少し話をさせてほしい。俺がこの世界に転生してから、剣の救助隊を始めるまでの話だ。
会社からの帰宅中、不注意からトラックに轢かれて……なんていうのはテンプレだからカットする。
俺は死んだ。転生した。神様的なのには会わなかった。
転生したな、と直感で理解して目を開けるとそこは知らない天井でした。それと知らない二人の男女。お父さんとお母さんである。
「ハナ。マキちゃんが起きたよ」
「あれ? 今日は起きたのに泣かないのね」
よかった、異世界言語とかじゃないらしい。普通に現代日本に転生したようだ。
「そろそろおちちの時間かな。マキちゃーん。ママのおちち飲みましょーねー」
なるほど、これが赤ん坊からスタート転生タイプの先人が経験した伝説の赤ちゃんプレイか。実際赤ちゃんだけど。
あ、結構おいしい。
赤ちゃんプレイ終了後、輪廻転生ってホントにあるんだなとか、両親は結構美男美女だなとか考えてたら気づく。
あれ、俺ってマキ『ちゃん』?
性の多様性が認められはじめた時代にこういったことに対して普通だとかいう言葉はあまり使いたくないが子供が男の子ならばくん呼びが一般的じゃないだろうか。
つまり?
俺って、今世は女の子なのね。
おお、なんてことだ。赤ちゃんプレイに加えてTS転生かよ。ふざけんな。
TSする系の小説は読んだことがある。好きだったし。だがしかし、そういったジャンルを読むたびに、見る分にはいいけど実際にはTSとかしたくねーなー、と思っていた。
くそ、まさか俺自身がそうなるとはと当時はひどく思った。
今? 今は女の子でよかったと思うよ。美少女ボディだから。可愛くなるのが楽しくして仕方ない。ゲームのアバターを可愛くするのにこだわる人っているだろう? そういう気分なんだろうなと自分で思う。
そういうことで、当時はずっと思っていた。神、恨むぞと。神様転生じゃなかったからいるかどうかわからんけど。
それからはしばらく何もなかった。幼稚園で同年代相手にお兄さん面したり、小学校で神童扱いされたりとか。自尊心が満たされて気持ちよかった覚えがある。
事が起こったのは中学2年生になってからである。
ふとニュースを眺めているとナーヴギアと呼ばれる機械により、一般家庭でもフルダイブと呼ばれる技術が利用可能になると言っていた。
ナーヴギア。
それはライトノベルに分類されるソードアート・オンラインという小説に登場する架空の電子機器。
そして、作中における最悪のデスゲームを実現した一因となる機器。
あ、ここSAOの世界なんだ、と気づいたのはその時である。
普通ならその時点でSAOには関わらないようにしようと考えるのであろうが、俺は逆だった。
やべえ。めっちゃ行きてえ。
SAOってMMORPGとしても面白そうだし、フルダイブのゲームとかめっちゃやってみたいし。
何より、原作死亡キャラをそのまま死なせるのって気分悪いし。
よく考えてみてほしい。
現実世界で学校に登校、もしくは学校から下校しているときに考えるんだ。
「ああ、今日はあのキャラの死亡日……こんな風に死んであんな風に物語を描いていくんだな……」って
ムリムリ、そんなこと考えながら日々を過ごしたくないよ俺。
まあ、実際は遊びたい10の助けたい0の10:0構成となっているのですが。
原作キャラ助けて感謝されるの絶対気持ちいいよ。ユナとエイジのところとか助けたら絶対気持ちいいしかっこいい。
そういうわけで自分の欲を満たすため両親にねだりナーヴギアを購入してもらった俺。神童パワーはすさまじい。大体のことは許してもらえる。
ベータテストは残念ながら受かることはなかったが無事に一万本の初期ロットの購入には成功した。
いざフルダイブ! 剣の世界にさあ行くぞ!
ロードの後のキャラクリエイトが完了し、再びロードが挟まれ目の前が真っ暗になる。
少しした後、視界が開けると、俺は初老の男性と目が合う。
「やあ、わしはオーキド。みんなからはポケモン博士と慕われておるよ」
ん?
んん?
うん。
うん?
高橋 真紀人生で二度目の驚愕である。あ、言い忘れていたが前世は男の中の漢。今世は美少女オブザイヤー大賞に輝くほどの美貌を持って生まれたこの俺の今世の名前はタカハシ マキと申します。以後お見知りおきを。
「は、はぁ。オーキド博士……あのオーキド・ユキナリさんですよね……?」
「ああ、そうじゃ。よく知っておるのぉ」
感心、感心と二度繰り返す。
「えっと、ポケモンって、あのボールの中に入るどこにでもいて草むらの中によくいるあのポケモンですか?」
「そうじゃよ」
俺は確信した。この世界は、そう。
ソードアート・オンラインとポケットモンスターのクロスオーバー世界だったんだよ!
ナ、ナンダッテー?!
