諦め猫熊はかく語りき 作:幽
「・・・・久しぶりだな、カティ・フラム。いや、今はフランキーか。ニコ・ロビン、お前とは、初対面か。」
鎖を巻き付けられ、フランキーはニコ・ロビンと共にエニエスロビーにまで連れてこられた。そうして、等々、スパンダムの元まで連れてこられた。
フランキーは、遠いいつかに見たそれは、昔と変わらない、高くもなく、低くもない、そんな不思議な声音で語りかけてきた。
先に入室していたCP9のメンバーは部屋のソファに座っていた。静まりかえった部屋の中は、スパンダムの声と、そうしてひげを生やした男にじゃれつくメランの声だけが響いていた。
スパンダムは己の机らしいそれに軽く腰掛けるようにもたれかかり、フランキーとロビンを見ていた。そうして、それに侍るようにロブ・ルッチも机に腰掛けるようにもたれかかっていた。
スパンダムはそれに少しだけ沈黙した。
それが自分たちからの返答を待ってとのことだと察したが、フランキーは返答する気にもならずに黙り込んだ。ロビンもまた、そうだった。
それにスパンダムは軽く息を吐いた。
「八年と、十数年か。愚かなことをしたな。」
愚かなことを、その言葉の意味がわからずにフランキーはスパンダムに向けて視線を投げた。
凪いだ、紫の瞳がじっと自分を見ていた。なんのためらいもなかった。そこには特別な感情は、高揚も、さりとて蔑みも存在しなかった。
ただ、フランキーの内をのぞき込むような眼をしていた。
「・・・・フランキー。わかっているだろう。お前はわざわざウォーターセブンなんて古巣に執着せずに適当などこかで生きていればこんなことにならなかったことぐらい。」
それはフランキーにとって図星であった。
自分の内に抱える爆弾、古代兵器の設計図。逃げ続ければよかったのだ。そうすれば、こんなことにはならなかった。
「今日、お前たちがここにいることの結果が世界の人間に知れるのはおそらくずっと先だろう。多くの犠牲、多くの代価。それによって何がもたらされるのか、お前にはわかっているはずなのにな。お前の師匠が哀れだ。」
あそこまでして庇った師匠は無駄死にだ。
その言葉にフランキーの目が見開かれた。
ああ、ああ、ああ!
貴様が、お前が、それを言うのか!
怒り狂ったフランキーはそのままスパンダムに向かって飛びかかろうと足に力を入れた。
それよりも先に黒い、小さな影がフランキーに飛びかかる。
ダン!
何かが地面にたたきつけれる音がした。それと同時に、フランキーは何かが己に巻き付けられた鎖を引っ張り、締め付けられていることを理解した。
そうして、ふかふかとした毛並みのいい何かが首に巻き付き、そうして、締め上げられていることも。
みしりと、己の体や、首から骨の軋む音がした。
「無礼だぞ。」
それはまるで鈴を鳴らすかのような、幼い少女の声だった。けれど、自分の背中に乗った、何かから生存本能を揺すぶるような威圧感がのしかかってくる。
「メラン、止めなさい。それと、お前らもだ。」
それにフランキーはようやく、いつの間にか自分の周りにCP9のメンバーが立っていることに気づいた。獲物をなぶるように、それこそ、許可さえ在れば今すぐにでも自分に飛びかかるしつけの行き届いた獣のように。
「あ、ちょぉぉぉかん!止めないでおくんなせえ!」
「ダメに決まってるだろ。席に戻れ。」
すげなくそう言われ、皆が皆、不満そうな顔をしてそのまま席に戻った。そうして、スパンダムは手を差し出した。
「メラン、お前もだ。」
「でも、あるじー・・・・」
「おいで、抱っこしてやる。」
「え!」
嬉しげな声を出した後、メランはたんとフランキーの上から飛び降りてスパンダムの胸に飛び込んだ。
ごろごろと喉を鳴らしたまま、ふりふりの愛らしい衣装を纏った獣をスパンダムは抱きしめる。
「昔から、まったく変わっていないんだな、お前は。それに比べて、お前の兄弟子の手腕は見事だった。」
「どういう、意味だ?」
