諦め猫熊はかく語りき   作:幽 

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迷子の迎えが来る話です。

リクエスト企画にて、続きをということで投稿します。現実がそこそこ忙しくてものすごい間が空いてしまいましたが。


ちなみにですが、IFの子どもの名前のルーシーは、光という意味もあります。


迷子の獣に帰る場所などあるのでしょうか?

 

 

「黄昏、また、一人入ったんだが。」

「はい。」

 

黄昏は、革命軍の一人が連れてきたそれに視線を向けた。そうして、目線を合わせるように顔をのぞき込んだ。

 

「こんにちは。あなたが望んでか、望んでいないかはわからない。ただ、ここはあなたを拒絶しない。」

 

それはじっと大きな青い瞳で黄昏のことを見た。そうして、不思議そうに黄昏を見るたびに真っ黒な髪が揺れていた。

 

「君の名前は?」

「・・・・メラン。」

 

それは戦争で焼け出され、そうして、革命軍の基地にまでたどり着いた孤児である少女は、それにしてはあまりにも力強い瞳で黄昏を見た。

 

「レベルタ・メラン。」

 

それが少女の名乗った名だった。

 

 

 

 

「・・・・よう。」

 

革命軍の所属するサボは久方ぶりに立ち寄った革命軍の本部にて、黄昏に声をかけた。

書庫にて調べ物をしていたらしいそれは、サボに振り替える。

それは、けして、美人とは言いにくい女だった。黄昏色の髪と瞳は柔らかな印象を持てたが、鋭い目つきのせいか、険がある。ただ、その、妙な強さを持った瞳は惹きつけられるものがある。

 

「お帰りなさい、サボ様。」

「ああ、久しぶりだな。元気にしてたか?」

「ええ、特に変わったこと等もありませんでしたが。」

 

いつも通りの素っ気ないそれに、ああ、変わらないなあと思いながらサボは女に持っていた本を渡した。

 

「頼まれていたものだ。」

「ああ、ありがとうございます。わざわざすみません。」

 

受け取ったそれは、黄昏に頼まれていた資料だった。

そうして、サボはふと、黄昏の足下に人影があることに気づいた。サボはそれに軽く驚いた。そこには、一人の子どもがいた。

 

「ああ、その子が、メランか?」

「ええ、そうです。」

 

 

メランという少女が革命軍の本部で話題に上がるようになるまで、そうかからなかった。

とある、海賊に滅ぼされてしまった非加盟国で保護された少女は、ぞっとするほど美しい子どもだった。

煤で汚れてなお、その、澄んだ青い瞳は皆で話題に上がるほどだった。そんなメランであるが、これまた警戒心が高かった。

口を利くこともなく、下手に触ろうとするならひっかいてくる。それも、少女自体が戦う才があったために下手なこともできない。

けれど、その少女は黄昏にだけはよく懐いた。

元より、黄昏は子どもの教育担当のために黄昏に懐くことに皆、何も言わなかった。

 

「よう、こんにちは!」

 

サボのそれにメランは警戒するように黄昏の影に隠れてしまう。それにサボは苦笑した、元々、空気のせいか、子どもには好かれやすい方なのだが。

 

「・・・・嫌われたかな?」

「いいえ、皆に対してこうです。特に、男性が好きではないようで。」

「そうか。」

 

サボはそれになんとも言えない顔をして体を引いた。

 

「まあ、目的のものを渡したし。俺は行くな。」

「はい、ありがとうございました。」

 

そのまま去って行く背を見つめながら、黄昏はちらりと足下を見た。

少女はじっと自分のことを見上げていた。

 

 

 

不可思議な子だと、黄昏はそれを見る。彼女は引き続き、書庫で調べ物を続けていた。そんな中、ちらりと本棚の間をうろつく子どもを見た。

 

レベルタ・メランという少女が革命軍にいついて少しが経った。

その少女が、己に懐く意味がわからない。まあ、故郷が焼かれ、精神的に不安定な幼子がどんな考えを持っているのか黄昏にはわからないのだが。

ただ、不思議ではあると思う。

 

