多分星の扉は二月下旬かなぁ……
「流石にちょっと無理しすぎかな」
加減速の魔法を駆使して走る俺-十六夜百合は一人ごちる。
愚痴をこぼしながらも現在進行形で自分の腹部に開いた穴から少しずつ血が漏れているし、敵も同じ様な魔法を使っているのかなかなか距離も詰まらない。
そして追跡対象が左に向かって走っていく。
直線距離が短くなるのでここで一気に建物の上を跳びショートカット。
そして大きな通りに出る。
「おいおい……マジかよ……」
その駅にも近いその通り……いや、交差点はラッシュアワーにお似合いの百人近い人々によって埋め尽くされていた。
「お兄さんその玩具カッコいいね!!」
不意に子供の声が耳に入る。
道行く人によって生み出される喧騒の中、酷く鮮明に聞こえたそれの聞こえた方向を向くと子供が地面に転がっていた黒い物を見ていた。
「見てんじゃねえよクソガキ!!」
「浩人!!」
次の瞬間、その浩人と呼ばれた子供の前に立っていた男がそれを拾い上げ彼を銃底部で殴り飛ばし、その近くにいた母親と思しき女性に銃口を向ける。
「関係ねえ奴らに手ぇ出すんじゃねえよこの野郎!!」
俺はすぐさま腕を振り上げる。
すると制服の袖の内側から拳銃が、そして外側からはサバイバルナイフが遠心力で前方へと飛び出す。
そのまま白い拳銃-ライアーリリーを手でキャッチしトリガーを引く。
ナイフは男の右手の甲へと突き刺さり、銃は地面に落ちた。
「逃がすかよ!!
四点結界『
「ちっ!!」
俺が叫ぶと男の周りに2メートル四方の桃色の箱が形成される。
俺は何も四月の事件からずっとだらだらと自堕落な生活を送っていたわけではない。
今使った魔法「弾丸結界」はこの二ヶ月の努力の賜物である。
弾丸に彫り込まれた術式が俺の声によって発動し、弾と弾を壁で繋いで攻撃を防いだり色々なことに応用できる。
「大丈夫ですか?!」
「浩人が……浩人が!!」
俺は殴り飛ばされた子供のそばに駆け寄る。
そして頭の一部から血が流れているのを確認し、想子波で怪我の状態を確認する。
「……大丈夫。
少し頭蓋骨にひびが入っていますが命に別状はないでしょう。
でもここは危ない、早く病院に連れて行って下さい」
「あ、ありがとうございます!!」
お辞儀をした女性は子供を抱きかかえ病院のある方向へと走り出した。
そして俺はCADを操作して声の大きさのベクトルを操り叫ぶ。
「俺は警察省テロ対策本部実働部隊第三課所属、十六夜百合だ!!
先程、この近辺で魔法テロ組織の人間と思しき人間による殺人事件が起こり、現在も犯人は逃走中だ!!
速やかにここから離れろ!!」
民衆の混乱を誘うことがわかっていても敢えて事実を嘘で装飾し、速やかに逃げるよう促す。
数分で百人近くいた人々は一気に居なくなり、交差点には俺と俺を撃った犯人だけが立っていた。
「……てめぇ……覚悟は出来てるんだろうな?」
「覚悟ぉ?
君を殺す覚悟ならとうに出来てるよ~」
間の抜けた声で挑発的な言葉を紡ぐ男。
俺は人が居なくなったのを確認すると結界を解き、男に銃口を向ける。
「わかってねえなら今教えてやるよ。
俺の彼女に手ぇ出して、果てには関係のねぇ一般人まで怪我させて……その報いを受ける覚悟が出来てんのかって質問だったんだが?」
「あ~そっちね。
悪いけどそんなのないね。
まあ、わかるとは思うけど……」
男はゆっくりと背負っていた竹刀袋のような長い袋に手をかけ、右肩に尻の部分を当てる。
「てめぇを今すぐぶっ殺してとんずらこくからだよバーカ!!」
引き金を引いたのを確認すると俺はすぐに横に移動して弾を回避する。
その際制服の一部に風穴が開くがそんな事気にしていられない。
「ちょこまか動いてんじゃねえよ死に損ないがぁ!!」
「ごちゃごちゃうっせぇ!!」
背中に背負っていたと思われるアサルトライフルに持ち替え辺りに乱射する男。
俺もそれに応戦し、引き金を引く。
そして側面にあった建物の壁を蹴り男の頭上から回し蹴りを加える。
しかし、それは何に当たることもなく空中で止まった。
「チッ……魔法障壁!!」
「隙だらけだよアホが!!」
「そっちも同じだろ!!」
二つの銃声が同時に響く。
「ぐっ……」
男の撃った弾は左の肩を抉る。
そして俺の弾は……
「な……なんで障壁越しに当たるんだよ……」
男の右の肩を捕らえていた。
その弾は金色の光を帯びており、肩の中で今この瞬間も回転し続けている。
「まだ……終わりじゃねえ!!」
「ぐっ……ぐあぁああ!?」
男は肩の弾丸がめり込んでいる部分に手をあててうずくまる。