「・・・アイスバーグは己の憎しみも、恨みも全て飲み込み、ウォーターセブンの造船会社をまとめ上げ、政府に近づき、下手に手を出せない地位まで駆け上がった。お前も何故だと思ったはずだろう。憎い政府に媚びを売ったと。」
図星を指されてフランキーは言葉を飲み込んだ。自分が彼を責めたことを思い出したのだ。スパンダムはごろごろと鳴るメランの喉を撫でながらぼんやりとした眼でそれを見ていた。
「彼はどこまでも理知的だ。最短で、且つ、絶対的な効力を持った対抗策を用意した。俺たちも下手な手出しは出来なかった。だが、それでよかったはずだ。それで、そうして、そのまま、お前たちが逃げ続けてさえくれれば。」
最後の言葉にフランキーは違和感を持った。それではまるで、スパンダムというそれが古代兵器の設計図や知識を望んでいないようではないかと。
「ニコ・ロビン、お前もだ。」
自分にかけられた言葉に、ロビンはそれのことを見た。彼はロビンのことを見ることもなく、腕の中のメランに目を向けていた。
「大将、青キジからの報が政府に入った。それでこっちの仕事はだいぶ多くなった。設計図、そうして、ポーネグリフの知識を持ったお前の存在に、上は相当沸き立ってるぞ。バスターコールなんてものまで押しつけられた。」
「何故、バスターコールの許可が、あなたに?」
それにスパンダムは肩を少しだけふるわせ、ロビンを見た。スパンダムはまるで悩むようにちらりと床に視線を投げた。
「・・・俺があの人の気持ちなんてものを理解するわけないだろう。」
はあとため息を吐いたスパンダムの様子にフランキーは床に這いつくばったまま言った。
「てめえは・・・・」
それにスパンダムはまた、フランキーを見た。宵闇の中に見いだす、昼の名残のような眼だった。
「てめえが、設計図を望んだんだろうが。」
それにスパンダムは肩をふるわせ、自嘲するように笑った。その瞬間、黒い大猫はスパンダムの腕から飛び降り、その足にすり寄った。
スパンダムの乾いた、笑い声が少しだけ聞こえた。笑い終えた後、スパンダムは肩をすくめた。
「勘違いしてるだろ。俺たちはあくまで手足だ。上には上がいて、そこには五つの星がいる。俺たちは望む物を手に入れるだけの話だ。」
「それで、あそこまでのことをしたのか!?住民だって死んだんだぞ!?それを、お前、命令だからあそこまでしたっいうのかよ!?」
フランキーは、それに絶望した。
いっそのこと、あの、己の船を使った強行がスパンダムの野心だとか、そういったものであって欲しかった。
命令だから、その、温度のない言葉によってあれがなされたというのだろうか。
良い腕だ。
そういった男の優しい顔を覚えている。
あの顔は嘘だったのだろうか。あの、あの、優しい顔は全てが偽りだったのだろうか。
それは、それは、ひどく嫌だなあと。まるで、幼い子どものようにフランキーはどこかで思っていたのだ。
あの、たわいもない会話が、どうか偽りだけであって欲しくなかったから。
だから、思っていた。
どうか、どうか、欠片ぐらい、本当があって欲しいと、そう。
疑問に満ちたそれに、スパンダムは口を開いた。
「フランキー以外は全員退出しろ。」
それに部屋の人間が動揺するように立ち上がった。
「長官!」
「さすがにそれは認められんぞ!」
「ダメに決まってるだろうが!」
椅子から立ち上がり、カクたちはスパンダムに止めるようにと言った。それにスパンダムは変わることなく淡々と言い切った。
「全員、退出と俺は言ったが?」
揺るぐことのない言葉になおも、CP9の面々は口を開くが、それよりも先に居間まで黙っていたルッチがスパンダムの胸ぐらを掴んだ。
「どういうつもりですか?」
ぎちりと締め上げられたせいか、スパンダムの喉から掠れた声がした。それと同時に、ひやりとした、殺気のようなものもそれから溢れてくる。
