ソードアート・オンライン ブレイクアンドリベッツ 作:難聴の村上さん
ルナが集合場所に到着したのは、予定より30分も早い9時半頃の事だった。噂の中ボスクエストがあると言うエリアの、最寄りの安全地帯が今回の集合場所で、その集合場所からはモンスターの声が甲高く聞こえる。出来るならば長居はしたくないこの場所に、あと30分も待たなくてはならないのか。
軽く準備体操、指の関節を動かしてからアンティーク・ブレイドを引き抜くと、普段より振り心地が良い。ただ握っているだけではなく、指も大切なんだなとしみじみに感心しつつも、安全地帯からモンスターを眺めていた。座り込み、軽く膝を抱えた体育座りのような格好では、余計に虚しさが湧いてくる。そんな状況に耐えられなくなり、そのままアンティーク・ブレイドを握り締めたまま安全地帯から出る。
攻撃的なモンスターがそれに気付き、突進してくる。イノシシに模したモンスターは、右足を軸にした簡単な動きだけで交わされ、振り返り再度突進を試みた。それをアンティーク・ブレイドを軽く投げて遊びながら、何気無く眺めていた。再び突進、今度は交わす事も無く、モンスターとの接触間際に《クオータースイング》を振るい、弾かれるように吹き飛んだイノシシはガラスの結晶となって爆散した。相変わらずの攻撃速度に感心しつつ、暇をもて余していた。
雑魚狩りもやらないに越した事はないが、いささか面倒ではあるので安全地帯に戻る。草原フィールドの真っ只中にある木製の小屋が安全地帯と言う訳なのだが、壁は半壊し天井のない雨ざらし状態では廃墟としか言いようがない物ではなぜか心許なく感じ、どうしても落ち着けないのだ。
本来ならここで愛用のスマートフォンを取り出し、幾つかのゲームアプリに指を動かすのだが、SAOにスマートフォンと言う便利なアイテムは存在しない。ルナは毎日のように呟いていたが、彼女曰くSAOはスマートフォンがあれば神ゲーだったらしい。
仕方なく草原の草をぷちぷちと引き抜いたり落書きをしてみるなど幼稚的な遊びをやってみるが、何が面白いのかが全くわからない。そしてようやく呟いた。
「暇だ…」
間違いなく早く出過ぎた。昨晩はあまり眠れず、寝つきが悪かった上に朝早く目が覚めてしまった最悪の組み合わせだった。もしリアルなら嫌いな授業中に寝るなり、遅刻覚悟で二度寝もありだが、今回のような遠足じみたイベントはそれを許してはくれなかった。
暇と地味な眠気に耐えること30分、ようやくクライン一行が姿を表し、勢い良く小屋の扉を開いた。
「おはようルナちゃん!!今日はよろしく頼むぜ?」
「もー…遅いです。集合時間ちゃんと覚えてたんですかぁ?」
壁によりかかり首をこくりこくりと頷かせていたルナにはまるで説得力は無かったが、かなりの時間待ったと言うのは分かって貰えただろうか。クラインは自分の顔の前で手のひらを立てて詫びたが、振り返り再び時間を確認したのも確かだった。
現時刻、9時50分。ルナ自身は20分と待ってはいないのだが、暇と眠気のダブルアタックに相当苦しめられていたらしい。それを察したパーティーの一人がクラインに言い、クラインは異様に嬉しくなり許す事しか出来なくなる。そもそも、元から怒る要素など、微塵ほどしかないのだが。
早速クラインはルナにパーティー招待を送り、招待コマンドのOKカーソルを叩いてパーティーにはいった。ルナを除けば4人パーティーで、本来ならもう少し人数がいるはずなのだが、私用や他のクエストなどで全員集まるのは珍しいらしい。そんな華のないパーティーは、あらたに華が追加され、クライン達は意気揚々と目的のクエスト専用エリアへと向かうことにした。
歩いている途中、ルナは気付く。あっ、と大声で叫び、足を止めた。驚くクラインたちは、何事かと振り返る。そしてルナは言った。
「あの!これはその、あれがこうでなんと言うか…そう、商売名を入れ替えて本当のプレイヤーネームを隠してたんです!隠してたというよりは自然とそうなってしまったと言う感じですが…とにかくごめんなさい!!」
一行は、は?と言いたそうな顔でルナを見ていた。クラインはもちろん、他のメンバーも何事かと見て、多くのタゲをとってしまったルナはかなり後悔する。
実際、唯一状況を理解する理由を持っているクラインですら、頭の上にクエッションマークを漂わせていた。第三者にも分かるよう付け加えて説明するが、ルナはクラインやその他客に商売名であるルナと名乗っている。しかし、本当のプレイヤーネームはアーニーで、さらにそのプレイヤーネームを、今度は別のプレイヤーが名乗っていると言う、非常に厄介極まりない状況になっていると言うわけだ。
