ソードアート・オンライン ブレイクアンドリベッツ 作:難聴の村上さん
2022年11月10日〜2022年11月12日までの間、誠に勝手ながら、プレイヤー雑貨店Lūnaは、第一層攻略のため休店いたします。11月10日に、そう書かれた掛札が使われる事は無かった。
その日は製品版が始まってから初の雨で、狩りに出掛けるプレイヤーは愚か、NPCの宿から出ようとするプレイヤーすら少なかった。外にいるプレイヤーは決まって、何か用事があるか、食事に出掛けている他は無い。おまけに、外にいるとしても必ず走っている。
そんな一層目立つ羽目になっても走り続けていたのは、メッセージを受け取ったディアベルと、売れ筋の情報屋の姿だった。雑貨店Lūnaの前に着くなり、ディアベルは力強くドアノブを引いた。店内にいたルナは、椅子から立ち上がり、突然の来店に困惑していた。
「マッピングデータを送ってきたのは、君だろう。」
率直に言う。ややとぼけた顔のルナに比べ、ディアベルは真剣そのものだった。
「えーっとぉ…何の事ですか?私、迷宮区なんてほとんど行ってないですし、ましてやボス部屋までのルートなんかはー…」
その言い方は怪しい他がない、ディアベルはルナの目を見て言う。
「真剣に応えてくれ、君が初日にマッピングを終わらせてることくらい調べはついている。これは命に関わる事なんだ。」
そう言われ、堪忍したルナは正直に喋り出す。自分が、マッピングデータをディアベルに送ったと。ディアベルは、やはり、と呟き、腕を組んだ。そばにあった椅子に腰掛け、欄干をコツコツと叩く。まるで落ち着いていないのが目に見えて分かった。
ルナはそのプレッシャーを跳ね除け、自分のペースを保とうと、深呼吸をする。客にペースを崩される店員は、二流以下の存在だと自分に言い聞かせながら。
「それで…私と分かったからとどうするつもりですか?後丁寧に情報料を払いに来てくれたのなら、ありがたいですけど。」
「ふざけないでくれ、俺は真面目に話したいんだ、冷やかしなら後でやればいい。」
押し掛けておいてその言い分はなんだ、心の中ではそう呟いていた。確かに、ディアベルの態度は大きい、決して悪い人では無いのだが、真剣な時や、怒った時は態度が大きくなるのだろう。それに、ディアベルの横に立っている女性に目が行った。珍しい女性プレイヤーを、こんな場違いの空気の中連れて来た、ディアベルの気が知れない。
しかしそれを考えれば、彼女も重要な人物なのだろうと頭に浮かべた。
「俺は別に説教をしに来たわけじゃ無い、なぜか知りたいんだ。こんなにも早く、ゲームが始まってから5日しか経って居ない今情報を出したのか。君なら商売のネタとしてでも使えただろう。それなのに、なぜ?」
ルナは、右腿に備えてあるアンティーク・ブレイドを引き抜き、ディアベルに見せた。ディアベルの一瞬、目が大きくなったのを、ルナは見逃さない。
「昨日…これを攻略出来そうな人に譲ってあげたいと言うプレイヤーが来ました。おそらく、ベータテスターの事を言っていたのでしょう。彼は、私の行ったアドバイスを酷く批判し、除け者扱いされる生産職プレイヤーが居る事を強く主張してきます。その責任を、この武器で取れと…彼はそういいたそうでした。」
ディアベルは、視線を踊らせつつも言った。
「へぇ…そんなに凄い武器なのかい?これは。俺にはただの装飾の凝った武器にしか見えないけど。」
ディアベルの言葉を無視し、話を続けた。
「彼のために…私はこの武器で第一層を終わらせたかったんです。彼は、別に今日じゃなくても良かったのかもしれません、それでも…それでは私の気が晴れなかったんです。」
ディアベルは無理矢理話を繋げたルナに、しぶしぶ合わせる。ややぎこちない口調だった。
「それじゃあ、その彼は、武器を餌に君を脅したようじゃないか。そうだろ?実際。」
手に力が込み上げる。分かっているが、責任と言う物もあるのだと。強く睨み付け、隣の女性プレイヤーに救いを求めた。これ以上、ディアベルとくだらない話をする理由が無いから。
その女性プレイヤーはすぐに察した。ディアベルの肩を叩き、初めて喋った。
「ディアベル、あんたはもう帰んナ、お前がいると本題に移れそうにないだろうからヨ。」
