「なあ達也、昼間言ってた用ってなんだ?」
ほのかがHE☆N☆TA☆Iに襲われ、俺の財布から五千円が飛んで逝ってしまった日の翌日の夜。
晩御飯を食べ終え、達也が買ってくれたチョコレートケーキを食べながら俺は達也に問いかけた。
今日の昼休み、いつも通りエリカ達と昼飯を食べていると達也からメールが届き、「大事な話があるので今日は風紀委員の仕事を終えてからは寄り道をしないで帰ってくるように」とのこと。
その所為で昨日エリカと約束していたケーキ屋に一緒に行く約束がお流れになってしまったのだ。
別に怒っているという訳ではないが残念であるのは否めない。
「赤と青のラインで縁取られた白いリストバンドを付けた男に魔法による攻撃を受けた」
「……それって本当か?」
「ああ。
部活動の勧誘期間中にな」
「アイツら…こんな所まで来てやがったのか…」
俺は空いている左の拳を強く握る。
その間に達也はリビングの大型ディスプレイを閲覧モードへと変更した。
「あ、ちょっと待ってくれ達也。
十六夜のデータベースに詳しい情報が載ってるはずだ。
俺の部屋の端末にあるからそっちに繋いでくれ」
「でも良いのですか?
私なんかが見てしまっても」
「今回ばっかしは仕方がない。
団欒の場に相応しくない話題だと思うけどそれだけ重要な話題だと思って聞いてくれ」
そうこう言っているうちに達也が準備を終え、画面に「十六夜家ノ秘匿文書・目次」と映し出された。
「キャビネット「ブランシュ」及び「エガリテ」、オープン」
音声コマンドによって画面に二つのページが現れる。
「「ブランシュ」ってのはだな、簡単に言っちまえば反魔法組織の肩書きを名乗ってるテロリストだ。
リーダーはジード・ヘイグ、またの名を
表では魔法師が政治的に優遇されている行政システムに反対し、魔法能力による社会差別を根絶することを目的に市民活動と称して色んな反魔法活動を行ってるんだが、裏ではしっかり人殺しもやってる。
本当の目的は魔法士自体の排除だろうな。
だから警察からはしっかりマークはかかっているんだが、なかなか捕まらなくてな」
「このテロリスト共が学内で暗躍しているのは間違いないようだ。
先程言った赤と青のラインで縁取られた白い帯というのはブランシュの下部組織「エガリテ」のトレードマークだ。
そのエガリテの構成員と思しき生徒を風紀委員の活動中に見た」
「魔法科高校で、魔法科高校の生徒がですか?」
「疑問に思うのも当然だな。
ま、その辺は達也が全部説明してくれんだろ」
俺は机の上に置いてあった白い二挺の拳銃型のCADと交換用のマガジン四つを持って立ち上がる。
「百合兄様、どちらへ行かれるのですか?」
「ちょっとCADの調整にな。
達也、機械借りるぞ」
「ああ、好きに使ってくれ。
いつも言っているがここはお前の家なんだ。
ここにあるものは好きに使ってもらって構わない」
「じゃあ、お前のエロ本今度から勝手に借りてくわ」
「何を言っているんだ?!
俺がそんなものを持っているはずがない--」
「お兄様……それはどういう事ですか?」
「み、深雪。
これは違うんだ…百合が何時も言う嘘なんだ。
本当だ、信じてくれ」
「官能的な鼻の下をお伸ばしになるお兄様には……お仕置きです!!」
深雪からの質問へぶっきらぼうに答え俺は部屋を出る。
部屋の扉を閉めると同時に中から達也の呻き声が聞こえてくるがいつものことなので気にしない。
そして向かった先は地下の作業室。
普段は達也がCADの調整などをしているのだが週二回のペースで俺もライアー・リリーと達也達から貰った汎用型CADの調整の為に貸して貰っている。
ライアー・リリーで使用するCADは弾倉に組み込まれたCAD、本体のCADの計六個、二種類の魔法がインストールされたCADを使うためため結構時間を要する。
とはいえ、今回は弾倉のCAD四つの調整を行う為三十分もあれば終わるだろう。
「叔父上の最後のCAD……そんなに有名だったのか……」
四つの弾倉の内一つを調整機器に接続しながら俺は呟く。
言われてみると弾丸を十五発も装填しながらCADとしての機能をそれに組み込むのはある程度知識のある人間である俺からしたら凄い技術だと思う。
サイズは小型化されてインストールできる起動式は最新式の特化型CADより少ないものの、十年以上経った今でも最新式と何ら遜色のない性能を誇っているのは叔父上様々というものだろう。
余談だが中条先輩のようにこのCADを水無月啓吾の遺作と呼称する人は多いらしい(あの後ネットで調べた)が叔父上は死んではいない。
あのCADを最後にぱったりと開発をやめたことから死んだと思われているらしいが普通にピンピンしている。
収入と言えば知り合いの魔法士のCAD調整と開発者時代に稼いだお金で元気にウハウハライフを送っている。
あと俺のCADの調整技能も四年前に叔父上に教えて貰ったものである。
「計測とかこみこみで全部終わったら今日は眠いしさっさと寝るか」
人間の
俺は服を脱いでパンツ一丁になり、計測用の寝台に寝転がりリモコンを操作して計測を開始する。
その後の作業は滞りなく終わり俺は十一時頃には寝間着に着替えて布団に潜った。
◇ ◇ ◇
「兄上ー!!」
どこかから俺を呼ぶ声がする。
地面に寝転がっていた体を起こし、声のした方に顔を向ける。
すると深雪と同い年くらいの少女が俺の方へと突進してきた。
「げほぉっ?!」
真横からの突然の攻撃に俺はその少女に押し倒される様な形で再び体を地面に伏した。
「こんな所で寝てると風邪ひいちゃいますよ?」
目を開けると視界いっぱいに女の子の顔が映し出される。
その少女の特徴と言えば日本人らしい短くまとめられた真っ黒な髪と翡翠のように美しい緑色の瞳だろう。
その毛先は外側にはねており、少女の活発そうな印象がより際だって見える。
「千鳥、今俺の首の骨が危うく折れるところだったぞ?」
「兄上は最強ですから心配しておりません!!」
「最強って……お前の方が剣術の腕は上だろうに」
「でも兄上には射撃術の才がおありじゃありませんか!!
