諦め猫熊はかく語りき   作:幽 

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フランキーの最後になります。あと、ロビンとルッチとスパンダム視点になります。

感想、評価いただけますと嬉しいです。


愚かな改造人間に赦されることはないでしょう 4

「・・・泡。」

「泡ですね。」

 

スパンダムはじっとカリファの手を見た。その場にいた人間は少しだけ困った。

これは、使えるのか?

カクほど笑えるほどのものではないが、わかりやすい使いやすさを感じない。

 

「泡じゃな。」

「あ~、清っ潔なことはあ、大事だぜえ?」

 

皆が口々にそう言っているとスパンダムは何を思ったのか、その手に付いた泡をいじくる。

ねちゃりと、水音が辺りに響いた。

それにCP9の面々の動きが止まった。それは、妙な気まずさだ。もちろん、普段の彼らならば欠片だって気にしないような、些細なそれ。

スパンダムは気にしたふうもなく、ぐちゃりやらねちゃりと、カリファの手と自分の手の間で泡をいじくり回す。

だんだんとカリファの耳が朱に染まっていく。ただ、泡をこねくり回しているだけ。だが、非常に気まずい。

なんというか家族団らんの場でベッドシーンでも流れ出したかのような気まずさ。

 

(・・・誰かとめんか!)

(いいのか、これは?)

(カリファの奴、耳まで赤くなるなんて事あるんだな。)

 

三者三様に物珍しさでそんなことを考えている。メランはカリファから貰ったらしい泡で遊んでおり、特別気にしない。

 

「つるつるー!」

「汚れ、それこそ摩擦もなくなるようだな・・・・」

 

ピカピカになった指先を眺めてぶつぶつと呟くスパンダムの脇にロブ・ルッチの手が差し込まれる。

 

「うおっい!?」

 

驚いた声を上げたスパンダムのことなど気にせずにルッチはカリファからそれを遠ざけた。そうして、それにカリファが顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「セクハラです!!」

「なにがだ?」

 

スパンダムは不思議そうな顔でカリファを見た。それに追従するようにルッチが眉間に皺を寄せながら口を開いた。

 

「セクハラです。」

「お前の口からセクハラって単語を聞きたくなかったな・・・・」

「にしても、この実も使えるのか?キリンよりましかもしれないが。」

 

それにカクがジャブラを睨んだ。

 

「ジャブラ。」

 

スパンダムが一言名を呼ぶと、ジャブラはあーあという顔ですねるように視線をそらした。スパンダムはともかくというように動揺しているのか、その場をうろうろとするカリファを見た。

 

「カリファ。」

「な、なんでしょうか?」

 

動揺しているのか眼鏡をやたらとくいくいといじっている。それにスパンダムはどうしたのだと不思議に思った。

 

「カリファ、まあ、確かにとがっちゃいるが。能力が使い方次第だってわかるだろう?」

「はい。」

「なら、使い方を構築しなさい。お前は、昔から賢しい子だったからな。」

 

そう言って、スパンダムは少しだけ思い出すように視線を床に滑らせた。ゆるゆると緩んだまつげが震えていた。それをカリファはじっと見た。

それにカリファは己の中にある動揺を押し殺した。そうして、姿勢を正す。

 

「はい、わかっています。」

 

それにスパンダムは緩やかに微笑んだ。それはその、昔からの少女への信頼の証だ。

だから、大丈夫だと微笑んだ。自分の後ろからするじっとりとした視線からそっと意識をそらした。

その時、じりりりりとスパンダムの机の上にいた電伝虫がなり出した。それにスパンダムは顔を強ばらせた。

スパンダムは無言でそれに近づいていく。

 

「おーい、メラン。そろそろ泡を落とせよ。」

「すごいの、あいつ。泡で滑ってトリプルアクセル決め取るぞ。」

「誰かバケツもってこい。」

「あのはしゃぎっぷりからして水をかけないとだめね。」

 

そんな会話を横目に、ルッチはスパンダムの方を見ていた。それは受話器を取った。

 

「・・・なんだ?」

「長官!報告です!き、緊急事態です!」

「どうした?」

「現在、エニエスロビーに侵入者あり!報告に寄れば、麦わらと、判断されます!!」

 

