ダンジョン大好きダンジョンマスターが理想のダンジョンを作るまで 作:一一生寝てたい一
それから一週間、俺とランさんはひたすらポーション作成に精を出していた。稼げたDPは合わせて約26000DP。新しく追加で出したガラス瓶代などは既に除いている。これとラン召喚時の余りを合わせて約28500DP。それが現在の我がダンジョンの総資産に近い。
この一週間、俺は他になにもしてこなかったわけではない。ポーションを作っても倒れなくなったので、余った時間を使って貰った魔法のスクロールを使っていた。結果、最下級だが、水、風、火の魔法を扱えるようになっていた。
「えーと?『火よ、燃えよ―――【ティンダー】』」
簡易な詠唱ののち、体から少しだけなにかが抜けるような感じがする。とはいえポーションを作るときと比べたらほんの少しだ。詠唱に対応して、指の先端に小さな火がともる。不思議とそこまで熱さは感じない。少なくとも指に燃え移ることはなさそうだ。
「紙には燃え移ると・・・。自身は燃えないのか?」
試しにDPで出した紙(1DP)に指先の火をくっつけるとこっちは燃え移った。なにもまったく燃え移らないわけではないらしい。
「自分の魔力で出したものだからとかか?誰か詳しい奴に聞きたいなぁ。・・・ランさんー」
「呼びました?」
「魔法についてお聞きしたいんですけどいいですか?」
「ああー・・・すいません、私もそこまで魔法に詳しいわけではないのです」
「あれ、そうなんですか?」
「ええ。魔法というのは通常、詠唱を唱えれば自然と発生するものですから。それ以上の知識は私も持たないのです。失礼して先程から見ていたのですけど、たぶんそれ以上の事をお知りになりたいのですよね?」
「ええ・・・どうすれば分かりますかね?」
「うーん・・・そっち方面に詳しいモンスターに聞くしかないんじゃないでしょうか?」
「といいますと?」
「ウィッチとか・・・例えばですけれど」
「ウィッチ・・・魔女ですか。そういうのもいるんですね」
「ただ結構値が張りますわ。たぶん見習いウィッチとかでも50,000DPはいくんじゃないでしょうか?」
「しますね・・・」
「うちでは当分出せないな」
「ですね・・・ってロムニ様?」
「話は聞かせてもらった」
そう言いながらロムニ様が話に混ざってきた。先程までゼリー子の相手をしていたはずなんだけど。
「次にウィッチ系統を出すのは私も賛成だ。魔法についても専門家が欲しい」
「火にも耐性ありそうですもんね、ウィッチ」
「それもある」
どうやらロムニ様もウィッチを出すのには賛成のようだ。
こうして、魔法に関しての研究は進まなかったが、次に出すモンスターが決まった・・・これがつい昨日の事。
そして現在、我がダンジョンでは今後の事を決めるミーティングが開かれていた。この間にさらに3つのポーションが出来上がり、計約31,500DP。
「さて、ランを加え、約30,000DPほどの貯蓄も出来た。ここで一度、今後の我がダンジョンの将来性を定めていきたいと思う」
「突然ですね?」
「今がちょうどいいと思ってな。ランも新しく入ったことだしな」
「私としても情報共有はありがたい限りですわ~」
「さて、まず私から話したいことがある・・・侵入してきたニンゲンをどうするかだ」
「殺すかどうか、ですか?」
「あら、ニンゲンは殺す以外にも生かさず殺さずで飼う方法もありますわ?ニンゲン牧場と言うのですけれど」
「すみません、それはまた今度でお願いします」
「そうです?」
なんかものすごく怖い話をされた。いやダンジョン運営をすると決めた時点で人間とはある種決別したようなものなのは覚悟してるんだけど・・・。
「いや、ニンゲン牧場も考慮に入れてだ。とはいえ、おそらくやることはないが。我がダンジョンは今まで強力な戦力を送り込まれることを恐れて、入ってきたニンゲンは皆逃がしてきた。それをどうするかも含めて今後を相談したい」
「人間に対する対処ですか」
「そうだ。誰か、意見のあるものは?」
