「終わったな」
「終わったね」
俺とエリカはトタン製の壁に寄りかかりながらお互いに言葉を交わす。
ふとエリカの方を向くとエリカの方も同じことを思ったのかこちらに顔を向けた。
目が合うと急に気恥かしさを感じてしまい、お互いすぐにそっぽを向いてしまったが。
付き合い始めて数週間くらいのカップルが気まずそうな表情で公園なんかに居るみたいな感じだ。
そんな雰囲気の中で先に口を開いたのはエリカだった。
「あ、あのさ……
百合って好きな女の子のタイプとかってあるの?」
「好きな女の子か……
そうだな例えばおま---」
えみたいな活発な女の子、と応えようとした矢先。
視界の端に莫大な量の想子の光が目に入る。
そちらに目を向けると複数の人間のものと思しき
その色は夜色に紛れてしまいそうに黒い……まるで深い色の絵具が混ざり合って結果的に真っ黒になってしまった、そんな印象を覚えるような黒である。
その中に垣間見えるのは何故誰も気が付かないのかと思うくらいに発せられた狂気と殺気。
「どうしたの?
急に怖い顔して?」
「悪い。
森の中に
ちょっと見てくるわ」
「あっ、ちょっと……」
「ダイジョブダイジョブ。
少し見てくるだけだから」
エリカに手を振り森の中へと向かう。
学校とは真反対の方向、倒木や切り株を乗り越えて奥へ奥へと向かえば向かう程に殺気は濃密なものになっていく。
次第に木々が疎らになってきて、木が全くない開けた空間に辿り着く。
そしてそこには真っ黒な薄手のパーカーのフードを深く被った人影が何もない虚空を見上げていた。
その姿を見る限り、どうやらコイツがあの真っ黒な想子の光を放っていた張本人のようだ。
俺はポケットを探り、目当てのものを掴むとボタンを手さぐりで探し、見つけるとすぐに押した。
「そこに居るのは知っているんですよ。
出てきたらどーですかぁ?」
木の陰から様子を伺っていると変声機でもやがかかった声がこちらに向かって飛んでくる。
視線をそちらに向けるとさっきまで上を向いていた奴はしっかりと俺のいる方を向いていた。
フードを深く被っているのと月明かりが作った影とが相まって表情は見えないが、きっと視線もばっちり合っているんだろう。
「……俺は警察省テロ対策本部の十六夜百合だ。
お前ほどの想子を放つ魔法師がこんな場所に何の用だ?」
俺が複数の人間のものだと勘違いしてしまうくらいの想子の量だ。
相当な能力を持った魔法師に違いない。
「……ぷっ」
噴き出したと思ったらアハハハハと大爆笑するフードマン(かなりサイズに余裕があるものを着ており、体のラインが出にくいためウーマンの可能性も捨てきれないが)。
地面を転がりバンバンと地面を叩きと賑やかなやつだなぁ……
ひとしきり笑い終えたところで起き上がり体についた土ぼこりを掃った。
「何がおかしい?」
「いや~めんごめんご。
ここまで
それと純粋に嬉しいんですよ~」
フードマンは腰の後ろに最初からあったようにそこに存在ていた二つの柄に手を掛け得物であろうものを鞘から抜き放つ。
ナックルガードの付きのその片刃の刀は刀身が月明かりに照らされて怪しげな光を辺りに放っていた。
「私の
さぞ嬉しそうな声色で言葉を放つと嬉々としてこちらへと走ってくる。
低姿勢で加速と回避を重視していると思われるその走り方は父上から一番最初に教わった走り方にそっくりだった。
俺は急速接近するそれに銃口を向け弾丸を放つもなにせ移動速度が速いもんで当たらない。
このスピードだとベツレヘムの弾丸の軌道変化だけじゃあ無理そうである。
「クェーサー!!」
横目で拳銃に金色の長方形が現れるのを確認し、こちらも接近する。
己が得物とフードマンの獲物が交差する。
「え?」
その直前、相手の像がぶれるのと共に姿を消した。
「回っ転っ!!」
体制が崩れた体を右足を軸に強引に百八十度回転させる。
体の回転によって威力の高まった金属の塊が予想通り現れたフードマンの右の肩にヒットした。
「おおおぉぉおおおお!!」
浮いていた左足で地面を踏みこみ、思いっきり真横へと振りぬくと同時に拳銃の引き金を引く。
森に響き渡る渇いた炸裂音と一瞬だけ迸るマズルからの光。
しかしフードマンは俺が吹き飛ばそうと思っていた方向とは真逆に立っていた。
「チッ……辛うじて逃げやがったか」
「いや~流石は十六夜流の
今の奇襲が見破られるとは思っていませんでした」
「俺だってソロでやんちゃしてた時期があったんでね。
テメェなんざに引けは取らねえよ。
なあ、
「おや?