「あの、名前…」
すると、気付いたのはクラインではなく、優しい口調の男が言った。
「それって、偽名を使ってて、パーティーを組んだから本当のプレイヤーネームがばれてしまった。って事?」
優しい口調の男…この際優男と呼ぶ事にするが、優男は皆に説明するかのようにいった。それにルナは、はい、と渋々答える事しか出来なかった。
「お、おう…そうか、そうだったのか。」
曖昧な言葉の裏腹に、クラインは背を向けガッツポーズをしていた。かつてフレンド登録した人物が、中間業者ではなくルナ本人だったとは。一気に噴火したかのようにはしゃぎ大喜び。 あのある意味忌々しいアーニーではなく、ルナの本当の名前、クラインからして見ればルナ本人とフレンドになれたと言う訳になった。その事実を隠すこと無く、全身で喜びを表現するクラインには、少しばかり恐縮してしまった。
「あの…本当にごめんなさい。」
「いいよいいよ!あのアーニーだって、本当は別の名前あるんだろ?それでも、有る意味新しいフレンドが出来たみたいでいいじゃねえか!」
ルナは数秒言っている意味が分からなかったが、優男が横から口を挟む。
「ごめんね、クラインは昔からあんな感じで、前やってたゲームでも、クエストでNPCのお姉さんと仲良くなったとか言って喜んでいたくらいだから。今回みたいにルナちゃんのような…ああ、僕はルナの方で呼ばせてもらうよ。ルナちゃんはプレイヤーだから、余計思う事はあるんじゃないかな。」
はあ…と呟き、適当に返した。このクラインと言う男、相当女性に飢えていたのか、NPCの女性にも感情を抱く事があるのかと、引き気味になる。しかしまあクラインは元から色々とお察しだったので、何かと理由を作りLūnaに通っていた事を思い出すと考えられないことでも無い。最もルナ自身が、世の中の一般女性よりは引いていないであろうと、自負していた。
ともあれ一波乱なく名前を明かせたルナは、安心して息を吹いた。
再び歩き始め、歩く事数分。草原エリアから森林エリアへと繋がる大きな岩を越えた、その時の事だった。不自然な影が彼らを囲むように現れ、鈍い音と共に、光の反射した金属光沢が襲いかかる。
敵か、メンバーの一人が言ったが、敵だと言う事には間違いないだろう。しかし、はたして第一層目に、これまでのくっきりと現れた、人間のようなシルエットの敵mobが存在するだろうか。そう、奴らはプレイヤー、それぞれ個々の色のローブを纏った、怪しい集団だ。
その中のリーダー格らしき人物が一歩前に出て、ローブに隠れかけていながらも、重々しいであろう口元が開くのははっきりと見せる。
「武器やアイテムを全て置いて行け、そうすれば命だけは見逃してやる。」
ルナは思った、こんなにも早く盗賊プレイヤーが現れるとは、しかもPKも視野に入れている厄介な存在だ。装備は中々の性能の物だが、はたしてレベルはどうだろう。その上こちらはプレイヤー同士の戦いには不慣れのメンバーが数名も多く、数こそは対等であったはずもデュエルとならば互角以下になってしまう。
「面倒な奴に絡まれたわね…」
そう呟き、リーダー格の男を、睨み付けた。
どうもー、むらぽんです。
今回は大変でしたよぉ…本日、完成が間に合わないと言うので、通学中もiPhoneで創作をしていたのですが、完成した途端他のアプリに手が伸びて、保存するのを忘れてしまったのです。そうともしらずパズドラに夢中だったむらぽんは何気無く履歴を消し、再びハーメルンを開いたのですが…
はい、そこで問題が発生したんです。私は先ほど、保存もせずに他のアプリに手が伸びたと言いました、保存もせずにです。そこでなにが起こったか?それはもちろん、保存をしていない本来投稿するつもりだった話が吹っ飛びました。これは今日中には無理だな…と覚悟していましたが、下校時や電車内、家に帰ってからずっと書き続けた結果、短いながらもなんとか完成させる事が出来ました。
もしかすると、前回の予告はボス戦だったのになんで?と思った方もいるかもしれません。もちろん始めはボス戦を書きましたよ、でもそれが吹っ飛んだため、急遽変更となってしまった訳でした。
本当に申し訳ない…今後同じような事が二度とないよう、精神前例注意致しますので、今回の失態をお許しください。
以上、無駄にあとがきが長かったむらぽんでした。