遊んでたゲームキャラでオバロ似の世界へお出掛け中   作:アカヤシ

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第2話

その余裕、引っぺがしてやる。

 

ブレインは歴戦の戦士ですら怯えるような鋭い視線を、無言でガゼフに向ける。正直、その余裕が気に入らない。

 

・・・強者の驕りか!!!

 

 

ガゼフはブレインに対して、悠然と佇んでいるだけ。攻撃してこないと読んだのか、はたまた攻撃されても容易く対処出来る自信があるのか。ガゼフの表情が答えを物語る。後者であり、お前程度恐ろしくないと。

 

ブレインはゆっくりと息を吐きながら腰を落とし、刀の柄を握る。

 

抜刀の構え。

 

息を細く、長く。

 

意識の全てが一点に集中し、極限に達した瞬間、逆に膨大に膨れ上がる。周囲の音、空気、気配。全てを認識し知覚できる、そんな世界に達する。それこそ彼の持つ一つ目のオリジナル武技《領域》。

 

武技とは、戦士達が鍛練の中、自らの腕を極めていく中で学ぶ、特殊な能力。それは気ともオーラとも言われる、いまだ説明のつかないものが起こす、武器での魔法と称されるもの。

 

ブレインの領域は約3m、範囲内にいる全ての把握を可能とするものだ。

 

そして、刃物が急所を叩き斬れば生物は死ぬ。ならばそれだけを追求すればいい。

 

汎用性よりも一点特化。相手より一瞬でも早く、致命的な一撃を正確に叩き込む。その過程で生まれたのは、二つ目のオリジナル武技《瞬閃》を昇華させ更なる武技を生んだ。

 

振り切った後、その速度のあまり血すらもその刀身に残らない。まさに神の領域にいると感じ、ブレインが名付けた《神速》。

 

それは一度放たれれば、知覚することすら不可能。

 

この二つの武技、絶対必中と神速の一刀の併用による一撃は、回避不可能かつ一撃必殺。

 

その斬撃で狙うは対象の急所。特に頸部。これをもって秘剣《虎落笛》。

 

頸部を一刀両断することによって、吹き上がる血飛沫の音から名づけた技である。

 

「そろそろ準備はできたか?」

 

無言を貫き、鋭い呼吸を繰り返すブレインに、ガゼフはゆっくりと歩を進める。警戒もまるでない歩運び。街中でも歩いているような軽いもの。

 

『一度勝ってると、俺を格下扱いしているのか?武器すら持たず、もういい・・・一撃で屠る!ガゼフ・ストロノーフ、その首・・・貰った!!!』

 

ガゼフが領域に踏み込んだ瞬間、ブレインは心の中で吐き捨て、全てを叩きつける。

 

吐く息は鋭く短く。

 

鞘から刀が抜かれ、空気すら断ち切りながら、ガゼフの首に伸びる。

 

その速さを例えるなら雲耀。光ったと認識したときには首が落ちる。

 

それほどの速度。数百万の繰り返しは、まさに神の領域に達した一閃を生み出す。

 

そして、『光が重なる』。

 

ブレインは思わず瞠目した。

 

いつの間にかガゼフが手にしていた武器を。

 

それは剣というにはあまりにも大き過ぎた。

 

「【光武】《僕専属シスターちゃんが最強可愛い剣について》」

 

大きく分厚く、重く、眩く、それは正に黄金塊であり・・・シスターだった。

 

その大剣は神聖な光を放ち、剣先から柄頭まで幾何学的な紋様が入り、黄金に輝いていた。

 

そして・・・鍔から柄部までが、胸辺りで五指を交互に組み祈る可愛らしいシスターという奇妙奇天烈なデザイン。

 

いや、それよりも・・・

 

「ば、ばかな」

 

ブレインの刀は折られており、折られた刀身部が洞窟の天井に突き刺さっていた。

 

空気が凍ったような気がした。必死にブレインは呼吸を繰り返す。

 

「なるほど、『一ヶ月前』の俺なら苦戦していたな。本当に大したものだ」

 

ガゼフの言っている意味が理解でき、ブレインの頭の中は白く染まる。

 

あの敗北した御前試合からの、積み重ねてきた全てを否定されたような絶望感。

 

それでも打ち砕かれないのは、かつての敗北があったからだ。折れた骨がより太く硬くなるように、敗北という状況に対して耐性があったためだ。

 

有り得ない。だが、認めるしかない。

 

己の神速の一撃を更に上回る速度で捩じ伏せられたという事実を。

 

「どうしたアングラウス?来ないのか?お前の実力を俺にもっと見せてくれ」

 

再びガゼフは歩き出す。

 

ブレインは折れた刀を鞘に収め《領域》を発動させる。

 

『どうする!どうすればいい!クソッ!クソッ!クソッ!』

 

先程までは《領域》に入り込むことを待ち望んでいたのに、今は逆。できれば入って来て欲しくない。

 

『なんでだ!なんでこれほどの実力差がついた!何をしたんだよストロノーフ!お前は王都に引き込もってぬるま湯に浸かってたんじゃないのか!』

 

どれほど弱気になっているのか。

 

ガゼフの足運びを必死に《領域》で観察する。

 

三歩、二歩、一歩、間合いに入る。

 

狙うは一点・・・踏み出してきた右足首。

 

ブレインは生き延びることを重要視する。なぜならまだ強くなる余地がきっとあると思っているから。

 

『ここは退却だ!勝てないなら逃げて再び戦えばいい!生き残り、最後に勝てばいい!次は勝つ!絶対に勝つ!絶対に勝つ!絶対に勝つ!!!』

 

切り下ろすように折れた刀を走らせ、足りない長さを自重でほんの少しでも加速させカバーしようと試みる。

 