私のことをご存知でしたかぁ。
私もゆーめーになったものですねぇ」
「無頭龍の血塗れ双牙」とはここ一年くらいの内に有名になった魔法テロリストの売れっ子的存在だ。
無頭龍という国際犯罪シンジケートに所属しているものの、無頭龍と中の良い組織から依頼を受けたりしているらしいいわば万屋的な奴らしい。
そいつが一度現れると一瞬にして辺りの人間は軍人、民間人を問わず皆殺しにされるという。
辛うじて生きて帰ってきた奴が「二振りの刀で瞬間移動まがいなことをしながら刀身が真っ赤に染まるまで人を斬り続けていた」と言っていたことから付いた名前が「血塗れ双牙」というわけである。
「で、かの有名なあなたがこんな辺境の地に何の御用で?
てか場合によっては殺すぞ」
「いやいや私がここを訪れたのはただの偵察ですよ」
相手が返答の言葉を言い終えたときには既に俺の真正面に現れて剣を振りかぶっていた。
体を屈めて避けると俺はベツレヘムの星に組み込まれている移動系術式を用いて敵の背後へと回り込み体に回転を加えて拳銃を銃口が相手の体に密着するようにアッパーカット気味に振り上げる。
背後からの一撃。
相手も反応はできていない……行けるっ!!
「当たると思っていましたか?
残念でしたねぇ」
そう思った時、変声機によって曇っている声が響くと同時に脇腹に激痛が迸る。
次の瞬間、俺の体は空き地の外周部の大きな木に叩きつけられた。
「かはっ?!」
背中に衝撃が走るのと同時に肺に溜まっていた空気が一気に搾り取られる。
ぼんやりと霞んでいる視界の中でこちらに向かって飛んできたのは怪しげな光を放つ二振りの刀だった。
ずぶりと俺の両肩を抉る金属の刃。
身動きを取ろうにも背後の木にしっかり刺さっているため全く動けない。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!
てめぇの命は貰ったぜぇ!!」
パーカーマンが得物に触れてすらいないのに木に深く刺さった二振りの刀が一気に引き抜かれる。
傷口から血が噴き出す。
痛みで体が前に折れる。
このまま終わっちまうのか俺の人生……まだあの事件の犯人を見つけてないのに……
「くそっ……万事休すかよ」
「諦めてんじゃないわよアホ百合!!」
ガキィンと甲高い金属と金属がぶつかる音が頭上で響く。
ゆっくりと頭をあげると、そこにはフードマンの二振りの刀を受け止める幼馴染みの姿があった。
「やあぁああ!!」
力一杯にフードマンを押しのけ俺の方へと駆けよってくるエリカ。
エリカの手を取り何とか立ち上がる俺、神経まで肩の骨をがっつり抉られた俺の腕はそれでも動きは止まってない。
「エリカ、お前なんでここに?」
「アンタが居なくなってからなかなか帰ってこないし森の方から銃声が聞こえてくるわであたしとレオと十文字先輩と桐原先輩の四人で森の中探し回ってたのよ。
でもアンタその肩……」
「ああ、今は魔法で肩の骨とか筋肉全部繋いでるから動いてるってだけ。
でもあくまで応急処置だから、もって三分弱ってところかな」
手の内にあるグリップが血に塗れた拳銃をくるくると回しながら軽い口調で返答する。
しかし幾ら骨とかを全部繋いだからと言っても痛いものは痛い。
「うわぁ~増援まで来ちゃいましたか~
しかもあの剣の魔法師で有名な千葉家のお嬢さん!!
あ、でもあなたは
「でもあたしは千刃流の印家。
そこいらの剣士と一緒にしてもらっちゃ困るわよ」
売り言葉に買い言葉とでも言うかの様に挑発の言葉を返すエリカ。
「俺もこの怪我で長期戦は避けたい。
前衛頼めるか?」
「アンタの援護があるだけで百人力よ。
一応アンタ見つけた時にレオ達に連絡したから応援来るまで持ちこたえて」
「了解した」
「あと……もう一回言うけど、アンタのこと頼りにしてるからね」
「この俺にまっかせなさーい!!」
俺の返答と同時にエリカは自己加速術式でフードマンに突っ込む。
俺もそれに続いてベツレヘムでの援護を開始する。
弾丸を放つと同時に移動魔法を駆使して相手の後ろに回り込む。
「おおおぉおおおお!!」
「これはいけません!!」
エリカの頑張りによって二刀流のうち右側の剣を弾き飛ばし、俺も左の刀を右手で弾き左手の金色の四角形が現れている拳銃で打ち抜いた。
「ぬぐぅっ!!」
「ここぞとばかりに仕返しターイム!!」
俺が腕を振り上げると同時に袖口から現れたのは二振りのサバイバルナイフ。
それは吸い込まれるかのように木に叩きつけられたパーカーマンの肩に突き刺さる。
「今度の一撃はどうだぁぁあああああ!!」
空中に飛び上がり回転によって威力を上げた拳銃を加速術式でこれでもかと威力を上げパーカーマンの肩へと振り下ろす。
「落第点です」
しかしその渾身の一撃も甲高い金属音が鳴り響くとともに左腕の上腕で受け止められる。
そして次に俺を待っていたのは
「私を早く殺して下さい……
余っていた右腕によって見舞われる渾身の右フック。
意識を刈り取られる寸前に俺の瞳に映ったのは右手から放たれる鮮やかな緑色の想子の光と下瞼いっぱいに涙を溜めた翡翠のように鮮やかな緑色の瞳だった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!