諦め猫熊はかく語りき   作:幽 

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ルッチの話は次で終ります、たぶん。
その次はスパンダムです。
番外編でメランの育児日記もしたいなと思っています。

感想いただけましたら嬉しいです。


小生意気な猫よ、どうか私のことなど忘れてください。 2

甘えれば手が差し出された。すり寄れば安堵するように笑っていた。抱きしめられたその瞬間、大人だというのにあまりにも縋るような手に笑みがこぼれた。

ああ、なんて可愛いのだろうかと。

 

 

 

スパンダムはそれきりグアンハオに来ることはなかった。なんでもそれがグアンハオに来たのは父親に連れられてのことで、スパンダム自身にはここに来るほどの権限も、地位もないのだそうだ。

それでもよかった。自分たちはCP9で再会するのだから、固執することはない。

そう、思っていた。

なのに。

 

「こんにちは。名前は?」

 

まるで他人のように、初対面のように、スパンダムはルッチに話しかけてきたのだ。

教官たちの話によればグアンハオに関われるように父親に頼み込んだそれは子どもたちに一人一人話しかけて、ルッチの番になった。

きっと、笑いかけてくると思った。きっと、被ったシルクハットを褒めてくれるのだと。

なのに、スパンダムはまるでルッチと初対面のように名前を聞いてきた。それが気に入らない。

だから、ルッチもやり返してやろうと思った。簡潔に名前だけ名乗ってやった。

なのに、スパンダムは平然とそれに頷くだけだった。

 

なぜ、再会したときのスパンダムがそんなにも素っ気ないのかわからなかった。

何かしたのか?

いいや、何かをするほどの時間などなかったはずだ。

ちらりと周りを見た。ルッチの強さは健在で、今では島では天才と名高い。CP9に入ると決めてから最短でその目的を果すためにより熱心に鍛錬も、そうして座学にも徹していた。教官たちもその目に見えるルッチのあり方に感嘆していた。

成績は望む程度に修めているはずだ。

スパンダムは、ルッチからすれば価値のない子どもばかり気にしていた。弱くて、ぐずで、まぬけで、のろまな子ども。

なのに、スパンダムは以前、自分に向けていたような困った笑みを浮かべていた。それがルッチには面白くない。

だって、スパンダムを守るのは自分のはずだ。その対価に命を差し出すなんて言ったのだ。

なのに、どうして自分以外に媚びを売るんだ?

媚びを売るのは自分だけで十分のはずだ。

 

「くるっぽー。」

 

それにルッチはハットリを見た。ハットリはじっとルッチの手を見ていた。ルッチの爪は噛んでいたせいでがたがたになっていた。

 

「・・・わかっている。」

 

ルッチはふて暮れされた顔で手を隠すように後ろに回した。

苛立っている場合ではない。ルッチは気を取り直した。

それなら無視できないようにもっと強くなればいい。子どもらしく、彼はそう理解した。

 

 

が、そんなことはなかった。ルッチがそっけなくなればなるほどにスパンダムは離れていった。

違う子どもに関心を向けて、頭を撫でて、抱きしめて、微笑んだ。

ほら、見るがいいと。

血に濡れて、狂気を抱えて、誰よりも何よりも多くを殺せば誰もがルッチを称えた。なのに、それはルッチが他人に望まれているあり方をこなすほどに離れていった。

何故なのかわからなかった。スパンダムに聞くのはどこかプライドが邪魔をした。けれど、その態度が続けばさすがに我慢の限界というものだ。

どうしたものかと考えた。そうして、渋々ではあるが、スパンダムに対して媚びを売ってやることにした。

あるとき、スパンダムがやってきた日、人気のない時を狙ってルッチはそれに近づいた。どこか、焦点が合っていないというか、宙をぼんやりと見つめていたスパンダムはルッチの姿に目を見開いた。

 

「・・・・ルッチか。どうかしたのか?」

 

淡々とした声音でそういったスパンダムにルッチは両手を差し出した。そうして、んと一言だけ言った。

ルッチは内心で顔から火が出そうだった。まるで、愚かで、幼い、無力な子どものような仕草はルッチにとってはとんでもない恥だった。けれど、スパンダムは何よりも子どもっぽい媚びを売られるのを好んでいるようだったため、渋々決行したのだ。

