ソードアート・オンライン ブレイクアンドリベッツ 作:難聴の村上さん
時は経ち、第9層解禁から3日ばかりたった今日。ようやく9層のメインタウンの構造を把握しだした頃には、早くも迷宮区のマッピングが終了したとの報告が入っていた。これから攻略組はそれぞれ生産職のクエスト支援にあたるものの、数日で終わらせすぐさま9層攻略と話が進むのだろう。
その一方、俺はこの3日間、ほとんどの時間を街でふらつき暇を潰していた。第9層は魔法をテーマとした層で、様々なゲームのタイトルに出てくるような、いわば魔法あるあるがそこらにちらほらと転がっている。俺とて一人のゲーマーとしては、見逃せない物は多少あると言う事だ。
自分に休息も必要だと言い訳も用意しつつ、抑えきれない好奇心を存分に堪能している。その結果、ようやくアスナと別行動を取るようになったのだが、どうせ攻略の時にセット感覚で同じパーティーになるので、特にどうこう思う事もない。むしろ時々襲いかかるアスナのどストレートのツッコミにうんざりし始めた頃でもあったので、ちょうどいいと言えばちょうどいい。しかし、攻略時にクエストの手伝いを1件もやっていないと負い目を感じたくも無いので、そろそろ人探しを始めるかなと思っていた時だった。
カチャンと、ベルトの留め具がぶつかる金属音を聞いて思い付く、あいつがいるじゃないかと。だが未だに生産職を続けているかは定かでは無いので、その人物の友人に当たる人、もとい俺自身のフレンドでもある、アーニーにへとメッセージを送った。商人は即対応がコンセプトらしいが、はて返信はいつ頃来るのかと考えている数分に、メッセージが送り返されてくる。内容を見れば、メッセージではなく直接会って相談するとのこと。しかし場所が高評価の続くスイーツ料理店とあれば、ただの口実ではないかと疑うのは当然の事だろう。
そんな経緯で、今からスイーツを食べに行く事になった、大まかなあらすじだ。
特に何も思う事なく、スイーツ店の扉を引っ張り、店内の甘い香りに吸い込まれながら足が動いた。むさ苦しい男集団が似合わずスイーツを堪能する姿や、現実世界と変わらぬような女子会を開いている複数のテーブルを1つ1つ目を移し、アーニーがいるテーブルを探した。待ち合わせにしたのはそっちなんだから名前を呼んでくれてもいいじゃないかと思うが、あのむさ苦しい男集団ですら静かにスイーツを堪能しているのだから、場違いだと言う事くらい俺にも分かる。そしてアーニーを見つけた時には、あちらも気付いたのか、小さく手を振った後に笑って見せる。防具や商売服ではなく、私服だった。
「お疲れ様、キリト君。とりあえず何か頼みなよ。」
「ああ、じゃあ俺はー…」
テーブルに座ると同時に出てきたメニュー表の窓を動かし、悩んでいるふりをして値段を確認する。やはりお高いスイーツは、俺の顔を歪ませていたらしい。クスッと笑ったアーニーは、気遣うかのように言ってくれた。
「いいよ、私の奢りで。キリト君はゲーム開幕から何万もつぎ込んでくれた数少ないお客様だからね。」
「あの時はレアドロップを売り払ってでも必要だと思ったんだよ。レアドロップの相場が予想以上に高かったからでもあるけど。でもその言い方されると余計奢られたく無くなるうよ。」
「ははは、ごめんごめん、冗談だって。ただ一人でスイーツ食べに行く悲しい女の子にならずに済んだお礼だよ。」
「そうかな?ならお言葉に甘えて。じゃあこれとこれとこれと…」
「何個も頼むのはダメ。」
「やっぱり?」
ほんの2ヶ月前、雑貨屋の店員であったアーニーにですらまともに会話が出来なかった頃に比べると、相当な進歩だなと勝手に思った。アスナのおかげか、それともアスナのせいか、わかったものではないが、勝手に始まる自己満足が思考を止まらせる。ウェイターやウェイトレスではなく、魔法?でゆっくりふわふわと飛んで来たスイーツを受け取り、思考の停止した脳がさらに癒される事となった。味は正直分からなかったが、とても気分が良かった。
「麻薬みたいだねこのスイーツ。」
だがアーニーは雰囲気を軽くぶっ壊すセリフを言い、俺の幸せのひと時は一瞬で終わった。あのなぁと不満が残るが、早速話が本題に移ってしまったので、タイミングを失った。
「ところで、リッチがまだ薬作ってるか作ってないかの話だったよね?」
「ああ、そうだよ。結局どうなんだ?」
「答えで言うと、まだやってるよ。だってリッチの薬はうちの看板メニューだもん、そう簡単には辞めさせないよ。」
「なら良かった、それじゃあまだクエストはやってない?スキルの上位互換を解放するためのやつ、モンスターも結構強いやつだよ。」
「あーあれ?リッチなら大丈夫だと思うけど…ちょっと待って。メッセージで聞いてみる。」
「頼む。」
アーニーは自分のメインメニューを開き、フレンドの中から一人選んで、メッセージを入力した。送信後から数分で返って来た返信を真剣な顔で見つめていると、突然表情がゆるくなり、苦笑いをしながら言ってきた。
「リッチ、まだやってないってさ。と言うか存在も知らなかったみたい。ぜひお願いしたいって言ってたよ。」
「まじ?よかったぁ、これで攻略の時も冷たい目で見られる心配は無くなる、ほんと良かった。」
元から冷たい視線はあったのではないかと野暮なツッコミはされず、ただそれにひたすら苦笑いをしてくれた。なぜ苦笑いなのかは分からないが、今は結果だけを考える事としよう。
「んじゃあ、今からでいい?出来るだけ早い方がいいし。」
「もちろん、リッチがそれでいいなら俺もいいよ。」
アーニーは話しながら再びメッセージを誰かに送っていたが、誰かと普通にチャットしていただけかもしれないので黙っておく。静かにスイーツを食べながら待っていると、段々とアーニーは焦り始めていた。頭を掻いて、メッセージの窓とにらめっこ。
「大丈夫…?」
「うん?うんうん!大丈夫、リッチもすぐくるって!」
「そ、そう。」
いくら俺でもこれくらいの事は察した。本当はリッチが今から来るのは難しい状態で、無理言って呼ぼうとしているのだろう。悪い事をしてしまったと、自然とアーニーの方を向き辛くなり、顔をそらしながらサービスでついてきたコーヒーっぽい飲み物を啜った。予想以上に苦くてちょっとびっくりした。
それと同時に、テーブルの横を見慣れた装備が横切った。付き添いから顔をそらしコーヒーを飲んでいる人物ほ不思議がったのか、あちらも気付いた様子だ。少し顔を上げてみると、突然、先ほどアーニーが言っていた、「一人でスイーツを食べに行く悲しい女の子」を思い出してしまい、クスリと笑ってしまった。
どうも、村上さんです。先日友人がゆークリウッドを見せたかったらしく、押し入れからDVDを引っ張りだして来たのですが、ハルナが出て来た時は本当にやばかったです。この時期にハルナハルナ連呼するのは反則ですよね。