諦め猫熊はかく語りき 作:幽
番外編などについて投稿していこうと思います。
感想いただけましたら嬉しいです。
運命なんてものは確かに存在していた。
あらがうことはできなかったし、間違いばかりではあったけれど。
それでも、救えたものは案外あったのかもしれない。
「そうだ、スパンダムちゃん、これあげるよ。」
ことりと、目の前に置かれたのは黄金に輝く電伝虫だった。それにスパンダムは目の前に座る青雉を見た。彼は飄々と変わること何を考えているのかわからない顔をした。
ニコ・ロビンの存在を知らせに来た彼は、アポもなしにやってきてそう言った。
スパンダムはそう言えばと思い出す。確かに、原作でもスパンダムはこれを持っていたが、どういった事情で彼の手に渡ったのかまではわからない。
「・・・・いりません。」
スパンダムは不機嫌そうに言った。今までのことを考えればどう足掻いてもこのスイッチが押させられる気がした。
それに青雉はまあまあと、執務机の前に置かれたソファに座ったまま、その無駄に長い手を伸ばしてきた。そうして、執務机のゴールデン電伝虫をスパンダムに差し出した。
「まあ、持っときなよ。ニコ・ロビンと一緒にいる奴ら色々やばいからさ。」
「あなたは、これを嫌っておられると思っていましたが。」
「そうだね、だから、スパンダムちゃんが持っててよ。」
スパンダムはそれに何が言いたいのかと青雉を見つけた。彼はにっこりと微笑んで再度、机の上にゴールデン電伝虫を置いた。
「ニコ・ロビンの捕縛が終ったら、返しに来てくれればいいから。」
その言葉にスパンダムは苦々しい気分になる。どこか、自分の計画が見透かされている気分になった。
「ですが・・・・」
「スパンダムちゃん。」
珍しく、どこか真面目な声音だった。それにスパンダムは顔を上げた。そこにいた男は、穏やかに微笑んだままスパンダムを見ていた。
「君の居場所は、ここでしょう?」
「あなたの居場所がそこであるようにですか?」
それにクザンは頷いた。それにスパンダムは少し笑ってしまった。
「・・・わかりました。使うことはないと思いますが。ご厚意、感謝します。」
渡されたゴールデン電伝虫は、さほど重さはなかった。こんなものかと、スパンダムはそれを少しだけ撫でた。
「・・・ただ、お願いがあります。」
「お願い?」
「今回の件で、何か、不祥事があった場合。全て私の責任として処理するように取り計らうようにお願いします。また、メランのことも。そして、ルッチ達の今後についても口利きをお願いします。」
スパンダムの言葉に青雉は不審そうな顔をした。
「出来るけど。わざわざ、なんで?」
「ニコ・ロビンの案件は長年追ってきたことです。あなたにとっても、私にとってもこれは最後のけじめのようなものです。けして、一筋縄ではいかないでしょうから。」
「わかったよ。」
「ありがとうございます。」
スパンダムはそう言った後、さらさらとその場にあった適当な紙に何かを書付けた。それを青雉に差し出した。青雉が受け取ったそれは、どこかの電伝虫の番号だった。
「・・・珍しいね。スパンダムちゃんの番号?プライベート、教えてくれるなんて。」
茶化すように言った後、青雉はスパンダムを見たけれど、それはどこか聖者のように微笑んでいた。その、全てを見通すような瞳が青雉を見ていた。
押し黙った青雉にスパンダムは淡々と告げる。
「もしも、ニコ・ロビンの捕縛の件が終った後、ルッチ達に用があるのならそちらにかけてください。」
「それは、その後に必ずロブ・ルッチたちに俺に用が出来るってこと?」
「さあ?それは、終った後のお楽しみですよ。」
にっこりと笑ったスパンダムに青雉は諦めたようにため息を吐いた。そうだ、それは口を噤むことに関しては一級品で、何を言っても真実なんて話さないだろう。
青雉はその紙をしまい、頷いた。
「スパンダムちゃん、またね。」
「ええ、ニコ・ロビンのことはお任せください。」
大柄な男を去って行く姿を見ていた。そうして、まるで枷のようにそこにある破滅のスイッチを眺めた。
ばれているのだろうか?