「ま、待ってくれアルゴ、俺はまだ話しが終わった訳じゃ…」
ディアベルが言い切る前に、ルナは言った。
「そちらの方も、本題に移りたいそうですよ。一緒に遊んでいる暇はないのだとか。邪魔になるので、ご退出お願いします。」
初めはアルゴが誘導していたが、時期にそれを振り払い、自ら店を後にした。ようやく、といわんばかりにアルゴは足を軸にし、90度ほど回転してルナの顔を見た。ルナと同じ、商売師の匂いがした。
「アルゴだ、よろしくナ。」
「ルナです、Lūna雑貨店の店主をやってます。」
握手を交わし、ルナの合図でお互い椅子に座った。初めに、ルナが要件を聞くことにした。
「商売話のようですが…詳しいご用件は?」
アルゴは座りながら、脚を指で叩きながら答える。癖だろうか。
「ディアベルの奴がいた時は話せなかったガ、単刀直入にいうゾ。お宅にある情報を全て、うちに売って欲しいんダ。」
「予算はいくら程で…?」
「ざっと50m(1mにつき100万コル)って考えてあル、悪い話じゃないだロ?」
Lūnaでは、狩場情報以外のデータはほぼ無償で公開していると言っても過言ではない。唯一の稼ぎとなる情報は、狩場情報くらい。それもドロップ率の正確でない、etcアイテムのみでの精算結果のため、レアアイテムはほぼ無視されている。そんな、情報としてはまったくの未完成のデータを、まとめて買取ってくれるのだから、もちろん悪い話ではない。
ただ、アルゴはおそらく情報屋で、現在情報を掻き集めているように見える。ここで情報競争に買っておけば、今後の情報稼業もうちが独占出来るかもしれない。
しかし、ここ2日は情報の売行きが下がり、買取りばかりで経営難になりかけていたのも確かで、一稼業が無くなるだけで50mの貯金が出来るのはとても嬉しい。さらに、情報をここで売らなかったとしても、彼女が情報屋として潰れるとは限らない。
むしろ、同じ職同士潰しに掛かってくるかもしれない。その全ての可能性を考慮すると、情報を売るのが妥当だ。相手が一枚上手にあるのは確かだが、こちらも損をしたわけではない、良しとしよう。
「わかりました、情報を全てお売りしましょう。そろそろ私も情報稼業からは足を洗うつもりでしたので、いい機会ですね。」
「そう言って貰えると助かるヨ、いざとなれば情報屋同士の潰し合いが始まりかねかねないからナ。」
お互い笑い、再び握手を交わした。だが、その顔の裏には商売上の付き合いと言う文字があるのも、忘れてはいない。それではと、早速取引が始まる。
情報を売るには、条件が幾つかあった。売った情報を無闇に口にしない、これはルール云々以前に、マナーの問題だ。もう売ってしまった情報だからと、プレイヤーが誰でも書き込める掲示板に書き込む真似などしよう物なら、それは営業妨害の何ものでもない。市場だとすれば噂はすぐに広まり、書き込んだ本人は居場所を無くす事になるだろう。もちろん、そんな妨害者の店に立ち寄ろうなどと考えるプレイヤーは、一人もいない。
もうひとつに、忘れろまでとは言わないが、情報に関連するメモを全て削除し、情報を売れないようにする事だ。一般プレイヤーは気付かないケースも多いが、メモには作成日時がはっきりと映し出されている。商人の間では、どの情報がいつ頃分かったかは全て把握しているプレイヤーが多い、さらに今のような情報の売買も、商人プレイヤーにはすぐに情報が行き渡る。
この事から、情報を売った後、記憶頼りに新しく情報を書いたとしても、《追記情報》(元あった情報を後々映し、商売的利用をするために作られた不正情報の事)として扱われ、その情報を買うプレイヤーもいない。
そして最後に、情報を売った本人は誰に売ったかを言ってはいけないと言う事だ。情報を別の情報屋に売ったとして、元いた常連客がその情報を買おうと、店に来るとする。そして客は、情報がもう買えなくなったことを知ると、そのプレイヤーの名前を聞き出そうとするだろう。
そう考えれば、このルールは非常に面倒な他無いだろう。しかし、もし他の情報屋がその情報を欲しがっていたら、どうなるだろうか。それは、情報を買取った情報屋から奪おうとする場合があるからだ。
