遊んでたゲームキャラでオバロ似の世界へお出掛け中 作:アカヤシ
相手はたった四五名しかいないにも関わらず、我々の周囲を大きく取り囲むように展開している。そのために各員の間隔は大きく開いているが、何らかの手段によって完璧な檻を構築しているはずだ。
つまりは確実に罠。
踏み込めば致死の顎が開くはず。
それを把握しているはずのギタン殿が取った行動は『正面から叩き潰す』と言って連中の方へ歩き出したのだ。
遠距離戦では勝算はなし。
遠距離に優れた才覚を持つ射手などがいれば別だろうが、そうでなければ魔法詠唱者との遠距離戦は絶対に避けるべき一つだ。
籠城戦は言うまでもなく愚策。都合良く包囲を抜けてカルネ村まで辿り着いても、石造りでなおかつ重厚な砦があれば別だが、木製の住居では魔法を防ぐには心もとない。下手すれば住居ごと焼き払われる可能だってある。
「貴方達はここで待機していて下さい。私が一人で片付けてきますから」
ガゼフが自分なら取るべき手段は強行突破だと考えていた。
それしか現状では手段がなかった。
ギタン殿一人で行かせるわけにはいかない。
ガゼフも同行させてほしいと願い出るも拒否されるが、勝手にギタンの後ろを付いて行く。
「魔法っていう奴はなんでもありか!」
それは尋常の手段による集合ではないことは明白。大きく取り囲むように展開していた敵の兵力が集結させていた。それに従う天使達までも。戦士では不可能なことを平然と行える魔法詠唱者達に罵声を浴びせたい。
ガゼフは冷静に人数を数え、総員である事を再度確認する。
彼等が単なる傭兵や旅人、冒険者でないのは一目瞭然だ。
格好は統一されたものであり、身にまとっているのはおそらく特殊な金属糸を編み上げることで、機動性と防御性を重視した衣服鎧。ただし強力な魔化により一層、防御効果を増幅しているそれらは、全身鎧を超える防御効果を持つ。背中につけたマントからも魔法のオーラが漂う。
あれほどの魔法アイテムを人数分揃えるのは、困難を伴うはず。金額的にも手間暇という点においても。にもかかわらずそんな装備で身を包んでいることが、彼等の後ろに国家レベルの支援があることを証明していた。
「やはり、スレイン法国か」
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スレイン法国特殊工作部隊、陽光聖典隊長、ニグンは困惑の眼差しを向けていた。
一人は今回の標的であるガゼフ・ストロノーフ。
もう一人の老人がニグンを困惑させている。
非常に高価そうな漆黒のローブをまとっており、ローブの留め具が放つ純金の輝きが身分の高さを証明するようだった。
更に部下からガゼフの部下達が突然消えたなどというふざけた報告をしてきた。
何らかの転移魔法によるものだろうが、その魔法に心当たりがない。未知の魔法を使う、正体不明の人物。警戒は絶やせない。
ニグンは天使達を自分達を守る壁のように配置し、若干後退し距離を取る。そのまま出方を窺っていると、ガゼフの前に立つ老人が一歩前に出た。
「はじめまして、スレイン法国の皆さん。私の名前はギタン。皆さんに聞きたい事があるので、少しばかりお時間をもらえないでしょうか?」
ギタンという人名を、頭の中で検索しても該当するものはなく、偽名の可能性がある。とりあえずは向こうの話に乗って、ある程度情報を得た方が良い。そう判断したニグンは顎をしゃくって会話を続けるように促す。
「素晴らしい・・・お時間をいただけるようでありがたい。さて、勘違いなら申し訳ないのですが一応念のために確認しておきたい事がありまして。単刀直入に聞きますが、この周囲の村々を襲ったのは貴方達のお仲間ですか?」
老人の様子から見て、ニグンは知ってるくせに何を問いかけてきていると思った。
「それがどうした?それより、こちらの質問に答えてもらおう。ストロノーフの部下達はどこにやった?お前がやったのだろう」
「この先にあるカルネ村の中に転移させました。巻き込まれて死なれては困るので」
「愚かな。ストロノーフと貴様を殺した後で、村の捜索すれば分かる、」
「標的である戦士長を殺しても貴方達は止まりそうにありませんね。そうですか・・・残念です」
ギタンの雰囲気が一気に変わった。
「お前達は何の罪を犯していない無辜の民を虐殺して回ったらしいな。更にカルネ村を再び襲うだと?これほど不快なことがあるものですか」
ギタンのまとうローブが風に煽られ、大きくはためく。その風は勢いを維持したまま、ニグン達の中も通り過ぎる。
草原を走る風がたまたま、ギタンの方向から吹き抜けてきただけに過ぎない。冷たい風を全身に浴びながら、ニグンは頭に浮かんだ思いを追い払った。
その風に死の匂いが満ちていたのは気のせいだ、と。
「・・・っ!不快、とは大きく出たな」
僅かに威圧されながらもニグンは嘲笑を含んだ態度を変えたりしない。
こんな老人一人にスレイン法国の切り札の一つ、陽光聖典の指揮官であるニグンが動揺させられたりはしない。いや、してはいけない。
ギタンが一歩だけ歩む。
そう一歩しか出してないのに、あまりにもギタンが巨大に映る。押されるように陽光聖典の全員が一歩だけ下がった。
「あぁ・・・」
ニグンの周囲からは掠れた声が幾つも聞こえる。
中に含まれているのは怯え。信じがたいほどの強者の威圧。ニグンをしてこれほど威圧させられたのは初めての経験だった。だからこそ部下達の怯えも理解できる。
幾多の死線を潜り抜け、無数の命を奪ってきた歴戦の強者であるニグンでさえ、ギタンという未知の人間から、潰されるほどの強力な圧力を感じているのだ。部下達はより一層強く感じているはずだ。
一体何者だ!