スパンダムは不思議に思う。自分が、選択肢によっては全てを捨て去ろうとしていることが、ばれていたのだろうか?
けれど、だからどうだというのだろか?
誰も今から始まる全てなんて知らないのだろう。スパンダムは笑った。
クザンとて、自分をとがめることなど出来ないだろう。彼だって、自分と同じようにこの忌々しい鳥かごを去るのだというのに。
スパンダムは覚悟を決めてから準備を積み重ねた。
本音を言うのなら、スパンダムは筋書きというものを覆すことなど出来ないと理解していた。
覆すというならいくらでも出来た。ガープ中将の怒りを買うリスクさえ考えなければ、ポートガス・D・エースのことも、サボのことも、そうしてスパンダムの破滅を運ぶ少年のことも殺してしまえばよかったのだ。けれど、それをしなかった。
それがきっと、自分自身の答えなのだ。
だからこそ、予定通りの筋書きのために準備をした。
セント・ポプラに向かって根回しを行い、そうして、懺悔のような遺言を遺した。
けして少なくはない給料を貯めた。口には出せないが、賄賂だって受け取ってため込んだ。
紙幣は嵩張るだろうと、宝石に変えて、ずっと待っていた。自分の年を考えれば、そろそろだと思って待ち続けた。
そうして、手配書が届いた。
嬉しかった。
そうだ、ようやくだと思った。ようやく、スパンダムは望み続けた終わりがやってくる。
筋書きというものが覆るというのなら、スパンダムはようやく彼らの運命を諦められる。ただ、このまま生きるだけで、抱えた哀れみを放り捨てられる。
けれど、もしも、筋書きが覆らないとするのならスパンダムは罰を受けるのだ。ずっと、縛り付け、何もかもを奪った代価を、ようやく。
(色々と、変わるようにはしてきたんだがな。)
スパンダムはフランキーとロビンと話をした後、電伝虫を眺めた。
モンキー・D・ルフィたちがエニエスロビーたちにやってこないように、まず、線路を封鎖した。けれど、彼らは当たり前のようにたどり着いている。
現在、原作でスパンダムはしなかったが、CP9のメンバーを司法の塔に麦わら海賊団がたどり着く前にと、捕縛を命じた。
(無理そうだなあ。)
それに何かを思うことはなかった。ああ、そうなのかと、あっさりと納得してしまった。スパンダムはそっと、机の引き出しを開けた。がらんとしたそこには、何年もあり続けたものはなかった。
(・・・あいつは、あれをいつ読むんだろうか。)
護衛船の中でだろうか、それとも。
スパンダムの脳裏には、いつかに、看取った魚人の姿を思い出す。
「そんな顔をするな。恨んでいないよ。」
脳裏の奥で、自分の手を掴む、冷たい手を思い出した。
トムを生かしたのは、自分の不甲斐なさへの詫びだった。詫びなどといって、何も出来なかった。
確かに他の囚人よりもずっと上等だった。食事も与えられたし、暴力もなかった。トムは事実よい仕事をした。
スパンダムが酒などの娯楽品を持ち込むことはあった。スパンダムとしては出来ればトムには会いたくなかったものの、彼自身が望んでいると言われれば重い腰を上げざるをえなかった。
当初、スパンダムのことを警戒していた彼だが、誰から聞いたのか、スパンダムがトムの保護を行っていると知ると興味を示されたのだ。
なぜ、と問われたことはあった。
(なんて、答えたんだっけか。)
答えなんて曖昧だ。何を言う資格があると、ひどく適当に答えた気がする。ただ、彼が死に際に答えたそれだけは、覚えている。
魚人特有の冷たい手の感触を覚えている。病気にかかった彼は、弱り、まるまるとした体は痩せていった。