その時、ルッチは、スパンダムの顔を見た。それは眉間に皺を寄せ、笑おうと取り繕うとしていたけれど、どこか、歪で。

 

(・・・泣き、そう。)

 

ルッチがよく見たように、子どものように、スパンダムが泣くんじゃないのかと思った。

「・・・・抱っこ、していいのか?」

 

それにルッチは無言で手を更に差し出した。

 

「そうか、よし、わかった。」

 

スパンダムはそれに淡く微笑んで、そっとルッチの脇の下に手を滑り込ませた。そうして、そっと自分を抱き上げた。

 

「大きくなったな。重く、なった。」

「・・・当たり前です。前から、ずいぶん経ちました。」

 

骨張った体だ。皮膚の上からでもわかる、細い骨にルッチは自分でも簡単にへし折れることを理解した。

嫌みのような台詞にスパンダムはルッチの顔をのぞき込んだ。

 

「そうだな、悪かった。ただ、お前はなれなれしくされるのは嫌いだと思ってな。」

 

確かにそうだが、なぜ自分に一言断らないのだろうか?

気が利かない人だとルッチは内心でため息を吐いた。

 

「今度から気をつけてくれればかまいません。」

「そうだな、そうだ。ああ。悪かったな。」

 

そういって、スパンダムはまるで縋り付くようにルッチの肩に顔を寄せた。

「すまないな。」

 

掠れた声がした。まるで、自分に縋り付くようなそれにルッチは無意識のうちに笑みが浮かんだ。

ああ、なんて可愛いことだろうかと。

 

 

 

時折、組み手の折だとかに他の子どもが浮かべる感情を罪悪感と呼ぶと知ったのはいつだったのだろうか。

己のしたことを良くないことであるとし、それを申し訳なく思う気持ち。

それをルッチは馬鹿らしいと思っていた。

罪悪感なんて感じる必要が無い。それを肯定するのは、理を敷く世界そのものなのだから。そんなものを感じるもの全員が愚かにしか思えなかった。

けれど、その時、己のその媚びに浮かべた、あの、感情。まるで、飲み込み、隠し続けたそれを吐き出してしまったときのような、その顔。

理解できた、それはルッチに罪悪感を持っているのだと。

島の人間からのスパンダムの評価は様々だ。子どもはスパンダムを優しい人だと言い、大人たちはスパンダムを策士であると評価した。

ルッチも大人たちと同意見だった。

 

処分されるはずだった子どもたちに別の用途を見いだし、周りからの評価を上げ、子どもからの忠誠心を得ていた。

スパンダムがルッチのために死んでもいいと言ったのは、それぐらいに少年に価値があるからだ。そう、思っていた。

ああ、違うのだ。この人間はずっと、世界のために人殺しに仕立て上げられる子どもたちに罪悪感を持っていたのだ。

ずっと、ずっと、ずっと。

ルッチにさえも、それは罪悪感を持っていた。ルッチはそれに笑ってしまいそうだった。

 

あの日、いくらルッチに価値があるとは言え、それは罪悪感、それだけのために命をくれると言ったのだ。

無価値な命が消費されることに、世界のために捧げられることに、それはずっと懺悔をしていた。

なんて、いじらしい話だろうか、なんて愚かな話だろうか。

弱者が死ぬのはしょうが無い。だって、それが弱いのが悪いのだ。強く、生き残ることが出来た自分たちが正しかっただけだ。

ルッチは、少なくともグアンハオに来なければ死んでいた身だ。なら、どうして恨む必要があるのだろうか。

 

ああ、なんて、この弱い人間は可愛いのだろうか。

 

(理解できないと思っていたが。)

 

その時、スパンダムは高々そんなことのために心を痛め、無価値な存在に奉仕して、幼いルッチに許しを請うように縋り付く。

生まれてきた環境で全てが決まるような世界で、誰よりも恵まれているようなそれが、何も持たずに生まれたルッチに縋り付くそのあり方が心底、愛らしいと思った。

だから、ルッチはスパンダムの髪を撫でてやりながら思うのだ。

この愚かな存在はきっと、自分でもないと守りきることもできないのだと。

 