少女は黄昏を独占したがった。それは、幼子特有の独占欲なのだろうが。黄昏はそれを赦さなかった。

集団生活において、誰かを特別扱いには出来ない。そのため、黄昏は少女にそれをしてはいけないということは伝えた。

意外なことに少女はそれに素直に受け入れた。他の子どもが近づいても何も言わず、一緒の部屋にいたがったが、それも拒否した。

メランはそれに素直に従った。それを意外に思いながら、黄昏はそれでいいと思った。周りの人間はそれに、もう少し甘やかしてもいいのではないかと言ったが。

 

(だが、不思議だ。そう言われても、してやろうという気分にならない。)

 

その子どもに、何故か惹かれている自分がいる。真っ黒な、子猫のような少女に。けれど、それと同時に、何故だろうか。

 

ちらりと、幼い子どもを見た。特別、本が好きではない子どもは、それでも自分の側にいたいとそうやって周りをうろついているのだ。

それは、きっと、いじらしいのだろう。

けれど、何故だろうか。

 

(それだけ、ではない気がする。)

 

何かを、ずっと感じている。何か、その少女に、違和感のようなものが。けれど、それがなんなのかわからない。

強いて言うのなら、傍若無人な気配はするが、不思議と命令に対して従順だ。強さのせいか、子どもから一目は置かれている。

けれど、どこか人が嫌いなのか、距離を取っていた。

 

心の奥底で、何かがちらついた。それが何か、わからない。

失われた記憶が関係しているのか?

そう、思うときもあったが、そうであるのならば最初にあったときに何かしらアクションは起こしていただろう。

 

そんなときだ、メランが黄昏の袖を引いた。

 

「どうしました?」

「先生は、記憶が無いんだよね?」

「・・・ええ、そうですね。」

 

何か、タイムリーな話題に頷けば、メランはじっと黄昏のことを見た。その瞳は、やはり、静かだ。

騒がしい子どものはずだ。甘えん坊で、警戒心が強くて、なのに、その瞳はひどく凪いでいる。

静かで、しんとしていて。

ただの、子どもではない気がした。けれど、やっぱり、メランは黄昏の腕に絡みつく。その仕草はやはり、甘ったれた子どもだ。

 

「・・・・先生は、昔のことを思い出したいって思う?」

 

それをなんだか意外に思った。やはり、この子どもは何かを知っているのではと思うが、そんなことはあり得ないとわかっていた。

だからこそ、ただの好奇心だと片付けた。

そうして、黙り込む。

昔のこと、ずっと、昔のこと。

自分が何者であるのか、それへの好奇心がなかったわけではない。

 

強烈な、何かへの罪悪感。

自分は何か、罪を犯したのだ。

きっと、ひどく、罪深いことをしたのだ。

 

自分はいつか、その罪を見つめなくてはいけない。償いを、しなくてはいけない。

 

けれど、それは、今ではないのだ。

 

「・・・・・思わないですね。」

「どうして!?」

 

驚きに塗れたそれに黄昏はやはり、不審そうにその少女を見た。けれど、少女はじっとそんなことも気にせずにじっと黄昏を見ていた。

 

「だって、気になるでしょう?先生にだって、故郷があって、家族が、いるかもしれないのに?私は、私は、あの。お母さんに、会いたいよ。」

 

掠れた声に、少女のその怒りに似た 感情の理由がわかった。

そうか、そうだろう。幼い子どもであるのならば、確かに過去に未練はあるだろう。

だからこそ、それを簡単に切り捨てた自分が赦せなかったのだろう。

 

「・・・・そうですね、私にも家族がいるのもやも知れません。親や兄弟、いっそのこと、子どもや夫まで。ですが、思いません。」

「どうして?」

 

それに黄昏は素直に言葉を発しようとした。自分には、少なくとも、ここで子どもたちに関わってしまった。ならば、途中で投げ出すことは出来ない。

滅ぼすだけではなくて、もっと、心に余白があるように。

少なくとも、幼子達への責を取らないといけない。何よりも、自分はきっと、ドラゴンという男のなす業の果てを見たいのだ。

 

この世界に、夜明けは訪れるのか?