「なんで……衝撃が……こんなに続いて!!」
「……わりぃな。
クェーサーは俺の想子が尽きない限り無限に回転し続ける」
クェーサーによって特殊な回転を加えられた弾丸の威力は通常の10倍、その上俺が魔法を解除するか想子が尽きるまでその威力は尽きることはない。。
「弾の貫通性能は弾丸自体の性能で決まる。
簡単に言うと今てめぇの肩にめり込んで回転してるそれは……」
俺は一通り話し終えると少し間を置いた後に男の肩を指差す。
「死ぬほど痛いぞ」
ボキンと生々しい音が辺りに鳴り響くと男の呻き声も同時に止まった。
「やっべ……少しやりすぎたか……」
まあ後は救急車呼んで俺も達也に見て貰って……
そのような事後処理の事ばかり頭に浮かんでいた俺はその男の想子の状態を
「スペルカード……」
パリンというガラスの割れるのに似た音が耳に入る。
「
「がぁぁぁあああああ?!」
その言葉と共に面を上げた真っ赤に光る男の瞳を目にした直後、頭の中を掻き回される様な感覚に襲われる。
しかもそれは一瞬の物ではなく、永続的に続き、俺が発動していた起動式はそれによって全て乱された。
俺は完全に無防備な状態で俺は敵に跪いていた。
「いや~流石に驚いたよ~
まさかあそこまで凄いの使われるとは思わなかったよっ!!」
「ぐっ……」
謎の感覚を覚えながら俺の左肩は訳のわからないまま拳銃で撃ち抜かれた。
痛さと変な感覚によって殆ど残っていない思考能力、その最後の一滴を振り絞り拳銃を構える。
「おおっと!!
そんな事はさせねえよ~
今から借りを返してやるんだから」
俺の右の手を踏みつけると男はニヤリと不敵な笑みを零す。
そして手に持っていたハンドガンの銃口を俺の右手の甲に向けた。
「簡単な、仕事だって、言われて、来たのに!!
肩の、骨は、粉砕、骨折!!
おまけに、カードも、全部、使っちまった!!」
怒りに任せて俺の手を銃で撃ち付け、足で踏みつける。
誤って自分の足を弾丸が掠めようがお構いなしに撃ち続ける。
狙いは正確ではなく、俺の腕に当たったり、手の甲に当たったり、はたまた俺の拳銃のバレルなどに当たり、破片が顔に向かって飛んでくる。
「ん?
あ~もう弾切れた。
これだから安もんはつっかえねぇなっ!!」
「くっ……」
引き金を引いても弾が出てこなくなるのに気づいた男は俺の背中に向けて拳銃を投げつけた。
「あーもー飽きた」
心底気怠げに男は口を開くと後ろに背負っていたスナイパーライフルを手に持ち俺の頭に銃口をあてがう。
「いい加減死ねよ」
カチンと引き金が引かれ、大きな銃声が鳴り響く。
しかし不思議と痛みはなく、顔を上げるとライフルのバレルが中を通過していた弾丸ごと真っ二つに斬られており、それが宙を舞っていた。
「ぬお?!」
その直後に俺は奥襟を掴まれ後ろに引っ張られる。
「……もう。
久々にあなたを見たと思ったらまた無茶をして……
世話をするこちらの身にもなってくださいよ」
目を開けると俺の知り合いの中は達也くらいしか該当しない冷静タイプの少女が俺の体を抱えていた。
真っ直ぐ敵を見据える鋭い眼光と艶のある銀色のポニーテールはさながら武士のような印象を覚える。
「お前……
確か仕事で遠くに……」
「一身上の理由でお休みを頂きました。
それと、あなたに頼みがあって戻って来たのです」
「あぁ……そういうこと。
でもさ……」
その少女-纏が俺に遠出から唐突に戻ってきた理由を語る。
それにしかめっ面の俺は一つ文句を言おうかどうか迷いながらもそれを口に出す。
「頼むから人を抱えるときは魔法解除してくんないかな?!
さっきから俺の体に地味にダメージを与えてくるんてすけど!!」
「あ、すみません。
うっかり忘れてました」
「ギャーギャーうっせぇんだよゴミが!!」
男が一足飛びで俺達を肉薄する。
それに気付いた纏は俺を後方に投げ、自らは刀で男の剣を防ぐ。
そして俺の体は再び誰かに受け止められた。
「酷い怪我だな……無茶し過ぎだ」
「ああ……悪いな達也」
俺を受け止めたのは今度は達也だった。
俺の体をゆっくりと地面に置くと男と纏の戦いを見つめている。
その手には彼が使用するCAD「トライデント」が握られており、臨戦態勢であるのがわかる。
「心配すんな。
あいつはしっかり強いよ。
なにせあいつは……
纏の腕が不安だったであろう達也に俺はニヤリと笑いながら答える。
それを聞いた達也はCADを懐へとしまった。
それを確認した俺は安堵から急に瞼が重くなり、静かに目を閉じた。
◇ ◇ ◇
「あら……挨拶もなしに斬りかかって来るとは随分手荒い歓迎ですね」
「黙れよ!!
