ソードアート・オンライン ブレイクアンドリベッツ 作:難聴の村上さん
デスゲーム開始から三日後、アーニーが立っていたのは迷宮区の中にある安全地帯ではなく、お店のようなフロントの向こう側であった。そこに立ち、自慢の初期ダガーを遊ぶように振るっている。周りには、戦利品の武具や回復薬の数々、NPCの店では高いまたは取扱っていない、貴重なアイテムがごろごろと置いてある。
つまり、彼女は今雑貨店を開いているのだ。
SAO初のプレイヤーが経営する雑貨店で、NPCの雑貨店とは一味違う売りは、数ある商品だけではない。ベータ版の知識を活かし、マニュアル本を作ったり、アドバイスをしたり、武器のデータ、序盤には大助かりの安全なレベリング方法など、言わば情報屋稼業もこなしている。アドバイスを受けるには少々コルも掛かってしまうが、それでも、ベータテスターの彼女の元へ助けを求めてくるプレイヤーも少なくない。
むしろ、唯一アドバイスをくれるベータテスターと言っても過言ではない程。もちろん自らベータテスターと名乗ったことなど一度もないのだが。
そして何より最大の売りは…顔。彼女の顔には、小さい頃負ってしまった傷が明確に残されている。
ゲームとは言え、その傷は人生の苦労を物語るには充分すぎる代物だった。だが、多くの客が目に入れているのは、古傷ではなく若々しい美貌が目当てであることは言うまでも無い話だ。
それも理解した上、商売上彼女はこう名乗っている。
ルナ、それが彼女のもう一つの名前であった。なぜそのようなことが可能なのか、それはSAOの使用から成り立っていた。他のプレイヤーの名前を知る方法は、パーティーを組む他、本人から直接聞く以外、数える程しかない。つまり、大々的な方法の一つは、偽装し放題と言う事になる。それによって、彼女は名を二つ持つ事が出来たのだ。
さらに、彼女がこんなにも早く店を持てたのは、もう一つ理由があった。それは、ベーターテスターでも類を見ない程の、圧倒的レベリング速度。たった1日にして、レベルは10、それもデスゲームが始まった混乱のピークの時に、9レベも上げていた。店を始めたのは (最も最初は路上での取引だったが)その翌日、つまり約12時間の間に、レベリングと店の準備が完了した事となる。
1時間1レベと考えれば、一般のMMORPGプレイヤーは普通かも知れないが、これはSAO。HPが0になれば死ぬ、正真正銘のデスゲーム。体力もメンタルも、普通は持つ訳がないのだから。
ただ、なぜそのレベルが他のプレイヤーにも分かるのかと言うと、それは。
始まりの街にある、NPCの開く防具屋で売っている、10レベから装備可能の商人用衣装が原因だ。赤いキャスケットと薄茶のソムリエエプロンが特徴のそれは、商人らしくかわいらしい衣装だった。今日も客が来れば接客し、少しばかり媚び、必要ならば真剣にアドバイスする。
もちろんその客を待つ間にも、短剣のイメージは怠らない。そうすれば、狩りに出なくても多少の熟練度は上がり、次の狩りに備える事にも繋がる。二段構えのライフスタイルの時間を送っていると、今日もまた、お客が店に入ってきた。
「いらっしゃいませ!!」
元気良く、挨拶をする。
とにかく赤を彷彿とさせるバンダナの男は、キョロキョロと店内を見回しながらカウンターに向かって歩いてくる。今だ顔を合わせず、商品から商品へと視線を移し、時期にカウンターに立っている、ルナの顔へと視線を変えた。
「あのよぉ、今仲間と狩ってるんだけどよ、そいつらがイノシシばかり狩ってるのが飽きたって言い始めたんだ。ねーちゃん、なんかいい狩場しらねえか…?」
申し訳なさそうに男は言う。それに応え、
「狩場の情報ですか…少しばかり料金が掛かってしまいますが、よろしいですか?」