 

ずっと、ずっと、自分は夜明けを待っていた気がする。

だから、見たいのだ。

 

(夜明けが訪れた世界ならば、きっと。)

 

きっと、そこでならば、自分の愛した誰かと会うことが出来るのだ。その、罪は洗い流せているのだと。

ああ、自由を歌う太鼓の音がする。

足をせかす、風が吹いている。

見たのかもわからない、光が脳裏で瞬いている。

 

帰れない、まだ、帰れない。どこにも、かえれない。

棺の中で、待ち続けていけない、泣いていてはいけない。

 

「・・・・ドラゴン様の、側ですべきことがあるのです。」

 

自分は、何を望んでいるのかわからない。ただ、自分は、ドラゴンという理不尽を憎んだ男の末路が見たい。その男が描く、多くを巻き込んだ、反逆の結末が見たいのだ。

それはまるで、駆り立てられるような感覚だった。ここにいる人間はすべからく、怒りを持っている。参謀のサボなどその在り方は顕著だ。

黄昏は不思議だった。

男は、英雄ガープの息子で、彼は世界からの恩赦を受けられたはずなのに。

けれど、彼はその世界をひっくり返すという。

その選択肢は、どこまでも蛮勇のようで、けれど、どこまでもこの世界の虐げられる者へ誠実であるように思う。

 

(何故、だろうか。)

 

その在り方に焦がれている自分がいる。その強さに、その、在り方に、何故だろうか。惹かれて、そうある男のあとを追いたいと思う自分がいる。

その、誠実さのために、何でもしたいと思う自分がいる。

それが、何故かはわからないけれど。ただ、自分は世界が変わることを望んでいるのだ。

この、理不尽さから。この、何かを贄にし続ける世界から、出たいのだと。

 

そうして、変わった世界でようやく自分は。

(私の、光に、会える気がする。)

 

黄昏は窓の外を見た。珍しく、自分が言ったことでメランがどんな反応をするかなんて見なかった。

だからこそ、その少女ががらんどうの瞳をしていることに黄昏はついぞ気づかなかった。

 

 

 

 

その日は珍しく、ということもない日だ。

幹部であるドラゴンなど、主要な人間達が本部を開けている日だった。といっても、戦闘要員は多くいたし、とくに変わることもない。

元より、本部を知るものなどいないのだから。

 

だからこそ、油断があったのかも知れない。

 

爆発音が響いたとき、誰かが鍛錬の最中に失敗でもしたのかと思った。黄昏は、今度向かう国の情報の洗い出しを行っていた。

ただ、何かあるのかも知れないと自室から出た、そうすると、何やら騒がしい。

そうして、廊下に出て、外を見たとき、ようやく現状がどうなっているのか理解した。

黒煙が立ちこめており、本部の一部が爆破されたことを理解した。

黄昏は走り出した。

 

子どもたちの元へと。

 

 

「黄昏!」

「何があったんですか!?」

 

黄昏は今の時間ならば、昼食の時間だろうと飛び込んだ食堂で幾人かと合流できた。そうして、そこには食事を取っていただろう子どもたちと料理人や非戦闘員がいた。

 

「俺たちも全部を知らないんだ。」

「どうも、敵襲があったそうで。」

「・・・・この本部の場所がばれていた、と?」

「それで、襲ってきたのも少数で、幾人かが攫われたみたいでな。それで、残ってた戦闘員の人が追ってるらしい。」

「なら、もう、敵はいないと?」

「ああ、一応な。」

 

黄昏はひとまず厄介ごとが去ったことを理解してほっと息を吐く。

その時だ。

目を通した子どもの中に、見えない顔があることを。

黄昏は慌てて名前を呼んだ。それに返事はない。

子どもたちは困惑した顔をしていた、黄昏はその中に何やら隠し事をしているだろう顔をしている存在を見つけた。

黄昏は慌ててそれを問い詰めた。そうすると、その子どもは気まずそうな顔をして口を開いた。

 

「みんなが敵襲だって、言ってて。それで、強くなったことを、証明するって出て行っちゃって。」

 

それに黄昏は顔を青くした。

何故って、そのいなくなった子どもは、黄昏を守ってあげると言ったそれだったからだ。

 

 

 

黄昏はそのまま食堂を飛び出した。その場にいた人間もいなくなった少年と、そうして、メランを探すと言ってくれた。

けれど、黄昏はそのまま食堂にいてくれることを望んだ。

 

「また、敵襲がないとは言い切れませんし。何かあったときは、皆を連れて逃げてください。まだ、ここに来てから日の浅い私では教えられていない通路もあるでしょうから。」

 

それにばつの悪そうな顔をしていた皆を置いて、黄昏はそのまま走って行った。

 

(どこにいるんだ!?)

