遊んでたゲームキャラでオバロ似の世界へお出掛け中 作:アカヤシ
村の外れが近づいてくる。
走るエンリは後ろに騒がしい金属音を聞く。その金属音は規則正しい。祈るような気持ちで後ろを一瞥する。そこには最悪な予想通り、1人の騎士がエンリ達を追って来ていた。
あと少しなのに。
吐き捨てたい気持ちを必死にこらえる。僅かでも無駄な体力を使う余裕はない。荒い息で呼吸を繰り返し、心臓は破裂するのではという速さで脈打ち、足は震え、今にも力尽きて大地に横たわりそうになる。
走りながら再び後ろを窺う。
互いの距離は殆ど変わっていない。鎧を着ながらも、その速さに衰えは無い。鍛えられた騎士と単なる村娘の明白な差だ。
解ってしまった・・・
身体の芯で・・・感じてしまった・・・
村の皆、殺される・・・誰も勝てない!!
父も、母も、もう・・・
私しかいない・・・私だ!!
私が・・・ネムを・・・
どうやって・・・
単なる村娘の私が・・・
どうやって?
「神様・・・どうか神様・・・!!お願いします・・・この命差し上げます・・・だから・・・」
自分は最低の姉だ。妹が泣きそうな顔をしながらも決して泣かないのに、姉である自分は涙を流し神に祈っている。命を差し出すと思いながらも自分が助かりたいと願っている。姉が助けてくれると信じてくれているのに。
「あっ!」
エンリが激しく疲労している以上に、幼い妹は体力を消耗している。走る足がもつれ、悲鳴を上げて転がりかけた。しかし倒れなかったのは二人を繋いでいる、堅く握りしめられた手だ。ただ、引っ張られる形でエンリも姿勢を崩す。
「早く!」
「う、うん!」
だが、再び走り出そうとするが、妹の足が痙攣し上手く動かない。エンリは慌てて妹を抱き上げようとし、すぐ側で金属音が止まったことに恐怖を覚える。
立つ騎士の手に握られた剣は血で濡れていた。それだけではない。鎧や兜にも血が跳ねた跡がある。
エンリは妹を後ろに庇いながら騎士を睨む。
「無駄な抵抗はするな」
そこにあるのは優しさではない。嘲笑気味の感情だ。逃げても殺せる。そう言いたげなぬめりつく様な口調。
エンリは眼前で振り上げられた剣を涙目ながらも鋭く睨む。
諦めが支配していく中にあって、エンリがいまだ己の意思を手放さないのはたった一つの理由からだった。それは自分の中にある温かい体温、妹の存在のため。
せめて妹の命だけは助けたい。
そんな思いが、エンリに諦めるという選択肢を選ばせてくれない。
ただ、そんなエンリの決意を嘲笑うように立ち塞がる、目の前の全身鎧に身を包んだ騎士。
剣が振り下ろされる。
極限の集中がなした技か、はたまた命の危険を前に活性化したためか、やけに間延びして感じられる時間の中で、エンリは必死に助かる、妹を助かる手段を思案する。
しかし、何も浮かばない。
せいぜい浮かぶアイデアはその身を盾にするぐらい。自らの肉体で剣を受け止め、抜けなくするという最終手段のみ。
相手の体のどこかでも、あるいはこの身に食い込んだ刀身でも、とにかく力の限りつかんで絶対に放すもんか。命の最後の灯火が消えるまで。
それしかないないなら受け入れるだけだ。
エンリは殉教者のごとき微笑をその顔にたたえる。
姉として妹にしてやれることはこれぐらいだろう。その思いが微笑みを浮かばせた。
妹1人で、いまこの地獄のような状況になっている村から逃げられるか不明だ。
大森林に逃げ込んでも見張りがいる可能性は十分にあり得る。
ただ、ここで命を繋げれば、助かる可能性だってある。
妹が逃げられるその僅かな可能性に、エンリは己の命を、そして全てを賭ける。
それでも迫り来る痛みの恐怖が、エンリの瞼を閉ざさせる。
漆黒の世界の中、僅かな光が見えた気がした。
どうか神様・・・妹を助けてください
エンリは涙を流し、ただ、天に祈りを上げる事しかできなかった。
その時、光の筋がひらめく。
次の瞬間、騎士の上半身がずり落ちた。残された下半身は湧水のように赤黒い血を噴き、地面に池を作りだしていた。
「もう大丈夫ですよ」
大地に転がる事切れた騎士を前に、柔らかな笑みを浮かべながら優しげな声で、漆黒の外套に身を包んだ1人の老人がエンリ達に話し掛けてきた。
エンリ達は自分の状況を忘れて見上げる事しか出来なかった。