右腕を縦に振り、メインメニューを操作した。メモを選択し、その中にびっしりと書かれた狩場の情報を眺めつつ、話を進めた。
「おう、少ねえけどそれくらいの金ならある。いくらだ?」
「1フロアにつき1000コル頂きます。ですが、10フロア以上のオーダーのお客様からは、合わせて1万コルまでと言うお支払い方法となっております。もちろん、フロア内のモンスターデータや地形、効率のいい狩り方など、様々なデータが載っている物ですので、量の都合上お一人様15フロアまでとなっておりますが。」
慣れた口調で、淡々と言った。
正直、たまに思うのが自分からNPCのようになっているのではないかと感じていた。
ただの接待上手だと言う事を自惚れながら。
「じゃあ、15フロア頼む。」
「畏まりました。それでは経験値コースと、黒字狩りコースがありますが、どちらになさいますか?」
狩場には、プレイヤーからして3種類の狩場に分けられている。経験値効率のいい狩場、ドロップ品の値段からの黒字狩場、どちらの得もない、ただ単にある人気のない狩場。その中の経験値効率重視の狩場と、黒字狩場をピックアップし、データにまとめた物だ。もちろん、これは1日目に自分がやった事で、ドロップ品に関しては詳しいかどうかは、実際の所言い切れなかった。
「出来ればどっちも欲しいけどなあ…両立コースみたいのはないか?」
「効率重視の経験値候補、安全重視のサブ経験値候補の2フロアを1セットとしてデータを作ってしまったので、お時間さえ頂ければ可能ですが…多分、30分程お時間を頂ければ情報をご提供出来ますよ。」
「それくらいなら全然構わねえよ!少しは休憩も必要なもんだってんだ。ははははは!!」
ルナは、相手の流れに呑まれつつあった。自分の店でテンポを崩されたのは初めてだ、この男は良く喋る。
「はははは…それでは、お名前をご記入ください。」
困りつつの苦笑いをしながら言った。アイテム欄から、メモ用紙とペンを選び、オブジェクト化させる。
それを男の方に、スッと押した。
「おうよ!えーっと…クラインと。」
「クライン様ですね、それでは、30分後、メッセージをお贈らせていただきます。」
「へへっ、よろしく頼んだぜ。」
「はい、またのご利用おまちしております。」
やっと終わる、と思った瞬間。
「おっとそうだ、メッセージが誰だか分かるように、名前教えてくれないか?」
彼は、とんでもない事を聞いて来た。そんな物、メッセージの中身や内容を見れば分かるだろうに、なぜわざわざそんな事をするのか、理解ができない。
それと同時に、この店には、看板と正式な店名がない事に気付かされる。SAO始まって以来初めての失態だ。
ベータ版では店名など気にする者はいなかったのに、さすが大規模な製品版。人の数が桁違いだと、この時実感させられた。
「ル…ルナです。以後お見知り置きを。」
「ルナちゃんね。俺はね、女の子の名前は絶対忘れないから!!んじゃ、メッセージ待ってるからねー。」
「は、はぁ…」
クラインが店から出る。
それと同時に、足の力が抜けガクンとその場に座り込んでしまった。こんな脱力感初めてだ、いつもなら、元気良くお見送りするのだが、あのクラインと言う男には参ってしまっている。ただ…どことなく癒されるような、そんな人柄は、いい人なんだな、と思わせた。
数秒後、ルナは大切な事を聞いていない事に気付いた。安全重視の狩場か、とことん効率重視の狩場かを、聞くのを忘れていたのだ。こんな失態、製品版はじまって以来初めての失態だ。おそるべし製品版、ここまでも取り乱す事があるなんて。
急いでクラインを追おうと思い店から飛び出したが、そこにクラインの姿はない。しぶしぶ店内に戻り、メッセージを送る事にする。だが、ふと指が止まった。いっその事、フレンド登録した方が早いのではないだろうか。フレンドになれば、お互いの位置がわかり、メッセージも送りやすい。実際どの手のオンラインゲームでも、商売話のためにフレンド登録をするのはよくある話だ。