 

黄昏は必死に二人の子どもを探した。黄昏はともかく少年を探した。おそらく、黒煙の上がっているだろう方に向かったことを予想してのことだった。

走っていたその時、向かう先に黒い毛並みのそれを見つける。

 

「メラン!」

「・・・・先生。」

 

黄昏は廊下に佇むメランを見つけた。そうして、彼女はメランに駆け寄る。

 

「心配したぞ!?どこに行ってたんだ?ともかく、食堂に行っていなさい。私は、もう一人を探しに。」

 

黄昏がそう言っているとき、メランはその女に抱きついた。それに黄昏は不安なのかとメランの方を抱いた。

 

「どうしました?不安ならば、送って・・・・」

「先生、ここから逃げよう?」

 

その言葉に黄昏は何と帰していいのかわからずに、黙り込んだ。

 

「・・・・どうしました?」

「先生は、怖くないの?だって、こんなことがあって。先生、弱いのに。」

 

それに黄昏はそれなりのことを言おうと思った。けれど、それよりも先にその子どもの目を、見てしまった。

 

ああ、まるで、駆り立てられる獣のようにその目は必死で。縋り付くように、危うく、不安定で。

あっさりとした言葉で取り繕うことは可能だろう。けれど、嘘を言えば、すぐに看破されてしまうと理解した。

いいや、何よりも、何故か黄昏はその少女に対して思ったのだ。

この子どもには自分は誠実でありたいと。

 

「・・・・すまない、先生はどこにもいかないよ。先生は、ドラゴン様の側にいる。」

その業を、己が願った世界の代価がなんなのか、黄昏は見たいのだ。

 

その言葉にメランは方を下ろして、そうして、そうなのと呟いた。沈んだ調子のそれに、黄昏は、幼子をどこか、平和な島に行かせられないか相談をしようと考える。

 

「ともかく、皆の所に戻らないと。一人で行けますか?私は、探しに行かないといけない子が・・・・」

「その子のいるとこ、知ってる。だから、その子を連れて、一緒に戻りたい。」

「本当ですか!?ああ、よかった。」

 

ほっとした黄昏を前に、メランはずっと床に視線を向けていた。

 

 

メランが連れてきたのは、少女のいた場所から少し行った倉庫だった。

何でも、来たはいいものの、怯えてそこに隠れてしまったというのだ。

部屋に入ると、薄暗い中で、探していた少年が蹲っていた。それに、黄昏は慌てて駆け寄った。

子どもはぐったりとしていたが、どうやら気絶をしているだけのようだった。

外傷もないことにほっとしていると、ばたんと、扉が閉じられた。そうすれば、部屋の中は灯取り用の窓から射すかすかな光だけになる。

 

「メラン、どうかしましたか?」

「・・・主が悪いんだ?」

 

黄昏は少女のそれを疑問に思う。何故、そんな風に呼ぶのだと。

 

「一緒に逃げてくれるなら、赦してあげようと思ったのに。記憶が無いから、仕方が無いって。みんなで、我慢して、それでいいって思ったのに。」

 

黄昏は少年を抱きかかえて、一歩下がった。何故って、簡単だ。

 

「でも、主は、あの男を選ぶんだね。記憶が無いのに、なんで、どうして、いっつも主はあの麦わらのことばっかり!だから、赦さないから!」

 

メランの後ろで、緑の、瞳がギラついていた。それは、ぞっとするような冷たい笑みを浮かべて自分を見ていた。

 

「・・・・長官、お忘れですか?」

あなたの命は、俺のものだと、そう約束したでしょう?

ギラつく殺意のような鋭さに満ちた声は、何故か、ひどく、甘い匂いがした。

 

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