「あ、なら俺から一つ」
「なんだ?」
これはちょうどいい。ついこの前メニューのお宝の欄を眺めていたら発見したことを報告させてもらおう。
「お宝の欄にですね、人間の間で使う貨幣があったんですよ。それもそこそこ高額で」
「ふむ」
「そこで思ったんですけど、今作ってるポーションを小分けにして冒険者に売ってみるのはどうですかね?」
「お前の見つけた貨幣の値段によるな。どれくらいだった?」
「えーと、銅貨が1枚1DP、銀貨が1枚100DP、金貨に至っては1枚10,000DPでしたね。結構しますよ」
「ふむ・・・。生産一回分を小分けにしてガラス瓶30本程度か?一本当たり銀貨一枚で売れるなら三倍程度に膨れ上がるな」
「結構な金策になりそうですわね」
「なるほど、つまりお前はこう言いたいわけか。一番効率がいいのはニンゲン相手に商売することだと」
「ええ・・・そうなんですけど・・・これってダンジョンコア様的にはどうなんです?」
「どうとは?」
「こう、タブーに触れたりとかはないんですか?」
「ふむ・・・。この際言っておくが、私は使える物は使えと思っている。ニンゲンと取引しても構わんだろう」
「よかった・・・。これで死ねとか言われてたら泣いてましたよ」
「今のところ十分に役に立ってくれているからなお前は。こう見えて重宝している」
「あらあら。結構な高評価をもらってますわ」
「助かった・・・!」
「さて、話を戻すぞ」
そういってロムニ様が軽くメニューを操作すると、チャリンチャリンと銀貨が2枚出現し、即座に消えた。
なにかを確認したロムニ様がふむと頷き、改めてこちらを見る。
「今確認したが、銀貨は1枚100DPで出せて、換金しても100DPで間違いない。これなら取引による利益は大いに見込めそうだ」
「あ、そうか。出すときは100DPでも換金するとき同じ保証はありませんもんね」
「そうだ」
なるほど、今のはその確認だったのか。こんなことにも気づかないとは、俺も詰めが甘いなぁ。
さて、話は人間と取引する方向性で固まっているが、まだ一つ、大きな問題がある。それは
「問題は誰が取引するのか、ですよね。やっぱり俺ですかね?」
そう、実際に誰が取引をするのかだ。やはりここは人間の俺だろうか?ダンジョンの中に人間がいて怪しまれないかは分からないが。
いや取引するならダンジョンの外でもいいのか。どちらにせよ怪しまれそうだが。
「いや、ランにやってもらおう」
「あら、私ですか。わかりました」
「そうと決まれば、ポーションを瓶詰にしないとな。樽に移してそこから注ぐようにすればいいか」
「了解です・・・ちなみになんでランさんなんです?」
「ダンジョン外でお前に取引させるのも考えたが、そのままお前が裏切らないとも限らないのが一つ。ダンジョン外での取引はより怪しまれそうというのが一つだ」
「なるほど」
「それなら確かに私の出番ですね。どうやって売りましょうか?」
「普通に挨拶して売る、じゃ駄目ですかね?」
「・・・流石に怪しまれるだろう」
「でも他に方法あります?まさかポーション置いといて代金と引き換えに持っていかせる、とかするわけにはいきませんし」
「・・・直接売るしかないか」
「ですです」
そういうわけで、方針としてはランさんが直接売る方向で固まった。そこからはどうやって売りに出すか、どうやって接触するかを詰めていく。
「やっぱり偶然を装って接触するのがいいと思います。それが一番怪しまれないかと」
「それでいくとして、どうやって売りに出す?素直に受け取ってもらえるか?」
「お試しとして目の前で使ってみるのはどうでしょう?それかお試し品を一本渡してみるとか」
「いいですね。それで信用が得られるなら最高です」
「・・・ならそれでいくか。そううまくいくとは思いにくいが」
「といいますと?」
「無理やり奪いに来る輩が出てくるだろう。有用だと証明したら猶更のことな」
「ああー・・・それはどうしましょう」
「あら、それは問題ないかと」
「ふむ?