それを思い返し、さっそくフレンド登録をクラインに送った。そしてクラインがOKボタンを押せば、晴れてフレンドになれる。
フレンド欄を覗きつつ待っていると、新しくクラインと追記された。なんだかんだと言って、SAO発のフレンドだ。あんな男が初めてのフレンドだなんて、笑えて来た。ただ、本当に大変なのはこれから、自分は先ほど商売名であるルナと名乗った、しかし実際のプレイヤーネームはアーニーで、あちらから見れば全くの別人。
ルナは焦った。
そして思い付いたのが、成りすまし。
それを思うに、ルナは装備欄の装備を次々と変えてゆき、狩り用の装備に着替えた。膝まで隠れるブーツ型鎧、これまた肘まで隠れる腕の鎧、急所を守る為の、胸の鎧。もちろん、鎧の下には青白の戦闘服を着こなしている。軽量化の為必要な所以外は鎧は無いが、これが一番いい装備だと彼女は思っていた。フード付きの紺色のローブを羽織り、店から出て、出回り中の札をかける。頬あたりにある傷もばれぬよう、フェイスマスクも付けた。髪を気にしたが、後頭部まですっぽりはいるフェイスマスクではなく、口元付近から首元までのフェイスマスクだった為、髪に関しては気にしなくて良さそうだ。
ローブを深く被り、クラインの元へと走った。
すんなりと見つけ、後ろから肩を叩く。
身長差が地味に辛かった。
「ん?あんたなんだ?」
「俺が…俺がアーニーです。ルナに頼まれて伝言を伝えに来ました。」
クラインは一瞬の硬直を見せ、絶望的な顔をしながら、再び動き出した。
第二声は、どことなくテンションが低かった。
「伝言って……」
「は、はい!安全重視のルートか、効率重視のルートかを聞き忘れてしまったらしく、それを聞きに参りました!」
「あー…それなら安全重視でよろしく…それじゃ……」
クラインは、重そうな肩を下げ、とぼとぼと歩いて行った。なぜ?それだけが意味が分からなかったが、要件は聞いたのでよしとしよう。
アーニーはさっそく店に戻り、商売服へと着替え直した。ルナの復活だ。
さっそくルナは、データをメッセージに移し、メッセージ冒頭に挨拶を付け加えた。ピッタリ30分後、送信する。これで一仕事終わりと言わんばかりに、大きなため息をついた。
そしてまた、新たな客を待つ。
その後は比較的普通の客が来て、アイテムを買ったり、簡単なアドバイスをすれば、満足して帰って行った。
店仕舞いの時、ふと思う。あれほどインパクトの強い客は、やっぱりそう簡単に来ないよな。ルナは鼻で笑い、裏の自宅へと入って行った。
とうとう投稿してしまった・・・どうも、赤面寸前のむらぽんです。
さーて今回限り2話連続投稿ですが、いかがだったでしょう?
個人的には満足できる作品なのですが、ほかの方々の魅力的な二次創作に圧倒され、むらぽん自体が日和ってます。
いったい読者様は何人ついていただけるのでしょうか!?今後楽しみにします。
さて、早速なのですが、少しばかり投稿ペースのお話を。
むらぽんはこの話を作るのに、合計で5時間以上かけていました。もちろん、学生の私に毎日そんなに時間がさけるはずがありません。ですので、早くて2日、遅くとも3日の間には投稿しようと思っています。
ですが、もし間に合わなかった場合などがあります場合、短いもののみとなる可能性もありますのでその点はご了承ください。
それでも間に合わないという場合には、活動報告にて報告する場合もあるかもしれません。
ですが、ですが!まあ始めたばかりの時に告知した日にちに投稿できないというのは、まあないでしょう。
というわけで、今回はこれまでです、26日までには更新するので、次回もご期待ください!!