スパンダムに甘えたいかと言われればまた違う。本音を言うのならば、ルッチはスパンダムに頼られたいと思っている。が、スパンダムがルッチに寄りかかることなど殆ど無い。

ルッチがスパンダムを振り回し、無茶を言い、理不尽に甘えるのはひとえにそれをスパンダムが喜んでいると察せられるからだ。

父親にさえも甘えることのないスパンダムの本音を聞けるのは自分だと思っている。けれど、スパンダムは滅多に本音を語ることはなかった。

ずっと、それこそ人生の殆どを共にしていても、ルッチは時折スパンダムが何を考えているのかわからなくなっていた。

 

スパンダムの命はルッチのものだ。あの日、それは決まったことだ。けれど、スパンダムは時折恐ろしいほどに遠い目をすることがあった。

本当に、遠く、何もかもへの関心をなくして、ルッチの知らない何かを見ている時があった。そんなときのスパンダムのことは嫌いだった。

そんなとき、子どものように駄々をこねて、我が儘を言えば、スパンダムは自分の方に帰ってきた。

 

ルッチは心のどこかで思っていた。いつか、スパンダムはどこか、ルッチの知らないどこかに行ってしまうのだと。だから、わざわざスパンダムを訪ねて、どこかに行っていないかを確かめた。スパンダムはそれに仕方が無いと言って、できるだけルッチの心に沿ってくれた。

けれど、当たり前だ。だって、それはルッチのものなのだから。

 

あの日、数百人を殺害した日。

周りはルッチを恐れていた。おぞましいと、やり過ぎだと、ルッチのことを批難した。それをルッチは嘲笑った。

ああ、何故わからないのだろうか。それで一つの国が海賊に渡ったとき、模倣犯が生まれたとき、どうするのだ?

それなら、数百人の犠牲の方がよっぽどいい。

撃たれた背中が痛んだ。傷のあるそこがじくじくとした。

周りの言葉が、痛む背中に合わさって、余計に煩わしくて仕方が無かった。目先の物にしか目が行かない、愚かな存在しかいない。

 

「おまえは正しかった。」

 

その言葉に笑みがこぼれた。

ああ、ほら、見るがいい!

スパンダムはルッチを肯定した。その弱さを否定した。ルッチの正しさを肯定した。有象無象なんてどうでもいい。

この人はルッチの必要悪を理解してくれている。他の理解なんていらないのだから。

 

ルッチは生活に満足していた。早々とCP9に入り、先にいたジャブラの言葉を聞き流して、スパンダムのことを待っていた。

スパンダム以外の人間を守ることはごめんだったが、長官が父親のおかげかそれはよく顔を出していたため満足だった。

 

全てが変わったのは、あの日。

スパンダムが負傷し、顔にギプスをはめるようになった時。

それを見た時、ルッチの中にあったのは怒りだった。

自分以外の何かが、グアンハオの同胞以外が、それに消えない傷をつけたという事実。

 

ああ、誰だ!こんなことをした愚か者は!これは俺の物なのに!俺が好きにしていい命だ!俺のためだけの人間だ!

俺の物に何をした!?

 

ジャブラに散々に止められてなお、ルッチの中に怒りの炎はくゆっていた。けれど、首謀者は死んだ今、殺すことも出来ない。

不幸中の幸いは、スパンダムは罪人を連れて帰ったために昇進となり、それを皮切りにCP9の長官に上り詰めたことだろう。

顔に被った痛々しいギプスは嫌いだったが、あまり気にはならなかった。見目が悪くなった程度でスパンダムの価値が下がるわけではない。

それの価値はあり方なのだから。何よりも、それだけでスパンダムを軽んじるのならその程度の眼しか無いと思えば良いのだから。

ルッチは機嫌を良くした。

 

だって、これでスパンダムのことを堂々と守ってやれる。約束だったのだから。

なのに、スパンダムは以前よりも物思いにふけることが多くなった。あの、ルッチのことを見ていない、遠いどこかを見ている目。どこかにふらりと消えて仕舞いそうな眼。

それはスパンダムが連れて帰ったという囚人に会ったあとなどが顕著であった。

ルッチとしてはいくら腕の良い船大工で、政府の船も設計させているとはいえ、虐げることもせず、衣食住を十分に与え、そうしてあまつさえ娯楽品を与えていることが気に入らなかった。

