つきなのだろうな、と思わせるくらい。

 

「よろしく、デュエルなら僕も喜んで戦えるよ!純粋に勝負を楽しもう!!」

 

「おうよ!槍使いさんとはすげーチョイスだな、後衛アタッカーさんの槍使いがどんなご用件だってなぁ!?」

 

アツは自分の意気込みを相手にも表し、ガッツポーズをした。パーティーメンバーはやれだの行けだの騒いでいるが、この状況は望ましくない。なぜなら、相手も予想外の武器を装備したプレイヤーだからだ。

 

 

本来、アツの考えた作戦では、異色の武器を先鋒に置き相手を錯乱させるのが目的のはずだ。しかし、それは相手も同じ考えだった。その上、大剣よりも汎用性の低く、デュエルに向かない武器を選んでくるとは、随分と大胆すぎる選択だ。クラインらは、今頃槍使いなら余裕だと快くしてデュエルを待ち望んでいるのだろう。しかし逆に考えれば、圧倒的不利な状況に立たされても、それを突破する術を彼は持っている。その何かを、アツが気付くのはいつになるだろうか。湧き上がるクラインらの声の横に、ルナの汗が額を走った。

 

「ロタールやっちまえ!!」

 

「瞬殺っすよ瞬殺!!」

 

相手方も応援も絶やさず、今や遅しとデュエルを待っていた。そして今回の相手、ロタールも、それを望んでいる。ロタールは手を差し伸べ、最後の友好意識を見せ付けた。

 

「紹介遅れたね、僕はロタール。デュエルよろしく。」

 

「大剣使いのアツだ!悪いが今回はその場におねんねしてもらうぜ!!」

 

「ふーん、それはどうかな?」

 

ニヤリと笑った数秒後、1分前に始まったデュエルへのカウントが0となった。

 

 

刹那、アツは怒声と共に大剣を振りかぶり、ソードスキルを発生させ切りかかった。突進速度は上々、モーションも付け事のしようがない。当たる、確かにそう思った。

 

 

次の瞬間に、クラインらは何があったのか分からず、数秒間黙り込む事になった。ソードスキルの突進モーションの途中で、大振りの大剣があとわずかの距離で届こうとしていた時、ロタールは動いた。

槍の柄でアツの腹を付き、距離があいた所にソードスキルを立ち上げアツを刺し貫いた。

 

 

吐血をオマージュしたであろう赤い液体がアツの口からこぼれ、辺りに散らばった。突き飛ばされたアツはクラインらの元まで転がり、HPの3分の2も削られた。

 

言葉を失った、その数秒後、クラインはデュエルと言う建前を思い出し、文句を垂れる。

 

「て、てめえ!!初撃決着モードなのに、ここまで削ることねえじゃねえか!!もし死んでたらどうしてたんだよ!?」

 

その文句に、冷静にもロタールは答える。

 

「ごめんごめん、デュエルが久々すぎて、つい本気になっちゃって。でもこの槍も、デュエルの時は初期装備の物を使ってるし、万一クリティカルヒットしたとしてもHPを削り切るダメージは絶対出ないよ。」

 

「んだとぉ…!!」

 

仲間を心配するがあまり、頭に血が登ってしまったクラインをアツが止めた。

 

「いててて…いいんだクライン、この人は確かに強え、その結果こうなっちまったんだ、ロタールに非はねえ…」

 

「でもよぉアツ!?」

 

「クライン」

 

真面目な顔で、アツは言った。

 

「気に入らないなら、お前がロタールを倒せばいい。それでお流しとしようぜ、な?」

 

「…分かったよ。」

 

クラインは立ち上がり、ロタールの前へと進んだ。そして意気込み、啖呵を切る。

 

「ダチの恨み、しっかりはらさせてもらうからな!!」

 

「恨みだなんて、でも、僕は全然構いませんよ。なんたってデュエルですから!!」

 

一方選手たちの火花を淵に、大将格の意思力争いも続いていた。相手方の大将格、モーデンがルナを睨んでいた。

 

「おたくの先鋒、あっさり倒されちまったな。このままおとなしく持ち物全部おいて行った方がいいんじゃねえのか?」

 

「馬鹿言わないで、そんな事出来やしないしやるつもりもない。それに一人倒されようと、元から決まっている勝敗は変わることなんて無いんだから。」

 

「随分な自身だなあお嬢さん。一つ条件変更だ、俺はお前が気に入ってな、俺らが勝ったら、お前も俺のグループに入ってもらおう。」

 

「だったら私も…もし勝ったら、あんたらの中から数名私の下僕にしてやろうかしら?」

 

「勝てるものならな…ぐははははは!!」

 

不敵な笑みが、場を澱ませた。さすがにそれはと言わんばかりに心配の目をやめないメンバーを無視して、モーデンを睨み続ける。

 

 

はたしてこの戦い、無事に終われるのだろうか。ルナ自身も不安を抱え、中堅クラインに、勝負を託した。




休載明けです、諸事情により、今回のあとがきは無しとさせて頂きます。
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