電伝虫のそれに部屋の人間は黙り込んだ。メランもじっと、感情などそぎ落とされた眼でスパンダムを見ていた。

 

「げ、現在、麦わらが暴れており、そうして、う、わああああああ!?」

 

がちゃりと、電伝虫がきれた。それにスパンダムは小さくため息を吐いた。

 

「・・・しょせんは時間稼ぎだな。」

 

ぼそりと、誰にも聞こえない程度の声量でスパンダムは言った。スパンダムはゆっくりとCP9に振り向いた。

 

「お前ら、突然だが、仕事だ。」

 

 

 

何かがあったのがフランキーにも理解が出来た。

彼らが繋がれている一室にさえも、廊下の喧噪は察せられた。彼らは、おそらく客室のような意味合いの部屋にいた。そこは、簡素なものであったが椅子などが置かれており、フランキーとロビンはそこに座らせられていた。

見張りのためにか、メイド服を着た女が端に立っていた。目を閉じて、その場に立つそれはまるで人形のようだった。

丁寧な扱いだった。それこそ、大罪人である自分たちにはあまりにも過ぎたものだった。

 

「・・・おい。」

 

ニコ・ロビンは黙ったまま床を見つめている。

 

「おい、本当なのか!?」

「ああ!CP9の皆さんが出たそうだぞ!?」

「あー!もう!ルッチさんはしゃぐぞ!」

「海賊の捕縛と、あと、長官の命令ではしゃいだルッチさんの後片付けの準備を!」

 

何か、若干気になる台詞があるが、それよりも海賊という単語にフランキーは全てを察した。

 

「・・・・来たぞ、あいつらは。」

 

それにロビンは何も言わなかった。フランキーはすでにロビンが麦わら海賊団を逃がすために政府とした密約のことは知っていた。

 

「あの様子じゃ、お前が政府とした協定は果されねえぞ。」

 

憎々しげにそう言ったが、ロビンは黙ったままだった。それにフランキーは歯がみした。

フランキーの中では、今でも頭の中を疑問がぐるぐると巡っていた。

 

スパンダムの言葉の意味は何だ?

筋書き通りの正解?

 

フランキーは己の懐に入れられた手紙が気になった。ただ、繋がれている今はそれを読むことも出来ない。

責?

ああ、そうだ。あの日、悲劇を作り出した自分は、あの船達を作り出した自分は、責を取らなくてはいけない。

大好きだった、トムさん。取り返したかった、そのために自分は無理だとわかっても、あの列車に挑んだのだ。

(麦わらたちは、来たのか。)

ああ、愚かだろう。だって、世界政府に挑むなんてそれこそ愚かの極みだ。それでも、ああ、フランキーは顔を上げた。

自分が今、何をすべきなのかはわかった。

「・・・・あいつらはお前を助けに来た。いくら、お前が逃げ回っても、追いかけてくることはわかってるだろう。」

ロビンは何も言わない。

「ニコ・ロビン。存在することは罪にはならねえ。」

ぽつりと、フランキーは言った。海列車で、彼女に言った言葉をフランキーは口にした。

「だから、お前に罪はねえんだ。」

「違う・・・・!」

静まりかえった部屋の中、ロビンが言葉を漏らした。

「今、私は、少なくとも、彼らのことを傷つけてる!」

幼い子供のような言葉だった。フランキーは、初めて聞く女の、それこそ少女のような声音に驚いた。そうして、いいやと首を振る。

きっと、それが、この女の本性なのだろう。

誰も助けてはくれず、裏の世界を独りで生きた、寂しい寂しい、女の言葉。

フランキーはそれが本当に大人なのかも怪しい気がした。どこか、子供の己の残したまま、大人になってしまったような、そんな歪さ。

 

「・・・・決めたぞ。」

「何を?」

「お前を麦わらに会わせる。」

「そんなこと!」

「いや、決めた。」

 

その時、外から声がした。騒がしい声だ。それはフランキーには聞き覚えがあった。麦わらを被った、あの少年。

フランキーの口元には無意識のうちに笑みが浮かんでいた。

ああ、来たのか。

愚かな話だ。

それは、世界への反抗だ。それは、世界への反逆だ。それは、世界を敵に回すことだ。

いつか、フランキーが願ったこと。

自分はそれを叶えることは出来なかったけれど。

だから、その時、フランキーは誓ったのだ。その愚かさに、無謀さに、自分がいつかした願いのために、全てを賭けても構わないと。

 

 

 

風来砲によって鎖から抜け出し、丁度、ルフィのいるほうのバルコニーまで飛んだとき、ロビンは自分を助けに来たモンキー・D・ルフィに死にたいと叫んだ。

フランキーはロビンに呆れた。

死にたいだと?