もう、長くないと理解した時、最後に会ったトムは、スパンダムの手を握った。惨めだと思った。
この、優秀な男は、こんな暗がりの牢獄の中で、一人死ぬのか。スパンダムはその時、護衛につれたジャブラのこともさえも気にせずに掠れた声で囁いた。
「俺を、恨んでいるか?」
それにトムはとうに枯れてしまった声で囁いた。
「誰が恨むか。お前さんはずっと、わしの腕も、誇りも大事にしてくれようとした。弟子の船のことを悼んでくれた。」
何を恨む事なんてあるのか。
いつだって、そうだった。スパンダムを憎むべき人たちは、いつだってスパンダムのことを赦してくれる。
(・・・・俺は、報いることが出来たのか。)
最後に頼むと渡された手紙の中身を読む気にはならなかった。中の検問は言われていたが、その程度は誤魔化してねじ伏せた。
そこまで考えて、スパンダムはフランキーたちを監禁していた部屋からけたたましい音がしたのが聞こえてきた。
ばたばたと足音を立てて、盲目の女が飛び込んでくる。フランキーたちを一応と見張らせたそれは3式ほど使える、グアンハオ出身の給仕だった。
「も、もうしわけありません、スパンダム様!」
「・・・ああ、いいんだ。ブライン。ルッチたちへの帰還の砲弾を上げてくれるか?」
その言葉にブラインははいとうなずき、部屋を後にした。スパンダムは鞄を腰につけ、そして、執務室の戸棚をあさった。そこには、紙製の箱があり、中には愛らしい白いネズミがいた。
スパンダムの手の中で、それはふんすと鼻息を鳴らした。
「ようし、頼むぞ。影武者君。」
スパンダムはそう言って気軽に声をかけ、それの好物である干したフルーツを与えた。最後の晩餐なんて、酷い話ではあるのだろうが。
全ての事が起こったとき、正直に言えば愉快でたまらなかった。
自分のした、対策は悉く実らなかったのだ。
ならば、こんなに愉快なことはないだろう。だから、諦めてしまえた。
世界政府の旗が燃やされたとき、ああ、と泣きたくなった。
それは自分には出来なかったことだ。そうしたくて、それを望んでいて、けれど、ずっと出来なかった。
青空の中で、壊れて欲しかったものの象徴が燃えていくのを見て、スパンダムはああ、負けたと思った。
だって、勝てなんてしないだろう。自分が出来なかったことを、自分がしたくてたまらなかったことを、彼らは軽々とやってしまった。彼らの願いの過程のために、あっさりと。
世界を敵に回しても、それでも君の味方であろうとなんて絵空事だ。
自分よりも、ルッチよりも強い青雉も世界と敵対することは出来なかった。
それがこの世界の理なのだろう。だから、世界というものを、立った一人の女のために敵に回したとき、完敗だと思った。
ああ、君よ。自由の風のような人。
本当はずっと聞こえていた。
自由を叫ぶ風の声。籠から飛び出す愉快な足音。
それから耳をふさいだのは自分なのだから。
(いいんだ、これで。)
フランキーの行動に思わず、こらえていた笑いが零れてしまったのも仕方が無いだろう。
最初から、設計図に関しては処分させる心づもりだった。だからこそ、散々に煽ったのだ。
スパンダムは政府を信用していない。
原作から見て、この世界はおそらく、天竜人と、そうしてイムと呼ばれた王の作りだした独裁の世界なのだ。
いいや、ちりばめられたものを見るに、もしやすれば最初は正しい思いだったのかもしれない。王なき王座、などと呼ばれるそれは権力の配分の上での可能性もあるが。
それでも果実はいつか熟して腐り落ちる。
スパンダムは脳裏に、ある情報を思い浮かべた。
ゴッドバレーの事件、この件で島は消滅したのだという。けれど、それは何故だ?