トムというそれはルッチを子ども扱いするため気に入らないことに拍車をかけていた。

スパンダムはその魚人が死んだとき、泣いていた。滅多に泣かない人が、すまないと懺悔をしながら泣いていた。

それが気に入らなかった。スパンダムが自分や、CP9の昔なじみ以外に心を砕くのは気に入らなかった。

それからスパンダムは余計に物思いにふけることが多くなった。仕事はしっかりとこなしているのだから苦言をすることもできない。

ああ、だめだと思った。

ルッチはこのままではスパンダムがもっと遠いどこかに行ってしまう気がした。自分を置いて、知らないどこかに行ってしまうのだと。

 

 

 

そんなとき現れた救世主がメランだった。

突然、スパンダムが小さな黒猫を拾ってきたのだ。

凶暴で、生意気で、スパンダム以外に懐かないクソ猫だ。スパンダム曰く、どこぞの怪獣と言える動物の跋扈する島で生き残ったメランは齢数才という年齢で誰よりも戦闘というものを経験していた。

そのため、メランは強かった。それこそ、何かを殺すという戦い方は同じ年だったときのルッチの強さを凌駕していただろう。が、そのためにメランは自分よりも弱い人間を舐め腐っており使用人をはじめとした人間達の言うことを滅多に聞かなかった。

唯一聞いたのは、スパンダムと、そしてルッチとジャブラだけだった。

ルッチは最初は反対した。殆ど野生児のメランは問題行動を数々起こした。仕事にならないと抗議もあった。

ルッチはメランの問題児である事実にも加えて、自分のポジションだった一番にスパンダムに近しい立場を取ったことが非常に気にくわなかった。

強さを気に入ったというならばグアンハオに預ければいいのではないのかと。何もかもに平等で、ルッチのことさえも懐に入れなかったスパンダムのことだ。きっと、その助言を聞くのだとルッチは思っていた。

けれど、予想は違った。スパンダムはどうしてもメランを手元で育てたいと言ったのだ。珍しいことだ。CP9のメンバーは顔を見合わせた。

何か、こういった越権行為染みたことが嫌っていたスパンダムがその時、初めて我が儘を言ったのだ。

ルッチはそれを聞いてもダメだと言った。けれど。

 

「ルッチに似ててな。できりゃあ、手元に置いときたいんだよ。」

 

なんてことを言われてしまったのだ。ならば、ルッチにはそれに従う以外の事なんてできなかった。

メランを育てるのは大変だった。獣でしかないそれをなんとか人にしたのだ。ルッチはそれこそ、豹の状態でメランに噛みつき、吹っ飛ばし、序列を叩き込み、人としての最低限の礼儀を教えた。

正直言えば、面白くはなかった。けれど、メランを側に置いてからスパンダムは、あの、遠くを見る眼をしなかった。それがまさしく僥倖だった、

 

面白くはけしてなかった。

ルッチにとってメランは邪魔と言って良かった。スパンダムの一番を奪われたような気分だった。

けれど、自分と同じ真っ黒な髪の子どもを抱いて微笑むスパンダムの姿を見て、悪くないと思ったのは事実だった。

メランはジャブラとルッチによって世話をされたせいで二人によく懐いたが、食べた悪魔の実の影響か、ルッチによく似ていた。

顔立ちを置いておいても、仕草や空気感と言えるものが本当によく似ていた。

ルッチはするりと抱き上げてすぐに眠った少女の頬にすり寄った。

生意気で、邪魔で仕方が無かった少女の事は数年でそこまで嫌ではなくなっていた。

 

愛着でも湧いたのか?