そんなことはあるはずない。ならば、どうしてお前はわざわざ交換条件なんてつけた。違うだろう、死にたいならばどこぞで自殺でもすればいい。

違うだろ、そうじゃないだろう。お前は生きたいはずだ。きっと、誰だって、最後まで生に縋るのだ。

 

「てめえ、ふざけんな!」

「・・・本当に来たのか。」

 

その時、こつりと足音がした。その先には、自分たちを追いかけ来たらしいスパンダムはいた。

フランキーはそれにスパンダムへ向き直るが、それは気にしたふうもなくバルコニーにて事の成り行きを見ていた。

そこにルフィの言葉が割り込んできた。

 

「何言ってんだ、おまえ?」

 

フランキーはそれに思わず固まった。なんというか、それは、あまりにも、朗らかな声音だった。本当に、のんきで、まるで己の船の上で談笑混じりに言った言葉のようで。

 

「あのな!ロビン!おれ達ここまで来ちまったから!とにかく助けるからよ、そんでな!それでもまだお前、死にたかったら。そのとき、しね!」

 

フランキーは、泣きたくなった。

昔、彼の死んで欲しくなかった人は。ロビンと同じように世界に死ねと言われた人だった。死んで欲しくなかった。例え、彼がどれほど罪人でも、ただ、船を作っただけで。

ああ、そうだ。

こんな、ばかなことをしたかった。こんなふうに、死なないでと、言いたかった。

その時、フランキーの側を通り過ぎて、そうしてロビンの横にスパンダムは立った。

 

「・・・モンキー・D・ルフィ。本当にここまで来たんだな。」

 

低い、その声は風に攫われてもおかしくなかったが、不思議とその声は辺りに響いた。それと同時に、空砲がいくつか空に向けて放たれた。

 

「だれだ、お前!?」

「ここの一番上だ。強いて言うなら、ニコ・ロビンを攫えと命令した人間だな。」

「てめえか!」

 

怒りに染まったルフィにスパンダムは笑みを深くした。

 

「ここに来たのは褒めてやる。そうだな、いっそ、ニコ・ロビンとカティ・フラムを返しても構わないほどにな。」

 

それにロビンとフランキーは目を見開いた。冗談であるとして、それはあまりにもその立場からしてあってはならない言葉だ。

 

「え、ほんとか!?なんだよ、お前いいやつじゃん!」

「ばっかやろー!んなことあるか!」

「なんだよ、嘘かよ!?」

「まあな。こいつらがいると、後々の処理がめんどくさそうなのは確かだからな。ただ、お前にも海軍の祖父を持ち、そうして、海賊であるのならわかるだろう。」

「海軍!?」

 

フランキーは思わずルフィを見た。

 

「この海でやっていくのなら、メンツがどれほど大事かわかるだろう。舐められたと知れば、それだけでたやすく崩壊する。この海はそういった所だ。お前達の行動次第で、海軍は、いや、政府は。何よりも残酷な行いをする。」

 

だからだ、とスパンダムは言った。

 

「取引をしないか?」

「とりひきぃ?」

「そうだ、もしも、ここでニコ・ロビンを諦めるなら。そうだな、お前達をここから逃がしてやる。」

 

それにロビンがスパンダムのほうを見た。スパンダムは穏やかに微笑んだ。

 

「今回の襲撃も、俺の方でなんとかしておく。もしも、このまま襲撃を終えないなら。そうだな。お前の故郷のフーシャ村は難しいが。他の船員の故郷に、不幸ぐらいは起こるかもしれないな。」

「てめえ!」

 