情報屋は本来、健全で安全な職とは言い切れない。中には例のように、無理矢理情報を手に入れようとする者もいるのだから。
以上の事から、情報の売買には数個のルールがある。ルナはもちろん守るつもりで、データを送り削除の繰り返しをしていた。そして最後の情報を送った後、アルゴからのトレード申し込み画面が表示されて来た。
認証カーソルを叩き、アルゴが49999999コルをトレードに出す。ルナはそのトレードに、適当な消耗アイテムを送り、トレードした。消耗アイテムを送るのは、詐欺防止のためのシステムで、片方が何のアイテムも無しにトレードをしてしまうのを防止するためで、なぜ消耗アイテムかと言うと、すぐにアイテム欄から消せる都合もいいアイテムだからだ。
そしてなぜ、1コル足りないのか。これは、別に1円安ければ見た目安く見える錯覚を模した物ではなく、トレードの税金対策だ。
ほとんどのゲームで、1mごとに税金の倍率が上がっていく。それがたった1違うだけで、トレード後の金額が大きく変わってくるのだ。
例えば、49mで0、18%の税金がかかるとしよう、かかる税金は9000コル、もともと減らしてある1コルも合わせて9001コルとしよう。それにくらべ、50mでのトレードは税金が0、20%。それではなんと、税金が10000コルになってしまうのだ。
つまり、たった1コルの違いで、約1000コルの違いが生まれる。商人職なら必ずと言ってもいい程の、トレードの常識だ。が、稀に税金負担と言う気前のいいプレイヤーもいるが、そこまで面倒見のいいプレイヤーは数少なく、税金負担であったらラッキー程度に考えておこう。
さて、商売も終わりトレードも終了した。後は帰るだけなのだが、アルゴは中々足を動かさなかった。ルナは商売相手であったので、冷たい態度は取らず、優しく聞いてみた。
「他に、何かご用件がお有りですか?」
「いいヤ、大したことじゃ無イ。邪魔したナ。」
アルゴは走って出て行った。それの入れ替わりで、再びディアベルが入ってくる。
「さっきの話の続きなんだが…やはり現在のプレイヤーではレベルが足りなすぎる。集めたとしても5〜6人で、1パーティーを組むのが精一杯だ。」
勝手に話を始めたディアベルに、ひとつ小包を投げた。
「ひとつお使いをお願いします、《始まりの坂道》にある、鍛冶屋に防具を取って来て貰いたいのです。お駄賃は、その小包にオブジェクト化して入れておきました。よろしくお願いしますね。」
呆れたような顔で、ため息をつく。
「全く…初めて会った日から、なんだかんだ言って図々しいな。分かったよ、マッピングの情報量として、お使いくらいはいって来る。」
だが、ディアベルが行くのを一瞬だけ言葉で止めた。
「一ヶ月!!」
「うん?一ヶ月?」
ディアベルは首を傾げる。
「一ヶ月…待ちます。ゲーム開始からピッタリ一ヶ月後、あなたのフレンドからボス部屋までのマッピングデータが届きます。その時、着いてこれそうな人を連れて、ボス部屋に行ってください。」
「…うん、分かった!!」
ディアベルも走り、鍛冶屋へと向かった。その時なびいた、自分と似て似つかないディアベルの髪は、次第に濡れて潰れて行く事だろう。
そんな事を考えていると、虫唾が走るようで、ほのかに微笑した。
どうも!むらぽんです。本日は投稿祭りですよー!!理由は後ほど。
さて、今回思いっきり原作とは違う設定入れてますね。SAOではトレード時、両プレイヤーがトレードする物がない限りトレードが成立しないと言う設定は…どう考えてもありませんね。
まだ小説ではよんでおりませんが、アニメで何話目かは忘れてしまいましたが、キリトがシリカに無償で装備をトレードしていたシーンありましたね、分かっていたんですがどうしてもやりたいネタだったので原作かぶせを変えてでも出しました。
そしてもう一つ、税金!
オンラインゲームあるあるですよねぇ…むらぽんはあの税金システムだいっきらいです。データなんだし税金なくても…と思います。
まあたかがデータと言ってしまったらナイフ片手にキリト君が殺しにかかって来そうですが。と言う訳で、今回はこれまでです。次回をお楽しみに!!