「ユーマさん、少し手を貸してくださいな」
「はい?」
なんだ、突然手を要求されたぞ?まぁ抵抗する理由もないから素直に差し出すんだけど・・・。
「どうぞ」
「ありがとうございます。では失礼して」
「?・・・あいたたた!?」
「これこの通り。普通のニンゲン相手ならなんの問題もありません」
「ふむ。確かにそのようだ」
「折れる折れる折れる!」
「あら失礼」
手をつかまれた瞬間から、とんでもない万力で握りつぶされた。ぎりぎりで折れない程度に加減はしていたようだけど、その気になればつかんだ瞬間に圧し折ることもできただろうことは簡単に想像できる。見た目は華奢なのに、モンスターって恐ろしい・・・。
「それに魔法も使えます。この前来た方たち相手でも撤退くらいは出来ると思いますわ」
「そうか。なら任せたぞ」
「ええ、お任せあれ」
「手が・・・」
「さて、今後もニンゲンとは仲良くやっていくことが決まったところで、他になにか話し合いたいことがあるものは?」
「特にないです」
「30,000DPはどうします?」
「なにかないなら、とりあえず貯蓄に回す形になるな。他には?」
「ないですわ」
「なら今回の集まりはここまでとする。各自、侵入者が現れるまでいつものルーチンに戻るように」
それから侵入者が現れたのはほんの3時間後だった。
「起きろ」
「んむ?どうかしましたか?」
「侵入者だ」
「お、来ましたか。これで三度目ですね。ランさんは?」
「もう行っている。見ろ」
ロムニ様がメニューを開き、ダンジョン内の映像を映し出す。失礼して横から覗かせてもらうと、そこには冒険者2人と接触するランさんの姿があった。
「もう接触してるんですね。首尾はどうです?」
「ちょっと待て、今音を出す」
「・・・この冒険者達、前にも来た奴らですね」
「そうだな。二度目だ」
再びメニューをいじるロムニ様。少しして音声が流れだす。
俺の名はナリタ。前に俺と相棒のクウコウが発見したダンジョンの調査が終わり、その推定ランクが発表された。Eランクだ。まぁスケルトンと薬草しか無くて、かつダンジョンコアの位置もわかってるならおよそ妥当だと思う。
「さてクウコウ」
「おうナリタ」
「「いくか」」
相棒と珍しく意気投合する。あのダンジョン、そこまできつくない割に大量の薬草があってなかなかおいしかったのだ。そうなるとやはり何度も行きたくなるのか人というものだ。ランクがD以上だと参加できなくてつらかったのだが、今回Eランクに決まった。ダンジョンの規模を考えてもまぁ妥当というところか。
「準備できたか相棒?」
「ばっちりだぜ相棒」
相方の準備が出来てるのを確認して、2人で出発する。目指すは目的のダンジョン―――『緑の楽園』だ。
しばらく森を歩いて、ようやくダンジョンにたどり着く。前となにも変わらずそこには石階段がぽつんとたたずんでいる。
「さて、今日は薬草用の籠に」
「スケルトン用のハンマーも用意してきた」
「準備は万全だな、相棒」
「おうとも、相棒!」
ここに来る前に村の冒険者ギルドに調査の事前報告もしてきた。なにかあれば救助隊が出るだろう。なにも心配ない。
「さて。入るか」
「前回はどっち前だったっけ?」
「確かお前だったはずだ。俺前行くわ」
「あいよ、任せた!」
その後、特に何事もなく、前回の薬草畑にたどり着く。
「さーて、スケルトンは?」
「出てこないな。前回が珍しかったのか?」
「なんだよ、せっかく準備してきたのに」
「まぁ出なきゃそれに越したこともないだろ。使えば武器の整備代だって発生するんだ」
「まぁそれもそうか。これからも出ませんように・・・」
さて、肝心の薬草だが。ここにあるのはどうも怪我に効くのが多いように思える。聞く話によれば別ルートにも別の種類の薬草畑があるらしい。余裕があればそっちも行きたいもんだ。
今回持ってきた籠は最大級ではないが、携帯できる大きさとしてはかなり大きい方だ。これを片方の籠がいっぱいになるまで積んで、一旦入口まで戻る。籠を置いたらもう片方の籠も同じようにして満タンにする。これが今回の作戦だ。
この籠がいっぱいになるくらいまで摘めれば銀貨5枚は堅い。そして見渡す限り薬草畑のここではいっぱいになるまで摘んでもまだまだ見渡す限り薬草が生えている。
「やっぱ相当な金の生る木だよな、このダンジョン。これで危険性も低いってんだから」
「俺たちとしては万々歳だけどな。これで今日もうまい飯が食える」
「おいしい料理いいですわね~」
「おう、あんたもそう思うか・・・ん?」
今、聞きなれない声があったような、なんだ?他の冒険者か?
実をいうとその可能性は低い。なにせこのダンジョン、『緑の楽園』が見つかったのがつい最近だからだ。見つかったばかりのダンジョンはランクが適正でなかったり、急に内容が変わったりするため、あんまり行きたがる奴はいない。いるとすれば名を挙げたい新米冒険者か、一発千金を狙う野心ある輩くらいだ。なので他の奴から声をかけられる、というのは非常に珍しい。
「誰だ?姿を見せてくれないか」
「おお、冒険者なんて珍しいな」
「あら、私は冒険者ではありませんわ」
「あん?」
近くにあった木の陰から、声の主が姿を現す。それは冒険者どころか人間の姿をしていなかった。薄緑色の女性の上半身に植物の下半身。これは
「アルラウネ・・・?」
「モンスターか!」
以前図鑑で見た事があるから知っている。あれはアルラウネと呼ばれるモンスターに合致する特徴だ。簡単な魔法を扱うほか、人間並みの知能を持ち、植物を自由に扱うことでも有名だ。しかしそれがなんでわざわざ声をかけてきたんだ?