フランキーがいきり立ちスパンダムに詰め寄った。ぎちりと掴んだ腕を見て、スパンダムはどこ吹く風と手すりに片手を置いて首を少しだけ傾けた。

 

「俺に何をしようと、何も変わらんぞ。カティ・フラム。俺はしょせん、駒の一つだ。俺が死んだとしても、何も変わりゃしない。それで、モンキー・D・ルフィ。どうする。」

「・・・・断る。」

「どうしても、か?」

「例え、おれ達の故郷に何かあるとして、それなら助けにかえるだけだ。」

 

それにスパンダムは微笑んだ。やっぱり、それは微笑んだ。そうかと、そう、まるで決まり切ったとわかっている本を幾度も読んで、今度こそは違うと期待でもしていたように。

 

「そうだよなあ。そうだ、お前さんなら、そうするのだろうな。」

 

スパンダムの語り口はまるでずっと見知っていたはずの友人に語りかけるように気安かった。

スパンダムはそうした後にフランキーに向き直った。

 

「それで、だ。フランキー、そろそろ手を離してくれないか?」

「なにを・・・」

「ほら、来たぞ。」

 

それと同時に、裁判所の方向から、何かが飛んできた。

横っ腹に感じた衝撃と共に、フランキーはそのまま屋内の方に転がった。どうも、蹴られたらしいことを理解した。

 

「長官!」

 

フランキーを蹴飛ばしたルッチは慌ててスパンダムに近づいた。手すりから下りて、フランキーが掴んでいた腕を不機嫌そうに持っていたハンカチで拭いた。

 

「なぜ、護衛の一人もつけていないんですか?」

「他の奴らは別で動かしてるからな。つーか、このハンカチは何だ。」

「汚れたんですから拭くのは当たり前でしょう?」

 

それに続くように人影が次々とバルコニーに降り立った。

 

「何しとるんじゃ、ルッチ?」

「おい、誰か、麦わらの奴らしとめたか?」

「長官、どうかされましたか?」

「よよいっ!誰も、あっ、見つからねえ!」

「ブルーノがやられてたぞ、チャパパ。」

「ブルーノなら、踏まれないように安全なところにおいといたよ。」

 

弾んだ声で、その場に立つ、黒づくめの人間達。集まったCP9の面々にスパンダムは息を吐いた。そうして、ルッチから腕を引き離しルフィのほうに視線を向けた。

ルッチは不機嫌そうな顔をして、スパンダムの腰に手を巻き付けて、そうしてのしりとその頭に顎を置いた。

それに倣うように、ジャブラの足元にいたメランはルッチの肩に昇る。

 

(・・・・ここに近づけさせないためにCP9に麦わらたちを追わせたが。そうか、誰もしとめられなかったか。そうして、ブルーノが先にやられた。)

 

麦わらの一味はぞくぞくと、司法の塔を前にする。

そうだ、ならば、そうなのだろう。変わることはなにもなかった。所詮は、一時の時間稼ぎ。いや、ただの誤差に過ぎなかったのだろう。

 

「長官、命はないのですか?」

 

散々に島を走り回ったが、なぜか目的に麦わらの一味を見つけられず、命令を遂行できなかったためルッチは不機嫌そうにぐるぐるとうなった。

 

「・・・CP9、お前達はこの司法の塔で麦わらの一味を迎え撃ちなさい。首を持ってくるのを待っている。」

 

短い言葉でそう言えば、後ろの獣が嬉しそうにうなり声を上げた。

ロビンは、ただ、怖いと言った。自分を追いかけるそれ、自分を追う、世界というものへの恐怖。それを彼女は叫んだ。

そんなロビンを一度見て、スパンダムは麦わらの一味を見た。

 

「・・・麦わらの一味、お前達は覚悟があるか?」

「なんだと?」

 

CP9はそれを物珍しそうに見た。基本的にスパンダムは淡泊で、仕事に対して最低限の仕草しかしない。なのに、何故だろうか。

今は仕事だ、だから、スパンダムの命に従うけれど。

スパンダムはじっとモンキー・D・ルフィを見ていた。その目には、蔑みだとか、怒りだとか、そういったものはない。いや、いっそ、その目にはどこか自分たちに注がれるものと似たようなものがあった。