今のところ、スパンダムは政府の武器などに対して相当の情報が入っている。けれど、今の政府に島の一つを消滅させる力は無い。事実、スパンダムも実際に島が消えているのを確認している。
そこで、スパンダムは一つの予測を立てていた。
政府は現在、古代兵器を所有しているのではないか。それを表立ってアピールしていないことも気になるが、何か、そういった強力な兵器を持っていることは考えられる。そんな政府に古代兵器をもう一つ与えるなんてごめんだ。
笑ってしまった。筋書は変わらず、フランキーは正解を選んだ。
(もうすぐだ。もうすぐ、俺の終わりがやってくる。)
ためらいの橋に行くまで、ルッチは変わらず嬉しそうだった。彼はこれから起こることを知らない。彼は敗北するし、ここから追い出される。
「・・・聞いているんですか、長官?」
「うん?ああ、聞いている。」
ニコ・ロビンをつれたルッチはすねたような顔をしていた。この顔を見るのもこれで最後なのだと思った。断頭台に上るような気分で、それを眺めた。
(結局、こいつがここまで懐いた理由はわからなかった。)
あのとき、泣きそうな顔に、その人殺しにも愛があるのだと理解できた。けれど、なんというか、それがどういった類いなのかわからなかった。
親に向けるものでも、友愛だとか、敬愛だとか、恋愛というわけでもなくて。
やっぱり、それが自分に何を求めているのか、共にあって欲しいと思うぐらいはしてくれているのだろうが。それだけだった。
ルフィと戦うために去って行く後ろを眺めた。
(さようならだ。殺戮兵器になれなかったお前。俺の、可愛い、息子。)
けして、口には出せない言葉を胸の奥で呟いた。
腹を痛めたこともなく、それでも、あの日、この子どもには幸せだけが降り注げと願った日から、ずっとそう思っていた。
二度と会えないとしても、選択肢ぐらいは与えてやりたかった。
さようなら、可愛い、私の子どもたち。
ニコ・ロビンに、この世で最も不要な感情を愛と言った自分のことを笑ってしまう。けれど、スパンダムはそれを事実と思っていた。
愛など抱かなければよかった。そうすれば、スパンダムは大人になってさっさとどこかに消えてしまえたのだろう。
(愛、愛、愛な。)
スパンダムの脳裏には、ルフィたちの物語を思い出す。
幼なじみとの約束を抱えた剣豪、義父への恩義を抱えた出来損ないの兵器、母と姉のために足掻いた航海士、藪医者への恩義を秘めた化け物、父への憧れを持った狙撃手。
そして、夢のためにかけだした、少年。
赤髪への敬愛と、兄への思慕。自由への焦がれを持った麦わら。
そんなものを抱えなければ、もっと自由だった。苦しまなくて済んだのだ。
それでも、あの日、自分たちはどうしてもそれを抱えてここまで来てしまった。どれだけその選択肢が愚かでも。
愛というそれは確かに、あの日、自分たちが生きていくために必要なものだった。
あの日、優しくしてくれた、世界が残酷なだけでないと教えてくれた、暗闇の中を照らすものを捨てることなんてできないだろう。
ニコ・ロビンと賭けをした。最後のあがきだ。
勝てないと知っていながら、そんな賭けをしたのは、彼女を奮い立たせるためで、そうして、自分自身への渇だった。
けれど、それでもやってきたフランキーにああ、やっぱりとスパンダムは微笑んでしまったのだ。
煙幕だって用意した。彼らと最後に話が出来るのは、ここだけだと知っていたからだ。
狙撃対策にと試作品として作らせたそれは強風に煽られることなく止まった。
かちゃんと、手錠を外して、フランキーたちの方に突き飛ばせば、彼女は困惑した顔をしていた。
(・・・やっぱり、上手くいかねえな。)
橋の手すりまで歩いたのは、飛び降りる準備をしたかったのだ。ロビンとフランキーに何かされる可能性も低かった。
手すりに座って、彼らを見た。
笑ってしまった。結局、こうなってしまったのだから。
なぜ、と。
どうして、こんなことをしたのだと聞かれて、素直に口に出してしまったのは最後の話をしたかったからだ。
そうだ、聞いてくれ。
どこかの作家は、この世は舞台と言ったらしい。ならば、どうか、そこで滑稽に踊った愚かな役者の話を、スパンダムという皮を被りきれなかった私の話を聞いてくれ。
何故、何故、何故。