「これは犯罪者であり、凶暴性も見受けられます。そんな人間と二人きりになるなどと。あなたの危機管理はどうなっているのですか?」
締め上げられたスパンダムの様子に、周りも止めようと動き出すが、その前にスパンダムはルッチのネクタイを思いっきり掴んだ。
思わぬ抵抗のせいか、ルッチはそのままスパンダムの方に顔を寄せる。
「ロブ・ルッチ、こう言えばいいのか?命令だ、退出しろ。」
冴え冴えとした冷たい声音には、ルッチは手を離した。まるで幼い子どものように稚い表情をした。まるで、そんな風に扱われるなんて予想していなかったかのように。
「・・・出ろ。すぐに終る。」
「長官。」
短い言葉にスパンダムは顔を上げた。ルッチは、変わらない鉄仮面のまま口を開いた。
「・・・あなたは、あの約束を覚えていますか。」
腹の底が寒くなるような冷たい声だった。
約束、フランキーが疑問に思っていると、スパンダムは顔を歪めて頷いた。
「わかっている。さっさといけ。」
それにルッチは無言できびすを返した。他のCP9はスパンダムの命令に加え、ルッチの様子にそのまま部屋を出て行く。
ロビンも連れて行かれ、二人きりになった部屋の中、スパンダムは近くのソファに座った。そうして、ため息を吐いて顔を覆った。
「・・・・下手な物を、拾うものではなかった。」
そう言った後、這いつくばるフランキーを見た。
「・・・お前も寝転がってないで座ったらどうだ。何か、飲み物でもいるか?」
「誰のせいでこうなってると思ってんだ!?」
「この状態で地位の高い俺に突っかかってくるお前が悪いだろう。」
フランキーはそれに渋々起き上がり、座り込んだ。以前と同じように、殴るなり、噛みつくなり、すればよかったのだろうか。けれど、そんな気も失せてしまっていた。
それから、やっぱり、悪意も何も感じなかった。ただ、あったのは諦観。
静かな瞳を見ていると、例え、何をぶつけても無意味であることが理解できた。
皮肉を持って、フランキーはコーラとでも答えようかと思っていたが、それよりも先に言葉を重ねた。
「・・・ちなみに、紅茶とコーヒーとリンゴジュースしかねえがな。」
なんだか心を見透かされたかのような心地でフランキーはスパンダムを睨んだ。スパンダムはそのまま覚悟を持ったかのように立ち上がり、そうして、フランキーの前に屈み込んだ。
思わぬそれにフランキーは戦くように動きを止めた。スパンダムは己の懐から、くたびれた印象を受ける、手紙を取り出した。宛先だとかも書かれていない、真っ白な、シンプルなそれ。
スパンダムはそれを、フランキーのアロハシャツのポケットに突っ込んだ。
「な、なんだよ、これ!?」
「お前への用だ。これは、正直、誰にも見せたくなかったんでな。」
スパンダムは立ち上がり、そうして、吐き捨てた。
「・・・フランキー。人にとって、もっとも不要な感情はなんだと思う?」
「唐突に何だ。」
「それは、人々が称える、愛だとか情だとかに当てはまる。」
それは彼の立場からすれば、あまりにも似合っている台詞だった。けれど、スパンダムという人間にはあまりにも不釣り合いなものであるようにしか思えなかった。
「その、愛や情によってお前はウォーターセブンに止まり、政府の手に落ちた。お前の師匠が考える最悪の結末にいたろうとしている。そうして、ニコ・ロビンもまたそうだ。
散々に捨て去り、散々に裏切り、己の生命維持だけに目を向けていた。己の母、己の恩師たちの悲願。その生の上に生きている自覚をしながら、あの子は結局、その仲間への愛と情に陥落した。」
取るに足らない個人の行いによって、世界が滅ぶとしたら。
スパンダムは心底、愉快そうに笑った。
「それも、この世界にはお似合いかもな。」
「スパンダム、あんた、わかってるんだろうが!古代兵器なんてものが政府の手に渡ればどうなるか!なら、どうして見逃さなかったんだ?」
