諦め猫熊はかく語りき   作:幽 

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フクロウの話しになります。


駄々漏れ梟は何かと心配です

 

 

優しいなどと、この世で一番にきっと、似合ってはいけない人なのだとフクロウは知っていた。

 

「ちゃぱぱぱぱぱぱ!」

「笑ってる場合か、フクロウ!」

 

場所はスパンダムの執務室だ。そこには、丁度今日任務から帰って来たジャブラとフクロウが、額を抑えるスパンダムの前にいた。

 

「長官、その、弁明はさせてくれ!今回の任務は確かに何事も無く終わったんだ!」

「その代り、俺が町の中で他でやってた作戦を喋ったんだー、チャパパパパパ!」

「てめ、フクロウ!そのせいでヤル人数が大幅に増えたんだぞ!?」

 

今回、フクロウとジャブラが請け負った任務は何もなく、淡々と進んだ。が、フクロウが近くの町で同時進行で行われていた作戦の一部を漏らしてしまった。そのため、そちらの方でトラブルが起こったのだ。

ジャブラが怒り狂ってフクロウの頬を引っ張るが、彼は平気そうにチャパパパパパと笑っている。

そんな賑やかな中でスパンダムは今回でごたごたになった作戦について、上がって来た報告書を読む。そうして、ため息を吐くと書類を机に置いた。

トン。

机を指で叩いた音がした。

それは微かな音であったが、ジャブラとフクロウはそれに動くことを止め、口を閉じる。スパンダムははあとため息を吐き、そうして椅子に深く腰掛けた。

 

「次からは気をつけなさい。」

 

簡潔な叱りの言葉に、ジャブラががなり立てる。

 

「んな簡単なので片づけないでくださいよ!長官はフクロウに甘すぎる!」

「フクロウだけを甘やかしてる覚えはないぞ?」

 

それに反してスパダムは淡々とそう言えば、ジャブラは多少は覚えがあるらしく、うっと気まずそうな顔をした。

スパンダムはそんなことも気にせずに、フクロウに淡々と言った。

 

「フクロウ。」

「なんだ?」

「それでも、俺が庇えるのにも限度があるぞ?」

「分かった、チャパー。」

「・・・・お前、長官が甘い人でまじでよかったよな。」

本当に分かっているのか?

 

スパンダムが念を押すようにそういったが、フクロウはそれに変わりなく応えた。

言われなくても知っている。

フクロウは、スパンダムが優しいことを知っている。

 

 

フクロウが噂話が好きなのは偏に彼の幼いころの生き方故にだ。

彼は親を知らず、スラムで同い年ほどの子どもと身を寄せ合って過ごした。

そんな生活には情報と言うのは何よりも大事だ。

どこどこの店は店主が変わったからゴミをあさると死ぬほど殴られる。

この情報だけで救われる命だってある。彼が知っていることをついつい喋ってしまうのは、そう言ったことを仲間と共有していた時の癖が抜けないためだ。

いつの間にか、政府のものに拾われ、島での共同生活を始めてもその癖は抜けなかった。

 

フクロウは優秀な存在だった。

その瞬発性に加え、肉弾戦の才覚を見せた彼だが、秘密と言うものをぽろりと溢してしまう。教官たちはフクロウをどうするかと顔を突き合わせていた。

戦闘面での才覚はある、だが、諜報部員としてあまりにも致命的だ。

フクロウは本来なら処分されるはずだった。

その時だ、待ったがかかったのは。

 

「俺なら、上手く使ってやる。」

 

そう言って教官たちへ哄笑したのは、当時、下積みをしていたスパンダムだ。下っ端の言うことなど教官たちは普段なら無視するだろう。

けれど、彼の父親はCP9の長官だ。それだけで、彼の言葉は聞き入れられた。

 

「沈黙を望むなら表にも、諜報にも回さなければいい。殺しだけをやらせればいいだろう。ようは適材適所だ。」

 