『いける!!!』

 

精神的な重圧をはね除け、先程以上の速度が出た事を確信した。もし自分が防御する側であれば、防げない速さだ。

 

狙いに変更無し、あくまで狙う足。

 

移動速度を殺して、その後に全力で逃げる。

 

その修道服の裾から少し見える足首を切り飛ばそうとし、刀の柄からブレインの手が滑り抜けた。

 

その時何が起こったか、視線を固定したままのブレインには分からなかった。ただ、《領域》によって生じる特殊な知覚能力。それが大地に転がった折れた愛刀と、縞地を上から押さえ込むようにブーツの踵を認識する。

 

有り得なかった。

 

しかし、それが事実だった。

 

ブレインの手から刀が滑り落ちたのは、ブーツで刀身を上から踏みつけられ、衝撃が伝わったためだということだ。

 

信じたくない理由はたった一つ。

 

極限まで高められた集中の中でさえ、それを知覚できなかったためだ。そう・・・己の誇る《領域》の中でさえも。

 

手を伸ばせば簡単に届く。そんな距離で見下ろすガゼフの視線がブレインを貫く。凄まじい重圧が、大気ごとブレインを押し潰しそうだった。

 

荒い息でブレインは呼吸を繰り返す。

 

噴出した汗がブレインの全身を流れ、吐き気に襲われる。視界がぐらぐらと揺れる。

 

鉄火場は幾つも潜った。死地なんてざらだ。しかし、それらは、今置かれた状況と比較すれば、まがい物の、まるでお遊戯場だった気さえする。

 

踏みつかれたブーツが刀身から離れ、ガゼフは無言で大きく飛びのく。

 

「ストロノーフ、お前の武技・・・」

 

「武技?いや、まだ使っていないぞ。この頭上の光輪は、浄化系神聖魔術【陽光】といって、周囲を照らしたり、空気を浄化する魔法だ。この具現化系神聖魔術【光武】も借り物で身体能力を向上させる特殊効果は一切無い」

 

自分のたゆまぬ努力。御前試合で戦った時は己の才を過信していた。努力せず、努力した男に負けたのだ。だからこそ、その敗北は自分の中で昇華された。

 

そこから這い上がる気持ちで、本気で鍛練してきた己のという存在の全て。

 

それを目の前の『化け物』は容易く超えている。

 

「・・・俺は・・・努力して・・・」

 

「・・・努力か。俺も一ヶ月前に王国戦士長を辞めてから本気で鍛練を積んだ。俺を上回る最高の剣士に弟子入りして・・・ひたすら腹パンされてゲロ吐かされた」

 

それを聞き、ブレインは笑ってしまった。

 

今までの全ては無駄な努力。何を自惚れていたのだろう。自分が天才だなだと。

 

ガゼフの話が本当なら一ヶ月前までは実力は互角程度で、たったの一ヶ月の鍛練であっさり抜かれたという事実。

 

「・・・?え?アングラウス、泣いているのか?あっ・・・もしかして刀を折ってしまったからか?そんなに高額な物だったのか?それか思い入れがあったのか?」

 

見当外れな事を言っているガゼフ。

 

しかしブレインの耳には、ガゼフが何かを言っているのは分かったが、遠くで言っているかのようによく聞こえてはいなかった。

 

手の豆を潰してなお、重い鉄の棒を振るっていたのも無意味。

 

重量鎧を纏って走り続けたのも無意味。

 

たった一人でモンスターと対峙し、ギリギリの勝利を収めてきたのも無意味。

 

全てが無意味であり、ブレインの人生もまた無意味。

 

本当の天才の前ではブレインなど、自分が今まで嘲笑ってきた才能を持たぬ弱者と何ら変わらない事を。

 

「俺は馬鹿だ・・・」

 

「アングラウス・・・本当に大丈夫か?後でエンリに回復魔法を掛けてもらうか?」

 

ガゼフが近寄ってきた瞬間に、ブレインは声を上げる。それは戦士の咆哮ではなく、子供が泣いているのと同じものだ。

 

ブレインは『ガゼフに』背を見せて駆け出した。

 

「仲間になる約束・・・は完全に忘れているなアレは。まあ、向かった先は『エンリ』がいるし捕まえてくれるだろう」

 

情報通りならブレインの向かったのは、おそらく倉庫として利用されている洞窟にある脱出口だろう。なら先ほどブレインの武技《領域》をすり抜け、先に傭兵団の殲滅に行ったエンリがいる。彼女なら怪我を負わずに無傷でブレインを捕まえるのは容易いだろう。

 

ガゼフはゆっくりと、傭兵団『死を撒く剣団』の残存全兵がいる奥へ歩き出した。




感想に書かれた名前ミスは流石に修正しました。

あと何故ガゼフとエンリが冒険者をやっているのか?カルネ村襲撃後から話が飛んでいるのか?という質問がありました。

ブレイン・アングラウスを再度勧誘する際に、ガゼフの口から語られます。

王国内で出現した謎のモンスター。

今作の主人公である聖職爺の現在の動き。

とある王国貴族の暗躍話。

ちなみにガゼフは戦士長という地位を捨てただけ。表向きは冒険者をやっているが・・・その正体とは!?

あと、

「カルネ村警備隊長『神の戦車』ネム・エモット!参上!!!」

銀級の冒険者チーム『漆黒の剣』を護衛に付け、カルネ村を目指していた薬師ンフィーレア・バレアレ。その道中にモンスターの変異種に襲われるが、颯爽?と助けるネム・エモットの姿(近日予告)。

つまり何が言いたいのかと言うと・・・聖職者化したのはガゼフやエンリだけではないと言う事だ!!!!

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