 

そんなことをジャブラに問われたことはあったけれど、鼻で笑いたくなった。そんなことはない、これはスパンダムをつなぎ止める重要な楔であり、戦い方を叩き込んだ生徒のようなものだ。

くんとメランの匂いを嗅げば、菓子の甘い匂いや太陽の匂いに、汗の匂いがした。

その匂いはスパンダムに似ていた。肉があまり好きではないそれは体臭が薄い。けれど、今ではメランの匂いが移るのか、同じ匂いがした。

 

「早く、大きくなれ。」

 

自分がいない時のスパンダムの護衛には丁度良いのかもしれない。そんなことを考える程度に、ルッチはそれのことが気に入っていた。

それがいる限り、スパンダムはどこにも行かないと確信していたのだ。

 

 

任務を終えて、W7を出たとき、せいせいした。元より、来たいなどとは思っていなかったのだ。早く帰りたくてしかたがなかったが、任務をそうそう終えることなど出来なかった。

任務を言い渡されるときもそこそこに突っぱねたのだ。潜入ならば、ジャブラのほうがよほど得意だろう。

けれど、スパンダムはあっさりとそれをつっぱねた。

 

「お前、残ったフクロウとクマドリまとめて任務できるのか?」

 

それにはルッチも黙った。確かに、それをする自信があるかと言われると別だ。

 

「出来ないだろうが。今回の任務は五老星からの任務だ。失敗はできん。可能な限り成功率を上げるのなら、お前は必要だろう。」

 

スパンダムからの評価が高いのは認めるが、だからといってこんな任務を受けるなどと。

ルッチはため息を吐いた。

 

「わかりました。それは受けますが、スパンダムさん。もちろん、褒美はいただけるんですよね?」

 

それにスパンダムは嫌な顔をした。散々に今までルッチの無茶振りをされてきたスパンダムからすれば当然のことだった。

けれど、スパンダムはそれぐらい安いかとため息を吐いた。

 

「わかった、なんだ?」

 

そう言われてルッチは何をしようかと悩んだ。そこで、ふと、スパンダムの手に視線が行った。左手の、薬指。

 

ルッチは別段、スパンダムと結婚したいわけではない。けれど、スパンダムもそこそこの年だ。ならばあの野心家の父に言われて結婚することもあるはずだ。

ルッチはスパンダムに自分以外の特別な何かが現れるのが心底嫌だった。

だから、ルッチはスパンダムの左手の薬指を貰うことにした。噛みちぎってやればそこに指輪なんて嵌まるときは来ないだろう。

が、そんなことを言って素直にくれる想像もできなかった。

だから、任務が終ってから決めるとその場を収めることにした。有無を言わさない状態でそれに踏み込んだ方が良いだろうと。

そのままW7に向かったが、スパンダムのことは心配していなかった。側にメランがいるのだから命の危機はないのだと、スパンダムのことは気にしていなかった。

スパンダムの顔に傷をつけたフランキーのことをどうしてやろうかとほくそ笑んでいたこともある。

けれど、また、ふと気づいた。

あの、遠くを見るような目で、スパンダムはニコ・ロビンとフランキーを見つめていることに。

 

 

可笑しいと気づいていた。

スパンダムは何か、ロビンとフランキーに何か、ルッチの知らない物を向けていた。

すべてが気に入らない。また、スパンダムの中に居座る存在が出てくるかもしれないことを。

そうだ、任務だというのに、スパンダムはフランキーが設計図を燃やしたことに笑った。嬉しそうに、心の底から。

そうして、自分たちを追ってくる子どもの存在を無視して。スパンダムは何か、ルッチの知らないことのために動いていた。

面白くない。今更スパンダムのことで知らないことがあるのが気に入らなかった。

そうして、もっとも、気に入らなかったのは、モンキー・D・ルフィだった。ルフィを見るときのスパンダムはまるで憧れを抱く少女のようだった。

ずっと、ルフィを見ていた。ルッチの知らない感情を込めて、ルフィのことを見ていた。

ルフィを殺せると知ったとき、心の底から嬉しかった。

強者と戦えることもそうだが、それ以上に、スパンダムに関心を向けられるそれを殺せることが心底嬉しかった。

そうだ、さっさと終らせて褒めて貰うのだ。よくやったと、笑って貰うのだ。

ルッチはあの日の約束を果さなくてはいけない。

スパンダムを守り続ける限り、スパンダムはルッチのものだ。ルッチがいる限り、スパンダムは死なない。

 

あの人のビブルカードが燃え尽きた時、がちゃんと何かが壊れてしまった気がした。

 

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