スパンダムの言葉は受け入れられ、フクロウの処分は見送りとなった。そうして、彼はフクロウにこういった。

 

「いいか、チビすけ。俺は恐らくCP9の長官になる。」

「あんたが?」

「ああ、そういうシナリオだからな。」

 

シナリオといわれて、フクロウはその陰に父親がいるのかと思った。けれど、男の疲れ切って、そうして奇妙な呆れと薄暗い何かを宿した目にそれが違うことを覚った。

 

「・・・大丈夫か?」

 

フクロウが思わずそう言うと、スパンダムは今まで大人が、そうして子どもだって浮かべるのを見たことがないような、ひどく優しい笑みを浮かべた。

 

「お前は優しいね。」

 

何を言ってるんだろうと、そう思った。

だって、自分はお世辞にもそんなことを言われる筋合いも意味もない。

フクロウはただ生きる為にここにいる。

その名の通り、森に潜み、生きる為に獲物を狩る梟のように。生きる為に人を殺すのだ。

噂話を話してしまうのだって、元は情報通であれば何かと有利な事が多かっただけの話だ。

それ故に、フクロウは目を白黒とさせた。スパンダムはその顔が愉快だったのか、くすくすと笑った。

 

「お前にとっては意味が分からないだろうがな。気遣われるのはそれ相応に嬉しいという話だよ。」

 

そう言ってスパンダムは疲労感の漂う隈の張り付いた目を細めて静かに言った。

 

「いいかい、強くおなり。」

 

一層優しくなった口調にフクロウは何となく、この口調がこの人の本来の在り方なのではないかと何となく思った。

 

「おしゃべりでもいい。だから、強くおなり。そうしたら、お前のことを上手く使ってやれる。俺の道具として生かしてあげる。」

 

それは、お世辞にもフクロウに人権と言えるものをどぶに捨てる様な言葉だった。けれど、それは、フクロウという存在を今までの誰よりも思って、生かして、道を示してくれる言葉だった。

それからフクロウは順調にCP9へと上り詰めた。一番になることはなくとも、確かな実績を積み上げた。

言葉通りCP9へ上り詰めたフクロウにスパンダムは淡々と言い切った。

 

「精々、上手くやれよ。」

 

その男の言葉は、やっぱり不躾で、醒め切っている様で、どこか優しい言葉だった。

蓋を開ければ、どうやら何だかんだで長官であるスパンダムは慕われているようだった。

確かな信頼を築いているもの、何かしら思うところがあるらしいもの、そうして。

 

「・・・・・ただいま帰りました。」

「ただいまー!」

 

フクロウへ変わることなく叱りの言葉を吐いているジャブラの声を、そんな騒がしい声が遮った。

だんと勢いよく扉が開けられ、入ってきたのは少女と男の二人組だ。

少女はまるで人形のように愛らしく天真爛漫と言う言葉がよく似合っていた。それに比べて男の方は整った顔立ちをしていたものの、人を寄せ付けない刺すような空気を放っている。

見ただけでは二人の間に共通点などないのだが、何故か兄妹か何かのように奇妙な繋がりを感じた。

それは眼だ。海のように澄んだ青の目と、暗闇に似た黒の眼は、誰にも心を赦さない冷たさを孕んでいた。

そんな二人は執務机の前にいたジャブラとフクロウになど目もくれずに、スパンダムへと真っ直ぐ走りよった。

スパンダムは、男の方、ロブ・ルッチというよりは、少女の方、メランに反応して立ち上がった。

そうして、ちょうどフクロウたちの隣りにスパンダムが来たタイミングでメランがスパンダムの腕に飛び込んだ。

 

「帰りました!」

「おお、ご苦労さん。首尾は?」

「・・・滞りなく。」

 