お前もさっきの死に損ないと同じ雑魚なら雑魚らしく死ね!!」
二振りのサバイバルナイフのような剣を私は鞘から素早く刀を引き抜き防いだ。
その刀を操り男に隙を作ると殴り飛ばした。
「おっと、自己紹介を忘れてましたね。
私は
私立探偵をやっております。
以後お見知り置きを」
私はぺこりとお辞儀をし自己紹介をする。
幾ら敵とは言えどやはり礼節というのは重要だと思うんですよね。
私の個人的な考えですが。
「あっはっはっはっは!!
死に損ないの癖に面白いなお前!!
僕の名前は
最初はけらけらと笑っていたが自己紹介になると急に顔から表情が消えた男-神無。
「なかなか素直な返答ですね。
まさか投降して頂ける気になりましたか?」
「んなわけあるかバーカ!!
これから殺す奴に対して自己紹介したところで証拠は残らないっての!!」
神無は再び高速で距離を詰める。
その二刀による連撃を防ぎ、避け、いなす。
そして今度は私から距離を開ける。
「ふむ……しかしその型、十六夜流にそっくりですね。
ですが……」
百合さんを抱えていた時に一度切った魔法を再び発動させる。
すると私の体の至る所から紫電が放たれる。
「紛い物では勝てませんよ」
そう言い放つと私は地面を、壁を蹴り男の背後へと移動する。
「くっ?!
どこから?!」
「おお、この速さについてきますか。
ですが……まだまだこれからですよ」
更に魔法の出力を上げ攻撃の速度を上げる。
次第に分が悪くなってきたのを悟ったのか神無は斬りつけられる勢いに乗り後方へと飛び退いた。
「懸命な判断です……が、その程度の距離を開けたところで戦況に変化はありません」
「ぐぁあ!!」
すぐさま男の背後回り込み背中から斬りつける。
数メートル飛ぶ男からは血の類は見受けられない。
そう、峰打ちだ。
「……何だよそれ……俺に勝ち目ねえじゃん。
CADも使ってねえし、訳わかんねぇよ」
「この魔法ですか?
これの名前は「雷神演舞」、文字通り電気を-正確には私の発する生体電気を増幅させ操る魔法です」
身体能力の向上もこれのお陰である。
他にも理由はあるが、生体電流の伝達速度を操り反射速度を上げたり、筋肉に電流で負荷をかけることでより激しい動きを可能にする。
「はは……化け物相手には勝てるわけねぇよ」
「世間一般から見ればそうかもしれませんね。
ですが、私は今更ながら化け物で良かったと思っています。
こうして大切な人々を守ることが出来たのだから。
さあ、あなたも怪我をしているでしょう。
大人しく病院に行きますよ」
「何だよ?
殺さねえのか?」
「もちろんですよ。
無殺多生、それが十六夜の剣の基本理念ですから」
「くそっ……敵わねえな……やっぱり」
◇ ◇ ◇
「う……あぁ……?」
鼻に突き刺さるような薬品の匂いに囲まれながら俺はゆっくりと目を開ける。
喉が渇いて上手く声が出せない……
視界に広がったのは真っ白な天井。
先程から感じる薬品の匂いと視界に入ったものから判断するにここが自室ではなく病院であることがわかった。
それにしても……
「は……ら……減っ……た……」
「何日も何も食べずに寝ていたのですから仕方がありませんよ」
「ま……とい?
いづっ?!」
声のした方向へと体の向きを変える。
その声の主の姿を確認すると反射的に体を起こしてしまうが襲って来た痛みに耐えきれず半分も起き上がれずに再びベッドへと体は沈んだ。
「まだ寝ていなきゃ駄目ですよ。
肋骨を二本骨折、両肩と右手は複雑骨折。
……私達からしたらそこまでやられてよく五日で起きたなって感じです。
はい、甘いのどうぞ」
こくりと頷き纏が差し出してきた缶ジュースを手に取る。
纏が気を使ってくれたのかプルタブが開いていたので直ぐに飲むことが出来た。
炭酸のシュワシュワした感覚が口に、喉に染み渡る。
段々と声も出せそうな気がしてきた。
「……お前はどうなんだ?
それにあいつも」
「私は特に問題はないです。
しかしあの男……神無は、意識が戻らないそうです。
原因は演算領域の酷使による過労だそうです」
「演算領域……あのスペルカードとか言うのが原因なのかな……」
「スペルカード?!
その言葉を神無から聞いたのですか?!」
普段は大人しい纏が身を乗り出して反応する。
……これは何かあるな。
会話シーンでわかった方もいるかもしれませんが神無隼はP4U2の皆月翔をモチーフに、そして天乃纏は同作品の鳴神悠をモチーフにして書いています。
てか纏は魔法の名前が覚醒SPスキルの技名まんまですしわかる人にはわかるネタだと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます!!
次回もお楽しみに!!
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