「俺は政府の人間だ。この世界には救われないものがある。だが、それでも、救われているものも存在する。俺はこの世界の恩赦を受けてきた側であり、そうして、その不幸を仕方が無いと受け入れた。今更、間違っていると抵抗するようなことはせん。」
いつかに、己の行いと問うたとき、俺は法に跪くことを決めている。だから、止めない。この世界の王である、政府と、そうして五つの星が決めたことに俺はあらがわない。
揺るぐことのない言葉だった。それは決まり切ったことを語っていた。
フランキーはそれに、顔を上げて叫んだ。
「スパンダム、てめえはいったい、何を考えてやがる!」
だんと立ち上がり、スパンダムに近寄ったが、彼はそれに逃げることもなく真っ向からフランキーを見た。
「あの日、あの日だ!どうして、俺に忠告した!船のことを使う気だったてんなら、馬鹿なガキに言葉の一つもいらなかったはずだ!なら、なんで俺に言葉をかけた!てめえの真実はどこにある!」
今更知ったとして、それはきっと、悉く無意味で。それでも知らなければとフランキーは思った。
それは決着だ。自分の知らないところで、自分の大事な何かが動いている。
知らなければ、知って、自分は決めないといけない。
目の前の、その男を憎むことを。
それにスパンダムはフランキーは見返した後、口を開いた。
「フランキー。俺は言ったな。物や人の責は、作り出したものが被るのだと。だからこそ、俺は政府に従う。俺はあの日、哀れみも、悲しみも抱いても、何も救いはしなかった。なら、俺は政府を肯定する義務がある。なら、お前も証明してみろ。存在することが罪にはならず、そうして、存在し続ける権利があることを。」
スパンダムはそれに満足したのか、廊下に待機していた部下を呼んだ。フランキーはそのまま引きずられていく。
「おい!スパンダム!お前は一体何が言いたいんだ!」
「・・・・フランキー、筋書き通りの正解を選ぶんだ。」
彼はそう言ってフランキーのことを見送った。
フランキーが連れて行かれ、そうして、ニコ・ロビンもまた同じように鎖に繋がれた。スパンダムは疲れたような顔をして、また机にもたれかかる。
入れ違いで入ってきたCP9のことなど眼中にないように思い悩んでいる。そこには不満そうなメランが飛びついた。
それにああとスパンダムは自分の腰に抱きついたメランの頭を撫でた。
「あるじー、何話したの?」
「少し、取引がな。」
「なら、俺たちの前ですれば良いのでは?」
同じように不機嫌そうなルッチのそれにスパンダムは不機嫌そうに顔をしかめた。
「お前たちにも言えねえことがあるってわかってるだろう。」
「ですが、二人きりになるなど言語道断では?メランは側に置いておくべきでしょう?」
「なにかあれば対処できる程度の腕はある。」
「それが軽率だと言っているんです。」
(・・・・ねちねちしとる。)
(今日は喋るわねえ。)
(圧がすごいな。)
三者三様にそれの様を見つめていた。各々としてはルッチの言うことも理解できるが、彼ら自身、スパンダムの状況判断については信用しているし、もう、すでに終ってしまったことだ。
そのため、あくまで静観の体を取っていた。
「・・・・あなたは、やけにフランキーを気にしておられますね。」
心の底から不機嫌そうな声を出したルッチに対して、スパンダムはああと頷いた。
「そりゃあな。」
ルッチの眉間に皺が寄るのを皆、見逃さなかった。それに対してスパンダムは軽く頭を振った。
「ともかくだ。護送船の準備が出来るまで、自室に待機してろ。メランも、ルッチの部屋にいなさい。」
「やだ!」
「俺も、ここにいますからね。」
「・・・・お前らはもういい。それよりもだ。カク、カリファ、来なさい。」
呼ばれた二人は不思議そうにそれに近寄った。スパンダムは机の裏から、大きめの箱を取り出した。そうして、その中には、独特な模様の入った果物が二つ、入っていた。
「「「あ、悪魔の実!?」」」
ジャブラとクマノミ、そうしてメランが声を上げた。
「わあ、主、どうしたの、それ!」