 

ああ、面白くない。

 

別段、そういったものを求めているかと言われれば違うという者が多い。けれど、CP9たちは一様に、そう思った。

ああ、面白くない。それから、そう言った感情を与えられるなんて。

それは自分たちのもののはずなのだ。漏れ出るような殺気を込めて、CP9は麦わらたちを見た。

 

「あの象徴を見るがいい。」

 

そう言って、司法の塔に掲げられた旗を指さした。

 

「あれは、世界を指すものだ。世界政府という、170カ国以上の加盟国。それが世界であり、そうして、この女を追うものだ。それと敵対する覚悟があるのか?」

 

問いかけを聞いた。フランキーはふらふらと立ち上がった。そうして、見たのだ。あの、あの、忌々しい象徴が、そうして、トムさんを殺したものが燃える瞬間を。

ああ、好きだ。フランキーはバルコニーに向かった。

死にたいと、誰かのために叫んだ女が、生きたいと言葉にできたその瞬間がフランキーは愛おしかった。

だからこそ、フランキーは決めたのだ。決意と、言える。

 

「スパンダム、これがなにか、わかるか?」

 

バルコニーに躍り出た、スパンダムは紙の束を見せた。それにスパンダムは動揺も見せずに、それを見た。

 

「・・・プルトンの設計図だな。」

 

それにルッチはいち早く反応した。けれど、スパンダムはそれを静止するように、その頭に手を置いた。なだめるように喉をかいた。

 

「ニコ・ロビン。てめえは悪魔じゃねえと理解できた。ウォーターセブンの人間が、これをなんでそんなにも持ち続けたのか、理解できた。」

「それは?」

「兵器とは、使う人間の意思によってなにものにでもなる。それは、あの日、俺も知ったことだ。もしも、その兵器で好き勝手をする馬鹿野郎の手に渡ったとき、それを止めるために、独走を阻止してくれと言う設計者が願っていた。」

 

フランキーはスパンダムを見た。

あの日、自分は間違えた。作り出すこと、その罪深さを、きっと理解していなかった。だからこそ、フランキーの罪深さの責はこれなのだ。そんなことが起こらないように、葬り去ること。

 

「作ったものの罪は、作ったものが負う。なら、俺は、この兵器を作り出す人間として、その女と、その仲間に賭ける!」

 

フランキーは、その設計図を燃やした。それに皆の目が見開かれた。

フランキーは、スパンダムを見た。

それは、ああ、笑っていた。

 

「ふ、あははあはははあははははあははははははははは!!!」

それは本当にすがすがしい笑いだった。まるで晴天のように、晴れやかな笑みだった。突然の上司の哄笑にCP9の面々は固まった。

その隙に、スパンダムはたんと手すりに飛び乗り、そうして、フランキーの胸ぐらを掴み、突き落とすように飛び降りた。

自分と落ちるフランキーにスパンダムはこれ以上無いほどに優しい微笑みを浮かべ、そうして、囁くように言った。

 

「・・・・それでいい。フランキー、正解だ。」

 

そのままスパンダムはフランキーから手を離した。フランキーは、その、優しげな笑みが目に焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

CP9にロビンの鍵の奪還を挑まれて、フランキーは散々に塔の中を走り回った。

そうして、聞いた。CP9の奴らは、全て言うのだ。

 

ああ、長官。

 

その声にフランキーは耳をふさぎたくなるような気分だった。その声は、まるで、稚い子供が親に縋るような声だった。

 

叱られてしまう、褒めてもらえない、捨てられるだろうか。

ああ、それは、嫌だなあ。

 

子供の声のようだった。

それにフランキーは耳をふさぎたくなった。願うように、思っていた。違うだろう、そんなことはないだろう。

お前達は、残酷な、政府の犬でしかないのだと。

なのに。

 

「フランキー!あの人に手を出してみろ、指一本でも触れてみろ!どんな目にあうか、理解しろ!」

 