茶番は置いておくとして、なぜ俺はこんな要素ごちゃまぜ世界に転生してるんだ。TSにSAOにポケモンに。一体どういうことなんだってばよ。転生したらポケモンがいた剣についてとか言ってラノベ書くぞおい。
「お嬢さん。他の人とは違って随分ポケモンについて知っておるようじゃの?」
え、NPCって話しかけてくることあるの? 高度過ぎるだろAIが。いや、STLとかフラクトライトとかの存在が明るみに出る前にユイみたいに感情を疑似的に再現してたけどさ。
「ええ、まあ、少しくらいは」
「それじゃあ、簡単な説明だけするぞ」
「おねがいします」
出来れば簡単じゃないほうがいいけど、まあいいか。
「お主がこれから行く世界、アインクラッドにはモンスターと呼ばれる怪物以外にも、人と共存する、お主の知っておるポケットモンスター、ちぢめてポケモンがいたるところに住んでいる」
アインクラッドに住んじゃったか。そっかぁ……。
「ポケモンはこういうモンスターボールで捕まえることができ、人はポケモンをモンスターと戦わせたり、ポケモン同士で戦わせたり、ペットとして一緒に生活したりして来たんじゃ」
「それで、ポケモンを捕まえてる人のことをポケモントレーナー、っていうんですよね」
「そうじゃ。ほんとによく知っておるのぉ」
「神童なんで」
そんな「??」みたいな顔で見てくんな。
「まあいい。説明することもなさそうじゃし、名前だけ聞いておこうかの」
ピコン! とシステムウィンドウが発生する。
プレイヤーネーム決めか。そういえばSAOって一応ネトゲだったな。忘れてた。
まあ、主人公が黒色だし、白でいいだろ。
『Shiro』と入力して決定を押した瞬間に、白枠ってアスナじゃん、と思い出したが時すでに遅し。匙は投げられた。
まあ、色で被ってもいいだろ。作中でも白の剣士とかじゃなくて閃光だったし許されるはず。
「ふむ、えすえいち……シロか。いい名前じゃの」
「よく言われます」
「お主、自己肯定感高めじゃな」
「神童なんで」
そんな「????」みたいな顔で見てくんな。
「そんでおじいちゃん。最初のポケモンとかもらえないわけ?」
「そんなことまで知っておるのか……」
「神童なんで」
「それはもういい……知っとるなら話は早い」
そう言って、オーキド博士は白衣のポケットからモンスターボールを一つ取り出す。
「この中にはお主に渡すポケモンが一匹入っておる」
「え? 俺が選ぶ感じじゃないの?」
「うむ。既にお主に最適なポケモンが選ばれておる」
ポケモンとのクロスオーバーなら御三家*1選ぶドキドキは残しとけや!
「そうなんすか。じゃあありがたく頂くっす」
「うむ。大切に育てるんじゃぞ」
口に拳を当て、おほんとせき込むオーキド博士。
「シロ、これから君の行く世界には楽しいこと、嬉しいことがあるだろう。しかし、同じように苦しいこと、悲しいこともあるはずじゃ」
「お主はこれから、それらを乗り越えて旅をしていかなければならない」
「頑張るんじゃぞ。シロ」
ただのNPCのはずのオーキド博士の激励。
別に、心が揺さぶられたわけじゃないけど、これほんとにただのNPCか? とは思った。まあ、アンサーは必要か。
「任せといてよ。オーキド博士」
「俺は、苦難を乗り越えようとする人たちの手助けをするためにこの世界に来たんだ」
答えると、オーキド博士はにっこり笑った。
「そうか……ならば、一つ助言を授けよう」
「人が彼らの傍にいようとする限り、彼らも傍にいようとしてくれる」
「ポケモンを、大切にな」
と、いうのが俺がソードアート・オンラインにダイブしたときの話だ。
俺はその後始まりの街へと転移したのだが、既に茅場による大演説が終わっていた。おい、俺のためにもっかい聞かせろ。録音してたやつはいねえのか。
今考えると驚きなのだが、当時の俺はそれから具体的にどうするかを一切考えていなかった。
周りを見渡すと最初に配られたのであろうポケモンがたくさん出されていたので俺もそれに従おうとモンスターボールをインベントリから取り出し出現させた。
ボールを開けると、そこからは青色で、首のあたりに白いわたわたがついているポケモン、ケロマツが出てきた。
最終進化系はゲッコウガ。ポケモン原作の対戦環境で大活躍していたそれに進化するポケモンである。
俺もポケモンはそこそこやりこんでいたので対戦環境で死ぬほどゲッコウガの顔をみた。苦しめられたし、俺が苦しめたこともある。
今はまだかわいいんだが、かわいいんだがな。
なんか、その。にらみつけてないか。このケロマツ。
アニメのサトシのピカチュウみたいなそういう系か? 人に慣れてないみたいな。
「ケロマツ、出しといて悪いけどここ少し離れるぞ」
まあ従ってやるかみたいな感じでけろ、と鳴く。
おい、オーキド。これが俺に一番最適なポケモンだと?
少し歩き、路地裏まで行く。ケロマツもついてきてくれているみたいだ。
「ケロマツ、多分だけどお前俺のこと、というか人が嫌いだろ」
けろと鳴く。肯定か。
「でも、状況的に今は俺に従っておいた方がいいなと判断して俺についてきたって感じか?」
けろと鳴く。肯定か。
トレーナーっつーのはこーゆーコミュニケーションをずっとやってんのかね。大変だな
「んー……お前は手持ちから逃げたいか?」
けろと鳴く。肯定か……。
「……分かった。お前が嫌なら逃げてもらって構わん。無理に従わせるのは理想の関係じゃないし」
メニューを開き、ケロマツを逃がすようにメニューを操作する。
「なんだよ、そんな顔して」
え? ほんとにいいの? という顔をしたケロマツ。
「いいんだよ。ほんとに」
あ、でもここで逃がしたらこいつの本来の住処じゃないから生きるのが大変になるか?
まあ、それだったら連れて行ったほうがいいんだけど……。どうだろうか。
いや、なんかうれしそうだわ。多分大丈夫だろうな。
そうして、俺はケロマツを逃がした。
乱雑だった