だって、俺はこの世界が嫌いだから。
たった数人の子どもの犠牲で、誰かを犠牲にして成り立つ世界は仕方が無いだろう。自分の生きていた世界だって、全てが幸せになるなんて出来なかったのだから。
けれど、それに納得してはダメだろう。
偽善であるとしても、理想論であるとしても、全ての人間が幸福になる世界を望まなくてはいけない。
人間とは、それほどに強欲で、傲慢で、愚かであってこそだろう。
嫌いだった。憎かった。
美しい青空を見上げて、誰もがその恩赦に授かることが出来ないのなら、何よりも空が憎かった。
(賭けの代償を、払わなくては。)
あの日、父はこの少女から奪ったのだ。母を、師を、故郷を。ならば、自分も少しぐらいは代価を払って良いだろう。父が自分をどう思っているのかはわからないけれど、あの人も、少しぐらいは奪われてもいいだろう。
たんと、軽やかに飛んだ。
ふわりと感じた無重力への感情に恐怖はなかった。
もしも、筋書きが変わらないのなら、自分が何を言ってもCP9のメンバーは政府に追われるだろう。
だから、青雉に後のことを託した。責は自分に向けられるだろう。さすがの父も青雉と真っ向から戦うリスクは避けたいはずだ。
けれど、懸念はあった。
彼らが自分を愛しているというのなら、彼らはいつかに死んだグアンハオの子どもたちと同じ選択肢をとる可能性があった。
それだけはだめだ。それでは、本末転倒だ。
全ての筋書きをひっくり返すこと。それは、自分の死だ。
スパンダムは本来、CP0になる。裏切ったルッチたちと共にだ。そこまで筋書き通りになるとして、彼らが政府から追われるなんてことを赦せなかった。
(俺が死ねば、お前らも、こんなくそったれな世界を憎んでくれるか?)
憎んでくれ、恨んでくれ、なあ、いつかにお前達に業を押しつけた世界を。スパンダムなんてものを愛さないくれ。この愛を手放してくれ。
最初から、間違えていたのだ。自分たちは。
愛によって縛り付けて、愛によって破滅するというのなら、そんなものはいらないだろう。
ロビンたちが驚いた顔をしていた。
ああ、逃げろ!
いつかに世界に追われた、悪魔と呼ばれた子。
もう、君は幸せになるべきだ。もう、君は暖かな日が微笑んでいる。この、欺瞞に満ちた世界を、いつかの権力者たちが見続けた夢を、どうか、終らせてくれ。
「行っちまえ!」
届いているのかわからなかったけれど、ただ、叫んだ。
「ポセイドンも、プルトンも、ウラノスも!太陽神ニカも、いいや、虚ろの王たるイムすらも!全てを越えて、全部壊して、夢の果てに行っちまえ!」
この高さと、その海の深さ、きっとスパンダムは助からないと予想していた。
道連れにするネズミに申し訳なく思いながら、スパンダムは海に沈んだ。
(それでも、俺が生き残るとしたのなら。それは。)
ごぼりと、泡の音がした。
スパンダムが死んだという話が飛び込んできたとき、青雉は今まで持っていた違和感の正体を理解した。
青雉はスパンダムが望んでいたとおり、今回の責をそれが取るように動いた。周りは事の重大さのためか、死人に口なしとそれをよしとした。
ただ一人、スパンダインだけが猛反対していたが。
(子どもが死んでも、権力争いなのかねえ。)
呆れたようにそんなことを思いながら、その様を見物していた。確かに、息子の不祥事となればスパンダインにとっては痛い話だろう。
「どういうつもりですか!?」
スパンダインに話しかけられたときも青雉はげんなりとした。これから、彼は頼まれたとおり、メランの捜索に当たらなくてはいけないのだ。
「・・・どういうつもりって?」
「スパンダムの件です!なぜ、執拗にあの子に責を?」
「だから言ったでしょ。あの子がそれを望んだって。」
「あの子は!自分にどれだけのことがあっても、ロブ・ルッチたちを庇うとわかってのことですか?」
それに青雉は少しだけ驚いた。スパンダムのそういった所を理解していたのが、意外だったのだ。
「わかってるならこれでもいいでしょう。」
それにスパンダインは青雉に背を向けた。
「・・・赤の他人のあなたにとってはそうでしょう。ですが、一人娘を亡くした親の気持ちなど、わかるはずがないですね。」
「は?」
さっさとその場を立ち去るスパンダインに青雉は度肝を抜かれた。
スパンダムが、女?