私と兄上は素敵に無敵で最強です!!」
この少女は十六夜千鳥。
俺と生まれた日にちは十日近く離れているが双子の妹である。
「じゃ、お前の所為で首を痛めたんで俺はまた寝るわ」
「あ、兄上ぇ!!
私と遊んで下さい!!
その為に起こしに来たのですから!!」
「よぉしわかった」
俺は千鳥をどかして立ち上がる。
「俺を五分以内に捕まえることが出来たら遊んでやる。
スタートォ!!」
「え?!
ずるいですよ兄上!!」
俺は地平線まで真緑の芝生で覆い尽くされた草原を全速力で走り出す。
多分今の顔は物凄い笑顔で、きっとすぐにこんな顔は出来なくなるだろう。
何故ならこの光景、やっていること、追いかけてきている千鳥、これら全ての物が夢の産物、幻想であると言うことを俺は既に理解しているから。
◇ ◇ ◇
「……さま……いさま」
まどろみの向こうから微かに声が聞こえてくる。
瞼を閉じているため真っ暗な視界がそれを開ける事によってだんだんと光が差し込んでくる。
「おはようございます百合兄様」
「おはよう深雪」
完全に意識が覚醒し、目を開けると視界いっぱいに深雪の顔が写り込んだ。
「……デジャヴだな」
「?
突然どうされました?」
「いや、夢の中でも同じ様なシチュエーションがあってな。
その時は深雪ではなかったんだが」
「また千鳥さんの夢を見られたのですか?
そう言われてみると何時もより百合兄様のご機嫌が良いように伺えますね」
「あ、わかる?
死んだ家族との新しい思い出作りってのはそれこそ夢の中でしか出来ないからな」
俺は机の上の木製のフォトフレームを手にとって眺める。
そこに写っていたのは黒髪の少年と黒髪の少女で二人ともとても楽しそうな笑顔を浮かべて写っている。
そう、俺と千鳥の小学生の頃の写真である。
「早く行きましょう、お兄様もお待ちです」
「わかった。
三分待ってて」
俺がそう言うと深雪は軽い会釈と共に部屋を出て行く。
制服を着込みながら時計に目をやると時刻は午前七時十五分…朝飯を悠長に食べている時間はないようだ。
今日の深雪の飯はなしかと肩を落としながらも制服に着替えた俺は荷物を抱え階段を下り玄関の外へと出る。
しっかり戸締まりを確認し、敷地の外の兄妹へと向かって走っていった。
「おはよう達也、遅くなって悪い。
さ、そろそろ行こうか」
「おはよう。
まあ、たまにあることだからあまり気にしてはいないから心配するな。
ところで、今日はやけに機嫌が良さそうに見えるが……何かあったのか?」
「昨日千鳥さんの夢を見られたそうですよ」
「ああ、百合の妹か。
お前はいつも俺のことをシスコンと言うがお前も大概だな」
「ほっとけ」
家から駅へと向かう道を歩きながら達也は俺をからかってくる。
それを見て深雪が楽しそうに、でもお淑やかに笑う。
ふと頭の中を過ぎった……「千鳥も高校生になったらこんな子になっていたのかなぁ」と。
「?
百合兄様、私の顔に何かついているのですか?」
「ああ、違うんだ。
いやな、千鳥も四年前に死んでなかったら今頃深雪みたいな綺麗な子に育っていたのかなってさ」
「き、綺麗なんて……そんな……」
「ところで百合、お前の妹さんってどんな性格の人だったんだ?
写真をよく見せて貰っているからどんな性格か気になってな」
深雪が俺の言葉に少し頬を赤らめるのと共に達也が唐突に質問を投げかけてくる。
「どんな性格か……そうだな……深雪の礼儀正しさ二割に対してエリカの活発さ五割、最後に美月の癒し系要素を三割を全部足した感じだな」
「……ますますわからなくなってきたぞ」
俺の質問を聞いた達也と深雪は頭を抱えたり首を傾げたりと表情の変化が忙しい。
駅に着く頃には達也は考えるのをやめたらしく、いつも通りのイケメン顔に戻っていた。
「家に父上達が撮った動画データなんかもあるから今日の夜にでも見せてやるよ」
「ああ、ありがとう」
「いいってことよ」
何時も通り俺達は最寄りの駅から学校に向かうキャビネットに乗り込む。
でも……何で達也が既に死んだ千鳥の事なんか聞いてきたんだろうか……しかも突然に。
まあ、考えるのも無駄だろうと思った俺は五分もしないうちに考えるのをやめ、今日の昼飯の献立についての考察へと移った。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!