「初めまして。私、このダンジョンを任されていますランと申します」
「相棒、モンスターだ!構えろ!」
「ちょっとまて相棒。向こうから声かけてきたんだ、話を聞いてもいいだろ」
「こちらとしても話を聞いていただけると嬉しいですわ~」
「ほら、あちらさんもこう言っているし」
「正気かよ!・・・まぁお前がそういうならいいけどさ」
なにもなにも考えずにモンスターの話を聞こうという訳じゃない。ここで気になってくるのが姿の見えないスケルトンだ。ここでこのアルラウネの機嫌を損ねたらそこらから一気に湧いてくる、という可能性がある。この会話、一見穏やかに見えて主導権は常に向こうにある。この状況で身ぐるみ剥がれてもこちらはなにも出来ないのだ。
「それで、なんですかね?」
「いえ~大したことではないのですけれど、皆さんポーションが不足していたりはしませんこと?」
「・・・ん?ポーション?」
「ええ。より正確にはマナポーションなのですけれど」
そう言って、アルラウネは後ろ手に持っていたバスケットからなにやら取り出す。思わず身構えるが、出てきたのは、
「ポーション・・・だな。マナポーションだ」
「なんだ?モンスターが商売・・・?」
「ええ、商売ですわ~」
普通のポーションだった。透き通った青色、俺たちの知るマナポーションの姿そのままだ。どこかおかしいところはないように思える。
「一本銀貨1枚。数はありますから必要なら何本でも買っていってくださいな」
「・・・なぁ相棒。なんか怪しくないか?」
「そりゃ怪しい。怪しさ満点だぜ相棒」
当然、こんな提案が怪しくない訳がない。相手がモンスターというというだけで警戒に値するのに、しかも見た目普通のポーションを売ってると来た。どう考えても毒かなにか入ってるだろそれ。入ってない訳が無い。
金はある。冒険者たるもの、なにかあった時のため、少量の金は常に持ち歩く。他の冒険者との交渉の材料だったり、助けられた時の礼に使ったりだ。
さて、このポーションが危険かそうでないかの区別の方法だが。
「・・・それ、試しにあんたが使ってみてくれ」
「相棒、いい考えだなそりゃ」
「あらー、怪しまれてます?私」
「そらな」
先に相手に飲ませることで毒が入ってるかどうかの判別をすることにする。この提案を断ったら、それこそポーションに毒が入っているという証明になる。さて、どう出る?
「いいですわよ~。飲むポーションもあなた方の方で選んでくださいな」
「・・・いいのか?」
「もちろんですわ。商売には信用が必須ですもの」
「・・・」
まさかの即答での承諾。人間にだけ効く毒の可能性も考えるが、薄いだろう。なにせそんなもの聞いたことがない。
それにこれはチャンスだ。新しく発見されたダンジョンの情報は高くギルドで買い取ってもらえるし、役立つ情報ならばランク昇格の一助にもなる。
「・・・その右から三本目、一番奥の奴で」
「これですわね?わかりましたわ」
選んだポーションの蓋を外し、ためらいなく口に含むアルラウネ。なんの仕込みも見逃すものかと視線を凝らすが、特になにか仕掛けをしてあるようには思えない。結局そのまま飲み終わる。
相棒のクウコウが話しかけてくる。
「相棒、なにかあるようには見えないぜ」
「相棒。俺にもそう見える。・・・買ってみるか」
「マジかよ相棒・・・。使うならお前が使ってくれよ?」
「馬鹿、ギルドに提出するんだよ。一本銀貨二枚くらいで買い取ってくれるだろ」
「なるほど、流石相棒」
「そもそも俺たち魔法使えないしな」
「算段は終わりましたの?それで買っていただけます?」
「ええ。三本いただけますかね?」
「ええどうぞ。しめて銀貨三枚ですわ」
「はいよ」
「・・・ええ、確かに。それでは失礼いたしますわ」
提示された値段を払い、ポーションを受け取る。・・・やはり見た目は普通のポーションだ。
最後に優雅に一礼すると、アルラウネは俺たちに背中を向けてこの場を立ち去って行った。
モンスターが商売するというなんとも珍しい光景に遭遇した俺たちだったが、その後は特に何事もなくダンジョンを後にする。
「物を売るモンスター、なんてのもいるんだな」
「これも合わせて報告しないとな・・・。どれくらいになるかね」
なんにせよ、この報告代でかなりの額を稼げるはずだ。『緑の楽園』、やはり金のなる木か。・・・次もまた来よう。
書き溜めが無事なくなりかけなので、次からは2~3週間間隔での投稿になると思います。
ここまで原作と一切の絡みなし。いっそ清々しい。