(・・・あー。だから、あんなに下ネタとか苦手だったの。)
変なところで納得しながら、スパンダム、彼女の周りの人間の過保護さに関して納得してしまった。
(なんで今更って、スパンダムちゃんのこと、死んだと思ってるからか。)
青雉は懐から捕りだしたビブルカードを見た。それは、変わることなくそこにある。
「生きてるんだけどねえ。」
青雉が彼女のビブルカードを勝手に作ったのは偏に、嫌な予感染みたものがあったせいだろうか。
元々、スパンダムは不思議なところがあった。妙な部分で備えがいい。それは彼の諜報部員としての情報量の多さもあるのだろうが。
けれど、あまりにも動きが良すぎる部分があった。今回の、ニコ・ロビンの件で、彼女の様子を見て不信感は多くあった。
だからこそ、ゴールデン電伝虫を渡して、約束なんて子供じみたことをしたというのに。
ためらいの橋から落ちた。それは、ニコ・ロビンたちの行動か、それとも。
そこまで考えて止めた。
スパンダインに何も教えなかったのは、偏に、スパンダムという人間のことはロブ・ルッチたちに任せた方がいいと思ったからだ。
心中相手を決めたと言っていたのは、彼女なのだから。
(勝手にビブルカードを作るのは、セクハラかね?)
そこまで考えて青雉は笑った。
そうだ、スパンダムと青雉は、あの日、痛みをなめ合って、哀れみあっただけだ。そこに特別なものなんて欠片もない。ただ、互いに傷みを知っていただけの関係だ。
(でもさ、勝手に地獄から一人逃げって。俺にだって一言ぐらい、あってもいいんじゃない?)
ロブ・ルッチたちに全てを話したのは、きっと、そんな苦々しい気持ちの一端だったのだ。
「・・・・・エニエスロビーが、崩壊か。」
その日、モンキー・D・ドラゴンは新聞記事に目を通していた。さすがの政府もその自体を画すことも出来ず、かといってそれを黙り込むような新聞社ではなかったらしい。
己の息子が変わらず、自分の道を進んでいることに微笑んだ。
その時、電伝虫がけたたましく鳴り響いた。
「わかった。」
それはつい先日、海を漂流していた女の件だった。
黄昏色の髪と瞳をしたそれは何かしらの事情で記憶を無くしているらしく、まるで赤ん坊のように無防備だった。その状態でほっぽり出すわけにも行かず、革命軍に置いているが、驚異的な事務能力と、そうして、情勢への知識を持っている。
政府の人間だったのではないかと、現在、身辺での調査を行っている。
(諜報部員、髪と瞳の色からして、もしや。)
ドラゴンの中で、とある人物に考えがいくが、すぐに違うと頭を振った。
拾ったそれは、女であるし、何よりも該当の人物の特徴である顔のギプスをつけていなかった。
思い違いだろうと、ドラゴンはそのまま考えを振り払った。