「伝手でな。今回、長い任務を任せた礼に、カリファとカクに用意したんだ。つっても、能力が何かは伝わっていないものだったが。」
スパンダムは近づいてきた二人に箱を差し出した。二人がそれを取ろうとすると、何故か、スパンダムは強ばった顔でそれを見つめた。
カクはバナナの形をした物を、カリファはメロンに似た形の方を取った。それにスパンダムはほっとした顔をした。
「長官、どうしたんじゃ?」
「・・・いいや、まあな。」
本当を言えば能力を知っているスパンダムからすると、否定するわけではないが、キリンになるカリファや、石けん人間になったカクというものが想像できていなかったのだ。
「お、おい!それを俺に近づけんなよ!」
「どうしたの、ジャブラ。」
「あのな、メラン!悪魔の実の能力者は、体に悪魔を飼ってんだよ。だから、能力者が悪魔の実に近づく、中の悪魔と喧嘩して体が爆発するんだ。」
その言葉にメランは目を丸くしてがたがたと震え始めた。
「えーん!主!」
メランは半泣きでスパンダムの足に抱きついた。
「・・・安心しなさい。体が爆発するのは悪魔の実を二個、食べた奴だけだ。」
「そうなの?」
「学者たちがすでに証明している。ジャブラの言った話は俗説だ。」
「な、なんだ、そうなのか。」
ジャブラは気恥ずかしそうにそう言った。けれど、恐ろしいものは恐ろしいのか、わざわざ扉の前まで下がって悪魔の実を見つめた。
「まあ、カナヅチになるリスクを考えて食べる、食べないはお前の自由だ。とんでもねえ能力もあるしな。」
「・・・そうは言っても、能力なんぞ使い方次第でしょう。十中八九、弱くはならないだろう。食べればいい。面白いぞ。」
「ルッチ、煽るようなことを言うな。」
「ふむ、にしても、不思議な引力を感じるが。」
「やめとけ!まっずいぞ!くそみてえな味がするぞ。」
「そう言えば、ものすごくまずいんですってね、これ。」
「メランはどんな味か覚えとるか?」
カクの言葉にメランは首を傾げた。
「?私、生まれたときから力が使えたよ。」
「・・・お前さん、本当にどんな人生送っとるんじゃ。」
呆れたようにそう言った後、カクは改めてカリファの方を見た。それにカリファも軽く頷いた。カクとカリファは無言でそれを眺めた後、ためらいもなく、その実に囓った。
「何はともあれ、面白そうじゃ。」
「ええ、当たりなら大歓迎よ。」
「うおおおお!いきやがった、あいつら!」
ジャブラが叫ぶと同時に、二人は思わず吐き出しそうになるのをこらえて、実を飲み込んだ。
「まっず!」
叫んだそれに、メランはカクに近寄った。
「カク!カク!ねえ、どう?どう?どう!!炎とかで出る!?光ったり、凍ったりする!?」
「・・・自然系か、動物系なら当たりですかね?」
「超人系はピンキリだからなあ。大将たちのように使い勝手のいいものは当たりだが。まあ、お前の言うとおり使い方じゃある。」
ため息を吐いていたとき、唐突に、唐突に、だ。
カクが巨大化した。
「わあああああああ!?」
メランの叫び声が部屋に響いた。ルッチはスパンダムを抱え上げて、それから距離を取る。
そうして、そこには、やたらと四角いデフォルメされたキリンが1匹。
「ぎゃはははははははははははははははははははははは!!」
「・・・・動物系の、キリン、かしら?」
隣にいたカリファの言葉に、距離を取っていたCP9のメンバーが近づいてくる。ジャブラは扉の前で爆笑していた。
そうして、肝心のカクはというと、固まっていた。
だってキリンだ。
いや、キリンが悪いわけではない。シンプルな能力の動物系なら当たりの方だろう。けれど、キリンだ。
カクは思わず、同じ動物系のルッチと、笑い転げているジャブラを見た。
豹と、狼。自分は、キリン。
いや、そういった見てくれだとかを気にするような性質ではない。けれど、諜報員の自分が草食動物のこれというのはいささか似合わないのではないだろうか。
