遊んでたゲームキャラでオバロ似の世界へお出掛け中 作:アカヤシ
眼前に広がるのは少女2人と騎士1人。
年上の姉と思われる少女は胸元ぐらいの長さに伸ばした栗毛色の髪を三つ編みにしている。日に焼けて健康的な肌は恐怖のため血の気が引いている。黒い瞳には涙を浮かべていた。
妹の方、幼い少女は姉らしき少女の腰に顔をうずめ、怯えが全身の震えとなって現れていた。
そんな2人の少女の前に立つ騎士。
俺は暴力とは無縁な生活をしてきた。
さらにはこの世界が仮想ではなく現実だと実感している。にも関わらずこれから人を『殺めよう』かというのに、それほど動揺することがない。自分でも未だにこの状況が半信半疑なのだろうかと、もしくは自分で設定したギタンの闇落ちした元聖職者の妄想プレイの影響だろうかと、首を傾げつつも目標の騎士の背中を見据える。
そしてゲームキャラクターのギタンの身体能力をフル稼働させ一気に距離を詰めて、光の剣を勢い良く騎士の無防備な背中に向かって振り抜いた。
結果・・・奇襲は大成功だった。
俺は、地面に転がる死体を跨いで少女達に歩み寄った。
とりあえず安心させる為にも声を掛けてみる。
「もう大丈夫ですよ」
そう言って2人の少女に、いつもの調子で声を掛ける。
そう、いつものようにだ。
このギタンでプレイしている時に使っていた口調が、いつもの癖なのか自然と口をついて出ていたのだ。妄想プレイ時にはテレビ前でいつも台詞を喋りながらコントローラーのボタンを押していた為だろうが、惹き込まれるような和む感じの声色に内心自分で驚いてしまう。
「あ、あの、た、助けて下さって、ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
眦に涙をにじませながら、感謝の言葉を紡ぐ2人の少女。
「あ、あと、図々しいとは思います!で、でも、貴方様しか頼れる方がいないんです!どうか、どうか!お母さんとお父さんを助けてください!!!」
「わかりました。場所はこの道を進めばいいのですよね?貴女達はどこかに隠れていて下さい。すぐに終わらせます」
ギタンが軽く約束をすると、姉が大きく目を見開く。助けるという言葉が信じられなかったような驚き。それからすぐに我を取り戻すと、頭を下げる。
「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!本当にありがとうございます!そ、それとお、お名、」
「私は、流浪のただの神父・・・ギタンと申します」
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「ひゃああああああ!!!」
虐殺が別の虐殺へと変わる絶叫。
狩る者が反転、獲物と変わる。
ロンデス・ディ・グランプは己の信仰する神への幾度目かになる罵声を呟く。恐らくこの数十秒で一生分の罵声を浴びせただろう。神が本当にいるなら、まさに今こそ現れ、邪悪な異教徒を打ち倒すべきだ。何故、敬虔なる信徒であるロンデスを無視するというのだろう。
『神はいない』
そんな戯言をさえずる不信心者、もしそうならば神官たちの行使する魔法はどのような理から成り立つかを馬鹿にしてきたが、本当に愚かだったのは自分ではという思いが込み上げてくる。
眼前の邪悪な異教徒が、神々しくも燦々と輝く黄金の光を纏い我々の前にたちはだかっていた。
鎧が小刻みに震え、カチャカチャと耳障りな音を立てる。ロンデスの周りにいる18名の仲間全員がだ。
恐怖に全身を支配されながらも、逃げ出す者はいない。
ただそれは勇気ではない。ガチガチという歯がぶつかり合う音が証明するように、逃げられるなら何もかも忘れてひたすら逃走したかった。
逃走不可能だと知っていなければ。
ロンデスは救いを求め、視線を僅かに動かす。当初の予定では村人を中央に集めるように駆り立て、空いた家屋を焼き払い、村周囲に馬に乗ったままの騎士を4人、弓を装備させ警戒し、逃げられても確実に殺せる。
幾度も繰り返した手順だ。
村人を適度に間引いて、幾人か逃がして終わり。
そうなるはずだった。
ロンデスはあの瞬間を覚えている。
「【光武】《アン・ホーリーエクスカリバー》」
逃げる村人を後ろから切りつけようとした仲間の1人が稲妻のように光り輝きながら真上から飛来した無数の剣に、身体を刺し貫かれる光景を。
それが、絶望の始まりだった。