スパンダムの問いかけに後からやって来たルッチが答えた。メランはスパンダムの腕の中でごろごろと喉を鳴らしている。ぴょこりと飛び出た尻尾と耳が忙しなく動いている。

スパンダムはそんなメランの頭や耳の裏をぐりぐりと撫でてやっていた。その間に、ルッチが淡々と任務の報告を行う。

今回はとある島にて取引を行う必要があったのだが、閑静な町のためにルッチ一人ではいささか目立つ。そのために、お世辞にも害があるとは思われないメランをくっ付けて送り出したのだ。

 

「ああ、上手くいったか。よかったな。」

「私も頑張ったよ!」

「ん、そうか。いい子だね。」

 

スパンダムはそう言ってメランの頭をぐりぐりと撫でてやる。それにメランはきゃーとはしゃいだ声をあげる。そこで、スパンダムの腕にいたメランをルッチがはぎとった。

 

「ミャー!!!」

「おい、あんまり乱雑に扱うなよ・・・・」

 

メランの悲鳴とスパンダムの呆れた声が響く。そんな中、ルッチはいつの間にかシルクハットを脱いでおり、スパンダムへ顔をもたげる様な形でずいっと寄せた。それに全てを察したスパンダムはぐりぐりとその頭を撫でた。

いつの間にか飛び出ていたヒョウ柄の耳と尻尾がメランと同じようにぴょこぴょこと揺れている。

スパンダムは慣れた手つきで無表情に、無感情じみた目でそれを眺める。

それをジャブラが苦みの走る視線で見つめた。というよりも呆れた顔をして、じっとりとルッチを見つめる。

 

「ルッチよお。てめえさ、いつになったら甘えた卒業すんだよ。」

 

皮肉の効いた言葉であるが、ルッチは気にした風も無くつんとそっぽを向いている。それを聞いていたスパンダムはルッチの頭から手を離し、フクロウとジャブラに手招きをした。

二人は不思議に思いつつ、不機嫌そうなルッチを無視して近づいた。

スパンダムは二人にちょいちょいと指で近づくようにする。

二人はそれに頭をずいっとスパンダムに近づけた。すると、スパンダムは無言で二人の頭をぐりぐりと撫でる。

一周の沈黙があった。ジャブラはぴしりと固まり、フクロウはされるがままだ。

向かいからルッチの恨みがましい念を感じる。

 

「・・・・ちょーかん。」

「何だ?」

「髪が崩れるんですが・・・」

「お前、髪型なんて気にしてたのか?」

「・・・・ガキじゃないんですが?」

 

それにスパンダムは二人から手を離し、心の底から不思議そうな顔で首を傾げる。

 

「そうか、まあ、あれだ。いつも苦労かけてるからいたわりだ。」

「俺はこのままでもいいぞ、チャパパパパパ!」

「ちげーよ!俺が言いたいのは、こう!」

 

ジャブラが何かを言おうとするが、スパンダムの不思議そうな表情を見て何かを悟ったのかため息を吐いてもういいですと呟いた。

 

「これよりも、上物の酒の一つでもいただきたいんですが。」

「そうだな、まあ、欲しい銘柄がありゃあ言え。」

 

二人がなにやら話している時、フクロウの近くにルッチが立った。そうして、フクロウにギリギリ聞こえる小さな声で吐き捨てた。

 

「・・・・そろそろ目に余るぞ。」

 

フクロウはちらりとルッチを見返した。

その男のこともフクロウとしては不思議な話だった。もちろん、フクロウだって島の出身だ。ルッチのことはある程度知っている。

けれど、正直言って、男がそれほどまでにスパンダムへ執着を向けるのかは知らない。気持ちが分からないわけではない。

彼は自分たちを救ってくれたわけでもないし、呪いを解いてくれたわけでもない。けれど、あのとき、フクロウの命の価値を拾い上げ、選定し、生きる道を示したのはスパンダムだった。

けれど、この、残酷だとか、醜いだとか言っても差し支えのない世界ではそれだけでも十分だった。

フクロウははんとそれを鼻で笑った。

 

「チャパパパパパパパパ、そうだなあ。気を付けないといけないが。」

それを決めるのはルッチじゃないぞ。

 