何よりも、大笑いしているジャブラが大変腹立たしい。
「・・・・ウシウシの実、モデル麒麟だな。」
スパンダムは天井が高くてよかったなあとぼんやりと思う。
「お、お前、ずいぶん可愛いじゃねえか!」
「な!いいじゃろうが!キリン!」
「くっ、でもよお、おま、ほんと!」
耐えきれなくなったジャブラはまたけたたましく笑い出す。そうして、キリンになったカクを見上げるメランに目が行った。
「メラン、お前はどう思う!?」
それにカクはギリギリと歯をかみしめた。メランの性格からして、ジャブラに同意することは目に見えていた。
が、メランは目を輝かせて叫んだ。
「かっくいいいいいい!!」
「は?」
「でっかあああい!かっこいい!!」
「・・・まあ、外見よりもでかさだよな。目立つのは。」
そんなことを言ってスパンダムと、その後にルッチが続く。スパンダムはちょいちょいと手招きをした。
それにカクは顔を近づける。
「・・・肉食動物にくらべりゃ、牙とか爪は発達してねえが。がたいのでかさとウェイト、堅い蹄は使えるだろう。当たりを引いたな。」
「ジャブラみたいに笑ってもええんじゃぞ?」
ふてくされたかのようにカクは言った。どうも、ジャブラの発言が気になってしまったのだ。それにスパンダムは呆れた顔をした。
「あほか、草食動物といえど、肉食動物をけり殺すような奴もいるんだぞ。どうせ、等しく獣だろう。カク、道具の形はどうでもいい。ただ、お前は使いこなせるかどうかだ。ジャブラもあまり笑うな。大人げねえ。」
スパンダムの呆れた声にジャブラは気まずそうに顔を背けた。それにカクは、やっぱり嬉しく思う。
そうして、ともかく戻れと言われ、人間の姿に戻った。カクはそのままスパンダムに抱きつき、鉄仮面に覆われていない、露出した頬にすり寄った。
「やーっぱり、長官はジャブラと違ってわかっとるのお!そうじゃ、大事なのは使い方じゃ!」
「さっきまでてめえだって不服そうだったろうが!」
「はあ、ジャブラはやっぱし、わかっとらんかったんじゃ。」
そうだ、カクはそれのそういった所が好ましかった。何者でも無く、カクという己自信を是とするそのあり方が好ましかった。
ジャブラと嬉々として口げんかをしていたカクの肩をカリファが叩いた。それにカクはスパンダムの背後から、そうして、己の向かいからする湿った視線に気づいた。思わず固まったカクにならい、ジャブラもそっとそれから視線をそらす。
カクの表情を可笑しく思ったのか、スパンダムは振り返った。
そこには、じっとりとした視線で自分を至近距離から見つめるルッチがいた。思わず悲鳴が漏れそうになったが、なんとかそれをスパンダムは飲み込んだ。
「お、おま!どうした!」
「・・・・長官はキリンと豹、そして、狼、どれが好きなんですか?」
「いや、なんだよ、そのピンポイントな選択肢。」
「大変楽しそうでしたので、お聞きしたいんです。なんですか、キリンの方が好きだとでも言うんですか?」
もう少し、諸諸を隠せよと言いたかったが、カクとしてはこれ以上にルッチに絡まれたくないと、そっとスパンダムから距離を置いた。
カクとジャブラは今までの言い合いなど忘れて、そっと天に祈る。どうか、とばっちりがこっちに来ませんようにと。
もう、キリンとか狼とかどうでもいい。この豹の機嫌が直りますように。
二人は敬虔な信者のごとく祈った。
ジャブラは基本的にルッチに負けることは嫌だったが、あの、湿った視線を向けられるよりはましだと思った。
「いや、猫派だから、豹、か、な?」
疑問符が多く着いた答えに、カクとジャブラは己の内で神に感謝した。それにルッチはにっこりと珍しく、ジャブラがサブイボをたてたが、微笑んで先ほどのカクのようにスパンダムに頬ずりをする。
「ええ、長官はよくわかっておいでです。あなたの一番の獣は豹です。それはわかっておいでなのですね。」
ごろごろと喉の音を立てる豹の肩で、鳩がくるっぽーと鳴いた。