ルッチまでもがそう言った。子供のように、スパンダムに手を伸ばしていた。

フランキーはそれから目をそらしたかった。彼はスパンダムを恨んでいたかったのだ。

だって、そうだろう。信じていたのだ。

全て、それがしたのだと。なのに、なのに、それなのに。

フランキーはスパンダムに渡された手紙を読んで、全てを察した。

だからこそ、橋を渡ったその先でスパンダムとロビンを見た。護衛船を守っていた海兵は、麦わらのウソップが射貫いたが、スパンダムだけはロビンを俵担ぎしていたせいで狙えていなかった。

けれど、フランキーにはちょうどいい。

フランキーは、スパンダムに言いたいことがあったのだ。

 

「スパンダム!」

 

フランキーは持たされた、古びた手紙を持ち出した。それに、スパンダムはやっぱり穏やかに微笑んだ。

 

「ああ、もう、読んでしまったのか。」

「もう、読んだだと?てめえ、どうして、なんで!これを、俺に渡した!?」

 

スパンダムはそれにゆるゆると微笑んで、なぜかロビンを肩から下ろした。

 

「スパンダム、あなた、いったい何を考えているの!?」

 

スパンダムは困ったような顔をして、ロビンを見た後、フランキーに視線を向けた。

 

「・・・もう、渡す機会はなかった。それを渡すことだけが遺言だった。」

 

ぼたぼたと、フランキーは涙を流した。泣きたくなかったけれど、それでも、涙は止まらない。

 

「なんでだよ、トムさんは、生きてたのか!?」

 

それは、トムの書いた、フランキーたちに向けた手紙だった。数年前の日付のそれは、彼がエニエスロビーに監禁はされているが元気にしていること、そうして、船を作っていることが書かれていた。

そうして、時折差し入れを持ってくる、不機嫌そうな黄昏色の髪と瞳の人間のことも。

 

「・・・・もう、死んだ。数年前のことだ。ウォーターセブンに戻せもしなかったからな。近くの島に葬った。」

「お前、トムさんは、罪人として連れて行かれたって!その先で、ひでえ目に会うって、だから、俺は、トムさんを。あの事件も、あんたが仕組んだわけじゃなかったんだろう!?なら、どうして!」

「優秀な船大工を殺すのはもったいなかった。なら、良い気分で仕事をさせて、よい物を造り出させた方が良い。どうしてか。カティ・フラム、言っただろう。作りだしたものの罪は、創造者の罪だ。」

 

それにフランキーは歯がみした。ああ、手紙に書いてあった。

ある時、訪ねてきたというポーンという男は己の罪を、あの日、勝手にフランキーの船を利用してウォーターセブンを襲ったことを。それはスパンダムの知るところでなかったことを。

ああ、だめだ。フランキーは、それに、この場でするべきではないとしても。

どうしても、言ってしまった。

ロビンの前で、言ってはいけないとしても。それでも、言わずにはいられなかった。

 

「すまねえ!」

 

悪党であって欲しかった。あの日、自分の不幸の元凶足る人間に、それでも、悪党であって欲しかった。

だから、目をそらしていた。ああ、でも、だめだ。

あの日、優しいと思った人間。綺麗だと思った人。それは裏切ってなどいなかった。

ただ、彼はその言葉の通り、責を取り、そうして、今十数年越しにフランキーの心を救ってくれた。

手紙が偽造?

いいや、違う。その筆跡、語り口、趣味嗜好、そうして、入っていた船の図形。

拷問の果てだとか、そんなものを介していない、あの日の、ありのままのトムさんの面影がそこにあった。

何よりも、スパンダムにそんなことをする意味など無いだろう。今更、そんなことをして、この場で同情でも買おうともでしているのだろうか?

ああ、でも、だめだ。

その手紙を読んでから、フランキーの心の内で、あの日、海列車に止まれと叫んだ子供に戻っていた。

ロビンを助ける、それは決めている。けれど、すまないとそう言わなければいけない。

そうだ、確かにスパンダムはフランキーの心を救ってくれた。

だから、そう言った。それにスパンダムは穏やかに笑った。

 

「・・・カティ・フラム。俺は責を取る。だから、お前も責を取れ。」

 

優しい人だ。あの日、見たとおり、それは優しいままの人で。

だから、フランキーは一生忘れないのだろう。

穏やかに、満ち足りた顔で、橋から飛び降りたあの人のことを。

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