別段、大きな声ではなかった。ルッチは変わることなく冷たい視線をフクロウに向けた。けれど、フクロウは気にしたこともなくチャパパパパパと笑う。

別段、ルッチの怒りなど気にすることも無い。

確かにルッチはフクロウよりも強いだろう。けれど、ルッチはフクロウの上官ではないし、彼に従っているわけではない。ルッチもまた、仕事に関して命令でもなければ力を振るわないことを知っている。

ロブ・ルッチは狂っているが合理的だ。そうして、なおかつ、取るべき選択を間違えるような男ではない。

 

「俺が死ぬか生きるか決めるのは長官だ、チャパパパパパパ。」

 

あっけんからんとそう言い切ったフクロウにルッチはふんと息を吐いた。

 

「なら、気を付けろ。」

 

そう言って、スパンダムにルッチは近づくと、べちゃりとその背に凭れ掛かった。

ぐえっと潰れた様な声がしたが、フクロウはそれを止めようとは思わなかった。

フクロウは別にスパンダムを守りたいわけでも、忠義を尽くしているわけではない。彼に従うのは、スパンダムが長官であるからだ。スパンダム自身に従う理由も意味もない。

 

(・・・・でもなあ。)

 

それでも、フクロウはもしも、いつか、スパンダムがフクロウを使えないと判断し、処分される時が来たのなら。

それを受け入れてしまうのだと思う。

あの日、フクロウを生かして、使える道具としたのはスパンダムなのだ。

ならば、それを処分するのも彼なのだろう。

 

(・・・・その程度、それだけなんだよなあ。)

 

その感情も、その在り方がどんなものか知らないけれど。

気にも留めずに、その殺し屋はチャパパパパと愉快にそうに笑った。

 

 

 

 

 

(・・・・どうしたもんかな。)

 

スパンダムの脳裏には恐らくCP9で一番に困った性質を持ったフクロウが浮かんでいた。

 

(にしても原作のスパンダム、よくフクロウのことを外さなかったよな。確かに強いが。ありゃあ、諜報部員としては致命的な。)

「長官。」

 

下から聞こえる不機嫌そうな声にスパンダムは視線を向ける。そこには、お世辞にも似合うとは言えないヒョウ柄の耳がピコピコと揺れるルッチがいた。

スパンダムは今、長場の会話のために執務机の前に置いたソファに腰かけている。そうして、その腿には悠々自適に頭を乗せてくつろぐドラ猫が一匹。スパンダムはその頭を延々と撫でさせられていた。

 

「手が止まってます。」

おう、このクソネコ。

 

そんな言葉が口から飛び出そうになるが、スパンダムはため息交じりに飲みこんだ。今回、フクロウのやらかしの後始末をしたのはルッチだ。そのため、その頭を撫でろという命に従っているのだ。メランは疲れたのか、執務机の隣りにある大型犬用のベッドで寝ている。

人権、という言葉が頭で踊るが無視している。そんなもの、元よりこの世界にはない。

まあ、安上がりだと割り切るしかないのだから。

また髪を梳いてやっていると、ルッチが淡々と言い切る。

 

「フクロウ、処分なさいますか?」

「いや、あいつは使える。使えるうちには使ってやるし、殺させない。あいつとの契約だ。」

 

スパンダムがそう言い切れば、ルッチが無言でいきなり起き上がった。そうして、ジャケットやら帽子を脱いだ、リラックスした姿のまま、スパンダムへ呟いた。

 

「俺とフクロウ、どっちが使えますか?」

「お前だろう?」

 

スパンダムは反射でそう言い返した。そうするとルッチは満足そうに笑ってそのままスパンダムの膝枕に戻った。

スパンダムは分からないままに、茫然としながら頭を撫でることに戻った。

 

(・・・・にしても。)

 

駄々漏れフクロウは何かと心配だ。

スパンダムはそんなことを思ってため息を吐いた。

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