ニグンの焦りを無視するように、どこまでも冷徹な声をギタンが放つ。
「その冷徹な行為に後悔も罪悪感すら持たないか?お前達には改心など期待しない。お前達の信仰する神のもとへと送ってあげましょう」
再びギタンがゆっくりと両手を広げながら一歩踏み出す。抱擁を求めるようでもあったが、指は禍々しく曲げられ、襲いかかろうとする魔獣のように映った。
ぞわりとしたものがニグンの足元から頭頂まで駆け上がった。幾つもの死線の中で感じたことがあるこの感覚。それは死の予感だ。
「天使達を突撃させよ!近寄らせるな!」
指揮の回復を狙うものではない。単に怖かったのだ。迫ってくるギタンが。
ニグンの指令を受け、襲い掛かったのは二体の『炎の上位天使(アークエンジエル・フレイム)』。翼をはためかせながら、風を切り裂くように飛び掛かる。
ギタンの元まで一直線に辿り着くと、迷うこともなく手にしていた炎の剣を突き出した。後ろにいたストロノーフが前に出るだろう。そう予測していた全員が目を疑う。
ギタンは逆に前に出ようとしたストロノーフへ掌を突き出し止めたのだ。
次の瞬間、天使達はギタンの目前で大地に凄まじい速度で自分から突っ込んだのだ。そのまま天使が生命を失い、光り輝く無数の粒となって消えていく。当然天使が持っていた炎の剣も。
「何をしている!天使が自爆したではないか!」
「い、いえ、そんな命令してません!天使達が勝手に」
部下の戸惑ったような声に、ニグンは弾かれたように再びギタンに視線を送る。
「『脊髄の糸』で操れるのならLv.100以上の差があるということですかね?それに現実で使うとこういう感覚なのか。例えるなら手袋を嵌める感覚に近い。内側からその者の手を操る感覚。次は『随時反射』のスキルを試したいな。好きに攻撃させてみるか?しかし、召喚したモンスターは倒してしまうと肉体も武器も消えてしまうのか。これじゃあ『パーツ』に使用できない。ああ、残念残念」
何を言っているのか不明な独り言にニグンは苛立ちを覚える。
「全天使で攻撃を仕掛けろ!急げ!」
弾かれたように、全ての炎の上位天使がギタンに迫る。
「なら、次は剣技を試してみるか?」
天使達が襲い掛かる中、やけに冷静沈着な声がニグンの元まで届く。四方八方から飛び掛かる天使によって一分の隙間もない状況でありながら、焦りすら感じていないようだった。
無数の剣によって串刺しになる、そう思ったが、それより早くギタンの剣技が発動する。
「【ラングリス流双剣術】《昇り双竜》」
ギタンの両手には、光り輝く剣が握られていた。
構えた剣を地に擦らせながらギタンは天使に向かって走る。二本の線を地面に描きながら天使達に辿り着くと、垂直に跳んだ。その昇りざまに繰り出される剣閃。打ち上げられた天使の身体はバラバラに斬り刻まれていた。
天使が完全に消滅する前に、ギタンは天使の身体を足場にし空中で半回転する。
「続けて【ラングリス流双剣術】《下り飛鳥》」
昇り双竜で巻き上げられた天使に突き立つ双剣。激しい斬撃を繰り出しながらギタンは着地した。
距離が離れて《昇り双竜》と《下り飛鳥》の範囲外にいて難を逃れていた残りの天使前に着地したギタンは、双剣を十字に構えた。
「【ラングリス流双剣術】《二虎爪牙》」
上下左右から繰り出される四連撃により全ての天使が光りの粒となって消えていく。
「・・・あり、ありえない・・・」
誰かの呟きが風に乗って聞こえる。それほど信じられない光景が広がっていた。
総数四十体を超える天使。それらが全て、『一瞬』で殲滅されていた。
対抗魔法による召喚魔法解除ではない。光る剣閃に飲み込まれ天使が斬り刻まれていく姿はダメージによるもの。
ゾワリとニグンの全身が震える。脳裏を走ったのはガゼフ・ストロノーフの王国最強の戦士の姿。
ふざけるな!このジジィはストロノーフ以上の強さじゃないか!!!